NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 同性婚の次は複数婚なのか? 同性婚訴訟に思うこと

Writer/きのコ

同性婚の次は複数婚なのか? 同性婚訴訟に思うこと

複数の人と同時にそれぞれが合意の上で性愛関係を築くライフスタイル「ポリアモリー」。今回は、同性婚に関する訴訟の判決とそれをめぐる世の中の意見をもとに、これからの婚姻制度について考えていきたい。

日本における同性婚訴訟

今回は、係争中の6つ裁判や同性婚訴訟をもとに、同性婚に対する私の考えの変遷をまとめてみたいと思う。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟

いま日本において、同性婚の実現を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟がおこなわれている。

2023年11月現在
①北海道訴訟(札幌高裁)
②関西訴訟(大阪高裁)
③東京1次訴訟(東京高裁)
④東京2次訴訟(東京地裁)
⑤愛知訴訟(名古屋高裁)
⑥九州訴訟(福岡高裁)

計6つの裁判が係争中だ。

日本における同性婚訴訟の歴史

日本における同性婚訴訟の歴史は、以下のような経緯を辿っている。

1. 初の同性婚訴訟の提起(2019年)
2019年2月14日のバレンタインデーに、日本において同性婚を法制化し、同性愛者のカップルにも結婚の機会を提供するため、「結婚の自由をすべての人に」訴訟が始まった。

この訴訟は、同性婚が認められない現状が憲法違反であることを問いただすもので、日本初の試みだった。

2. 全国的な展開(2019年以降)
この訴訟は、札幌、東京、名古屋、大阪の裁判所で一斉に提訴された。その後、2019年9月には福岡の裁判所でも同様の訴訟が始まり、東京では2021年に二次訴訟も開始された。

3. 歴史的な判決(2021年)
2021年3月17日、札幌地裁で、同性婚を認めないことは違憲であるとする歴史的な判決が出された。

この判決は、日本におけるLGBT権利の向上と平等への大きな前進として捉えられ、同性婚法制化への道を拓いた。

この歴史的な同性婚訴訟は、日本において性的少数者のカップルに平等な結婚の機会を提供し、LGBT当事者の権利の保護に向けた大きな一歩であると評価されている。

同性婚の次は、複数婚なのか?

「同性婚が認められるなら、次は複数婚も認められるのでは?」

同性婚への大きな前進となった札幌の違憲判決。

その中で、「同性婚が認められるなら、次は複数婚も認められるのでは?」というコメントがネット上で散見された(この中には、同性婚や複数婚に対してポジティブな意見も、ネガティブな意見もあった)。

また、「同性婚はいいけれど、そもそも婚姻制度そのものをなくしたい」というコメントも目についた。

同性婚訴訟への複雑な思い

私自身は同性婚訴訟を、複雑な思いで見守ってきた。

「たとえ同性婚が認められても、それが1対1のパートナーシップにおいてのみ適用されるものであるかぎり、一夫一婦制が拡張されるほど、ポリアモリーはますます少数化して、その存在を無視されていくのでは・・・・・・?」という不安があったからだ。

婚姻制度が “拡張” されるのは婚姻制度の “強化” に他ならず、婚姻制度を利用しない人・利用できない人は結局マイノリティとして排除されていくのではないか、と危惧していた。

同性婚で婚姻制度を ”薄める”

札幌の判決にまつわる議論を見ていく中で、同性婚によって婚姻制度を ”薄める” ことができる、という考え方もあることを知った。

婚姻制度の根本には、家父長制(家族に対する統率権が家父長である男性に集中し、女性が隷属的な立場に置かれる家族の形態)がある。婚姻制度を同性同士でも利用できるものにすることで、その家父長的な部分を揺るがすことができるというのだ。

婚姻制度の要らない社会を作っていくためには、婚姻の範囲を広げるという前段階が必要、ということだ。

現行の婚姻制度を ”薄める” ということ

婚姻制度を ”薄める” 方法

婚姻制度を ”薄める” には、いろいろな方法が考えられる。

同性婚や選択的夫婦別姓制度の導入によって従来の婚姻制度そのものを多様化していくこともできるし、また今多くの国や自治体でパートナーシップ制度やシビル ユニオンが生まれつつあるように、婚姻制度に類似した別の制度を作って選択肢を増やしていくこともできる。

※シビル ユニオン:
同性のパートナーシップを法的に承認する取り決めのこと。結婚とは区別されるものの、法的には男女の夫婦とほぼ同じ権利が付与される。1989年にデンマークでシビルユニオンが制定されて以降、多くの国で制定されるようになった。

ベルギーの「法定同居」

たとえばベルギーでは、1998年に「法定同居 (Cohabitation légale)」という制度が整備された。

現在も旧来の婚姻制度自体は残っているものの、これを利用する人は減りつつある。婚外子の割合も50%を超え、ベルギーでは従来の婚姻制度が形骸化していっている、ということができるだろう。

婚姻制度の権威をやわらげたい

私としても、婚姻制度を強化するのではなく、その権威をやわらげていきたいと思っている。

なお、婚姻制度の廃止もやぶさかではないものの、婚姻それ自体を望む人も多いので、全面的な廃止よりは、これを残しつつも良い意味で形骸化させるのがよい、という立場をとっている。

結婚してもしなくても、変わらない生きやすさを

婚姻制度があってもなくてもいい世界のために

私は今までも再三、「ポリアモリーという言葉が必要ない世界を作るためのプロセスとして、まずポリアモリーを誰でも知っている概念にする必要がある」と述べてきた。

同性婚によって婚姻制度を多様化することも、同じように「婚姻制度があってもなくてもいい世界を作るためのプロセスとして、まず婚姻制度を誰でも使える制度にする必要がある」ということだと考えられる。

誰でも使えるし、使わなくても困らない婚姻制度へ

結婚という制度の変化は、婚姻制度を多様化する過渡期。こういった考え方に基づいてなら、私も今の同性婚訴訟を応援していくことができそうだ。

同性婚によって、婚姻制度を薄めて形骸化させる。

そのことによって婚姻制度を「誰でも使えるし、使わなくても何も困らない制度」にしていきたいと思っている。結婚という選択肢を選んでも選ばなくても、人々の生きやすさが変わらなくなるように。

 

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP