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Writer/Moe

トランスジェンダーの女子競技出場を国際水泳連盟が制限。ジェンダーとスポーツの難しい関係

夏といえば、プール、そして水泳。近ごろLGBTQ界隈では、その水泳に関して論争がわき起こっている。国際水泳連盟(FINA)が、トランスジェンダーの選手に対する出場ルールを決め、賛否が激しく分かれているのだ。

トランスジェンダー選手に対する国際水泳の新ルール

トランスジェンダー選手に対する新ルール

国際水泳連盟(FINA)は2022年6月19日、トランスジェンダーの選手が競技に出場する際の新ルールを決めた。特に、身体の性別は男性として生まれたが、性自認は女性である、トランスジェンダー女性の選手の出場をかなり厳しく制限する内容になっている。

新ルールでは、トランスジェンダー女性が女子大会への出場資格を得るには、12歳未満であるか、男性の思春期の身体の変化を全く経験していない場合に限られる。また、エビデンスとして、「タナ―段階」と呼ばれる、思春期の身体の変化の5段階の2つ目以降を全く経過していないことを示すため、血清中のテストステロン値が2.5 nmol/L 未満である検査結果を提出する必要がある。

FINAは新ルールの採択について、「競技に出場する選手たちの権利を守ることも大切だが、われわれは競争の公平性、特に女子競技における公平さを守らなければいけない」とコメントを発表した。

ちなみに、トランスジェンダー男性に対しては、ホルモン治療を受けている場合のみドーピング規制の除外を申請する必要があるが、厳しい出場制限はされていない。

背景にはアメリカ競泳界での議論

FINAの新ルールの背景には、アメリカ大学競泳界のエース、リア・トーマス選手の活躍が大きく影響している。

トーマス選手は、2017年から米ペンシルベニア大学男子水泳チームの一員として活躍していた。その後、2019年に大学のチームメイトやコーチにトランスジェンダー女性であることをカミングアウトし、ホルモン治療を受けながら、男子チームで泳ぎ続けていたという。

治療を受けて2年後の2021年からは同大学の女子チームに移籍。そして今年3月、トーマス選手は全米大学体育協会の競泳女子自由形カテゴリーで優勝した。そして、2位に大きく差をつけて同大学の新記録を樹立した。

つい数年前まで男子チームで活躍していたトーマス選手が、突如女子チームに移り圧倒的な強さで優勝したとして、女子チームからは「不公平」と反発が起こった。ツイッターなどSNS上でのバッシングも絶えなかった。

この状況に応えるように、FINAの新ルールが設定されたのだ。

LGBTQ当事者やアライからは批判

スポーツにおけるLGBTQ権利団体「アスリート・アライ」はこの新ルールに対して「選手のプライバシーと人権を申告に侵害」する、「非常に差別的、有害、非科学的」なものと批判している。

若い選手に対し、筋肉や体毛が増えたかなどの思春期の身体の変化を調べるのは、かなりセンシティブな問題だ。そもそも、身体が変化してくるからこそセクシュアルアイデンティティの悩みに気づくのではないだろうか。

東京五輪男子シンクロ高飛び込みの金メダリストで、同性愛者のトーマス・デーリー選手は、この新ルールに対して「激怒した」とコメントした。

2021年の東京五輪では、トランスジェンダー女性の重量挙げ選手が、女子カテゴリーに初出場し、話題になった。トランスジェンダーアスリートの議論は、世間にとっても未知の部分が多く、意見が大きく分かれるようだ。

トランスジェンダーとスポーツの相いれない関係

正直言って、筆者のアタマはこの問題について行けていない。世界のLGBTQの話も、ここまで来たのか、と思った。そして、考えるほど正解が無いんじゃないかと思えてくる。

スポーツ競技の性質

スポーツ競技でいわれる「性別」は、あくまでも男女どちらの身体で生まれてきたかという、「Biological Sex (生物学的な性別)」しか重視されてこなかったように思う。

身体を駆使して選手たちが競争し、一位を目指したり、より良い記録を出そうとする。その競争をやりがいのある、見る価値のあるものにするには、身体条件の似た選手同士をそろえて公平性を持たせる必要がある。

そういうわけでスポーツは、身体的な面でのカテゴリー分けの上に成り立っている。年齢や体重による階級分けと同じように、男子・女子という分類は長いこと当たり前のように受け入れられてきた。

この、スポーツ競技の身体の捉え方が、トランスジェンダーの性自認の話と真っ向からぶつかり合っている。

トランスジェンダー選手の自認とは異なる性別カテゴリーでの出場って・・・

トランスジェンダー女性/男性にとって、身体検査やホルモンレベルの数値が何を示そうが、自分のセクシュアルアイデンティティは変わらないだろう。

でも、その身体的な条件が理由で自分の認める性別カテゴリーで出場できないということが、どれだけ大きな意味を持つのか。筆者には正直、想像ができない。

ちなみに、多くの競技部門ではトランスジェンダー選手でも出生時の性別で出場することは自由だ。だから、色々なケースがあり得る。これに関しては、選手個々人によって状況や考えも違ってくると思う。

リア・トーマス選手は妥協しない。「自分らしさと好きなスポーツのどっちかを選ぶ必要はない」と語った。泳ぎを続けることと、女性として認知されること、両方とも彼女にとっては不可欠なのだろう。

一方で、昨年トランスジェンダー男性であることを公表した元女子サッカー日本代表の横山久美選手は、現在もアメリカの女子サッカークラブで活躍していて、「将来、サッカーを辞めて男になって生きていきたい」と語った。

トランスジェンダー女性に比べ、トランスジェンダー男性には規制が少なく、バッシングが少ないという指摘もある。

公平性なんて、どこに根拠を求めたらいいのかも、わからない。

公平さは個人の心に

多様性が進むほどに、ひとつの答えなんて出せなくなっていく。

今回のFINAの新ルールが、妥当なものなのかどうかも、今の時点できっと誰にも分らないだろう。しばらく運用してみて、また新たな議論が起こるかもしれない。

リア・トーマス選手は、今年3月の大会では全米大学体育協会に定められた女子部門の出場要件をきっちり満たして優勝し、新記録を打ち出した。これに関しては、正当に評価されるべきだと筆者は思う。

そして、沢山のバッシングを受けた彼女に、周りからの適切なサポートがついていて欲しい。

 

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