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Writer/酉野たまご

バイセクシュアル? レズビアン? 性的指向に悩んだ私の恋活経験談

数年前と比べて、恋活はずいぶんポピュラーなものになったように思う。マッチングアプリや街コン、あるいは相席屋などで恋活をすることも、以前よりずっと一般的になったのではないだろうか。これは、私がかつて、自分のセクシュアリティに悩んでいた頃の恋活体験の記録である。

バイセクシュアルかレズビアンか、「性的指向迷子」になっていた学生時代

片想いしかできず、性的指向に迷っていた頃

学生時代、私は自分の性的指向がよくわからないまま、ただただ片想いを繰り返していた。

あるときは、一学年上の同性の先輩に。
またあるときは、同学年の異性に。

「もしかしたら好きかもしれない!」と思うと、その感情を一人で大事に育て、どんどん膨らませていくことが何度もあった。きっと、「恋愛をすること」それ自体に強い憧れがあったのだと思う。

片想いの感情は、ただ心の中で育てていただけで、自分から誰かに告白した経験はそれほど多くない。異性相手でも、同性相手でも、「本当にこの想いは恋愛感情なのか?」ということにあまり自身が持てなかったのだ。

初めて「この人のことが本当に好きだ! これは初恋だ!」と思えた相手は、女性だった。それでも、自分をレズビアンだと確信するには至らなかった。

女性に心惹かれる自分は、確かに存在する。
それと同時に、もしかしたら男性のことも好きになれるかもしれない、と思ってしまう自分もいる。

自分の性的指向に迷って混乱しながらも、とにかく誰かとお付き合いしてみたい、恋人がほしい、という欲求は年を重ねるごとに強くなっていった。

プレッシャーや焦りもあったのだと、今になって振り返るとよくわかる。

初めての恋活のきっかけは、コロナ禍だった

恋人がほしいと思いつつ、実際に恋活を始めたのは社会人になってからだ。学生だった当時は、街コンやマッチングアプリを利用することにまだ抵抗があったのだ。

ではなぜ、社会人になって恋活を始めたのか? 実は、最初の動機は「恋人がほしいから」ではなかった。

社会人になって数年目に、世界にコロナ禍が訪れた。

元からの友人とはオンライン通話で何度か喋っていたし、近くに住む家族には会いに行っていたけれど、それ以外の人とはほとんど話をすることがない日々。

そんな毎日を過ごす中で、「初めて出会う人と話をしたい」「新しい話し相手がほしい」という気持ちがふつふつと湧いてきたのだ。

一人で近所の映画館へ映画を観に行った夜、帰り道で私はひそかに決心した。
恋活で、新しい人と出会って話すという体験をしてみよう。

そうして、私の人生初の恋活がスタートした。

最初の恋活はレズビアン向けマッチングアプリ

プロフィール登録には、レズビアンならではの項目も

最初に登録したのは、女性同士のマッチングを目的としたアプリ。

いくつかのマッチングアプリや掲示板を検討した中で、そのアプリが最も安全そうに見えたのだ。

身分証の画像を提出して、戸籍上の性別が女性であることが判明している人しか登録できない、という制限が設けられていることが決め手だった。

審査が通り、初めてのアプリにどきどきしながらプロフィールを埋めていく。身バレを少し恐れていたので、トップの写真は顔があまりわからないものにし、サブの写真に遠目でなんとなく顔がわかるようなものをチョイス。

プロフィール文の定型もあまりわかっておらず、無難に自分の情報を羅列して「よろしくお願いします」と付け加えた、面白みのない仕上がりになった。

また、レズビアン向けのマッチングアプリというだけあって、プロフィール項目には「タチ」「リバ」「ネコ」といった選択肢もあった。

未経験の場合はどう判断すればいいの・・・・・・!? と戸惑いながらも、とりあえず「リバ」を選び、備考欄に「まだよくわかっていません」と追記。

プロフィールを入力し終えると、今度は自分がマッチングしたいと思うお相手を探してみたくなった。

当時住んでいた県と、近隣の県に住んでいる人の中からお話してみたい人をピックアップし、ハートマークの「いいね」を送る。

何度かそれを繰り返していると、ぽつぽつとハートを返してくれる人や、メッセージを送ってきてくれる人が現れた。

会えたのは二人、次につながったのはゼロ人

何人かとメッセージをやりとりする中で、直接会うに至ったのは二人だけだった。

一人目は、マッチしてすぐに「飲みに行きましょう!」というメッセージを送ってきた隣県在住の人。

約束した当日、待ち合わせ場所に向かうと、見た目も佇まいもボーイッシュな女性に「酉野さんですか?」と声をかけられた。

マッチングアプリで出会った人と、顔を合わせるのが初めてだということに今更気づいた私は、その瞬間から帰るときまでずっと緊張しっぱなしだった。

うまく目も合わせられず、気の利いたリアクションもできない私を見て、相手の女性は「めちゃくちゃ緊張してるじゃん!」と笑った。

勇気を出して「こうやってアプリの人と飲みに行くことって多いんですか?」と聞いてみると、「まあねー」というあいまいな返事。そして彼女は、最近取引先に気になる女性がいるのだという話を私に振ってきた。

「恋愛相談をされているということは、つまり私は恋愛対象に見られていないってことだよな・・・・・・」とぼんやり考えながら、次こそは絶対にこんなヘマをしない、と固く誓った。

次に会った人は、同じ県に住む年下の女性。まだ学生さんとのことだった。

他府県から通学のために引っ越してきたという話を聞いていたので、せっかくだからまだ行ったことのない場所を開拓しようと、珍しく自分から案内役を買って出る。

デートを自分から企画するなんてやったことがなかったけれど、お店をたくさん調べ、「ここ行ったことありますか?」「甘いものとか好きですか?」と事前にリサーチし、待ち合わせ時間や場所も相手の都合に合わせて決めた。

前回の反省を踏まえて、今度こそ受け身でなく自分から相手をリードするぞと意気込んでいたのだ。

その学生さんは、何の連絡もなしに待ち合わせ場所へ二十分遅れてやって来た。

あらかじめ調べておいたおしゃれなカフェでも、ユニークな雑貨や本を販売しているお店でも、私はできるだけ相手が退屈しないよう、話を盛り上げようと心掛けた。が、彼女の反応は終始ふわふわとしてつかみどころがなく、解散した後は一切メッセージが来なかった。

私はかなり落ち込んだ。

二人の人と会って、二人ともにまったく恋愛対象として見られなかった。それどころか、なんとなく人間としても軽んじられていたような気さえしてくる。

たった二人としか会っていないのに何を弱気な、と今となっては自分を叱りたくなるが、当時はそれで完全に心が折れてしまった。

自分ってレズビアン女性にモテないのかなあ・・・・・・と悲しくなった私は、しばらく恋活はお休みしようとマッチングアプリを削除した。

やはりバイセクシュアルかも? 異性との恋活

マジョリティに馴染みたくて踏み込んだ、異性との恋活

レズビアン向けのマッチングアプリを削除して数か月後、私は次なるステップへ踏み出そうとしていた。「街コン」である。

マッチングアプリで毎日メッセージのやりとりをするよりも、直接顔を合わせて話すしかない街コンのほうが、時間や手間が省けそうだと思ったのだ。

私は早速、街コンのイベントサイトに登録した。今回は、前回とは異なり、異性を相手に恋活をしてみようと決めていた。

母親からの「早く彼氏を作らないのか」攻撃に嫌気がさしたことも理由のひとつだったが、単純に、マジョリティに馴染みたい気持ちや、知り合い以外の男性と久々に話をしてみたい気持ちも強かったのだ。

もしこの恋活で男性とお付き合いすることができたら、自分はレズビアンではなくバイセクシュアルなのだと、性的指向に確信が持てるような気もしていた。

オンラインでの街コンに五回ほど、実際に居酒屋や専用のブースへ集まる街コンに三回ほど参加したが、結果は芳しくなかった。

オンライン街コンで、なぜか男性ではなく同世代の女性と仲良くなり、連絡先を交換して恋活についてひとしきり愚痴を言い合ったこともあった。

居酒屋の街コンでは、友達と一緒に参加していた男性二人から謎のマウントを取られまくり、街コンの最中にもかかわらず泣きそうになるのをぐっと堪える羽目になった。

唯一、街コン後に「また会いたいです」と言ってくれた男性とは、一回、二回とデートを重ねるうちに違和感がどんどん募っていき、三回目のデートでお相手からの告白を断って別れた。

「私のことが好きなんじゃなくて、誰でもいいから付き合いたいって感じがする」と正直に言うと、「確かにそうです」と真顔で返事をされた。

認めるんかい! と心の中で突っ込みつつ、やっぱりお断りして正解だった・・・・・・とあまり嬉しくない確信を得た。

バイセクシュアルでもない? 恋活に疲れて

全部で十回にも満たない参加回数だったが、私はすっかり街コンでの恋活に疲弊していた。

初対面の人と話をしたいという欲は少し満たされたものの、あまりにもコミュニケーションがうまくいかないことに嫌気がさしてしまったのだ。

こちらが相手を楽しませようと話を振っても、芳しい反応はあまり返ってこない。逆に、こちらを楽しませようとしてくれる人とはなかなか出会えなくて、会話の中でマウントをとられたり、仕事の愚痴やよくわからない自慢話をされたりと、「この人、私に興味がないんだな」と思わされることが多かった。

自尊心が削られて、きまって街コンの後は少し落ち込んだ。

街コンという形式が自分に合っていないのだろうか。
そもそも、異性と話すことに長年苦手意識があった私が、異性との恋活をするというのが間違いだったのだろうか。
バイセクシュアルではないのだろうか。
私は異性にも、同性にも必要とされていない存在なのだろうか。

レズビアンにも、バイセクシュアルにもなりきれない自分は、なんて中途半端な存在なのだろう。

思考はぐるぐると巡って、どんどん良くない方向へと進んでいった。ほどなくして、私は街コン通いを辞めてしまった。

しばらく何もしたくないと思った私は、その後数か月間にわたって、また恋活をお休みすることになった。

再び、レズビアンとして恋活をスタート

自分のセクシュアリティと向き合った結果、選んだ道

数か月のインターバルを経て、仕事やその他の活動も落ち着いてきた頃、ふと、また恋活をしてみようかという気持ちになった。

私は迷った。

異性との恋活をするか、それともレズビアンとして恋活をするか、今度はどちらにしようかと。

前回、前々回と恋活をしてきて、楽しさもあったけれど、ストレスもかなり大きかった。今度恋活に疲れたら、またしばらく恋活はできなくなるかもしれない。

それに、次の恋活でもし恋人ができたら、その次の恋活はいつになるかわからない。
もしかしたら、それっきり恋活はせず、ずっとお付き合いを続けていくという可能性もある。

だったら、悔いのないように、今決めようと思った。
男性とお付き合いしたいのか、女性とお付き合いしたいのか。

いずれの場合も、デメリットはあった。

たとえば今、女性とお付き合いして、お別れした後、男性とお付き合いするとしたら、年齢的に妊娠や出産は望めないかもしれない。

あるいは、男性とお付き合いをして、結婚することになったら、私は「自分はバイセクシュアルか、レズビアンかもしれない」という疑念を心に秘めたまま生きることになる。

一人悶々と考えた挙句、私が出した結論は「今女性とお付き合いしないと絶対に後悔する」というものだった。

今後、どんな人がパートナーになろうと、「女性に恋愛感情を抱く」ことは自分の大きなアイデンティティだと思ったのだ。仮に男性のパートナーができたとしても、その人に自分を偽り続けたり、女性に対する恋愛感情を匂わせたりするのは嫌だ。

それなら、私は絶対に女性とお付き合いする経験をしてみるべきだ、とはっきり思った。

一度でいいから自分の気持ちを確かめて、その上で自分のセクシュアリティに確信を持ちたかったのだ。

レズビアンとしての恋活の成果は、「自分のアイデンティティと向き合えたこと」

こうして私は、女性を恋愛対象として恋活を再スタートした。

削除していたアプリをふたたびインストールし、プロフィールを少し書き換えて、またマッチしたい相手を探す日々が始まった。前にアプリを使っていた頃よりも、自分の肩の力が抜けているように感じられた。

何人かの人とマッチして、話が合いそうな人がいたらこちらから食事に誘おうか、先に電話のほうがいいかな、などと考える余裕もあった。

ある日、マッチした人のうち一人から「電話でお話してもいいですか」というメッセージをもらった。メッセージのやりとりをしていた人の中で、その人が一番会話のテンポが速く、話も盛り上がっていた。

お相手から次の一歩を提案されたことが嬉しくて、すぐに快諾した。

結局、その人以外にメッセージのやりとりが長期間続く人は現れなかった。
たった一人と、電話をしたりメッセージを送り合ったりする日々の中で、私は初めての感情に気がついた。

それは、「もしかしてこの人、私のことを好きなのかもしれない」というくすぐったい予感だった。

「酉野ちゃんと一緒に見たいなーって思ったよ」と、キャンプ場からきれいな星空の写真を送ってくる彼女の無邪気さに、くすぐったい予感はだんだんと確信に変わっていった。

今、この文章を書いている私は、あのとき星空の写真を送ってくれた人とお付き合いをしている。一緒に住んでもうすぐ二年。住んでいる地域でパートナーシップ宣誓をしようと、現在準備中である。

恋活をしていた頃のことを振り返ると、焦りとストレスで切羽詰まって、かなり視野が狭くなっていたなあと思う。

自分のセクシュアリティがわからないことにも、誰ともお付き合いした経験がないことにも、ひどくコンプレックスを感じていた。実際には、セクシュアリティはあいまいなままでもいいし、一人で楽しく過ごせている間は他人のことなんて気にしなくていいはずなのに。

それでも、恋活の相手を異性か同性か決めようと決心したあの日の自分には、「よく頑張った!」と伝えたい。

改めて自分のアイデンティティと向き合えたこと、直感を信じて後悔しないと思える選択をできたことで、私の場合は、生涯を共にしたいと思えるパートナーと出会えた。

もしもあのとき違う選択をしていたら、とたまに想像することがある。
そちらの世界線の私も、幸せになっていたら嬉しいな、と祈るばかりだ。

 

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