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Writer/Honoka Yan

バイセクシュアル女性のモノ化【ユニコーンハンティング】

あなたがバイセクシュアル女性で、マッチングアプリを使っていたとする。マッチしたある女性と何度かデートへ行けば、特別な感情が芽生えることも考えられる。そんな時、気になる相手から彼氏がいることを打ち明けられ、彼とのセックスに誘われたという話を聞いたら、あなたはどう思うだろうか。

Unicorn hunting(ユニコーンハンティング)とは、異性カップルによるバイセクシュアル女性のモノ化である。これは仮説でなくリアルに存在する話だ。まだまだ問題視されないことに焦りを感じたため、日本社会にユニコーンハンティングについての知見を広めることを決意した。

バイセクシュアル女性が犠牲に。ユニコーンハンティングとは

ユニコーンハンティングとは、異性愛のカップルが関係をオープンにし、彼らの性的関係に加わる相手を「バイセクシュアル女性」のみに絞って探すことである。

ユニコーンハンターの大半が、シスジェンダーのストレート男性とバイセクシュアル女性であることが多い。カップルと関係を結ぶことになるバイセクシュアル女性は、彼らと恋愛感情持つことは許されない。歪んだ偏見によりバイセクシュアル女性を性的対象とすることから、様々な問題点が懸念される。

日本に存在するユニコーンハンター

少なくとも私が生きてきた22年間の中で、ユニコーンハンターを数え切れないほど見てきた。新宿二丁目のレズビアンバーに行けば、何故か男女のカップルが調査でもしに来ているかの如く、周りをキョロキョロ見渡している。そして二人が見定めした「第3の女性」に声を掛ける。

Tinderを開けば、「3Pに興味のあるバイセクシュアル女性を探しています」「バイ女性オンリー」と書かれたカップルのプロフィールを見ることがある。カップル二人の顔写真と共に、目的をプロフィールに示しているユニコーンハンターは、百歩譲ってまだいい方だ。一番悪質なのは、女性のみをプロフィールに載せ、女性同士でデートを重ねた後にパートナーの存在を知らせる手法だ。

1.2万人以上もの人が所属するFacebookグループでは、世界中のユニコーンハンティングの被害者が、日々投稿を寄せている。ユニコーンハンティングは、決して珍しい事例ではない。

狙われるバイセクシュアル女性

バイセクシュアル当事者なら「恋愛が二倍できていいな」「3P好きなんだ」と言われた経験があるのではないだろうか。セクシュアリティと性愛関係は全くの別物であるのに、両者が混合した考えにより、「バイセクシュアルは性に貪欲だ」という嘘のレッテルを貼られてしまう。

National Intimate Partner and Sexual Violence Studyによると、61%のバイセクシュアル女性がレイプ、身体的暴力、カップルによる不快な経験をしたという。また17%のストレート女性、13%のレズビアンも同じような被害に遭ったことがある。ストレート、レズビアン女性と比較して、バイセクシュアル女性の被害数値が極めて高いことから、少なくともバイセクシュアルのモノ化が一つの原因になると言えるであろう。

バイセクシュアルも、物事を自由に選択する権利や意見を述べる権利のある人間である。セクシュアリティで人を判断し、利用する人が存在することに人権意識の欠陥を感じる。

ポリアモリーでもトライアドでもない

多くのユニコーンハンターは彼らのニーズを満たすために、マッチングアプリやレズビアンバーなどに出没する。女性同士の出会いの場に、女性と肉体関係を結びたい異性カップルが現れ、目的を示すことなくランダムにバイセクシュアル女性に近くことは、カップル側の一方的なアプローチである。

さらに彼らは自身の性愛関係を「ポリアモリー」「トラアド」と自称している。ポリアモリーとは合意の上で三人以上と性愛関係を結ぶことであり、ポリアモリーの中に、三人のパートナーと平等な性愛関係を結ぶトライアドが存在する。

ポリアモリーやトライアドは、複数人と同じ並行線上で関係を結ぶことに対し、ユニコーンハンティングはバイセクシュアル女性を「第三の女性」とみなし肉体関係を結ぶ。その時点で、カップルと相手女性との間に階級が生じ、平等ではなくなる。

かなり大雑把な例えになるが、ポケモンハンターがユニコーンという名のレアポケをゲットするため、レアポケの出現する場で待機することに似る。さらにレアポケとして標的にされたバイセクシュアル女性は、彼らの「性の対象」とみなされ、3P以外の試合に参入することは許されない。レアポケとして参戦できるものの、恋人や家族になることは不可能なのだ。

ユニコーンハンティングは何が問題?

では、ユニコーンハンティングの問題点について焦点を置きたい。先述しておくと、複数人との性愛関係ノンモノガミーや複数人との性的関係3Pを否定するわけでもない。しかし、レイシスト(人種差別をする人)でセクシスト(性差別をする人)の存在する関係は許容してはならないと主張した上で、以下に着目する。

①モノ化・フェチ化

漫画やアダルトビデオで描かれる様々な女性同士のセックスは、美化され、非現実性を帯びる。しかし、アダルトビデオを性の教科書とする多数のストレート男性は、女性同士のセックスに憧れの念を抱く。そして脚や手と並べて、バイセクシュアルやレズビアン女性をフェチの一部として捉え、現実には存在しない珍しい「ユニコーン」として扱う。

多くの男性が抱くファンタジーにより、バイセクシュアル女性が餌食となる。バイセクシュアル女性は、普通に存在する一人の人間であるのに、彼らのセックスライフを非現実的なエンターテイメントとするための道具として扱われてしまう。その瞬間、彼らによりバイセクシュアル女性という一人の人間は、モノと化し、フェチと化す。

②異性愛規範

上記のようなファンタジーを持つ男性側の希望により、ユニコーンハンティングを行うカップルも多数いる。にも拘らず、「バイセクシュアルはセックスに貪欲である」と都合よく受け取り、「バイセクシュアルであるパートナーのための3P」「彼女のセクシュアリティの探求のための3P」だと主張する男性を見る。だとすれば、男性はセックスに加わる必要性はないのでは? とも思うが・・・・・・。いずれにせよ、ユニコーンハンティングは、バイセクシュアルに対する偏見や異性愛規範の考えに基づくケースが多いことは揺るぎない事実である。

③セックスの風味付け

Tinderなどのマッチングアプリで “Couple looking for a girl to spice things up” と書かれたプロフィールを目にする。直訳すると「スパイスを加えてくれる女性を探すカップル」であり、spice upとは「彼らの関係にピリッと刺激を与える」=「3Pの相手になる」ことを意味する。例として、長く付き合うことで関係に慣れ、セックスレスになったカップルが関係保持のために3P相手を探すことはよく見られる。そもそも、バイセクシュアル女性は一人の人間であり、彼らの調味料として存在しているわけでもない。

ユニコーンハンティングに当てはまる特徴は、カップルのニーズを満たすためだけにバイセクシュアル女性をターゲットとし、彼女たちに、無償の性労働者として非人道的な扱いを強いることだ。そのような意図がなくとも、事実、利用されたバイセクシュアル女性には負担が掛かり、傷が残る。

④「ワンペニス政策」

One penis policy;OPP(ワンペニス政策)は、ユニコーンハンティングの代表である。ワンペニス政策とは、女性と女性の行為はセックスにカウントせず、PIV;penis in vagina(女性器に男性器を挿入すること)のみがセックスだという考えである。

ワンペニス政策の考えを持つユニコーンハンターは、3Pでは必ずと言って良いほど、女性二人と男性一人の組み合わせが多い。パートナーの女性は、男性器のない他の女性とのセックスは許されるが、男性器のある他の男性とのセックスは許されない。なぜならば、彼らは男性器以外で女性を性的に満たすことは不可能であり、男性が女性を所有することで、決して他の男性との行為は許されないと考えているからだ。これは極めてホモフォビアで、異性愛を優位に位置付けるような考えではなかろうか。

⑤カップルの特権

恋愛感情の有無に限らず、人との関わりで大事なことは互いを尊重し合い、理解することである。性についての考えやルールを共有し、初めて安心した関係構築がなされる。カップルのニーズや欲求のみを優先することは、同時に3人目である相手の意見を無視することになる。

複数のパートナーが存在し、同意の上で性愛関係を同時に築くポリアモリーにとって、自分の持つ関係性を全てのパートナーに知らせることは、信頼関係を構築する上でとても大事なことである。しかし、ポリアモリーであることを知りながら、「禁断の関係」として相手に秘密を強いるカップルもいる。これは、ポリアモリーという一つのアイデンティティが尊重されないことになる。ゲイ当事者に「あなたがゲイであることを隠しておきなさい」と言うことと同じであり、当事者にとっては大変辛い現実だ。お互い少しでも同意できない状況下にあるのなら、その時点で平等な関係構築は安易ではないので無理を強いることは避けるべきである。

ユニコーンハンターから見たバイセクシュアル女性

これまで、ユニコーンハンティングについての問題点について述べてきた。多くのユニコーンハンターが持つバイセクシュアル女性像は、非現実的であり、全ての当事者に当てはまるわけではない。

バイセクシュアル女性は
・他人とセックスすることに躊躇すべきでない
・恋愛感情を抑制し、肉体関係だけを構築すべき
・コミュニケーションが上手く、カップルのルールに従うべき
・3Pに介入しても、カップルと距離を取るべき
・初めは何も知らずにデートをしても、セックスには同意すべき

上記はユニコーンハンターが求めるバイセクシュアル女性像であり、モノ化されていることがわかる。上記以外の点もあるが、少なくとも一つ以上当てはまれば、ユニコーンハンティングと言える可能性が高い。

バイセクシュアル女性の怒り

沢山のバイセクシュアル女性から「LGBTQのコミュニティでさえ、居場所がないように思える」「ユニコーンハンティングはとても不快だ」などの声をよく聞く。実際、ジェンダー、セクシュアリティ、人種などについて十分理解していない人が、本来バイセクシュアル女性が安心して使えるはずの出会いの場に忍び込み、犠牲者を増やしているように感じる。

バイセクシュアル女性を体ではなく一人の人間として見る基本的なことから始めるべきだ。もし3Pをするだけの相手を探しているのならば、今の時代、専用のマッチングアプリ等で見つけることも可能である。

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