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Writer/Jitian

荒川区議が区のパートナーシップ制度導入に猛反対

2022年1月13日、小坂英二荒川区議が、荒川区で4月から導入予定の同性パートナーシップ制度に反対する一連のツイートをし、全国的に話題になりました。今回は、小坂区議の意見から同性パートナーシップに反対する声について考えます。

小坂荒川区議の同性パートナーシップへの反対主張

まずは、2022年1月12日から現在までの一連の流れと、小坂区議の主張を振り返ります。

2022年4月から同性パートナーシップ制度を導入予定の荒川区

全国各地の自治体で急速に導入が進んでいる同性パートナーシップ制度。2022年4月、荒川区でも導入を予定しています。

4月からの同性パートナーシップ制度の導入に向けて、2022年1月12日、区の総務企画委員会で同性パートナーシップ制度の報告がありました。この委員会で、荒川区議会議員の一人である小坂区議は、同性パートナーシップ制度の導入に反対を表明しました。

実際に荒川区がYouTubeにアップロードしている音声議事録を聞くと、小坂区議が質疑冒頭から「(同性パートナーシップ制度の導入に)反対です」と言い切っていることが確認できます。

翌日の2022年1月13日には、委員会で同性パートナーシップ制度の導入に反対したことと、その理由を連続でツイートしました。これが荒川区民以外にも多くの人の目に触れ、いわゆる「炎上」を起こしました。

区議がLGBTQに差別的発言をして炎上した事件というと、2020年の白石足立区議の「足立区が滅びる」発言が今でも鮮明に思い出されます。白石区議は、当初こそLGBTQへの差別意識を固持していたものの、全国的な批判を受けて後日謝罪に追い込まれました。

今回の荒川区小坂区議の一連のツイートや意見も全国的に話題となりました。全国放送のワイドショーに自ら出演して意見を述べるなどのアクションもありました。

しかしながら、委員会およびツイートがなされてから半月以上が経過している2022年2月4日時点でも、小坂区議は未だに発言の撤回や謝罪などは一切行っていません。無論、同性パートナーシップ制度導入反対の姿勢も崩していません。

真っ向から同性愛を否定しているわけではないが・・・

小坂区議の委員会での発言や、ツイートから反対意見をまとめると、以下の通りです。

・同性カップルの存在を認め、尊重することは大事。
・しかし、同性カップルを制度で保護すべきではない。男女一対のカップルという「標準」以外を制度の中に入れると、社会混乱を来す。
・男女一対の「標準」的なカップルは、次世代に子どもを残すという点で大切であり、制度で保護すべき対象。他方、同性カップルは子どもを残せない。
・自由意思で子どもをもうけない、身体的理由などで子どもをもうけられない男女カップルもいるが、次世代に子どもを残す可能性のあるかたちを「標準」として保護することが重要。

こう見ると、同性カップルの存在は認めていますし、真っ向から否定するつもりはないようです。しかしながら、やはり男女カップル、特に男女カップルと子どものいる家庭を重視しているように見えます。

子どもを産み育てる可能性のあるかたちが「標準」?

ここからは、小坂区議の意見の中身を詳しく確認します。

異性カップルだけが、次世代に子どもを残せるのか?

小坂区議の一連の意見をTwitterで確認し、委員会の音声を聞いた後、私が最初に思ったことは「次世代に子どもを残せるのは、異性カップルだけなのか?」という疑問です。

例えば、同性カップルにも子どもを育てている人たちはいます。自分たちの遺伝子を引き継いでいるか、養子縁組で引き取った子なのかなどの違いはありますが、子どもを育てて世代を引き継ぐという点では、同性カップルも十分その役割を果たす可能性はあるはずです。

実際に、小坂区議のツイートには「同性カップルで子どもを育てている当事者です」という人からも複数リプライが寄せられています。しかし、残念ながら小坂区議はこのような当事者たちとは議論をしていないようです。

子どもを「残す」ことだけが重要なのか?

今回の小坂区議の発言では、同性カップルだけでなく、子どもを産み育てていない異性カップルにも波紋が広がっています。

一応、小坂区議は、発言の中で、異性カップルの中にも子どもを産み育てない選択をしている人や、身体的理由などで産み育てられない人がいることも承知している旨を言及しています。それでも、やはり異性カップルのなかで子どもを産み育てていない人が小坂区議の発言を聞けば不快感を覚えるであろうことは容易に想像がつきます。

例えば、タレントのアンミカさんは、ワイドショーで「特に気になるのが、標準という言葉や生産性ということを強調していること」「私も高齢結婚で子どもはいません。そういう方々は、平等な権利を享受されないような感覚に陥る」と発言しています。

これに対し、小坂区議は2022年1月25日のツイートで「『生産性』という言葉を小坂は使ってませんが?」と反論しています。

確かに、小坂区議は一連の発言やツイートの中で「生産性」といワードこそ使っていないかもしれません。ですが、同性パートナーシップ制度導入の文脈で「同性カップルは子どもを残せない」とまで言っておきながら、異性愛者のリプロダクティブライツを侵害した発言をしているつもりはありませんと主張しても、なかなか受け入れられないと思います。

そもそも「次世代に子どもを残す」をどう定義するかにもよりますが、異性カップルが子どもを産み育てることだけが「次世代に子どもを残す」ことなのでしょうか。子どもを産み育てていない独身者や同性カップルが労働して納税し、その税金が教育や子育て支援に使われることは、「次世代に子どもを残す」手段の一つだと私は思います。

制度で保護せずに同性カップルを尊重?

今ある差別より、想定される悪用を防ぐことを重視すれば、あらゆる法は意味をなさなくなってしまいます。

同性愛者を罰しないことが「尊重」?

これまでに書いた通り、(発言上では)小坂区議は同性カップルの存在自体を否定していません。同性カップルを異質、劣等であり、排除すべきものだとは言っていませんし、尊厳をもって尊重すべきだとも言っています。

率直に言って、私は一連のツイートを読んでも小坂区議の言う「尊重」にどこか引っ掛かりを覚えていました。カップルが異性同士ではなく同性同士であるというだけで、法的結婚をはじめとして様々な制約がある現状が差別的であり、尊厳が認められていない状態であると私は思っています。しかしながら、小坂区議の言う「尊重」は、法で保護するか否かだけではない別の “線引き” があるように思えてならなかったのです。

しかし、委員会での質疑音声を聞いて、小坂区議の言うところの「尊厳」がどういうことか、少し分かったような気がしました。質疑内で、小坂区議は、イスラム教やキリスト教では同性愛は認められないものであり、同性愛者が処罰される国や地域もあることにも触れたうえで「少なくとも日本ではそうではない」と言いました。

小坂区議の言う同性愛者の「尊重」とは、「同性愛者を処罰しない」ことなのでしょうか・・・・・・。

日本におけるLGBTQ差別を考えるときに、LGBTQ当事者が受ける法的罰則のことまで持ち出されるのかと思うと、こんな現状では確かにLGBTQ差別禁止法の制定など程遠いよなと、頭を抱えてしまいます。

同性パートナーシップ制度が悪用される危険性は、異性婚も同じでは?

小坂区議は、荒川区の同性パートナーシップ制度に反対する一連のツイートで、同性パートナーシップ制度を悪用した外国人の不法滞在を例に挙げました。つまり、同性パートナーシップ制度を導入することによって悪用する例が考えられるから、制度を作るべきではないというのです。

しかし、これも反対材料としては納得度が薄いと言わざるを得ません。確かに小坂区議が挙げた悪用例は考えられなくはないでしょう。しかし、それは異性婚も同じことです。

実際、保険金など、今まで異性婚の制度が悪用された事例もありました。しかし、その際に「異性カップルに結婚という特権を与えると犯罪の温床になるから、結婚制度を廃止しよう」ということにはならなかったはずです。

同性パートナーシップ制度を導入することで考えられる悪用例よりも、住まい探しで同性カップルが入居を断られるなど、今ある差別を解消するために動いて欲しいなと強く思います。

次世代に子どもを残すことに重きを置くなら、同性パートナーシップ制度導入を

子どもを産み育てることは、何も異性カップルだけができることではないはずです。

次世代に子どもを残したいなら、同性パートナーシップ制度を導入すべき

荒川区の委員会では、同性パートナーシップ制度の導入が検討されている理由の一つに、LGBTQへの理解促進が挙げられていました。同性カップルの存在が可視化され、同性カップルがより住みやすい街になるといったことが、同性パートナーシップ制度導入の「効果」として考えられます。

これによって、同性カップルが子どもを育てることへの “悪影響” といった偏見も解消に向かい、同性カップルが子どもを産み育てやすい環境が整っていけば、子どもを育てる同性カップルが増え、結果として次世代を担う子どもが増えるのではないでしょうか。

次世代により多くの子どもを残していくことを考えれば、むしろ同性パートナーシップ制度を導入し、ひいては同性婚を法制化すべきです。

同性カップルの保護が原因で、異性カップルも子どもも減らない

もっとも、同性カップルの保護と、異性カップルが生み育てる子どもの数が連動しないことは明らかです。

同性カップルを制度で保護したからといって、異性愛者が「じゃあ同性愛者になろうっと」とセクシャリティを変えることはありません。その逆も然りで、同性カップルが保護されないからといって、同性愛者が「じゃあ異性愛者になろうっと」と変われるわけではありません。

同性パートナーシップ制度が導入されようがされまいが、異性カップルで子どもを産み育てたい人は今後も自らの意思でそうするでしょう。同性カップルの保護は、異性愛者のこれまでの生活を壊すようなものではないのです。

2022年2月4日から、荒川区では同性パートナーシップ制度のパブリックコメントの募集を始めました。荒川区で、同性パートナーシップ制度が予定通り導入されることを願ってやみません。

 

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