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Writer/HIKA

トランスジェンダーを自認するノンバイナリーのグラデーション

私はノンバイナリージェンダー。ノンバイナリーは社会的にまだまだ認知度の低い性自認・セクシュアリティ名だ。特にその認知度の低さを感じる時が、ノンバイナリーのグラデーションが知られていないと感じたとき。その中でも今回は、トランスジェンダーを自認するノンバイナリーについて話をしたいと思う。

ノンバイナリーとトランスジェンダーは別なのか?

ノンバイナリーとは

ノンバイナリーは男性か女性かどちらかには分けられない性自認のことだ。

そう一言で言っても、すべての性のあり方がグラデーションであるため、ノンバイナリージェンダーの人の中にももちろんグラデーションがある。

たとえば私は自分のことを男性6割で女性4割だと割合で認識した上、男女でどちらかに分けられるものではないと思っている。でも、私のように割合で認識する人のみでは決してなく、男性女性どちらでもある人やどちらでもないと認識する人、時により自認の性が変わる人などさまざまなあり方をもつノンバイナリーがいる。

それもそのはず。ロボットじゃないんだから、たとえ同じ言葉を使っていても、自分の性をどう認識するかがみんな同じなんてわけはない。

ノンバイナリーの中で分かれるトランスジェンダーの認識

では、今回の記事のテーマ「ノンバイナリーはトランスジェンダーを自認するか」という点に関してはどうか。

私は自分のことをトランスジェンダーだと認識している。トランスジェンダー男性やトランスジェンダー女性のように、トランスジェンダーという枠組みの中の一員だと思っている。

つまり、ノンバイナリーは広義のトランスジェンダーだという認識だ。一方で、トランスジェンダーを自認しないノンバイナリーもいる。

理由もさまざまだ。

体への別違感がないからトランスジェンダーではなくノンバイナリーだと思う人もいるし、体への違和感がなくてもトランスジェンダーを自認する人もいる。そして、身体への違和感や嫌悪感のみが自認に至る理由とも言い切れない。

またノンバイナリーの中には、「トランス」という言葉がもともともつ「超越する」という意味において、自分は男性と女性という性別を一方から一方へ超越するわけではないからトランスジェンダーではないと考える人もいる。

このように、トランスジェンダー自認に関しても人の数だけ異なる認識や自認する理由があることだろうと思う。

ノンバイナリーの私がトランスジェンダーも自認する理由

では私が自分をトランスジェンダーだと感じる理由は何なのか。理由は2つある。

自分をトランスジェンダーとする理由①

1つ目の理由は周囲の認識と自分の性自認が異なり苦しむという体験だ。

この体験は、さまざまなトランスジェンダーに共通するのではないかと思う。トランスジェンダー間で、異なる立場やそれにより特有の経験があっても。

私も、生まれてからこれまで周囲の認識と自分の性自認の違いに苦しんできた。

冒頭にも言ったが、私は自分の性自認を男性6割女性4割と割合で捉えていて男女どちらかに分けることはできない。しかし私はずっと、他者から女性として扱われてきた。家族から、友人から、教師から、職場の同僚から。

女性として扱われることで私が受け取ったものは何か。それは、「あなたは “本来” 女性であり、割合で認識しているうちの男性部分や男女どちらかには分けられない、という認識は間違っている」というメッセージだった。

メッセージに気づいた私は、「間違っている」ことが他者に知られてしまわないよう、自分は女性ではないという事実を胸の奥底にしまい込むようになった。自分の本当の性のあり方を恥じながら。

そうして生きてきた自らの歴史に、私はずっと苦しめられている。自分で自分を否定しなければいけなかった状況は、私の心に深い傷を残したのだ。

性別移行を始めてからも、苦しみから逃れることはできていない。ノンバイナリーであることをオープンにできる場には出会えたが、これまでのつらい体験が変わるわけではないのだ。過去のつらい体験を思い出すような出来事があると、苦しくなってしまう。

さらに、性別移行により新たな傷を負うことにもなった。自分らしいと思う男性寄りの格好をし始めると、今度は男性として認識されることが増えたのだ。

他者のその認識は、私の心を「間違っている」とまたもや否定する。

男性か女性か。どちらかにしか認識されない世の中で、私がノンバイナリーとして他者から認識される日の遠さにぶち当たった。

ここまで話したような性別違和にまつわる体験は、トランスジェンダーに共通するものなのではないだろうか。

自分をトランスジェンダーとする理由②

2つ目の理由は、私はトランスジェンダーを自認する人たちを家族のように感じるということにある。トランスジェンダーを自認する人たちに会うとほっとして、まるで安心して過ごせる家に帰ってきたような温かい気持ちになる。

この気持ちは、相手のトランスジェンダーのあり方を問わず感じる。安心してあいさつのハグをしたくなるくらいほっとするのだ。

もちろんそんなの私が勝手に思っているだけだから実際には絶対にしないけど、私の心がそう感じているのは事実だ。

私にとって、トランスジェンダーというコミュニティはかけがえのない、特別なものなのだ。

浸透しないノンバイナリーのグラデーション

しかし、ここまで話したようなノンバイナリーのグラデーションが知られていないと感じることがある。

ノンバイナリーを認めないトランスジェンダー

ノンバイナリーのグラデーションがいかに知られていないかを示す例がある。会話の中で「トランスジェンダーは、トランスジェンダー男性とトランスジェンダー女性のみ」と断定された私の経験だ。

シスジェンダーからそう言われることもあり深く傷つきはしたが、それよりも一番悲しかったのはトランスジェンダーが「ノンバイナリーはトランスジェンダーじゃない」と思っていることを感じたときだ。

トランスジェンダー男性やトランスジェンダー女性の中には、ノンバイナリーにはトランスジェンダーと別枠の性的マイノリティしかいないと思っているととれる言動をする人もいたりする。

たとえば
・トランスジェンダーの話をするとき、トランスジェンダー男性やトランスジェンダー女性の話しかしないこと
・ノンバイナリーやXジェンダーの話をトランスジェンダーとは別枠ですること
・トランスジェンダーの性別移行の話をするとき、男性か女性のどちらか一方へ、継続的な性別移行を前提にした話をされること

こういった言動は、直接「ノンバイナリーはトランスジェンダーじゃない」と言われたわけではないけども、そう思っているんじゃないかと感じてしまうものだ。

そして私は、男性と女性の間の境界線を越えてどちらかの性別になるわけじゃないから、トランスジェンダーとして不十分だと罰点を付けられたような気持ちになる。

大好きな家族から縁を切られるような気持ちになる

帰属意識をもつコミュニティから、仲間じゃないと外に追いやられることは精神的にかなりこたえる。

例えるなら、もしあなたに大好きな家族がいたとして、その家族から「あなたは家族じゃない」と縁を切られるような絶望感に似ているかもしれない。

しかもノンバイナリーは、世間的に存在しない性自認とされていて一般社会で行き場のない存在だ。そのうえ、トランスジェンダーのコミュニティにも入れないなら、一体どうすればいいのだろうか。

このままどこにも行きつけない存在として漂流しつづけねばならないのか。この寄る辺なさは、私だけではなく、私のようなトランスジェンダー自認のノンバイナリーを着実に追い詰めていると感じる。

トランスジェンダー自認のノンバイナリーを知ってほしい

ノンバイナリー間に違いがあることを広める手助けをしてほしい

トランスジェンダー自認のノンバイナリーの存在が知られるようになってほしいと思う。

そのためにはトランスジェンダー自認のノンバイナリーが自分たちの存在を世に訴えていくことも一つの手だが、それだけでは目標を達成するのは難しそうだ。

ではどうすればいいか。私は、ノンバイナリー以外の人たちの手助けも必要だと思う。

協力の方法としては、「ノンバイナリーの中にもトランスジェンダーを自認する人・しない人の違いがあるんだ」という話を身近な人にしてもらうことがある。

また、それ以外にもトランスジェンダー自認のノンバイナリーの存在を意識した言葉を使って会話をすることなども効果があると思う。

たとえばトランスジェンダーの話をするとき、トランスジェンダー男性とトランスジェンダー女性の話と同時に「トランス自認のノンバイナリー」という言葉を使うことなどだ。

これらの話をしてくれる人が増えれば、ノンバイナリーの中にはトランスジェンダーを自認する人も自認しない人もいるという認識が広まっていくのではないかと思う。

トランスジェンダーだと胸を張って言いたい

もしトランスジェンダーを自認するノンバイナリーの存在が、知られるようになったら、自分はトランスジェンダーを自認しているノンバイナリーだと、胸を張って言いたい。

そうしてやってみたいことがたくさんある。

今は参加していないトランスジェンダー向けのイベントに参加してみたい。今は参加できずにいるイベントがたくさんある。

そしてほかのトランスジェンダーの人とたくさん話をして、共通の経験をもつ者同士、お互いの存在を認め合いたい。

そうして現在はまだ「ノンバイナリーはトランスジェンダーではない」としているコミュニティとつながって生きていくことが、私の夢だ。この夢がかなってほしいと願う。

そのために、どうかあなたの力を貸してほしい。

 

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