東京都の同性パートナーシップ制度である「東京都パートナーシップ宣誓制度」が、いよいよ現実的になってきました。昨年2021年12月に、2022年度内の制度導入が公表されていましたが、2022年5月10日、パブリックコメントを受けて練られた素案とともに、2022年11月1日から制度運用開始予定と発表されました。今回は前後編の2回にわたって、東京都パートナーシップ制度の素案と、パブリックコメントを見ていきます。
あらためて、同性パートナーシップ制度とは
まずは、日本各地で導入が進んでいる同性パートナーシップ制度を振り返ります。
同性パートナーシップ制度とは?
現在、日本では戸籍上同性のカップルが法的に結婚すること、つまり同性婚はできません。「同性婚に代わるもの」とは言えませんが、同性同士のカップルを認める制度として近年注目が集まっているものが、いわゆる同性パートナーシップ制度です。
同性パートナーシップ制度を利用すれば、自治体に認められた同性カップルとして書類を発行してもらえます。法律婚しているカップルや家族と同じように公的住宅に申し込めるといった措置を受けられるようになり、ある程度の生きづらさの解消や安心感にはつながる条例です。
「同性パートナーシップ制度」と「同性婚」との違いは?
そもそも、同性婚を求める声がこれだけ挙がっている理由の一つは、法的な結婚をすると得られる「特権」が、カップルが同性同士であるというだけで得られず、同性カップルが生きづらい世の中になっているからです。
法的に結婚ができれば法的に家族と認められ、戸籍が新たにつくられます。納税において配偶者控除があり、万が一のことがあったら相続権も認められます。もちろん、これらは「特権」の一部にすぎません。
しかし、同性カップルは、上に書いたことがすべて認められていません。いくら長年ともに暮らしたとしても、法律上は赤の他人同士。パートナーにもしものことがあっても、法的な家族として認められていない以上、病状説明に立ち会えない、死に目に会えないなどのことがあるのです。
同性パートナーシップ制度を導入するメリット・デメリットは?
同性婚と比べると、同性パートナーシップ制度は、自治体ごとの条例に過ぎません。法的拘束力はなく、法的な結婚と同等のものではまったくありません。
たとえば、同性パートナーシップ制度がスタートすると、企業には、同性パートナーシップ制度で宣誓した同性カップルを、結婚している異性カップルと同等に扱うよう求められることがあります。ですが、同性カップルを異性カップルと同等に扱わなかったとしても、法律によって企業が罰せられるわけではありません。
とはいえ、同性パートナーシップ制度を導入する自治体が増えることは、同性婚賛成の世論形成につながり、ひいては同性婚を実現させる可能性も高めるはずです。LGBTQ当事者の一人である私としては、同性パートナーシップ制度の広まりは、やはり嬉しいことだと思っています。
全国各地の同性パートナーシップ制度導入状況
残念ながら、東京都は全国的に見て「進んでいる」とは言えない状況でした。
大都市・大阪府も同性パートナーシップ制度をすでに導入済み
「みんなのパートナーシップ制度」によると、都道府県レベルで同性パートナーシップ制度を導入している自治体は、2022年5月11日時点で、8府県まで広がっています。このなかには、第2の都市である大阪府や、人口の多い福岡県も含まれています。
都道府県レベルではまだ導入が進んでいない地域でも、たとえば神奈川県では市町村レベルでの導入が進んでいる結果、すでに県民カバー率95%を達成しています。
こういった状況のなかで、人口が圧倒的に多い東京都で同性パートナーシップ制度が導入されることにより、日本全体における人口カバー率が飛躍的に上がります。また、「首都・東京」が同性パートナーシップ制度を導入するという事実そのものが国政にも大きな影響を与えることから、今回のニュースは全国的にも注目が集まっています。
東京都内は、実は遅れている?
東京都内の区市町村にフォーカスすると、同性パートナーシップ制度の導入進捗は、現在、都民人口カバー率35%と、1/3ほどにとどまっています。意外と進んでいませんよね。全国で最初に同性パートナーシップ制度を導入した自治体である渋谷区・世田谷区を有している割には、そこから周りの区市町村にあまり波及しなかったのだと思うと、都民として恥ずかしくもあり、ショックです。
ちなみに、東京都パートナーシップ制度導入にあたり、同性パートナーシップ制度をすでに導入している東京都内区市町村の制度との兼ね合いも注目されているところです。東京都によれば、「都内区市町村との証明書の相互活用等に関し調整を図ります」とのことですが、具体的な案はまだ提示されていません。
そもそも、対象となるカップルの定義など、東京都パートナーシップ制度の内容が各自治体の制度とは必ずしも同じであるとは限りません。最悪の場合、すでに居住している自治体で同性パートナーシップ制度を利用していたとしても、さらに東京都へ届け出る必要が出て来る可能性も否めません。
もちろん、東京都や各自治体も様々に考えているところと思いますが、ぜひとも使いやすい制度をお願いしたいところです。
「東京都パートナーシップ制度」素案
東京都パートナーシップ宣誓制度の素案はどのようなものなのか、確認します。
東京都パートナーシップ制度の対象は「性的マイノリティ」
東京都パートナーシップ制度を利用できる対象者の条件は、以下のようにまとまりました。
①「双方又はいずれか一方が性的マイノリティであり、互いを人生のパートナーとして、相互の人権を尊重し、日常の生活において継続的に協力し合うことを約した二者である」と宣誓したこと。
②以下の全ての条件を満たしていること。
・双方が成年に達していること。
・双方に配偶者(事実婚を含む。)がいないこと、かつ、双方以外の者とパートナーシップ関係にないこと。
・直系血族、三親等内の傍系血族又は直系姻族の関係にないこと(パートナーシップ関係に基づく養子縁組により当該関係に該当する場合を除く)。
③以下の条件を満たしていること。
・双方又はいずれか一方が都内在住、在勤又は在学であること。都内在住については、双方又はいずれか一方が届出の日から3か月以内に都内への転入を予定している場合を含む。
②は、法的な結婚の条件と基本的に同等なので、問題ないでしょう。③も、自治体レベルの条例なので、原則都内在住者に限定されることは想定内です。
ここで重要なのは、①の「性的マイノリティ」です。東京都では「性自認が出生時に判定された性と一致しない者又は性的指向が異性に限らない者」を「性的マイノリティ」と定義しています。これはつまり、対象者が同性愛者だけに限らないこと、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルのマジョリティ同士の異性カップルは対象外ということを意味します。
セクシュアリティによる「対象者」の限定は、同性パートナーシップ制度を導入済みの自治体との「ひずみ」を起こす可能性があります。たとえば、すでにパートナーシップ制度導入済みの自治体の一つである国立市は「性的マイノリティ」以外も使える制度として運用しています。事実婚を法的に証明するために国立市のパートナーシップ制度を利用しているシスジェンダー・ヘテロセクシュアルの異性カップルは、東京都パートナーシップ宣誓制度を利用できない可能性があります。
こういった条例毎の細かい「不一致」も現在検討が進められていると思いますが、注目すべき点の一つですね。
東京都パートナーシップ制度はオンライン完結
東京都パートナーシップ制度は、都庁などに出向くのではなく、オンラインで完結できる制度になる予定だということです。
その理由の一つに、アウティングを防止するためと東京都は説明しています。窓口での手続きとオンライン申請を併用するというよりは「機器類をお持ちでない等、オンライン手続が著しく困難な方」のみ窓口対応を行うと記載されており、原則オンラインでのみ受け付ける制度になるようです。
この点については、窓口での受付もより積極的に併用できるようにして欲しいと感じました。もちろん、東京都が説明しているオンライン完結のメリットは大きいことは理解しています。制度設計が原因で「あの窓口に、あの用紙をもって、同性同士ってことは、もしかして・・・・・・」と、不用意にアウティングするような事態は避けなければなりません。「オンラインで完結できるなら」と、東京都パートナーシップ制度を利用しようと思えるカップルもいるでしょう。
ただ、個人的には、たとえば確定申告などの行政のオンラインシステムは、民間の作ったシステムより概して煩雑で分かりづらいことが多いように感じています。そのため、普段はスマートフォンやPCを問題なく操作できる人でも、いざ東京都パートナーシップ制度を利用しようとすると、操作につまずく人も少なくないと思います。
もちろん、操作が複雑なのは、セキュリティのため、虚偽申請が起きないようにするためなどの大事な理由があることは承知しています。しかし、パートナーシップ宣誓において必要な情報は個人情報の塊であり、既存のシステムよりもさらに複雑になるのではないかと予想されます。
システムの複雑さが東京都パートナーシップ制度利用の「壁」にならないよう祈るばかりです。
ファミリーシップ宣誓としても利用可能
個人的にはこの部分が最も注目すべきところなのではないかと思うほどです。
歓喜! ファミリーシップ宣誓としても利用可能
今回、私が特に注目している点が、東京都パートナーシップ制度が、同性パートナーシップ宣誓だけでなく、ファミリーシップの宣誓にも使えるという点です。ファミリーシップ制度とは、パートナーだけでなく子どもの名前も「自分たちの子どもも家族である」と記載できる制度です。
東京都の素案には、以下のように記載されています。
―当事者に子供がいる場合、子供に関する困りごとの軽減にもつなげる仕組みとするため、当事者の希望に応じて「当事者の子」として受理証明書の特記事項欄に「子の名前」を記載することができますー
なぜファミリーシップ制度も必要なのか
法的な結婚ができない(戸籍をつくれない)ということは、パートナーだけでなく、子どもとも法律上は赤の他人になり得るということを含みます。つまり、自分で産んだ子どもなどであれば戸籍上自分の子どもであることが保障されますが、パートナーが産んだ子である場合は、自分と子どもが実質的には家族として何年もともに生活していたとしても、法律上はやはりただの同居人であり、他人。そんな心細さを少しでも解消してくれるのがファミリーシップ制度なのです。
同性パートナーシップ制度自体は全国的に広まっている一方で、ファミリーシップ制度までカバーしている自治体は、実はかなり少ないのが現実です。都道府県レベルで同性パートナーシップ制度を導入済みの8府県も、ファミリーシップ制度は導入していません。そういった背景から、東京都で同性パートナーシップ制度を導入する際には、ファミリーシップ制度も合わせて実施して欲しい! と個人的に思っていたところでした。
恐らく、私と同様の声がパブリックコメントで上がってきたために、今回の素案に反映されたものと思います。これから同性パートナーシップ制度導入を検討している自治体だけでなく、すでに同性パートナーシップ制度のみ導入している自治体にも、大きな影響をあたえることでしょう。
今回は、東京都パートナーシップ制度の素案に着目しました。そもそもこの素案にたどり着いたのは、8,000件を超える意見を吟味し反映した結果です。次回は、パブリックコメントから、東京都パートナーシップ制度に対するニーズのほか、制度に対する疑問や反対の声を見ていきます。
■参考URL
・「東京都パートナーシップ宣誓制度(案)」等の公表について(東京都)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/05/10/08.html
・みんなのパートナーシップ制度
https://minnano-partnership.com/