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Writer/まにょ

複数人との恋愛を同時進行する「ポリアモリー」とは?

日本人の多くは、「一夫一妻制度」を当然のことと考え、特定のパートナー以外の人と恋愛関係や肉体関係を持つのは “悪いこと” だと思うでしょう。こうした1対1の恋愛の形は、「モノガミー」と呼ばれています。しかし、これとは逆に「ポリアモリー」と呼ばれる、“関係する全員が合意の上で複数の恋愛” を同時進行する人々も存在しています。

モノガミーの立場からすれば、なかなか理解・共感しにくいポリアモリーですが、いったいどのような概念なのでしょうか。ポリアモリストたちは、どのような恋愛を実践しているのでしょうか。

性愛研究科・深海菊絵著『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(平凡社、2017)を参照しながら、紹介しましょう。

「ポリアモリー」とは?

日本で一般的とされている「一夫一妻制度(モノガミー)」

日本をはじめとする世界中の多くの国では、「一夫一妻制度(モノガミー)」が一般的とされています。言わずもがな、婚姻関係にある夫婦については “1対1の恋愛” が法律でも規定されていて、既婚者がパートナー以外の相手と肉体関係を結ぶことは、法的にも禁じられています。

とはいえ、そのように法律で定められていても、社会から「浮気」や「不倫」が一向になくならないのもまた事実。近年、芸能人の不倫報道なども、以前に増して頻繁に目にするようになりました。

また、浮気のように実際に行動に移さずとも、「特定のパートナーがいながら、他の相手に好意を抱いた」という状況に陥ったことがある人も、比較的多いのではないでしょうか。

モノガミーとは異なる恋愛の形「ポリアモリー」

このように、モノガミーの社会では、ひとりの相手を愛し続けることが「誠実」とされています。しかし、複数の相手を同時に「誠実」に愛することは、あり得ないのでしょうか?

この問いに異論を唱えるのが、「ポリアモリー」という立場をとる人々(ポリアモリスト)です。

「ポリアモリー(Polyamory)」とは、1990年代初頭にアメリカで生まれた言葉。ギリシア語で「複数」を意味する「Poly」と、ラテン語で「愛」を意味する「Amor」が由来となっています。

ポリアモリストは、「1対1の恋愛関係だけが愛を規定するわけではない」という考え方のもと、場合によっては複数のパートナーと恋愛関係を結ぶことも「誠実」な愛としているのです。

「ポリアモリー」の定義や条件とは?

複数愛を実践するポリアモリーですが、浮気や不倫のように、好き勝手に複数の相手と関係を持つことは良しとされていません。

ポリアモリーを具体的に定義づけるのは非常に難しいのですが、現在提唱されている条件の一部としては、

・パートナーが複数いる場合、そのすべてに交際状況をオープンにすること
・さらに、全員合意の上で関係を持つこと
などが挙げられます。

オープンな関係性がポリアモリーの必須条件なので、「パートナーに隠れて浮気をする」ことなどは、ポリアモリーとは呼べないのです。

また、単なる性的関係を結んでいるだけの、いわゆるセックスフレンドのような状態や、快楽を追求するフリーセックス主義も、ポリアモリーとは別の考え方です。モノガミー同様、ポリアモリーの中にも性的行為を求めない人もいます。

つまり、肉体関係だけでなく、持続的なメンタルの結びつきもあることが、ポリアモリーであるための条件になるのです。

なぜ、ポリアモリーを実践するのか?

モノガミーの視点

とはいえ、モノガミー社会で生まれ育った人々にとっては、こうしたポリアモリーの立場は理解しようにも、なかなか理解しにくいのではないでしょうか。そもそも、なぜポリアモリストたちは、誤解されやすいことも多いポリアモリーを実践しようとするか、疑問に感じる方も多いでしょう。

『ポリアモリー 複数の愛を生きる』の筆者である深海菊絵氏も、著書の中で、「事前にどれだけ情報を持っていようが、実際に目にしたときには驚きと衝撃がある。それらは『なぜ?』という問いに変わり、さらに新たな問いを生み出していく。なぜ自分だけを見てほしいと思わないのか? なぜ他の人を愛していると知りながら、うまく関係を築いていけるのか? 彼らには一体どんな絆があるのか?(中略)頭では理解できても腑に落ちない」(前掲書、p.17)

と、実際にポリアモリーを実践しているカップルを目の当たりにした時に、疑問を抱いた経験について語っています。

ポリアモリーの視点

たとえば、婚姻相手や恋人がいる時に他の人を好きになってしまったとします。その時に、恋愛感情を押し殺すことが、果たして「正しい」ことなのでしょうか。もしくは、どちらか片方のみを選んで、もう片方は切り捨てることが「正しい」のでしょうか。

ポリアモリストからすれば、「複数の人を好きになった」という状況をありのまま受け入れ、その状況をパートナーにも伝えた上で、すべての人との関係性を続けていくことが、「正しい(自然である)」という視点なのです。

ポリアモリストが抱える課題

周囲の無理解

アメリカで生まれたポリアモリーの概念は、欧米を中心に徐々に認識されるようになっているといいます。しかし、日本ではまだまだこの言葉を知る人は少ないのが現状です。

そうした状態でポリアモリーを実践するのは、非常に困難でしょう。それこそ、「二股」や「浮気」との違いをパートナーや周囲に説明する段階で、信頼関係にヒビが入ってしまう可能性もとても高いのではないでしょうか。

性の管理

また、複数人と肉体関係を持つ場合には、意図せぬ妊娠や性病感染といった性の問題にも注意しなければいけません。

あるパートナーから別のパートナーへと性病が感染してしまうリスクや、婚姻状態にない恋人が妊娠してしまうようなリスクと向き合いながら、性を管理する必要があるのです。

この問題を解決するためには、

・交際前、交際中に定期的に性病検査を受ける
・コンドームなどの使用により避妊やセーファーセックスを実践する
などが挙げられます。

しかし、複数人との性行為にはさまざまなリスクが伴うとはいえ、ポリアモリストはコンドームの使用率も高いため、「不倫」や「浮気」に走るモノガミーよりも、妊娠などのリスクは低いという一説もあるのだそうです。

ポリアモリストと「嫉妬」の関係

ポリアモリストが感じる「嫉妬」とは?

ポリアモリストを取り巻く課題の中でも、特に悩ましいのが「嫉妬」の感情でしょう。

自ら進んで複数愛を実践しているにも関わらず、パートナーに対して「嫉妬」を感じたことがあるポリアモリストはとても多いのだそうです。

『ポリアモリー 複数の愛を生きる』の中でも、「ポリアモリー実践のなかで嫉妬を経験したことがあるか?」という問いに対して「YES」と答えた当事者は80パーセントにものぼると紹介されていました。

その嫉妬も細かく分類すると、
①独占欲からの嫉妬
②疎外感からの嫉妬
③ライバル意識からの嫉妬
④エゴからの嫉妬
⑤不安からの嫉妬(前掲書、p.141)
などに分けられるのだそうです。

さらに
・パートナーが自分よりももうひとりの恋人(ポリアモリー用語で「メタモア」と呼ばれている)を優先している。
・メタモアの性格が気に入らないor自分とメタモアの折り合いが悪い

など、嫉妬の理由はさまざま。

「嫉妬」から学ぶべきものがある

しかし、ポリアモリストの特徴として、こうした「嫉妬」の感情を必ずしも「悪いもの」とは捉えず、「そこから何か学ぶべきものがある」とポジティブに捉えようとする人も多いのだそうです。

また、同著では、ポリアモリストには「白人」「中産階級」「高学歴」が多いと挙げられています。特に、学歴調査では最終学歴が「大学以上」は62パーセント、「大学院」と答えた人が40パーセントにものぼるとか。

嫉妬という感情をポジティブに捉えるのは、普通に考えれば難しいことのようにも感じられますが、そうした「困難な状況からも学びを得ようとする」姿勢というのも、何ごとに関しても思考を深めようとする人々が多い背景に起因しているとも言えそうです。

「嫉妬」の反対語「コンパージョン」

ポリアモリストたちは、こうした「嫉妬」の反対の感情として「コンバージョン(Compersion)」という造語を編み出しました。

「コンパージョン」とは、「愛する者が自分以外のパートナーを愛していることを感じた時に生じるハッピーな感情」(前掲書、p.151)を示す言葉。

とはいえ、すべてのポリアモリストたちが「コンパージョン」を感じられるわけではありません。ポリアモリストにとってもそうなので、モノガミーの立場の人々にとってはなお、さら想像しにくい感情かもしれません。

というのも、モノガミーからすれば、パートナーをある意味「独占」することが恋愛の形であると考えられるからです。このように、パートナーを「独占」したり「束縛」したりすることからの解放を目指すのが、ポリアモリストにとっての理想的な「愛」の形なのだともいえるでしょう。

「ポリアモリー」という選択肢を持つこと

モノガミーである筆者自身も、ポリアモリーに関する本を読み、ポリアモリストに直接会って話を聞いてみても、どこか腑に落ちないような、モヤっとした思いを払拭することはできませんでした。

とはいえ、一言に「ポリアモリー」と言っても、愛の形はカップルによってさまざま。たとえモノガミーであっても、カップル毎に愛の形はまったく異なるものです。

なので、あくまでも筆者がたまたま出会ったポリアモリーカップルの一例が、しっくりこなかっただけなのかもしれません。別のカップルに会うことで、また考え方が変わるかもしれません。

また、現在は自分がモノガミーであると考えていても、いつかポリアモリー的な状況を選択する未来がくるかも?? そんな時のためにも、ポリアモリーという選択肢を自分の中に持っておくことは、ひとつの方法論にもなりうるでしょう。

このコラムを読んで「ポリアモリー」のあり方に興味を持った方は、ぜひ『ポリアモリー 複数の愛を生きる』も手に取ってみてください。

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