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Writer/Jitian

トランスジェンダー当事者を扱ったドキュメンタリー番組『性別は誰が決めるか ~「心の生」をみつめて~』によってトランスヘイトは収まる? 深まる?

2023年6月にLGBT法案が成立して以降、トランスジェンダーの戸籍性別変更に関して違憲判決が下されるなど、社会は確実に変わってきています。一方で、「心が女だと言えば、体が男でも女風呂に入れる」といったデマの流布に代表されるように、トランスヘイトはむしろ高まっているようにも感じます。そんななか、トランスジェンダー当事者を追った北海道放送のドキュメンタリー番組が、優れた番組として表彰されました。

トランスジェンダー当事者を取り上げた番組が評価された

番組表彰が、私がこの番組を知るきっかけにもなりました。

※画像はイメージです。実際の人物とは異なります。

放送文化基金賞とは

2022年4月から2023年3月までの放送分のなかから、第49回放送文化基金賞最優秀賞として、北海道放送が制作したドキュメンタリー番組『性別は誰が決めるか ~「心の生」をみつめて~』が選ばれました。2022年10月に北海道放送で放送されたテレビ番組です。

私は東京在住なので、北海道放送の番組は普段視聴していないのですが、この受賞をきっかけに番組を知りました。

放送文化基金賞とは、公益財団法人の放送文化基金が設けている、優秀な放送番組や配信コンテンツに送られる賞です。

放送文化基金は、NHKが設立した社団法人です。放送の進歩発達に寄与することを目的としています。

一方、放送文化基金賞は「視聴者に感銘を与え、放送文化の発展と向上に寄与した優れた放送番組・配信コンテンツ」に毎年送られる賞で、NHK以外の民放放送も対象になります。

トランスジェンダー当事者を取り上げたドキュメンタリー番組

この番組では、LGBTQのなかでも、3名のトランスジェンダー当事者の人生における選択にフォーカスした番組です。

この3名の方々は、“活動家” と呼ばれるほど、トランスジェンダー当事者として社会から日々注目される役割を担っているわけではなく、いわゆる「普通の人」です。だからこそ、トランスジェンダー当事者も「普通」の生活を送っているのだな、と視聴者は共感しやすくなっていると思います。

また、治療の種類や、戸籍の性別変更に必要な要件について、トランスジェンダー当事者なら多くの人が詳しく知っている情報も説明がなされています。これにより、LGBTQやトランスジェンダーの実態に詳しくない人でも理解しやすい構成となっています。

さらに、家族やパートナー、近所との関係などもさまざま。トランスジェンダーを含むLGBTQ当事者が視聴するにも、とても興味深い内容でした。

ドキュメンター番組『性別は誰が決めるか ~「心の生」をみつめて~』の概要

ノンバイナリー当事者である私でも、トランスジェンダー当事者の「生の声」を見聞きできることはやっぱり重要だなとつくづく感じます。

※画像はイメージです。実際の人物とは異なります。

「きみちゃん」と「ちかさん」の男性カップル

1組目に紹介されるのは、「きみちゃん」と「ちかさん」のカップルです。

きみちゃんは、トランスジェンダー男性。胸オペは行っていますが、性別適合手術は行っておらず、今後も予定していないそうです。

ちかさんは男性なので、2人は男性カップルです。しかし、戸籍上では男女のカップルとして扱われ、実際、法的にも結婚しています。ちなみに、きみちゃんは「好きになった人が好き」とのことです。

そんな二人は、新しい命の種を授かっていました。きみちゃんが妊娠したのです。番組では、きみちゃんとちかさんのカップルが新しい命と向き合う姿を追っています。

自分の周りにLGBTQ当事者はいないと思っているマジョリティの視聴者からすると
・きみちゃんがトランスジェンダー男性であること
・ちかさんと男性カップルとして一緒に暮らしていること
・法的には結婚していること
・きみちゃんが妊娠していること

・・・・・・などなど、情報を呑み込むだけでもなかなか大変かもしれません。

また、日本人のトランスジェンダー男性が妊娠・出産する様子を映像に残した作品は、かなり貴重です。トランスジェンダー男性で子どもを産み育てたいと考えている人にとっては、病院とのやり取りなど、参考になる点もたくさんあるはずです。

性別適合手術を受ける「ありすさん」

2人目は、トランスジェンダー女性の「ありすさん」。札幌市内のバーで働いています。

ありすさんは、市内で性別適合手術を受けることを決意。手術前後の様子まで、しっかり密着取材を受けています。手術後に身体が痛み、「つらーい」とベッドでつぶやく姿を自撮りする姿は、せきららそのものです。

手術後、家庭裁判所に提出する申立書に「性別を変えたい理由」として、ありすさんは次のように書きました。

申立人は、生きやすいように生きたらこうなっちゃった!!

かなりフランクな表現ではありますが、でも実際その表現に尽きるよな・・・・・・と共感しました。

最初は顔を出さないことを条件に取材を受けていた、ありすさんのお母さん。ですが、心境の変化があったようで、途中から顔を出し始めます。

最初はトランスジェンダー当事者の親としてテレビに出演することをためらっていたけれど、やがて吹っ切れてカメラの前で本音を語れるようになっていく様子も、リアルだなと感じました。

かつて特例法に対して訴訟を起こしていた崇来人さん

3人目は、トランスジェンダー男性の崇来人(たかきーと)さん。岡山県で、パートナーの女性とその子どもと一緒に暮らしています。

崇来人さんは、ホルモン治療を受けたことはありますが、性別適合手術を受けていないため、戸籍の性別は現状女性です。ホルモン治療の際に副作用を強く感じたため、現在は健康に気を遣っている様子。

2016年には「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が憲法13条に違反するとして訴訟し、最高裁まで争いましたが、棄却されました。なお、番組内では扱われていませんが、2023年10月、戸籍性別変更時の手術要件に違憲判決が下された際には「(社会が)進んだと思った」とコメントを発表しています。

パートナーの子どもは、中学1年生(放送当時)。最初は、崇来人さんを父親として受け入れることに抵抗感を示していたようですが、今は父親として接しています。思春期真っただ中で、親子関係を築くことがそもそも難しい時期だと思いますが、父親との関係も良好そうです。

トランスヘイトがゼロになることはないけれど

「面白おかしい人たち」ではなく、いわゆる「普通の人」として番組に取り上げられ、それを視聴するマジョリティがいるだけでも前進だと捉えるべきなのかもしれませんが・・・・・・。

※画像はイメージです。実際の人物とは異なります。

番組放送後に明るみになったトランスヘイト

番組では、初回放送後にインターネット上で、きみちゃんに対して「気持ち悪い」「変態カップル」「異常な性的嗜好(・・)」など、不快感やトランスヘイトのコメントが飛び交ったこと、それを読んだきみちゃん自身の言葉も紹介されています。きみちゃんは、心無い言葉に明らかに傷ついている様子で、こちらまで心配になりました。

大変残念なことに、きみちゃんは出産を間近に控えていた頃に、原因不明で赤ちゃんを死産してしまいました。まさかの事態に私も驚きましたが、死産はおよそ1%の確率で起こるもので、決して珍しくはないそうです。やはり妊娠・出産は簡単なことではないのだと認識させられました。

しかしその後、2人は新たな命を授かり、無事に出産。現在、子育ての真っ最中です。

視聴者が抱いた、生理的な嫌悪感を払しょくすることは難しいと思います。ですが、家族の紆余曲折や、きみちゃんのメッセージを聞いても、本人たちに対して「気持ち悪い」と本当に投げかけられるのか? 2人のもとに生まれた赤ちゃんを不幸だと思うのか? と視聴者の方々に問いたいです。

マジョリティに向けた番組作り

この番組では、トランスジェンダー当事者らが登場すると「心の性」と「身体の性」がテロップで表示されます。ノンバイナリー当事者の私としては、いちいち sex や gender を明記しないといけないのか? と違和感を覚えました。

ただ、番組制作者である泉優紀子ディレクターも、このテロップ表示に対して抵抗感を抱きつつも表示すること決断したと知りました。私のような、性の多様性について常にアンテナを張っている視聴者ばかりではないことを考えたうえでの対応だったと知って、ある程度納得できました。

それ以外でも、番組内では性別適合手術のハードルがどれほど高いのかについても触れられています。たとえば、不可逆的な治療であること、手術を受ける前に複数人の医者から性別不合(性別違和)の診断を受ける必要があること、手術費用、術後の痛みなどなど・・・・・・。

これらは、トランスジェンダー当事者であればよく知っていることだと思います。やはりこういった情報を何度も発信し続けることも、マジョリティにトランスジェンダー当事者の実情を知ってもらうという点で大事なのですね。

LGBTQ当事者個々人のストーリーを知ることの大切さ

放送当初は、番組やトランスジェンダーに対するバッシングが多かったそうです。ですが、放送回数を重ねるにつれて、応援の声も増えていると泉ディレクターは話していました。

タレントや活動家ではない、一般社会で暮らしているトランスジェンダー当事者の生活や気持ちを知ることが、LGBTQへの理解が広まる一番の「近道」なのかもしれないと、ノンバイナリー当事者である私自身も改めて実感しました。

北海道放送制作のドキュメンタリー番組『性別は誰が決めるか ~「心の生」をみつめて~』は、YouTubeの北海道放送のチャンネルにアップされています。こちらから視聴可能ですので、ぜひ一度見てみてはいかがでしょうか。

 

■参考情報
性別は誰が決めるか~「心の生」をみつめて【第49回放送文化基金賞・最優秀賞】2022年10月17日放送(YouTube:HBCニュース 北海道放送)
第49回放送文化基金賞 受賞一覧(公益財団法人放送文化基金)
最高裁が「性別変更」の手術要件規定を違憲と判断 4年前に合憲とされた新庄村在住の当事者は…【岡山】(岡山放送)

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