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Writer/Jitian

LGBTQは恋バナができない?

学生時代、何かと友人が話していたトピックが「恋愛」についてでした。誰が好きだとか、誰が誰のことを気になっているとか、誰と誰が付き合っているだとか・・・・・・。
でも、私はそのたぐいの話には参加したことがほとんどありません。その話題になれば、そそくさとその場を離れるか、ずっと黙っているだけでした。

なぜか? それは、恋バナが異性愛者でヘテロセクシュアル(シスヘテ)であることが前提の場であり、そのどちらでもない私は、自分のことをそのまま話すことはカミングアウトと同じだったからです。

そして、そもそも話せない以前に、恋バナ自体にあまり興味がなかったので、話を聞くのも退屈でした。それより、テレビや映画、ゲームや音楽などの趣味の話をしていたかったのです。

この記事を読んでいる方のなかにも、同じような経験をされた方いるのではないでしょうか。今回は「恋バナをしたがるシスヘテたち」について考えたいと思います。

恋バナに参加できない

セクシュアルマイノリティ当事者には、シスヘテの人たちが盛り上がっている恋バナに、参加しづらい人が多いと思います。例えばLGBは、自分の経験や思いをそのままに話したら、カミングアウトも同様です。

トランスジェンダーも、クローズドで性的指向が性自認に対して異性の場合は、一見すると同性愛者に見られるので、結局参加できないことと思います。Aセクシュアルは、そもそも話すこともないし、さらには性交渉などに話題が及ぶと、話を聞くことすら苦痛になりかねません。

恋バナにせきららに参加すること=カミングアウト

友人が恋バナを盛んにするようになったのは、小学校高学年頃だったと記憶しています。そのころから周りは明確に男女に分かれて遊ぶようになり、私はその「区切り」にすら順応しづらかったころでした。
私の友人たちがこそこそと集まって、誰が気になっているか言い合っているなかで、“自分が話す番に指名されないといいな”“早く昨日見たドラマとか別の話題になってくれないかな” などと考えていたものでした。

また、「気になる」「気がある」=「好き」という意味を理解するのにも何年かかかりました。その頃の私は「気になる」=「貧乏ゆすりが気になる」など、どちらかと言うとネガティブな意味でとらえていたからです。

中高生になると恋バナ主流の傾向はさらに強まりました。よくもまあ毎日話題が尽きないなと思いながら、テキトーに聞き流したものです。

しかし、実は私にも好きな人もいました。ただ、学生時代に好きになった人のほとんどが女性。それをそのまま言うのはカミングアウトになるので、話題を振られると「そういうのには興味ない」の一点張りで突き通しました(私の身体の性別は女性で、中高生の時はレズビアン寄りのバイセクシュアルだと思っていました)。

「好きなのはあなたです」とは口が裂けても言えない

そのなかでも、その場をやり過ごすなかで一番つらかったのは「好きな人いないの?」と私に聞いてくるその相手が、私が好きな人だった場合でした。「お前だよ!!」とは口が裂けても言えませんし、目が合ったらバレるのではないかと冷や冷やしていました。
同じような経験をした方も少なくないのでしょうか?

シスヘテの場合なら、意中の相手に同じ質問をされたら、逆に多少脈ありとも捉えられ、そこから進展を図れるチャンスもあると思います。でも残念ながら、クローズドのLGBが、シスヘテ前提の場で同じ質問をされても、脈があるということはまずないと思ってしまいます。だから余計につらかったです。

BLマンガを読んでいるときにも、よくこういったシーンに遭遇するのですが、いつも「こういうときしんどいよな~」とゲイ側に同情しながらページをめくっているのです。

「まったく恋愛に興味がない人」になる

シスヘテが前提の場で恋バナを振られたり、好きなタイプの話を振られたりした際の対処法は、人それぞれだと思います。

● そのコミュニティとは異なるところに好きな人がいることにする(例:学生時代の友人たちとの場で、バイト先の人を引き合いに出す)
● 同僚に内情を知られたくないので、結婚指輪をつけて予防線を張る
● 知り合いに、恋人のフリをしてもらう

なかでも、私の場合はシンプルに「好きな人も付き合っている人もいない。何もない」と、とにかくそれ以上話を広げない、という策を10年以上講じています。

この方法のよい点は、大きなウソはつかないので、ウソを重ねなくて済む、あとで辻褄が合わないということが起きないということです。

実際には好きな人がいることもあります。しかし、好きな人や付き合っている人がいないのに「いる」とウソをつく方が、設定やアリバイを用意しなければならないので、結局は自分の首を絞めることになると思い、私は今までこの方法は取っていません。

その反面、経験則上、必ずしも「好きな人も付き合っている人もいない」という対処法はおすすめできません。

というのも、もう10年以上の付き合いになる友人に、ずっとこの方法で恋バナを回避しているのにもかかわらず、会うたびに「気になってる人いないの?」と懲りずに聞かれるからです。

いい加減、もう諦めてくれ・・・・・・。私からこれ以上聞いたって、面白い答えなんて何も出ないから・・・・・・(苦笑)。

セクシュアリティをオープンにして参加できると、楽しい

身近で行われる恋バナには、まったくノリ気がせず、提供できる話題もないので、今も正直少し嫌気がさしています。しかし、シスヘテが前提でなかったり、自分のセクシュアリティをオープンにできたりする場だと、案外楽しいということに気づきました。

特に、現時点では自分の性的指向はパンセクシュアル、いわば好きになる対象の性別は何でもありを自認していますが、何でもありが前提の場だと、周りの方の話題もシスヘテの場では聞かないことばかりで、とても面白いです。

私みたいに「本当は好きな人はいるけど、本当のことは話せない人」から「巷の恋バナに苦手意識をもっている人」は、当事者のオフ会やトークショーに行ってみると楽しめるかもしれません。

やたらと恋バナしたがる人たち

恋バナの楽しみ方を知った私ですが、それにしても、なぜそんなに周りの人は何でもかんでも恋バナに結び付けたがるのか? という別の疑問があります。

勝手に話を進められる

浮いた話があまりにも出てこなかった私に、友人たちはつまらないと思ったのでしょう。大学生のサークル活動で、ある時たまたま一緒にいる時間が急激に増えた他校の学生(男子)のことを、私が気になっていると勝手に噂されたことがありました。結論から言うと、私の大学側だけでなく相手方の大学側まで勝手に盛り上がって、当人たちによる火消しが間に合わず、数か月間その人と付き合うことになってしまいました。

話のネタができたから友人たちは面白かったのだろうと思いますが、他人同士がくっつくということの何がそんなに面白いのか、私はそんなこと一言も口にしていないのになぜウソがそこまでエスカレートするのか、私には理解できませんでした。また、当人を差し置いて噂話がどんどん狭いコミュニティの間で広がる様子に、恐ろしさを感じました。

今思い返してみても、悪気がない分そのウソは悪質だったと思いますし、相手にも失礼ですし、決していい思い出ではありません。しかし、ここまでひどくなくても、例えばお見合いで当人同士はその気はないのに、親や仲人がその気になるなど、勝手に話が進むということは珍しくないのではないでしょうか。

勝手に好きな人ができたことにされる

同じような理由で疑問なのが、ちょっとした変化を恋愛に結び付けられることです。
例えば、ヘアスタイルを変えたとき(特にロングヘアからショートカット、黒髪から金髪など変化の度合いが大きいとき)。痩せたとき。メイクの方向性を変えたとき。いつも着ているものとは異なるテイストの服を着たときなどに、「好きな人できたの?」と言われたことはないですか?

私も先日、定期的に通っているマッサージ屋さんでこのようなやり取りがありました。
店員さん「少し痩せましたか?」
私「そうですかねえ、自分じゃ分からないですねえ」
店員さん「好きな人できました?」
私「???(脈絡がなくて理解できない)」

単に、自分自身が「そうしたいから」「(意識なく)そうなっていたから」という理由に至らないのは、なぜなのでしょうか・・・・・・。

このように、シスヘテの人たちは小さな糸口からでも恋バナに結び付けて話そうとする傾向があるように思います。

前提が決まっていると話ができない

話は変わりますが、2020年8月、ダイアモンド社のウェブ媒体でLGBTの従業員と企業の関係、企業側の配慮に関する記事が掲載されました。そこで、当初の記事では、従業員に対する企業のセクシュアリティに対する考えられる方針の一つとして、カミングアウトを禁止するという就業方針例を記載していました。この内容は、多くの指摘を受けたと思われ、その後すぐに内容が変更されました。

基本的には、従業員は会社で仕事をするだけですし、恋バナはセクハラに当たることが多いと思うので、直接的に従業員の性的指向が話題になることは、学生の時に比べれば極めて少ないと思います。

しかし、雑談がまったくない企業は存在しないだろうと思うので、性的指向が関係する話題も、ゼロではないはずです。このときに問題になるのが、私が何度も書いているように「世間で恋バナをするときは、シスヘテが前提となっている」ということです。

企業側にカミングアウトを禁止されては、LGBは特に恋バナに参加することや自身のパートナーなどについて話すことを禁止されたようなものです。恐らくこの記事が当初公開された段階では、カミングアウトを禁止することが当事者の生活を制限することにつながることまで、考えが及んでいなかったのだと思います。

恋バナ以外にも、国籍、出身、育った場所、学歴、言葉、家族構成・・・・・など、会話をするうえで勝手に暗黙の了解として「前提」となっているものはありませんか? 前提に該当しない人を、ないがしろにしたり傷つけたりしていないか、常に自問自答しながら、なるべくみんなが気持ちよく会話の輪の中に入れるように意識したいものです。

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