INTERVIEW
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突き抜けたいまだから思う。セクシュアリティは、たくさんのかけらの一つ【前編】

パンツもセーターもジャケットも全部ピンク。このド派手な装いを上回るほどの、明るく快活なキャラクター。話を聴くなかで気付いたのは、内藤紗弥花(VITA)さんは目の前にいる人を喜ばせることにただ一生懸命な人だということ。そして、驚くほどにピュアな人だということだった。政治家を目指した時期もある。芸人を志した時期もある。でも、そのたび「ここじゃない」と感じていたVITAさんは、今人生でもっとも穏やかで幸せな時間を過ごしている。

2018/03/25/Sun
Photo : Rina Kawabata  Text : Shinichi Hoshino
内藤 紗弥花 / Sayaka Naito

1985年、神奈川県生まれ。政治家を志し慶応大学総合政策学部に入学。大学卒業後、よしもと芸人として活動。芸人引退後は営業コンサルティング会社などを経て、2016年に等身大株式会社を設立。現在は、「今、在る自分を最大限に活かして、目の前の人を幸せにする力」コンセプトに、エンターテイナー・講演家として活躍している。

USERS LOVED LOVE IT! 52
INDEX
01 生まれながらのスーパースター
02 親を困らせる面倒な子
03 「内藤ってレズなの?」
04 いじめられる生徒会長
05 1回目のカミングアウト
==================(後編)========================
06 埋もれていた大学時代
07 笑いがとれない芸人生活
08 自分にしかできないことで人を幸せに
09 2回目のカミングアウト
10 私は欲張りなレズビアン

01生まれながらのスーパースター

誰よりも目立ちたがりな女の子

幼い頃から自分のことを「スーパースター」だと思っていた。

子どもの頃に夢見がちな「いつか、スーパースターになりたい」という願望ではない。

「もうすでに、スーパースターだったんです(笑)」

スーパースターの根拠は、無いわけではない。

「自分には、人を惹きつける力があると思ってました」

自分が何かをすると、教室がワッと盛り上がった。

「恥ずかしいっていう気持ちがなかったから、何でもやりました(笑)。まわりから見たら、おもしろくて変わった子だったと思います」

注目される心地よさ!

小学校1年生のとき、国語の授業の「丸読み」が大好きだった。

丸読みとは、「。」を区切りにして1文ずつ順番で教科書を読むこと。

「いつも、自分の順番が持ちきれず、『あと何人で、私にまわってくるかな?』って計算してました」

ライオンが「ガオー」と叫ぶシーンが読みたくて仕方がなかった。

「たまたまそのシーンが当たった日があって、そのときは机の上に乗っかって『ガオー』ってやりましたね(笑)」

先生は苦笑い。でも、クラスは大爆笑。

誰よりも、目立ちたがり屋だった。

スポットライトを浴びるのが気持ちよかった。

学級委員や応援団、目立てることは何でもやりたかった。

演劇部に入ったのも、「舞台の上に立って目立ちたかったから」だった。

親友はいないけど人気者

小学校3年生になったとき、学級委員を選ぶ選挙があった。

迷うことなく立候補。

選挙演説では、思い切り自分をアピールした。

「背はこんなに小さいけど、気持ちはこんなに大きいです!」と。

生まれてはじめての多数決で、学級委員に選ばれた。

「高揚感っていうか、とにかく嬉しかったのを覚えてます」

勉強でも運動でも、競争するのは嫌いだった。

でも、勝つのは好きだった。

正確に言うと、「勝つのが好きではなくて、目立つのが好き」

目立つための手段の一つが、勝つことだったのかもしれない。

友だちから「負けず嫌いだよね」と言われたら、すぐさま訂正。

「負けたらダメなんじゃなくて、負けても目立てればよかったんです(笑)」

一人でゲームをしていてもすぐに飽きたが、誰かが見ているときは違った。

「人が見てるってだけで、めっちゃ張り切る子でしたね」

「目立ちたいのもそうだけど、今思えば、人の評価が自分のエネルギーになっていたのかもしれません」

仲の良い子はいたけど、親友と呼べる友だちはいなかった。

学校でペアをつくるときは、いつも相手がいなかったのだ。

「でも、人気者だったんです(笑)」

親友はいないけど、人気者。

矛盾するようで、本当のことだった。

02親を困らせる面倒な子

親の言うことは一切聞かない

学校では、目立ちたがりの学級委員。

だが、家では少し違った。

家では、いわゆる「内弁慶」。

かんしゃく持ちで、いつもわめき散らしていたと思う。

「落ち着きがないし、わがままだし、親の言うことは一切聞かない子どもでした」

「小さい頃は、はちゃめちゃでしたね」

母はピアノの先生。

「お姉ちゃんはピアノが上手だったけど、私はまったく・・・・・・。鍵盤をバンバン叩いて、まともに弾こうっていう気持ちもなかったです」

「でも、口は達者だったから、幼稚園のときから5つ上のお姉ちゃんを言い負かしてました」

子どもっぽさを持つ一方で、冷めているような一面もあった。

折り紙をしていても、全然おもしろくない。

「谷折り? 山折り? はぁ?って(笑)」

楽しいはずの七五三も、まったくテンションが上がらない。

「どうして、こんな着物を着なきゃいけないの?」

「こんな飴(千歳飴)のどこが美味しいの?」

「こんなことするくらいなら、家にいたほうがいい!」とわめいて親を困らせた。

お葬式で、故人を偲んでみんなが泣いているときも同じ。

「『えっ、なんで? 普段、その人の話なんて何もしてなかったのに急に?』みたいに思ってました」

大人が「まあ、そういうものだから」と諭すようなすべてのことに、怒りに似た気持ちを持っていた。

「親からしたら、いちいち面倒くさい子どもだったと思いますよ」

あるとき、父が母に「紗弥花のことは、お前に任せる」と言うのを聞いた。

「お父さんはもう、お手上げだったのかもしれませんね(笑)」

恋愛は子どもだった

初恋は、はっきり覚えていない。

小学校3年くらいのとき、気になる男の子はいた。

高学年になると、好意を寄せていた女の子もいた。

「どっちも、恋愛対象として “好き” っていう感じじゃなかったですね」

「恋愛のこととか、まわりに比べるとすごく子どもでした」

キスをしたり、結婚したりすると赤ちゃんができると思っていた。

「どうしたら子どもができるのかを知ったのが中3だったので、だいぶ遅れていたと思います(苦笑)」

後に、高校生になって「女性が好き」だと確信するが、当時はよく分からなかった。

「男が好きとか、女が好きとか、そういうのは気にしてませんでした」

03 「内藤ってレズなの?」

まわりが変わった中学時代

中学は地元の公立へ進学。

中学に入ったら、まわりが「変わった」と感じることが多くなった。

「小学校から仲が良かった子に『コナン、観に行こうよ』って誘ったら、『中学になってまで、コナンなんか観に行かねーよ』って言われて」

「何かみんな、変わっちゃったなって(笑)」

小学校のときと同じように生徒会をやりたかったが、まわりの雰囲気の変化を感じた。

「『やりたいのは内藤だけじゃないんだよ』『お前はもういいよ』みたいな雰囲気があったんです」

そんな空気を察して、中学のときは生徒会長には立候補しなかった。

だが、副会長にはなった。

■大人の恋愛はグロテスクで怖かった

「私は、好きだと思ったら告白するタイプ。言わずにはいられないんです」

中学2年のとき、好きな男の子に告白して付き合った。

「すごくカッコいい彼で、大縄跳びで縄を回す役をやってた人でした(笑)」

彼氏とはデートをしたりして、それなりに恋愛を楽しんでいた。

中学になると、みんな性のことに関心を持つ。

友だちとの会話のなかで、男女の性行為のことを知った。

「エロ本をはじめて見たとき、『うわっ!グロテスク・・・・・・』って思ったのを覚えてます」

まわりの子のように興味が湧いたのではなく、怖いと思った。

だから、彼氏とも別れた。

「彼氏とキスをしても、その先に “グロテスク” があると思ったら、恋愛とかしたくなくなっちゃったんです」

もしかすると、レズビアンかもしれない

彼氏がいる一方で、可愛い女の子も好きだった。

ある女の子のことが好きになった。

「その子には、『好きだよ』って気持ちを伝えて、猛アピールしてました」

その子は、手をつないだりしてくれて、明らかに「仲良しな友だち」を超えたスキンシップもあった。

「まわりの子たちも、『おや?』っていう感じで見てたと思います」

単刀直入に「内藤ってレズなの?」と聞かれたことがある。

「『うーん、私ってレズなのかなー』っていう感じで答えてました。実際に、当時は分からなかったんです」

「レズなのかも」と答えても、まわりの友だちに引かれることはなかった。

だが、相手の女の子には徐々に嫌われていく。

「ずっとベタベタくっついてたから、途中からちょっとうとましく思われてたと思います」

04いじめられる生徒会長

高校でも生徒会長に

高校は三浦市の隣の進学校へ入学した。

高校でも生徒会に入りたかったが、入学して少し戸惑う。

小学校・中学校と生徒会は花形だったが、高校ではまったく違い、生徒会の存在感が感じられなかった。

高校に入っても、目立ちたがりな性格は健在。

「そんな生徒会だからこそ『変えたい』『もっと華やかにしたい』と思って、会長に立候補しました」

高校1年から生徒会長に就任した。

持ち前のキャラクターで友だちもつくったが、同時に敵もつくった。

「高校時代は、クラスの男子に嫌われてました。たぶん、私の発言とか行動とか、全部目障りだったんだと思います(苦笑)」

さらにこの後、決定的に嫌われることになる原因を、自分でつくってしまう。

テレビでの失言がいじめに発展

そもそも、隣の市の進学校に入ったのは、「自分を驚かせてくれるような人に出会いたかったから」。

「でも、今の高校にはいなかった」ということを、よりによってテレビ番組で発言してしまったのだ。

「NHKの『真剣10代しゃべり場』っていう番組に出る機会があったんですが、そのことを言っちゃったんです。今でも反省してますね・・・・・・」

「みんな、私がテレビに出ることは知ってました」

同級生がこの番組を見て、結果、大炎上。

いじめがはじまった。

学校のネットの掲示板には、「内藤死ね」「消えろ」といった誹謗中傷が次々と書き込まれた。

「そのときは、生まれてはじめて生きているのが嫌になりました」

学校に行くのも嫌になり、部屋のなかで暴れ、割れるものは全部割った。

両親が新しい風を

両親には全部話していたので、娘が暴れる背景は知っていた。

部屋で暴れているとき、急に母が入ってきた。

「MDコンポ、買いに行こう」

「なんで今?」「そんなのいらない!」と思ったが、泣きわめいている状態のまま引っ張り出され、車に乗せられて街の電気屋に行った。

そこで、母にMDコンポを買ってもらった。

父には『千と千尋の神隠し』のDVDを買ってもらった。

家に帰ったときには、持ち直していた。

「何か特別な言葉があったわけじゃないけど、この “電気屋(救済)事件” で私は救われました」

「母は、私のなかの空気を入れ替えてくれるっていうか、吹き溜まりに新しい風を入れてくれるような存在。もちろん、父もですよ(笑)」

05 1回目のカミングアウト

嫌われ者か人気者か

“電気屋(救済)事件” を通して、決断したことがある。

それは、「もう一度、生徒会長に立候補しよう」ということだ。

「証明というか、戦いというか。私は、本当に嫌われ者なのか人気者なのか、選挙で白黒つけようって感じでした」

「あと、いじめに遭うほうにも原因があると思ってたので、自分から変えようと思ったんです」

選挙演説では、いじめのことも全部話した。

「掲示板で起きてることを知っていますよね?」
「生徒会長は、みなさんが選んでくれた公人です」
「でも、だからって何を言っていいのでしょうか?」
「いや、違うはずです」
「私は傷つかない人なんでしょうか?」
「いや、違います」

「疑問形 + いや、そうではない」という構成のスピーチで、ありのままの気持ちを訴えた。

2期連続の立候補で、ライバルも強敵。

選挙は大接戦になったが、競り勝った。

2期目の生徒会長に就任したときには、もうネットの掲示板は閉鎖されていた。

レズビアンは政治家になれるのか?

「女の子が好きだ」ということは、高校生のときに確信した。

親へのカミングアウトは、真正面からではなく、少し変わった角度からの告白となった。

「私は『総理大臣になりたい』って宣言したときもあって、当時は政治家を目指してました」

「政治家って、票を集めなきゃいけないじゃないですか? だから、同性愛の人でも票は集まるのかなって思って、選挙権がある母に聞いてみたんです」

「私はレズビアンです」という告白ではない。

「私は将来、政治家になりたいけど、レズビアンだから票が集まるか不安です」という告白だ。

中学のときから好きな女の子がいたので、母も何となく分かってくれていると思っていたが、反応は違った。

「・・・・・・気持ちわるいね」とひと言。

「娘に対して『気持ちわるい』って、ひどいんじゃないって言い返したら、『ごめん、まわりにそういう人がいないから、そう言っちゃった』って」

「でも、男の子を好きになるのは無理なんだよね?こういう男の子と付き合いなさいって言っても、そうはいかないよね?」

「それなら、紗弥花の好きなようにしたらいいんじゃない」

夜中だったから、声に気付いて父も起きてきた。

「ねえ、パパ。紗弥花は女が好きかもしれないんだって」

「そうなんだ。それならそれで仕方ないんじゃない」

「えっ?ママ、今それパパに言うの!?」と慌てたが、夫婦同じ結論でカミングアウトはあっさり終わった。

「私としては、もう少し言い合いたかったんです。盛り上がりに欠けたっていうか、拍子抜けでしたね(笑)」

これは、家族への ”1回目” のカミングアウト。

このときから16年後、家族3人で再びカミングアウトの場を設けることになる。

 

<<<後編 2018/03/27/Tue>>>
INDEX

06 埋もれていた大学時代
07 笑いがとれない芸人生活
08 自分にしかできないことで人を幸せに
09 2回目のカミングアウト
10 私は欲張りなレズビアン

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