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Writer/Jitian

ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題とLGBTQ

2023年9月7日、ジャニーズ事務所が会見を開き、前社長の故・ジャニー喜多川氏による10代のジャニーズJr.に対する性加害を、正式に認めました。LGBTQ当事者でもありジャニーズのファンの一人でもある私は、これまでの動向を注意深く見守ってきました。今回は、ジャニーズ事務所の性加害問題について、ファンの一人として、そしてLGBTQ当事者の一人として、改めて向き合います。

ジャニーズ性加害問題に対して、一人のファンが思うこと

BBCの報道を知ったときには、驚きを隠せませんでした。

ジャニーズの「疑惑」が大々的に報道されるように至るまで

ジャニー喜多川氏による、主にジャニーズJr.であるタレントたちへの性加害は、多くの人がかねてより「噂」として聞き及んでいたことと思います。

私が明確にジャニーズのタレントを応援し始めたのは、2006年の年末頃のことでした。

私自身もファンになった後に、この噂をジャニー喜多川氏の「疑惑」として耳にしたことはありました。ただ、残念なことではありますが、私自身はあまり真剣にこの噂を受け止めておらず、ジャニー喜多川氏が亡くなるまで、この噂をほとんど気にせずにタレントを応援し続けていました。

2019年にジャニー喜多川氏が亡くなった直後、芸能界・エンタメ業界を長らくけん引してきた功労者として、マスメディアで華々しく報じられました。

その一方でSNSにおいては、ジャニー喜多川氏の功績を手放しで喜ぶことはいかがなものか、という風潮もありました。性加害疑惑が、まさにその理由でした。

ただ、このときにおいても、この「噂」に切り込むマスメディアは現れませんでした。あまりに多くのジャニーズタレントがマスメディアで仕事をしているため、ジャニーズの元トップを「悪く言う」ことを避けたのだと思われます。このため、一般市民の間でささやかれていた噂は、このときにおいても「SNSで一部の人々が取り上げる話題」程度にしか変化しませんでした。

私自身は、犯罪は犯罪として検証すべきだと思うため、輝かしい側面ばかり取り上げるマスメディアの報道の仕方はいかがなものか、と感じていました。しかしながら「噂」について積極的に調べるなどといった行動は起こしませんでした。

もっとも、BBCの報道でも示されている通り、ジャニーズの界隈では情報統制が極めて高いレベルで行われているので、このときに個人で調べようと思っても大した情報を拾えなかったかもしれませんが・・・・・・。

そして、2023年3月、BBCがジャニー喜多川氏の疑惑について掘り下げたニュースを報道し、大きな話題を呼びました。また、被害者の方々が声を上げるなどすることでマスメディアでもようやく取り上げられるようになり、現在に至ります。

まさか最近まで行われていたとは・・・

BBCの報道内容で個人的に一番衝撃的だったことは、私がすっかりファンとして活動していた2010年代にも性加害が行われていたということでした。というのも、私がジャニー喜多川氏の影の部分について「噂」と受け止めていたことの理由の一つが、「たとえ犯罪が行われていたとしても、はるか昔のことだろう」と思い込んでいたからです。もっとも今は、昔のことであっても犯罪は犯罪であることに変わりないし、当時の考えは誤っていたと反省しています。

ジャニーズ事務所が設立されたのは、1962年のこと。そこから私がファンになるまでの間で、すでに40年以上が経過していることになります。もちろん、2000年代にはジャニーズはすでに芸能界の一大勢力でした。そのトップが未だに犯罪を行っていて、しかもどのメディアもそのことに触れずにいるために明るみに出ていないとは、とても考えられなかったのです。

また、2010年代まで行われていたということは、応援しているタレントだけではなく、自分よりも年下のタレントも性被害に遭っている可能性があります。2010年代になっても、タレントが笑顔を振りまいている裏で、そんなことが行われていたなんて・・・・・・と大きなショックを受けました。

異性愛ではなく、同性愛の側面があるということ

ジャニー喜多川氏の噂について深刻に受け止めていなかったことの理由の一つとして、男性から女性に対する性加害ではなかったことも否めないな、と反省しています。

ファンになった当初の私は、まだ中学生でした。また、この頃にちょうど違和感を覚えつつも、女子学生として生活していながら同級生の女子に初恋をするなど、SOGIについて本格的に悩み始めていました。

2000年代は、異性愛、いわゆるストレートが正常であり、同性愛は異常であるというメディアの刷り込みもまだ見受けられた時期です。私自身も「自分は異常なんだ」と思い込むほど、固定観念をしっかり刷り込まれていました。この考えは、10代のうちはずっと引きずることになりました。

一方、ジャニー喜多川氏の性加害は、成人男性から未成年男子に対するものです。もし、被害者が女性であったら、センセーショナルに報じられていたかもしれませんし、私自身も「ひどい話だ、あってはならない」と感じていたかもしれません。

しかし、当時の私は同性愛を異常だと本気で思っていました。ジャニー喜多川氏の性加害も同性愛とは切り離せない部分もあることから、そもそも同性愛に関わる話を表で堂々と取り上げるのはタブーだろう、と無意識に考えていた部分もあるかな、と今振り返って感じています。

芸能界と同性愛

一見すると、ジャニー喜多川氏の性加害とLGBTQは無関係のように思えますが・・・・・・。

同性愛そのものは異常ではない

ジャニー喜多川氏の性加害、そして2023年5月には週刊誌のセクハラ報道を受けて両親の自殺ほう助をしたとして起訴された、歌舞伎俳優の市川猿之助被告。この2つには、男性による男性へのセクハラ・性加害という共通点があります。

一方、これらの報道において、同性愛そのものが異常だから・・・・・・などといった偏見・差別的内容は見当たらないように思います。「『同性愛は異常』っていう考え方は差別的。同性愛と、今回のハラスメントや犯罪は分けて考えるべき」という考えが世間に浸透している表れと言えます。

槇原敬之さんの麻薬所持報道の際には・・・

しかし、果たして10年、20年前に同様の事件が明るみに出たとしても、同じように同性愛の偏見なしに報道されていたでしょうか。

実際、たった数年前にはまだ同性愛への偏見が残った報道がされていた形跡を見て取ることができます。例えば、2020年2月に、覚せい剤所持等の疑いで逮捕された、シンガーソングライターの槇原敬之さん。

2019年発売のアルバム『Design & Reason』に収録されている『2 Crows On The Rooftop』は、真夜中に家の屋根に登っているカップルが描写されているのですが、これは恐らくクローズドな同性愛カップルと思われます(私は、何度もライブに行ったことがあるほど、槇原さんのファンでもあります。この曲もライブで聞きました)。

この曲以外にも、同性愛に関する曲だと分かりやすいものには『THE END OF THE WORLD』『軒先のモンスター』などほかにもあるので、気になる方はぜひ聞いてみてほしいです。

話を逮捕されたときに戻すと、あるスポーツ新聞がこの逮捕について「同居男性逮捕」という小見出しとともに「SEXドラッグ」などと “面白おかしく” 取り上げています。

たった3年前ですら、こういった報道がなされていたのです。それを考えると、この3年で同性愛に対する偏見が間違っているものだという理解が急速に広まったと言えるのではないでしょうか。

ジャニーズ事務所の記者会見を見て

ファンと世間の間で、認識や感覚の差が大きいように思います。

どこが変わった? 厳しい意見

2023年9月7日、ジャニー喜多川氏の性加害を調査する再発防止特別チームの調査結果を受けて、ジャニーズ事務所が会見を開きました。

実に4時間強に及ぶ会見では、記者から様々な質問、厳しい意見が投げかけられました。それに対して事務所側の出席者は紙を読み上げるだけ、弁護士に丸投げということもなく、自分の言葉でできる限りのことを答えていたと思います。

しかしながら、具体的に発表されたこととしては社長の交代くらいでした。新社長は社外の人間ではなく、長らく同社のタレントとして活動してきた東山紀之氏。加害者の名前を冠した社名も継続。株も当面の間は前藤島ジュリー景子氏が100%保有・・・・・・。

10月1日には社外の人間をチーフ・コンプライアンス・オフィサーとして向かい入れることを含んだ新体制を発表する、法の範囲を超えて被害者の救済活動を行うといったことは口にしていました。しかし、ファンではない一般の方々は、結局ほとんど変わっていないのでは? 本気で変わる気があるのか? と厳しい見方をする人が多いように思います。

加害者の名前を冠するということ

会見を見ていて、私個人としては、社名は変更してほしかったと感じました。

様々なグループやサービスの名称の中に「ジャニーズ」と付けているので、すぐに変えることは難しいとは思います。東山新社長の言っていた「プライド」感覚も理解します。今まで築き上げてきた「ブランド」という側面もあるでしょう。

しかし、BBCの報道を見て、調査結果を読んで、被害者の方の声を聞いて、私は以前と同じように「ジャニーズ」を見られなくなってしまいました。いくらタレントが最高のパフォーマンスをしていても、「タレントたちの売れたいという気持ちを、ジャニー喜多川氏は “食い物” にしていたんだ」「このタレントが被害者の可能性も有り得るな」と思うと、心から楽しめなくなってしまったのです。

記者会見でも、これからも加害者の名前を冠するのはいかがなものか、と記者が苦言を呈していました。世間一般でも、同じような感覚を抱いている人が少なくないのではないでしょうか。

事務所の名称についてはまだ変更する可能性も十分にあるようなので、今後の対応を注視しようと思います。

世間とファンとの温度差

一方、会見に対するファンの反応もSNSで見ましたが、上記のような厳しい意見や、ファンを辞めます、といった人は見当たりませんでした。大概は、事務所やタレントを擁護し、変わらず応援する人が多いです。

やはり、タレント自身が不祥事を起こしたわけではないことが大きな理由だと思います。はっきり言って、ファンを直接的に裏切ることでもない限り、今後どういう体制になろうと、ファンの数はあまり減少しないと思います。

一方、すでにタレントとスポンサー契約を結んでいる企業の一部が契約を打ち切り・解除する動きが始まっています。今後もタレントの活動の場が制限されたり、縮小したりする動きは加速するかもしれません。契約を打ち切ることが果たして今回の問題に対する「正しい」対応なのかは分かりませんが、タレントのメディア露出が明らかに減れば、ファンもジャニーズに対する世間の風当たりを感じることになるでしょう。

9月7日の会見では、東山新社長の口から度々「人権」という言葉が出てきました。今回のジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて、ジャニーズ事務所や芸能界だけでなく、ファンである私たち、ひいては世間全体がLGBTQを含めた人権意識をアップデートできるかが、未来の日本の分かれ目となる気がしています。

 

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