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男か女かを決めなくていいんだ、と思ったら楽になった【前編】

所作が女っぽいといじめを受け、男子への恋も経験した。「自分の性別が男か女か分からないんだ」。そう悩みを打ち明けると、友人はあっさりと答えた。「どっちかに決めなくてもいいんじゃない」。その瞬間、長年のモヤモヤはきれいさっぱり消え去った。誰かに相談すると楽になる。自分の経験を生かしてLGBTのユース支援を開始した、若き活動家。

2021/07/31/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Shintaro Makino
本多 まさ / Masa Honda

1999年、兵庫県生まれ。中学生のときに野球部の副キャプテンを好きになり、自分はトランスジェンダーなのか、と不安にかられる。語学留学したアメリカでメキシコ系アメリカ人と初めての恋愛を経験。自らの失恋とカミングアウトの失敗を糧に、LGBTの若者に居場所を提供する活動を大阪で展開する。プライドプロジェクト管理人・代表。

USERS LOVED LOVE IT! 28
INDEX
01 我がままをいわない子ども
02 都会の学校でいじめにあう
03 自己表現を認めてくれた担任の先生
04 トランスジェンダーなのか? という不安
05 モヤモヤの中学時代。高校入学で一からやり直す!
==================(後編)========================
06 私の性別は「まさ」
07 レディ・ガガに憧れてアメリカ留学
08 初めてのパートナーはゲイのメキシコ系アメリカ人
09 失敗したカミングアウト
10 好きな言葉は、LOVE IS LOVE

01我がままをいわない子ども

若いLGBT当事者を対象にした活動

2020年1月に「プライドプロジェクト」を立ち上げ、現在、活動中だ。自らのセクシュアリティは、あえていうならXジェンダー/パンセクシュアルだと思っている。

「中学生から24歳までのユース支援を中心に活動しています。LGBTの人たちがメインですが、性の悩みがある人は、誰でも参加していいよ、と呼びかけてます」

一番やりたいことは、安心できる居場所の提供だ。

「私自身も親に受け入れてもらえなくて悩んでいるときに、大阪で阪部すみとさんが立ち上げた『Tsunagary café(つながりカフェ)』に行って、こういう場所があったのか、と感動した経験があります」

「若い子たちが気軽に悩みを話せる場所を作れたらいいな、と思ったのがきっかけなんです」

LGBT当事者同士が集まる楽しい場やイベントは多いが、しんどいときに気軽に立ち寄り、話を聞いてもらえる場所は少ない。

「ただ、コロナの影響で本来やりたかった “居場所” が設定しづらくなってしまって。今のところ、オンラインでの悩み相談、Twitterライブ、講演会などで広く呼びかけを行ってます。実際に集まるのは2カ月に1回くらいですね」

一番うれしいのは、若い子が参加してくれて、「来てよかったです」といってくれることだ。

「親が自分の性自認を認めてくれない、とラジオに悩みを寄せてくれた高校生が、お母さんと一緒に講演会に来てくれたんですよ」

プライドプロジェクトに行ってみたいと話すと、「普通の子と一緒にいなさい」と否定されたという。

「来てくれたときは、うれしかったですね。今日はこの子のために頑張る! って張り切りました」

講演後、親子と会い、「居場所が大事なんですよ」と話をさせてもらった。こうしたひとつずつの小さな成功体験が励みになる。

「地道に、やめないで続けていくことが一番大切だと思っています」

男だから泣くな!

生まれたのは兵庫県姫路市だったが、3歳のときに父親が脱サラをして自営業を始めるため、祖父母の家がある西宮市に引っ越した。

「フランチャイズの焼き鳥店だったんですが、経済的にはかなりキツかったですね」

記憶にあるのは、店の裏のジメジメした部屋だ。両親の祖父母の家をたらい回しに預けられていた時期もあった。

「両親はお店の仕事で忙しかったし、みんな必死だったんでしょうね。そのなかで、周りの人たちの顔色をうかがいながら、怒られないように、大人っぽく振舞う術を身につけました」

よくいわれた言葉が、「男だから泣くな」。泣いたらぶたれるし、先に手が出て怒られる。怒られる理由が理解できないで泣いたこともあった。

「とにかく、男だから、男だからって、しょっちゅういわれてましたね。そのせいか、辛抱強くて、我がままをいわない子どもになりました」

4歳で幼稚園に入って、ようやく友だちができる。

「ほかの子どもたちを俯瞰していたというか、なんでこいつら、こんなに我がままなんだって思いました(笑)。ひねくれた幼稚園生だったんだと思います」

02都会の学校でいじめにあう

きょうだいがほしい

自営業を営んでいるときは、母親と姑の喧嘩も絶えなかった。

「ひとりでいることが多くて、寂しかったですね。昼ごはんはたまに食べるものであって、普通の家が1日に3回食事をしていることも知りませんでした」

寂しさに耐えかね、母親にきょうだいがほしいと訴えた。

「母も子どもが好きだったんで、私のために作ってくれたんだと思います」

そして、6歳年下の弟が誕生した。

「そのタイミングで自営業はやめて、父親は元の会社に戻りました」

念願の弟ができ、お兄ちゃんとしての自覚も芽生えた。

「弟はかわいかったですね。おむつを替えたり、いろいろと面倒をみました。守ってあげたいっていう気持ちにもなりました」

楽しみだった家族旅行

小学校2年生の夏に、引越しとともに転校した。

「都会の子どもたちは怖かったですね。みんなゲーム機を持っているし(笑)。とても入っていける感じではありませんでした」

田舎から来たうえに、所作が女っぽいといわれて、いじめの対象になる。

「仲間には入れてもらえないし、低学年のときは殴られたり蹴られたりもありました」

ただ、立ち回りがうまく、相手の様子をみながらすり抜けていくことだけは上手だった。

「どちらかというと、女の子の友だちができやすかったかな。仲のいい男子の友だちは、幼なじみが一人いただけでしたね」

母親と実家の関係は相変わらず悪く、喧嘩の伝言役をやらされた。

「弟の面倒も面倒臭くなって、辛く当たってしまったこともありました。今は仲がいいんですが、彼にいわせると、私が一番恐かったらしいです」

その頃の楽しみは、年に一度、クルマで行く家族旅行だった。

「母親が焼きそばを作ってくれて、車中泊をしながらいろいろなところに行きました。今、クルマの運転が好きなのは、その影響かもしれませんね」

母方のおばあちゃんが持っていた別荘に行くのも楽しみだった。

「山の中の別荘で、非日常っていうんですかね、自然の中で過ごすのも好きでした」

03自己表現を認めてくれた担任の先生

みんなに声をかけてDVDを製作

自らのアイデンティに悩む小学生だったが、6年生になって初めて居心地のよさを感じられる環境になった。

「担任になった女性の先生が、とてもいい人だったんです。ピュアで真面目で、ガッツがある人でした。同級生も仲がよくて、ようやくみんなのなかに入っていくことができました」

「先生のことが好きだから、先生を喜ばせたい」という気持ちも生まれた。率先して企画を立て、卒業記念のDVDを作ることになる。

「その頃から、企画を立てるのは好きでした。そういうときは、自己主張の強さが出ましたね」

後に、「人を巻き込む力がある」と評されたこともあったが、その一端が発揮されたのかもしれない。

「自己表現を認めてもらった感じがして、うれしかったんでしょうね。あの先生に出会えてよかったと思ってます」

中学になってしんどいときに先生に会いにいって、話を聞いてもらったこともある。恩師との交流は今も続いている。

辛かった親友の裏切り

中学に入り、唯一の親友だった幼なじみと同じクラスになる。自然と一緒にいる時間が長くなった。

「彼に誘われて、夏休みの夏季講習にいったんですよ。そのとき私のほうが成績がよくて・・・・・・。それが関係あるのか、分からないんですが」

2学期になると、急に態度がよそよそしくなり、口を聞いてくれなくなってしまった。それどころか、靴に画鋲が入っていたり、鞄が荒らされたり。

「親友を含めた3人がグループになって私をいじめ始めたんです。何でそんなことをされるのか、さっぱり分かりませんでした」

人づてに聞いたところでは、前から私のことを嫌いだったという。もしかしたら、自分が気づかなかっただけで、ずっと嫌われていたのか、と疑心暗鬼になった。

「オカマとか、色が黒かったので黒人、とかひどいこともいわれました。彼の姿が見えると、何かされるんじゃないかって、怖くなりました」

唯一の親友だと思っていた人に裏切られ、心が折れそうになる。無力感に襲われ、ますますひとりでいることが多くなった。

「やり返したいけど、やり方も分からないし・・・・・・。先生や両親に相談しましたけど、誰も助けてくれませんでした」

どんなに嫌でも学校には行かないと、親に叱られる。仕方なく、保健室で寝ていることが多くなった。

しかし、辛いいじめは思わぬ方法で解決した。

「自分でいじめてた子の家に電話をして、親にやめてくれるように頼みました」

勇気を振り絞ってかけた電話が功を奏した。さらに2年生になって違うクラスになったため、いじめはほぼストップした。

「ほっとしました。一番いじめがひどかったのは、1年弱でしたね」

04トランスジェンダーなのか? という不安

自分の内面にある女っぽさ

中学で自分の味方になってくれた、数少ない同級生がいた。

「野球部の副キャプテンで、いじめっ子を蹴散らしてくれたんです」

自分を守ってくれることがうれしくて、メールを交換することも多くなった。

「そのうちに、彼に対する気持ちが、ほかの人に対する感情と違うことに気がついたんです。これが恋なのか? と思ったら、ワッどうしよう!? ってなっちゃって(笑)」

もともと、自分の内面に女の子っぽい部分があることは気づいていた。

「自分のことを、オレとか、ボクとか呼べなかったんです。いつも、自分のことは名前で呼んでました」

父親と母親だったら、母親になりたいと思ったことがある。
女子に友愛は感じても、はっきりした恋愛感情を抱いたことはない。
指に毛が生えるのが嫌だ。

「もっと幼い頃は、近所にいる子が女の子ばかりで、自分も女の子だと思ってたんです」

手術をしてトランスジェンダーになる?

もしかして、男子を好きになってしまったのか。それは新たな悩みになった。

「性同一性障害とか、トランスジェンダーという言葉は知ってました。でも、『障害』というくらいだから、悪いことだ、あってはいけないことだって信じてました」

自分はほかの人と違うのか。
トランスジェンダーなのか。

そんなモヤモヤした不安が次第に大きくなっていった。

「恋愛じゃない。ただ、私を理解してくれる父親のような存在になってほしいだけなんじゃないか、と無理やり思い込もうとした時期もありました」

考えれば考えるほど、悩みは深くなった。知っているトランスジェンダーといえば、はるな愛やマツコ。笑われてナンボ、にはなりたくなかった。

女みたいな男? 男みたいな女?

「自分ってアベコベだぞ、って思えてきて。女になったほうがいいのか、じゃあ、手術をしなければいけないのか。そこまで考えました」

最終的には「彼の子どもを生みたい」とまで思いが募った。

「絶対に誰にもいえない。この悩みは、墓場まで持っていくんだっていう気持ちでした」

05モヤモヤの中学時代。高校入学で一からやり直す!

気持ちを抑えきれずに告白

悩みから逃げる場所が2つあった。ひとつは勉強だ。

「そこそこ勉強ができたので、県内の進学校に進みなさい、と親からプレッシャーをかけられてました」

最初のテストでいい点を取ったため、常にそれ以上を求められるようになってしまったのだ。親の期待に応えるために、好成績は必須になる。

「家に帰ってきたら、好きな彼のことを考えないようにして、カリカリ、ひとりで勉強をしてました」

もうひとつは、陸上部だ。

「けっこう足が速かったんです。短距離のリレー選手になって、県大会にも出場したことがあるんです」

勉強と陸上で、性の悩みから逃避する生活が続いたが、やはり限界があった。

「その頃は、夜中でもメールをするくらい彼とは仲がよくて。悩みに悩んだ末、ついに自分の気持ちを抑えられなくなりました」

自分の気持ちを告白。
彼からの返事は、「ありがとう、うれしいよ」だった。

「でも、彼の本心は、友だちとしてこれからも仲よくしたい、ということでした。それで、余計にどうしたらいいか分からなくなって・・・・・・」

返事はもらったものの、どうつき合っていくのか、方向性が見えないまま葛藤が続いた。そして、自然と疎遠になってしまった。

軽音楽部という居場所

カリカリと勉強を続けたおかげで、第一希望の進学校に合格することができた。

「その高校には、同じ中学から入った生徒がいなかったんですよ。これはラッキー、一からやり直すチャンスだ、友だちもできる! って思いました」

いじめっ子もいない。オカマっぽいと後ろ指をさすヤツもいない。

「まずは、自分が好かれることだと思って、誰にもでもやさしくする、仏様のようにきれいな心を持つ人間になろうと心がけました」

母親の影響で好きになった福山雅治に憧れて、軽音楽部の門を叩く。

「福山が『Beautiful Life』という曲で、美しいあなたとならやり直せる、って歌っているんですよ。ちょうどそんな気持ちでした」

軽音楽部では副部長になり、ギターとボーカルも担当した。

「文化部発表会というのがあって、そこで演奏しました。音楽を通して自分を出すことができたんです」

音楽好きの15人は仲もよく、気持ちのいい居場所になった。

 

<<<後編 2021/08/07/Sat>>>

INDEX
06 私の性別は「まさ」
07 レディ・ガガに憧れてアメリカ留学
08 初めてのパートナーはゲイのメキシコ系アメリカ人
09    失敗したカミングアウト
10 好きな言葉は、LOVE IS LOVE

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