NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 日本も早く差別解消法の制定を

Writer/Jitian

日本も早く差別解消法の制定を

2021年1月20日にアメリカでバイデン大統領が就任し、職場でのLGBT差別を禁止する大統領令に早速署名しました。一方、日本では活動家や一部の議員の活動が行われていますが、LGBT差別解消法は未だ制定されていません。今回は、なぜ日本でもLGBT差別解消法が必要なのかを考えます。

日本でのLGBT差別解消法へのあゆみ

2021年2月現在、日本ではLGBT差別解消法が制定されていません。地方自治体を含めて、現在までにどのような進展があったのでしょうか。

LGBT差別解消法とは

世の中には性差別、障害者といった様々なことがらに関して差別が存在します。その中でもLGBTに特化した差別を禁じようという考えで議論されている法律が、LGBT差別解消法です。野党や活動家の方が法案を作成しています。

具体的には、行政機関や企業、学校といった場で、セクシュアリティを理由に不平等な扱いをすることを禁じたり、ハラスメント防止への取り組みを法律で規定することを目標としています。無論、個人の内心の自由にまで踏み込むようなものではありません。

一方、政府与党が出している法案が、LGBT理解増進法です。差別を規定するのではなく、まずはLGBTの理解を広める取り組みをすることで、差別を解消しようというアプローチです。

「差別だ!」といきなりポリコレ棒を振り回すと国民が委縮してしまうかもしれないので、まずは理解を広めるところから始めましょうというものになっています。

長年国際的に勧告され続けている日本

差別を法律で規定することに対して「ルールでがんじがらめにされるのではないか」と不安を覚える人も少なくないかもしれません。一方、先進国をはじめとして、LGBT差別解消法がすでに制定されている国は多数存在します。たとえば、全EU加盟国です。

そういった背景もあり、実は、日本は長年にわたって国際連合人権委員会から、LGBTを含む差別解消法の制定をするよう勧告を受け続けています。

日本国内ではどういう考えの人が多いのかは置いておいたとしても、LGBT差別解消法を制定していない日本は、世界的に見れば人権や差別問題に取り組んでいない、消極的だと見なされても仕方ないと言えるでしょう。

東京と三重で条例制定の動き

しかし、今までまったく何の動きもなかったのかというと、決してそのようなことはありません。

現在、開催が議論されている東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)。五輪は、あらゆる人の人権が尊重されることを重要事項だとしています。そんな五輪が開催される国や地域で、差別解消に取り組んでいないというのは重大な問題です。

というわけで、2018年に東京都でLGBTの差別を禁止する条例が制定されました。この条例には、前述のような不当な扱いだけでなく、啓発活動に取り組むことも明記されています。また、昨年の2020年には、三重県でアウティングの禁止を盛り込んだ条例を制定する議論が行われています。

五輪を契機にやっと少しずつ動き始めたというところですが、今後も署名などで微力ながら法制定のために参加したいと思っています。

LGBT差別解消法を制定する意義

差別解消法を制定することで生まれるメリットや意義には、何があるのでしょうか。

ルールを決めることで、意識が広まる

一部では、今までLGBT当事者に会ったことがないとか、LGBT差別は存在しないと言う人もまだいますが、そういう人はひとまず置いておいたとしても、大多数の国民は「日本にLGBT差別が存在するか」と問われたら「はい」と答えるのではないでしょうか。つまり、差別が存在するという認識は多数派ということです。

ただ、どうしても当事者自身でなかったり、当事者に近い立場でないと、どのようにすれば差別になったり、または平等になるのか、ぴんと来ない人も多いと思います。そのため、できるだけ具体的なルールを制定することで、「こういう問題が実際に起きているのか」「こういうことをしちゃいけないんだな」と理解するきっかけができます。

実際に理解が広まった例:男女雇用機会均等法

LGBT関連でなくても、法によって差別解消が進んだ例があります。その顕著な例が、1986年に施行された「男女雇用機会均等法」です。この法案の名前は聞いたことのある人がほとんどなのではないでしょうか(まさに、法律の知名度の高さが、法制定をした一つのメリットといえると思います)。

この法案は、性別(男女)を理由に、不当に職業に就く機会が奪われたり、待遇や福利厚生といった面でも不平等な扱いをされないように制定されている法律です。

はっきり言って、この法律には企業や組織の禁止規定や努力規定で留まっているものが多いです。そのため、この法律によって様々な男女差別が解消されているかといえば、そうでないことは明白です。男女の賃金格差は未だに根強いですし、男女ともに不利益を被っていることはまだまだたくさんあります。

しかし、この法律があることで、そういった問題に遭遇したとき、被害者側が「問題だ!」と声を上げやすくなっていると思います。また、声を上げたとしても、法律がなかったらもしかしたら「ただのわがまま」とあしらわれていたかもしれません。法律が制定されたことで、「確かに、この法律の規定に違反している」と、第三者にも問題を問題として捉えてもらいやすくなっているのではないでしょうか。

LGBT差別解消法制定に対する反対意見

長年議論されているLGBT差別解消法ですが、前に述べた通り、未だ制定に至っていません。反対意見にはどのようなものがあるのでしょうか。

「理解を先に進めてから」

LGBT差別解消法制定の反対意見として多い考えが、まだLGBTへの理解が国全体で見ると低いから、もっと理解が広まってからの方が反発やトラブルが起きづらいのではないか、というものです。

しかし、私は、この考えは目的を履き違えているのではないかと思います。理解していないから意識的であれ無意識であれ差別が起こっているということが、今問題なのです。そんな状況の中で理解を気長に待っていても、遅々として進まないでしょう。差別問題を問題として認識したくない姿勢が、まさにこの考えに表れているのではないでしょうか。

法律として制定すると、順守しなければならない企業や行政機関は、どのような言動や扱いが差別に当たるのか、どういった対策や配慮が必要なのか、自ずと学ぶ必要が出てきます。そうした取り組みの中で国全体としても理解が進むと考えます。

伝統的価値観は「崩壊」しません

他の反対意見としては、LGBTを容認すると、男女一対の親と子どもという家族観が壊れて、少子化につながるといった考えです。ただ、以前にも同じことを言いましたが、LGBTを認めたために少子化に拍車がかかるということはありません。

LGBTの存在を認めようが認めまいが、LGBT当事者はそれまでもこれからも当事者であり続けます。増えることも、減ることもありません。自分のことをシスジェンダー・ヘテロセクシュアルだと思っていた人がLGBTだったと後から気付くことはあっても、「LGBTの方が優遇されるらしいから、LGBTになろう」という人は出てこないでしょう。セクシュアリティは、変えようと思って変えられるものではないからです。

LGBT差別解消法によって目指す社会は、例えば男女カップルだったら行政支援や民間サービスを受けられるのに、同性同士だからという理由だけで受けられなかったとか、シスジェンダーだったら採用されたのにトランスジェンダーだからという理由だけで不採用にされたり内定を取り消されたという人が、今後出てこないようにすることです。その点を忘れないでください。

最近の日本でのLGBT関連事件

もしかしたら、日本LGBT差別解消法があれば状況が変わっていたかもしれない事件が、つい最近も発生しています。

長年連れ添ったパートナーとのパートナーシップを否定

たとえば、今年の2021年1月15日、40年以上同居した男性パートナーが死去した後に、親族から拒否され火葬に立ち会えず、遺産相続もできなかった男性が不服として慰謝料などを求めた裁判の二審判決が大阪高裁で下りました。残念ながら、一審と同じく、原告男性の訴えは退けられてしまいました。

これだけ長く一緒に住んでいても、親族が相手をパートナーと認識していないとさえ言えば、こういった判決もまかり通っているのが現実なのです。果たして、これが事実婚の男女であったら、同じ事態になっていたのでしょうか?

まさに、LGBT差別解消法が制定されれば、こういった事例がなくなるのではないかと考えます。

園児の性別違和をアウティング

昨年2020年12月に、滋賀県大津市が市内保育園についての報告書の中で、性別違和を訴えて現在心理的に登園が難しい幼児について、個人が特定されうる情報を含んだ形で、無断で記載してしまったという事件が起きました。現在はその部分は削除されています。

この園児は、そもそも保育園に入ってからセクシュアリティのことでいじめられるようになり、そのいじめへの対応が遅れたことによって、現在登園が難しい状態になるまで追い込まれてしまったといいます。

もしLGBT差別解消法が制定され、保育園に理解や配慮、対応がより認知されていれば、いじめが起きることも、いじめが看過されることも、当人である子どもがここまで傷つくことも、そしてアウティングが起こることもなかったかもしれません。胸が締め付けられる思いです。

小さいうちから経験した心の傷はどれだけ後の人生に影響を与えるか計り知れませんが、一刻も早く子どもの心が回復し、自分に自信をもって生活できるようになることを祈っています。

これらの事件は氷山の一角にすぎません。LGBT差別解消法が制定されていれば、こんなことにはならなかったかもしれないという問題は、まだ問題として認識されていないことも含めて、無数にあるでしょう。

なるべく早くLGBT差別解消法が制定され、このような悲しい出来事が起こらない未来がきてほしいものです。

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP