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Writer/雁屋優

パートナーシップ制度ではなく、法律婚が欲しい理由

同性婚を求める動きを見ていくと、必ずと言っていいほど、同性婚法制化に向けて活動している人々に投げかけられる言葉の一つに、「自治体のパートナーシップ制度でいいじゃない」がある。パートナーシップ制度では不十分であり、また、同性愛者が婚姻制度を利用できないのは権利の侵害である。それを前提に、パートナーシップ制度だけでは同性カップルが守られていない現状を見ていく。

パートナーシップ制度とはどういうものか

パートナーシップ制度とは、具体的にどういうものなのか、制度を導入している2つの自治体公式サイトの概要説明を確認していく。

パートナーシップ制度の効力

●北海道札幌市
“性的マイノリティの方の気持ちを受けとめる取組として、お二人が互いを人生のパートナーとして、日常生活において相互に協力し合うことを約束した関係であることなどを札幌市長に対して宣誓をする制度です。お二人の宣誓に基づき、宣誓書の写しと市長名の宣誓書の受領証を交付します。”(

2018年にパートナーシップ宣誓制度を導入した北海道札幌市のパートナーシップ制度。公式サイトによれば、パートナーシップ宣誓制度を利用できるのは、“一方または双方が性的マイノリティのお二人”で、成人であることや独身であり他にパートナーシップの関係を結んでいないことなどの条件を満たすカップルだ。

札幌市のQ&Aを読むと、パートナーシップ宣誓制度は同性カップルのみに限ったものではないことがわかる。また、扶養義務や相続権などの法的な権利や義務が発生しないことも明記されている。地方自治体の立場で、今できる最善を尽くしている自治体の一つと言えるだろう。

●茨城県
“いばらきパートナーシップ宣誓制度とは、婚姻制度とは異なり、「一方又は双方が性的マイノリティである2人の者が、互いの人生において、互いに協力して継続的に生活を共にすることを約束した」ことを宣誓し、パートナーシップの関係にある者同士がそろって宣誓書を県に提出し、県が受領証等を交付する制度です。

なお、いばらきパートナーシップ宣誓制度は、婚姻とは異なり、法律上の効果が生じるものではありません。”

茨城県の概要説明でも、北海道札幌市と同様に、いばらきパートナーシップ制度において、法的な効力が生じないことが明記されている。また、都道府県としてのパートナーシップ制度導入は茨城県が全国初であり、当時はニュースでも大きく取り上げられた。

パートナーシップ制度には限界がある

比較的早い時期にパートナーシップ制度を導入した北海道札幌市と、都道府県として初のパートナーシップ制度導入でニュースにもなった茨城県のパートナーシップ制度の概要説明を引用した。

北海道札幌市はパートナーシップ宣誓制度のQ&Aにおいて、茨城県はいばらきパートナーシップ宣誓制度の概要説明において、婚姻とは異なること、法的意味を持たないことを明記している。

パートナーシップ制度とは、宣誓であるが、婚姻のような法的意味を持つ契約ではないのだ。もちろん、パートナーシップ制度を導入する自治体が増えることにより、住民やその自治体に存在する企業がLGBT当事者の存在を意識することに繋がっていることは事実だ。

しかし、どこまで行っても、パートナーシップ制度では、法的意味を持てないのだ。パートナーシップ制度と法律婚を比較し、同性婚が認められない現状はこのことだけでも不平等だと言える。

繰り返すが、現状の法律婚の不平等に対する、地方自治体の取り組みは決して無駄ではなく、LGBT当事者の一人として、私も感謝している。地方自治体の立場で、できる範囲のことをしているような、そういった自治体には好感を持っている。

兵庫県明石市のファミリーシップ制度とは?

パートナーシップ制度と並んで、時おり耳にすることになったのが、ファミリーシップ制度だ。パートナーシップ制度で自治体が認めるのは、二人の関係だが、ファミリーシップ制度では、二人が育てる未成年の子どもとの家族関係も認める。

法的意味が生じないのはパートナーシップ制度もファミリーシップ制度も同じだが、多様な家族の形を認めることで、生活しやすくなっているのは事実だ。

法律婚ができないと生活にも支障が出る

パートナーシップ制度もファミリーシップ制度も、自治体の努力の成果で、ありがたいことに変わりはない。しかし、「愛し合っているなら、それでいいじゃない」とはならないのが現実だ。生活にどんな支障が出るか、代表的な例を挙げる。

家を借りるのが難しい

賃貸住宅を借りるハードルが高いのは、実はLGBT当事者に限ったことではない。障害者、高齢者もまた無理解からくる偏見や差別で、入居を断られることが多い。不動産業界において、偏見や差別が横行している事実は、たしかに存在する。

セクシュアルマイノリティであることを隠し、友人同士のルームシェアとして入居の申し込みをするのが現状の最適解だが、それでも、借りるのは難しい。大家さんからすれば、法律婚している二人ならすぐには出て行かないだろうけど、法律婚をしていないカップルや友人同士ならすぐに仲違いして出て行くのではないか、と思ってしまうのだ。

同性カップルは、法律婚ができない以上どうしても、「法律婚をしている二人」という社会的信頼を得られない。

配偶者控除が受けられない

税制度上も不利益がある。同居して、法律婚でいう配偶者のように暮らしていても、配偶者控除が受けられない。つまり、同性カップルであるというだけで、異性カップルより多く税金を納めていることになる。

女性の賃金が不当に低いこの国で、この問題はレズビアンカップルに特に大きく影響する。元々賃金が低いさらに税金を多く納めることになるからだ。

二人の関係を公的に認めてもらえない精神的ストレス

茨城県、北海道札幌市、兵庫県明石市のパートナーシップ制度やファミリーシップ制度の概要説明でも繰り返し触れられていたが、パートナーシップ制度もファミリーシップ制度も、法的な効力はない。

先に述べたほかにも、生活におけるさまざまな場面で、法律婚できない事実は、「あなた達の関係を法的に認めない」と迫ってくる。公然と行われている差別としか言いようがない。

そしてそれは、LGBT当事者の心を蝕むのだ。

有事の際も、法律婚できないことで困りごとが生じる

法律婚ではない以上、配偶者として扱ってもらえないため、有事の際に多くの困りごとが生じてしまう。

パートナーの入院付き添いや手術同意ができない

パートナーが病気やけがをして、入院や緊急手術になっても、パートナーは入院付き添いや手術同意ができる権利を持たない。パートナーの両親やきょうだいといった血縁者の意向を反映して、治療方針が決まっていく。

配偶者ではないから。その事実は大きく、重い。大切な人の有事に、重要な関係者として扱ってもらえないのだ。公正証書を取り交わす方法もあるにはあるが、やはり法的に家族と扱われる法律婚でないと、関係者扱いしてもらえない可能性は残る。

パートナーが亡くなったとき遺族として扱われない

パートナーとの別れに際しても、遺族として扱われないため、配偶者として遺産の相続ができない。二人で住んでいた思い入れのある家を出なければならなくなったり、葬儀において遺族ではなく友人としてふるまうしかなかったりと、法律婚ができないことによる不利益は大きい。

同性カップルは、社会制度に、法に、無視されているのだ。

同性婚はLGBTの権利獲得の過程に過ぎない

「結婚まで求めなくても、パートナーシップでいいじゃない」は、的外れで、LGBTの権利をまるで考えていない発言だ。しかし、同性婚法制化は、差別の一部解消でしかないことも忘れてはならない。

同性婚法制化はLGBTに対する差別解消の一歩

パートナーシップ制度やファミリーシップ制度の創設は、地方自治体の努力の成果で、ありがたいものではあるが、法律婚ができない限り解決しない問題があることを見てきた。上に述べた不平等な権利はごく一部だ。異性カップルにだけ認められ、同性カップルには付与されない権利が存在するこの現状を、差別的と言わず、何と言おうか。

同性カップルが法律婚を選択できるようになることは、LGBT当事者の存在を社会が少しでも認知し、存在していて当たり前であると考えるきっかけの一つになるだろう。それは、LGBT当事者への差別的取り扱いを減らす、そしてそれは、いけないのだという意識が広まることにつながっていく。

真の「婚姻の平等」を目指して

同性カップルが法律婚を選択できるようになれば、婚姻の平等が実現するかと言えば、そうではない。1対1であり、性的接触や基本的には同居を伴う婚姻しか認められていない(セックスレスは離婚理由になるという判例がある)現状には、まだまだ問題がある。

好ましく思う相手や人々との関係性を法的に認め、家族を作るために、婚姻制度があるのだと、私は考える。その考えからすれば、パートナーシップ制度が多くの自治体に導入されても、同性カップルが法律婚できるようになっても、婚姻の平等が真に実現されたと言い切ることはできない。

大切にしたい関係性を、個々にフィットしたやり方で大切にできる制度設計がなされ、それが当たり前になってこその、婚姻の平等だ。別居でも、性的な接触がなくても、恋愛感情によらなくても、婚姻制度を利用していいはずなのだ。パートナーシップ制度や同性カップルの法律婚について考えるなかで、そういったことを問い直していきたい。

パートナーシップ制度を導入してLGBT当事者の存在を見つめ、支援している自治体に感謝するとともに、国が作る法律婚の制度を変えていくために、私が書き続けることを改めてここに宣言する。

■参考情報
・北海道札幌市パートナーシップ制度
https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/seido.html

・茨城県パートナーシップ制度
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/fukushi/jinken/ibarakipartner.html

・兵庫県明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度
https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/sdgs/partnershipfamilyship.html

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