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Writer/Jitian

【トランスジェンダー履歴書問題】Xジェンダーがセクシュアリティをオープンにして就活してみた

皆さんは、就職活動や転職活動の経験はありますか。その際、履歴書を作成したことはありますか。アルバイトでも履歴書の提出は多くの場合要求されるので、一度は書いたことがある、という方も多いのではないのでしょうか。私も今まで数えきれないほどの数を書きました。

その際、私が毎度にらんでいたものが履歴書の性別欄でした。トランスジェンダーやクィアの方であれば、この「問題」に直面した方も少なくないのではと思います。

今回は、私が転職活動を行ったときのことを中心に、就職活動および転職活動における性別欄について考えてみたいと思います。皆さんも、今まで履歴書の性別欄にどう向き合って対処していたか、今後どうしていきたいか、ぜひ考えながら読んでください。

トランスジェンダーの履歴書「性別問題」は不可避

そもそもトランスジェンダーは、就職先に自分の「性別」をオープンにせざるを得ない、もしくはアウティングにつながってしまう場面がおおいに有り得ます。そうでなくても、私のように毎度もやもやしながら向き合っている人もいるかと思います。

どうしても伝えなければならない場面

例えば、治療により外見が元の身体の性別から変わりつつある、すでに別の性自認に沿って生活している、でも戸籍上の性別は変更していない(まだできる状態ではない)といった状況では、実際に就職した際、社会保障などの事務的手続きの都度、少なくとも人事部や管理部には開示する必要が発生する場合が考えられます。

それでなくとも、トイレが性別で分かれている場合はどちらを利用するか、制服や着替えを要する場合はどの更衣室を使用するかといったことも、企業に相談する必要があるかもしれません。

これらの問題に関して、就職エージェントや企業の人事担当が最初に触れるものが履歴書の性別欄です。

なぜオープンにしたいのか、しなければならないのかを考える

個人的な話になりますが、私は約3年前にセクシュアリティをオープンにして転職活動を行いました。ちなみに私は、クローズドで特に治療もしていないFtX。普段は(ちょっと変わった)シスジェンダー女性として生活しています。

転職活動を開始するにあたり、転職活動ではなるべくストレスフリーに行いたいと思っていました。それは、新卒時の就活の反動が主な要因でした。

大学新卒の就職活動時は、履歴書の性別欄を書きたい、書きたくないなどというレベルではありませんでした。また転職活動に比べると新卒の就活は、無地のリクルートスーツに髪はひっつめ、黒のシンプルなカバンでないといけないなど、かなり制約が多かったことも理由で、転職活動ではセクシュアリティを一部オープンにして行うことにしたのです。

しかし、改めて考えると、このときセクシュアリティをオープンにしたのは浅はかだったかもしれないと感じます。自分の中で理由をきちんと深く考えていなかったからです。

前述のとおり、一番の理由はジェンダーにおいて転職活動をなるべくストレスフリーに行いたいからというものでした。
具体的には、スカートははかずにスラックスにし(この辺りは、シスジェンダー女性でも転職活動ではスラックスを選択することは一般的かと思うので珍しくないと思います)、パンプスではなくレースアップシューズを履きました(この点も、今はKuToo運動により少々考え方が変わった企業もあるかもしれませんが)。また、履歴書の性別欄は選択しないなどできる限り抗い、転職エージェントを通して面接先の企業にもセクシュアリティを伝えました。

ただ、正直に言って主に装い以上の理由がありませんでした。
つまり、外見がすでにトランスしていたり、今後治療をしたりする予定であれば、トイレや更衣室の問題、同僚にカミングアウトしておくかなどの事柄について企業と話し合う必要が考えられます。

ですが、特にそのような予定もなく、あくまで当時の私の転職活動をストレスなく行いたいという理由だけだったので、全社的にセクシュアリティをオープンにしたいかといえばそういうわけでもなく、トイレも身体および戸籍の性別に合わせて女性トイレを使用するつもりで(私にとってはただ用を足すだけの場所でしかないので問題なく安全に使用できればそれでよいと考えています)、つまり「だから何?」ということになりました。

さらに、企業側も転職エージェントも「Xジェンダー」という言葉や「性自認がない」という概念を知らなかったので、余計に混乱させてしまったのです(相手が言葉や読み方をご存じでなかったので「クロスジェンダー」「ジェンダーX」などと言われたこともありました)。
※誤解を招かないために説明しますと、転職エージェントや企業側が明らかに差別的発言をしたり排除する姿勢を示したりといったことはありませんでした。

何事も経験ですから、後悔はしていません。

ですが、当時、私はLGBTQのイベントやオフ会に頻繁に参加し、当事者に囲まれて前提知識が共有されているのが当たり前の環境に慣れつつありました。そのため、改めて一般的にはLGBTQ、ましてXジェンダーの認知度が非常に低いこと、またこちらから就職にあたっての要望がなくても、いやむしろないからこそ質問攻めにあって話がややこしくなることもあるということを、このとき痛感させられました。

このことから私から一つ言えることは、これからセクシュアリティをオープンにして就職活動、転職活動をされる方は、なぜしたいのか? 実際就業したらどうしたいのか? をよく考えられることをお勧めします。

しかしながら、仕事に限らずカミングアウトはするもしないも強制されるものではありません。特に具体的な希望あるわけではなくても、セクシュアリティをオープンにするということもまったく問題ないはずです。

どう仕事をしたいかというより、どう生きたいのか? と大きく考えて、どこまでオープンにするのか/しないのか、どういう配慮や対応を求めたいのか、自分とよく相談してください。

今度こそ、履歴書の性別欄から解放されたい

理由はともかく、私の転職活動においては履歴書の性別を書かないと決めました。この章では、実際にはどのようなことを行ったのかを説明します。

エージェントに登録し、履歴書を送る

転職活動として一般的な方法の一つは、転職エージェントに登録し、そこから求人を紹介してもらい、エージェントを通しつつ選考に進むという方法です。
人脈もスキルも資格も光る経歴もない当時の私もそれにならいました。

エージェントによると思いますが、私の場合は広告をバンバン打っている某超大手2社に登録しました。そしてその両方とも、選考時に個人的に履歴書を用意するのではなく、あらかじめエージェントに履歴書と職務経歴書を登録しておくことを求められました。転職エージェント経由で企業に応募すると、登録情報がエージェントから企業にわたる仕組みです。

A社の場合は、テンプレートのExcelファイルが送られ、そこに必要事項を記入しデータでエージェント担当者に返送するシステムでした。
しかし、いざファイルを開いてみると性別欄で男女のどちらかを選択しないと保存できないマクロがかかっていました。そこで、マクロを解除したファイルを送ってほしいと担当者にお願いしたところ、OKをもらいました。

一方B社の場合は、最初の登録段階で男女どちらかを選ぶ必要があったので、とりあえず(もやもやしながら)女性を選択しました。本登録を終え、担当者が決まった段階で相談したところ、エージェントが企業に情報を送る際には必ず担当者からセクシュアリティについて申し送るということで落ち着きました(なお、企業の面接に行った際にセクシュアリティについて申し送られていなかった、ということはありませんでした)。
ちなみに、あれから数年経ったので改めてB社のサイトにログインし登録情報の変更を試したところ、性別欄はあるものの、男女のほかに「選択しない」という選択肢がありました。

レインボープライドの参加者がここ数年で年々急増しているなど、世間のLGBTQへの注目度が増しているので、A社やB社に限らず就職における性別欄に対しての男女二元論的思想によるシステムは、徐々に影を潜めているのかもしれません。

ところが一転!

しかし、A社については、この後二転三転しました。

マクロを外したファイルを送付してもらえることになった後、やっぱりそのような対応は認められないので、とりあえず女性を選択してほしい、企業に情報提供する際には申し送るようにする、という連絡が担当者から来ました。

エージェント側のデータ処理などの都合でファイルの形式をいじられると困るということは分かります。しかし、いったん認められたものを覆されるのは、どの場面でもあまり気持ちよいことではないのでこちらも食い下がりました。するとさらに後日、性別欄はなくしてOKなのでこのような履歴書で登録しますね、と担当者から連絡が来て、その内容と形式で進めることになりました。

結局のところ、こちらの要望通りにはなったものの、A社に対して少々不安を感じたのは言うまでもありません。

ちなみに、この後両方のエージェントのサポートを受けながらいくつか採用試験を受けましたが、経験もスキルも圧倒的に足りないうえにトランスジェンダーであるということもネックになり、ことごとく採用試験に落ち続けたので、そのときは転職を諦めました。

就職活動時はどうしていたか

最後に、そもそもエージェントや企業に説明をしてでも、なぜセクシュアリティをオープンにして転職活動をしたいと思ったのか、その大きな原因である大卒時の就職活動にも触れたいと思います。

選ばせてくれない

昨今の大卒の就活では、大学側が独自の履歴書を大学内で販売しており、学生はそれを使用することが一般的とされています。私は訳あって女子大に通っていたのですが(その話はまたどこかで)、満を持して大学の生協で履歴書を買っていざ書こうとしたところ・・・・・・。性別欄に「女」とすでに大きく印字されており、選択肢がありませんでした。これには面喰いました。

これより前にも、アルバイトの応募で何度か履歴書を書いたことはありました。そのときは、Xジェンダーを自認していたわけではなかったのですが、何となく性別違和は小さいころから感じていました。そのため、いつももやもやしながら性別欄で女性に丸を付けていたのです。だから、きっと就活も不満を言いつつ「女」に丸を付けなければならないのだろうなと思っていたら・・・・・・選択させてもくれませんでした。

とはいえ、この履歴書は女子大に入学する学生は女性であるという前提のもと、その学生が使うために作られたものです。履歴書にすでに女と印字されているというのは、ある意味当たり前のことです。実際、教授や講師、スタッフ以外で、性自認が男性と思われる人はほぼいませんでした(まれに、ボーイッシュなのか、実は未治療のトランスジェンダー男性なのかと思われる人や、恐らくトランスジェンダー女性なのだろうなという学生もいました)。

みずから女子大を選んで入学したから仕方ないとはいえ、選択肢を与えてくれないのか・・・・・・と、このときは地味にショックを受けました。

一回だけオープンにした

ただ、就活時に一回だけある企業にセクシュアリティをオープンにしたことがあります。
その企業は、採用面でLGBTQフレンドリーを前面に押し出していました。実際にLGBTQ当事者を何人も採用した実績もあり、企業説明会にもトランスジェンダー女性の社員が登壇しました。

ここならオープンにしても大丈夫だろうと判断し、いつもどおりスラックスをはいて家を出た後、会社社屋の前でネクタイを締めて参加しました。このときの「少しでも自分で服を選んでいる」という感覚は、とても清々しいものがありました。また、実際、多くの学生参加者がトランスジェンダーでした。

今は、自分でLGBTQフレンドリーな企業を調べなくても、LGBTQ当事者向けの就活サービスもいくつかあります。セクシュアリティをオープンにしたり、相談したい場合は、そういったサービスを活用してみるのもいいかもしれません。

なお、その企業はただセクシュアリティをオープンに就職活動を体験したい、という興味本位で説明会に参加しただけだったので、採用試験は受けませんでした(企業に対してはかなり失礼なことかもしれませんが)。

履歴書の性別欄がなくなるかもしれない?

ところで、一般販売されている履歴書の多くがJIS規格の参考例に基づいていますが、実はその参考例が今年7月に削除されました。以前の参考例には、履歴書に一般的な項目とされている性別欄や顔写真といった項目がありました。この2つの項目によりアウティングを強いられると、トランスジェンダー当事者たちからの署名が経済産業省に提出され、受理されたため、参考例が削除されたのです。現在、一般に出回っている履歴書も、性別欄と顔写真がないものに変わるのではないかと期待されています。

すでに説明したとおり、転職エージェントへの登録内容においては、性別を「選択しない」という選択肢が設けられるなど、男女二元論的構造から変わりつつあります。LGBTQ当事者に配慮したインターフェースに変わる、ひいては就職活動を行いやすくなる未来も、遠くないかもしれません。

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