NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 とあるトランスジェンダーの就活日記 ①

Writer/Tim

とあるトランスジェンダーの就活日記 ①

この記事は、FTM当事者である僕が、2021年度卒の新卒採用を目指して就職活動を行う全記録である。LGBTの就活情報も紹介するつもりなので、FTM以外のLGBT当事者で就活を考えている方、あるいはALLYで就活をしている方にも参考にしていただければと思う。

トランスジェンダーの僕が就活を決意するまで

2年前、トランスジェンダーの僕は就活に挫折した

僕は文系大学院1年生のFTMだ。FTMというのは、簡単にいうと心は男性なんだけど、生まれ持った身体は女性の人のことを指し、LGBTの中のT (トランスジェンダー)に当たる。文系大学院生というと、どこか浮世離れして謎に包まれているイメージがあるが、そこまで大学生と変わらない。ちょっと研究が忙しいだけで、普通にバイトもしているし、就活だってする。

大学院は2年間しかないので、大学院1年生は、大学3年生と同じ状況だと考えてくれればいい。大学3年の夏になると皆が就活でそわそわしだすように、院生も夏になると就活を本格的に考えるようになる。

実は、僕は大学3年生のときに就活に挫折している。というのも、就活で女性用スーツは着たくなかったし、かと言ってメンズスーツを着て「自分はFTMなんです!」とカミングアウトして就活する勇気もなかった。何よりも自分が何者として社会に出て働けばいいのか、想像がつかなかったのだ。

僕自身、今までの人生で大々的にカミングアウトしてこなかったので、就活の際に自分が何者かを表明しなければならないこと、それを見ず知らずの人に評価されることが怖くてたまらなかった。

そんなとき、大学の先生から、「今無理して決められないのなら、時間を置いてもいいんだよ」と言われ、大学院に進学を決意し、社会に出る猶予期間を2年伸ばした。そして、大学院1年生の夏になって再び就活を考える時期になったのだ。2年間の猶予期間によって、僕は社会に出たい! 働きたい! と心の底から思えるようになったし、ありのままの自分として、FTMとして就活しよう! とも思えるようになった。

だから、今就活にすごく不安と恐怖を感じている人や、自分が何者なのかわからないって人は、じっくり考えるために時間をとるってことも一つの選択肢としてあるんじゃないかなと僕は思う。

ホルモン治療を始める!

実は、僕は就活を決意する1年ほど前から、ホルモン治療を始めている。ホルモン治療というのは、心の性別に身体の性別を近づけるために、僕の場合であれば男性ホルモンを注射することだ。トランスジェンダー全員がホルモン注射をしているわけではなく、諸々の副作用や経済面を考慮して、打ちたい人は打つという感じになっている。

ホルモン治療を始めて、僕の声は声変わりし始め、今ではすっかり普通の男性と同じような低い声になった。見た目も、女性的な丸みが消えやや筋肉質な身体になった。そんな変化があったおかげで、治療を始めて1年も経った今では、男性と判断されることも多くなった。もともと自分の女性的フォルムにコンプレックスを抱いていたので、治療を始めたことが、自分の自信にもつながり、もう一回就活しようと考えられるにもなったと思う。だけど、僕はトランスジェンダーならみんな治療しろ! と思っているわけではないので、人それぞれ、自分の事情を考えてゆっくり決めていいと思う。

でもどんなに治療しても、変化しないものもある。それは名前だ。僕の名前は、絶対に女の子にしか使わない漢字を使っているため、誰がどう見てもザ・女の子の名前だ。だから初対面の人には、僕の今の男性らしい見た目と女性らしい名前を見て、「???」という反応をされることが多い。

そのたびに、「実は、僕はトランスジェンダーで・・・・・・」。みたいな説明を初対面の人にする気にもなれないので、笑ってごまかしたり、気づかないふりをしてやり過ごす。ホルモン治療の経過や周りの対応の変化については、また他の記事で詳しく書いていこうと思っているのでここでは割愛する。

02失敗だらけのスーツ選び

男性用スーツを初めて買う!

就活をしようと決めた僕に、早速大きな壁が立ちはだかる。それは「スーツ選び」。就活するには必需品であるスーツだけど、僕はFTMとして公の場に出たことはなかったので、今までメンズスーツを持っていなかったし、もちろん買ったこともなかった。

僕の身長は156cmで、女性の基準で中肉中背。つまり男性体型からすれば、かなり小柄で華奢な体格になる。150cm台の小柄な男性スーツなんて超マイナーアイテムに違いないから、最初から大型スーツ量販店にねらいを絞っていた。あと、前にあるFTMさんのブログで、『洋服の青山』に行けば小柄な男性用のスーツも取り扱ってると見たことから、『洋服の青山』に買いに行くことに決めた。

『洋服の青山』に行くと、3号という160cm以上のサイズからしか置いてなかった。せっかく勇気を出して来店したので、諦めきれずに店員さんに「僕のサイズの就活用メンズスーツってありますか?」とたずねると、店員さんはY3号を出してきてくれた。Y3号とは160cm用のスーツでも、通常よりもスリム向けに作られているため、通常よりも肩幅が狭い。試着してみると僕にぴったりの肩幅だった。店員さん曰く、「袖と裾は余っていても切ればいいから、肩幅が合っていて、ジャケットがおしり半分まで隠れるくらいの丈感だったらセーフライン」とのこと。Y3号でぎりセーフラインだった僕は、袖と裾をだいぶ切ってもらうことで、なんとかスーツをゲットする。念願のメンズスーツゲットにウキウキしていた僕は、伝票を見て愕然とする。

4万3千円!?。「スーツってこんなに高いの!? 僕の今月のバイト代ほとんどなくなるじゃん・・・・・・」と、絶望を隠せない僕。まずスリムタイプのスーツは通常よりも少々高め。そして裾と袖上げのサービス料でこの値段になるらしい。全ては就活のため! と思って意を決して購入する。

どうやら、後から調べたら、『洋服の青山』では160cm未満の男性用スーツは、ネット販売だけしているらしく、ネットだと割引されて半額で買えるらしい! ネット販売といっても、試着と裾/袖あげは店頭で実際に自分に合わせてやってくれるらしいので、ほとんど店頭販売と変わらないのではないか・・・・・・。次はちゃんと調べてから、ネット販売で買うことを心に固く誓った。

スーツを買いに行って、「ほんとは女性だってバレなかったの?」と思う方もいるかもしれない。僕も行く前は「もし自分が男ではないとバレたらどうしよう・・・・・・」と、不安な気持ちでいっぱいだった。だけど、『洋服の青山』の店員の方は特に怪訝がることも、「え、女性男性どっちなんですか?」と突っ込まれることもなく、こちらの事情には踏み込まず、終始笑顔で淡々と対応してくださった。

正直、僕は見ず知らずの人に、自分のセクシュアリティに踏み込まれるのは、あまりいい気分はしないので、『洋服の青山』の対応はとても有難かった。なので、これからスーツを買おうとしているトランスジェンダーの方には、『洋服の青山』をお勧めする。もちろん、自分のサイズのスーツがあるかも調べることも忘れずに。

スーツを無料レンタルする!

就活用のスーツは2着持っておいたほうがいいと一般的に言われている。1着は手に入れたけど、4万円越えのまさかの大出費をした僕には、これ以上の出費はなんとしても避けたかった。そこで目をつけたのが、スーツのレンタルサービス。レンタルならスーツの維持費用もかかることなく、購入するよりも安くスーツを利用することができる。どこか安いレンタル屋ないかなーと探していた僕がたまたま発見したのは、『カリクル』という企業。

この企業のサービスでは、完全無料レンタルでスーツを就活が終わるまでレンタルできるのだ! 登録も簡単にSNSで出来ちゃう優れもの。『カリクル』でスーツをレンタルするためには、採寸会に参加しなければならない。自分にあったスーツを着るためには、サイズをちゃんと把握しておく必要があるのだ。

前述した通り、僕の身長は156cm。でも『洋服の青山』でもなんとか買えたんだから、『カリクル』だって大丈夫だろうと信じていたし、万が一その場で用意できなくても、サイズを採寸会で測ってくれるなら、僕にあったスーツを用意してくれるだろうと信じていた。

だけど、採寸会に行ってみると、男性用スーツの最も小さいサイズはY4(165cm用)しか置いておらず、今後もY4より下のサイズは展開する予定はないとのことだった・・・・・・。試しに、Y4を着てみたものの、どう頑張ってもブカブカしてしまう。結局、カリクルでスーツを無料レンタルすることは諦めざるをえなかった。もちろん、165cm以上の方であれば、『カリクル』は就活生にはとても有難いサービスだと思うので、ぜひ利用してみてほしい。

ちなみに、女性用のサイズ表は確認できなかったので、MTF(心が女性で身体が男性の人)の方で身長が平均よりもだいぶ高い方も、もしかしたらサイズがない可能性もあるかもしれないのでお気をつけて。

手当たり次第にネットサーフィンする

LGBT向けの就活サイト・団体紹介!

LGBT当事者には、どうしても就活に不安はつきものだ。例えば、「この状況を誰かに相談したい」とか、「LGBTが働きやすい企業ってどこなのか」「面接でカミングアウトすべきなの? 説明するならなんて言えばいいんだろう」と、心配することは盛りだくさんだろう。

僕の場合は、周りに相談できるLGBT当事者の友人はあまりいなかったので、LGBT向けの就活はどうしたらいいのか全くわからなかった。そこで僕がやったことは、手当たり次第にネットで検索することだった。そのおかげ(?)で、LGBT向けの就活サイト・団体にはある程度詳しくなったので、ここに紹介していく。周りに相談できる当事者があまりいないLGBTの方、よかったら参考にしてほしい。

⑴マイナビ
リクナビと双璧をなす大手就活サイトの一つ。「マイナビ LGBT就職」と検索すると簡単にアクセスできる。LGBTフレンドリー企業の取り組みや、実際に企業で働いているセクシュアルマイノリティ当事者のインタビューなどを掲載している。情報量は極めて少ない。

⑵株式会社 Nijiリクルーティング
LGBT支援に特化したキャリアカウンセラーが、キャリアカウンセリングを行ってくれる。LINEでも簡単に相談に乗ってくれる。ES添削もしてくれたりするので、エントリーする直前には、とても有難いサービスを行っている。ただし、2019年9月現在、2019年度卒の支援しか行っていないので、就活を今から始めようとしている人には適していないかもしれない。

⑶株式会社 JobRainbow
会員登録をすると、リクナビ/マイナビのように企業情報と求人情報が見られる。LGBTフレンドリーの企業情報が中心なので、正直情報は少ない。LGBTフレンドリー企業とその評価がとてもわかりやすく整理されている。会員登録では、性別やセクシュアリティを自由に記述することができる。

⑷NPO法人ReBit
日本で初めて、LGBTの就活生をターゲットにしたサイトを発足した団体。当事者インタビュー記事や就活コラムなど、情報量はLGBT就活系サイトの中で最も多い。ほかにも「キャリアカフェ」といった当事者が集まって悩みを相談したり、情報交換する取り組みや、無料の個別カウンセリング、LGBTフレンドリー企業を集めた合同説明会も行っている。今のところ、僕が一番お世話になっている団体。

⑸大学のキャリアセンター
ここは大学ごとに評価は分かれる。抵抗がなければ、個別相談時に、「LGBT向けの相談できる方いますか?」と聞くと、相談に乗ってくれる担当の方がいるかもしれない。ただ、心理的ハードルは高いし、必ずしも正しい情報を持ってるとは限らないので、LGBTにまつわる相談をするならば、上記のLGBT支援に特化した団体に相談する方がいいと思う。

⑹Pride指標
Work with Prideという団体が独自に行っている、職場におけるLGBTへの取り組みについての企業評価指標。つまり、これで評価される企業はLGBTが働きやすい職場だということ。どのような企業が働きやすいのか、企業がLGBTにどのような取り組みを行っているのかがわかる。評価は金・銀・銅の三段階。評価項目はけっこう細分化されていて、自分がどんな場所で働きたいのかの参考になる。

おわりに

就活日記① まとめ

LGBTの就活には、就活を始める以前の課題がたくさんある。それは、自分のセクシュアリティの悩みだったり、服装の問題だったり、そもそもセクシュアルマイノリティの居場所が社会にあるのだろうかと不安になったりと、他の就活生だったら悩まなくてもいいところでつまづいてしまう。僕自身も2年前はそうだったように、LGBT当事者なら誰もがそんな生きづらさを抱いてしまうのが、この社会の現状なのだ。

だけど、勇気を出して少し動いてみると、案外思っていた以上にLGBTを支援しようとする動きがあることがわかった。ネットの情報だけでも、LGBTで会社で働いている人が実際にいることを知れたことは、僕を大きく勇気付けてくれた。

これからも、僕は就活を続けていくので、この日記は今後も何回か更新していこうと思う。

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP