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Writer/雁屋優

胸オペ? 子宮卵巣摘出? ノンバイナリーの私の “理想の身体” とは

自分がセクシュアルマイノリティなのだと知って、さまざまな情報を調べるようになって、ようやく “理想の身体” を考えられるようになった。ただ、「何としてでも、今すぐにそれを実現したい!」というほどの熱意はない。条件が整ったら、性別適合手術をはじめとした治療をやろうかなあ、くらいのもの。そんな私の “理想の身体” を探し求める旅を振り返ってみたい。

*この記事には、性や身体に関する直接的な表現が含まれます。そういった表現が苦手な方はご注意ください。

月経が嫌で嫌で仕方ない

トランスジェンダー、ノンバイナリーと自認していても、身体に関する考え方はそれぞれだ。今すぐこの身体を脱ぎ捨てたい人もいれば、私みたいにチャンスがあれば、いつか身体を変えようかなくらいの人もいる。私が人生で初めて、自分の身体を嫌だなと思った理由は、月経だった。

毎月私を憂鬱にする月経

保健の授業で、「将来子どもを産む準備として、女の子には毎月月経が来るようになります」と説明されたときの、何とも言えない気持ち悪さを覚えている。私は、当時から性的なものへの嫌悪感が強かった。絶対にセックスも妊娠も回避してやる。そんな風に思った。

それでも時間は残酷で、私は毎月の月経に悩まされることになった。私は月経の前後に相当攻撃的になり、腹痛に悩まされ、肌の調子もひどくなった。学生だったので、月経に振り回されて勉強が予定通りに進められないことに腹を立てていた。何でこんなものを強いられなければならないんだと憂鬱にもなった。当時は自身の性自認についてなど考えたこともなかったが、“女性の身体”は嫌だと強く思った。

婦人科で低用量ピルを処方される

「生理なんてなくなってしまえ」と毎月怨嗟の言葉を吐き、月経に振り回される私を、母が近所の産婦人科に連れて行ってくれた。旅行や試験と被らないように月経をずらしたり、月経による不調を軽減したりできる薬があるから、それを出してもらおうと言うのだった。

私は迷うことなくその提案に飛びついた。なくすことはできないまでも、軽くできるなら、こんなにいいことはない。受診した産婦人科は多くの低用量ピルの取り扱いがあり、「お肌の調子が気になるならこれがいいかもしれない」などとアドバイスをもらい、何種類かの低用量ピルを試した末に、長く服用する薬を見つけることができた。

月経も妊娠も、消えてしまえ

出血量も減り、腹痛は消え、お肌の調子も改善したけれど、毎月の月経は、できれば追い返したい、憎いものであることは変わらなかった。なぜならこれは、妊娠を前提とした身体機能だから。性的嫌悪を明確に持っていた私は、月経、ひいては妊娠できる自身の身体を嫌がっていた。

魔法か何かで、妊娠できなくなって、月経も来なくなったらいいのに。言葉にできないまでも、月経や妊娠を嫌悪する感情は日増しに強くなっていく。

胸に対する気持ちが日々揺らぐノンバイナリーの私

自分のセクシュアリティを知り、調べていくなかで、「胸オペ」に出会う。

ノンバイナリーの私、「胸オペ」を知る

月経への恨みやなげきを持ったまま、私は大人になり、自身をノンバイナリーで、他者に恋愛感情を抱かず、性的にも惹かれないアロマンティック/アセクシュアルであると定義した。ノンバイナリーは男女どちらでもない性自認を指す。

Xジェンダーの方が耳に馴染んでいる人もいるかもしれない。ノンバイナリーは結構広い概念で、自身を無性とする人もいれば、両性とする人もいるし、他にも多くの性の定義がある。私は自身を無性だと考えている。

トランスジェンダー、FTX、Xジェンダー、ノンバイナリー、性同一性障害(性別不合・性別違和)などなどのキーワードを追って、インターネットの海を漂い、私は「胸オペ」に出会った。

胸オペの第一印象は「絶対痛いじゃん! 怖い! 無理!」だった。ノンバイナリーの方の胸オペに興味のある方は、チカゼさんの記事を読んでいただけると理解が深まると思う。あまり知られていないが、性別適合手術は、FTMやMTFのトランスジェンダーの人だけでなく、ノンバイナリー(Xジェンダーも含む)の人々も受けられるものだ。

私は手術を受けたことがない。治療で経験した痛みで一番強いものは、かかとにできたイボを液体窒素で治療した際の痛みだ。大きな怪我も経験していないので、自分が手術を受けると思うと、怖くて仕方ない。

日々揺らぐ胸への気持ち

そして、私の胸への気持ちは日々揺らいでいる。胸なんてなければいいとまで思う日はないのだけど、この膨らみを邪魔くさいと思う日もある。私は、自分の身体に胸がある必要性をあまり感じない。

ただ、多額の費用や手間をかけ、痛みに耐えてまで、この膨らみを除去したいとまでは思わない。女性ではなく、無性でありたい私だけど、可愛いブラジャーを身に着け、カップを整えるのを楽しんでもいるからだ。

華やかなデザインのブラジャーには心が躍る。「自分のために」メイクやファッションを楽しむ、あの感覚に近いかもしれない。誰に見せたいでもない。自分の気分が上がるから、可愛いブラジャーを身に着ける。

でも、胸は意外と維持するのが大変なのだ。可愛くて華やかなブラジャーは高価だ。精巧なデザインだからそれは当然なのだけど、やっぱりお財布にはよろしくない。そして、体型の変化だ。どんなに気をつけていても時がたてば体型は少しずつ変化するものだから、きれいなシルエットを維持するには、定期的に自分に合ったブラジャーを購入しなければいけない。

胸は、そんなに嫌でもないけど、お金がかかる厄介なものだ。ブラジャーで飾るのは楽しいけれど、楽しいばかりでもない。

ノンバイナリーの私にとっての “理想の身体”

月経や妊娠の身体機能については、消失を強く望んでいた私だが、胸は「あってもなくてもいいんじゃない。日によって胸に対する考え方は違うし」程度のものだった。女性でありたくない、無性でありたいノンバイナリーの私にとっての、女性の象徴は胸ではなく、身体機能として妊娠しうることだった。私にはそう感じられるだけで、妊娠できることが女性の条件ではないことは書き添えておく。

妊娠しうる身体を脱ぎ捨てたい。ノンバイナリーの胸オペの話題から、自身の「“理想の身体”とは何か」を考え直した私は、そう結論した。

卵子提供にも興味がある

妊娠可能な身体を脱ぎ捨てたい一方で、私は卵子提供にも興味がある。

自分の遺伝子を受け継ぐ存在がいてもいい

かつては、自分の子どもがいることと、妊娠出産の経験、セックスはほぼイコールだった。でも、今はそうではない。セックスをしない妊娠も可能だし、自分で産んだのではない子どもを育てる人もいるし、セックスや妊娠出産を経験していないけれどこの世に自分の子どもがいる人もいる。生殖補助医療が発展し、多様な家族のかたちが少しずつ浸透してきている。

私は、セックスしたくないし、妊娠出産も嫌だ。育児だって、絶対にしたくない。自分の身体から妊娠の可能性を消し去ってしまいたい。ノンバイナリーを自認する私にとって、それは “不要な” 可能性だから。

でも、セックスも妊娠出産もしなくてよくて、育児もしなくていいのなら、自分の遺伝子を受け継ぐ存在がこの世に生を受けることは、あってもいいかな、くらいに思う。

ノンバイナリーで遺伝疾患持ちだけど、卵子提供してみたい

子孫を残したいとか家族が欲しいとかではないのだけど、自分の遺伝子を受け継ぐ存在がいたとしたらどうなるのだろうかと考えることはある。遺伝子の概念を知った頃から、周囲にいるそっくりな双子の話を聞きながら、遺伝子的にほぼ同一の存在が隣にいることを羨ましく思ったものだ。私は遺伝疾患を抱えているので、遺伝子的にほぼ同一な双子の片割れがいたら、似た者同士として、共同戦線を張れたんじゃないかと考えていたのだ。

一卵性双生児として生まれてみたかったという願いは、もうどうしようもないものだ。でも、自分の遺伝子を受け継ぐ存在を望むことはできる。私のしたくないことを全部しないままで、だ。それが卵子提供だ。

手術で子宮卵巣とお別れする前に

妊娠しうる機能を消失させる、つまりは子宮卵巣とお別れする前に、卵子提供をしてみる。遺伝疾患のある私の卵子を選ぶレシピエントがいるかはわからないけど、許されるならやってみたいと思う。

遺伝疾患があるからとドナーになること自体を断られるのなら、私はその優生思想を許さない。そして、私の遺伝子を受け継ぐ存在が出自を知りたいと思ったときに、応じる用意はある。

ノンバイナリーの私は、いつか子宮卵巣とお別れしたい

子宮卵巣とお別れする前に、なんて書いたけれど、「さあ、今すぐ子宮卵巣とお別れだ!」となるわけではない。

性別違和による子宮卵巣摘出は手を出しにくい

「性別違和 子宮卵巣摘出 費用」と検索して、費用を見てみた。言葉としては、性同一性障害が広く知られているが、医学の世界では性別不合、性別違和を使うようになっている。

覚悟はしていたけれど、費用はやはり高額だ。保険も使えない。「いくらお金をかけてでも子宮卵巣摘出をしたい」人もいるかもしれないけれど、私にとって、その費用は痛手だ。その費用を使って、他にしたいことがある。

私のなかで、子宮卵巣摘出は最優先で費用をかけるべきものではないのだ。大学院進学もしたいし、ライターとして書き続けていくためにさまざまに勉強もしたい。ノンバイナリーとして、子宮卵巣とお別れはしたいけれど、「今すぐ」「どれだけお金をかけてでも」とまでは思わない。

“理想の身体” を目指していないわけではない。でも、性別違和のある人にとって、身体への意識は、「変える/変えない」の二択ではなく、どのように変えたいか、どれくらい強く身体を変えたいか、自認している性、本来の身体を取り戻したいと感じているか、などなど、多様なのだ。

子宮卵巣摘出は、病気の治療で必要になったときに

トランスジェンダー、ノンバイナリー、Xジェンダーなどと名乗ると、自分の身体に強い嫌悪感を抱えていて、身体を変えたいと考えている前提で話を進められることが多い。でも、身体を変えたい人ばかりではないし、身体を変えることへの熱量にも差がある。

性同一性障害(性別不合、性別違和)に対する治療に保険が使えるようになってほしいが、それが今すぐ実現するとは思えない。そして、海外に行って子宮卵巣とお別れするまでの気もない。

なので、私が生きていくなかで、がんや子宮筋腫で、子宮卵巣摘出が選択肢に上がってきたらそのときは子宮卵巣を摘出する、ということにした。そういう温度感のノンバイナリーも、ここにいるのだ。

 

※文中に性同一性障害とありますが、2022年から実効されているWHOの診断基準ICD-11では性同一性障害は精神疾患の章から外され、「性の健康に関する状態」の章へと移動、名称も性別不合とされています。性別適合手術を行う医療機関でも、性別違和(こちらはアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5の言葉)や性別不合を併記することが増えています。治療すべきは、本人の性自認と異なる身体であり、本人の精神ではないという風に捉えられるようになったのだと思います。

 

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