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Writer/Jitian

アウティング 〜思いがけず加害者にならないように〜

SOGIのアウティング被害が、各地で度々起きています。今回は、実際にあった事件や、私自身の体験を紹介し、アウティングをしない・させないために気を付けたいことをまとめます。

SOGIのアウティングとは何か

まずは、アウティングとは何か、実際の事例を振り返ります。

アウティングとは、「許可なく」「第三者に」SOGIを伝えること

アウティングとは、他人のSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity:性的指向および性自認)を、本人の許可を得ずに第三者に明らかにする行為です。

SOGIに関わる話題を「腫れもの」のように扱い、LGBTQの存在を見えないものにすることは、生きづらさや差別解消の障壁になります。必ずしもよいこととは言えません。

一方で、LGBT差別解消法の法案提出が見送られたような日本においては、LGBTQ当事者に差別感情や嫌悪感を抱いている人が少なからずいることも事実です。個人のSOGIの開示はセンシティブな事柄で、当人のコントロールができる状態であるべきです。
この観点から、他人のSOGIを許可なく第三者に伝えることはNGなのです。

知らない人も多い? アウティング

LGBTQに “詳しい” 人であれば「アウティング」とはどういうことか、なぜ許されないことなのか、よくご存じだと思います。

しかし、LGBTQに関わる問題を他人事と捉えている人は、「アウティング」という言葉そのものを知らない可能性が高いです。そもそも、SOGIを「許可なく」「第三者に」伝えることが、いけないことであるということすら知らないかもしれません。

実は、つい先日である2021年12月にも、アウティングに関する事件があったことが明らかになりました。兵庫県尼崎市の職員内で、セクシュアリティをアウティングされた市職員がいたのです。

バイセクシュアルである保健所職員は、勤務中、話の流れで市民に自身のセクシュアリティを口にしました。その後、その市民が性的指向の話をされて不快であったと不満を明らかにしました。市民の不満を受けて、保健所幹部が、他の職員に事情を説明し、「市民にセクシュアリティを開示するのは公務員として不適切」だと、注意を呼びかけました。このとき、保健所幹部がバイセクシュアル職員のセクシュアリティを、他の職員にアウティングしたとされています。この後、この職員はアウティングされたことや、セクシュアリティの開示を悪いこととされたことに失望し、退職しました。

職員のセクシュアリティが許可なく第三者に伝えてられてしまったことはとても残念です。さらに「セクシュアリティを開示するのは公務員として不適切」だという注意が出回ったことも非常に悲しいことです。

アウティングはよくない行為ですが、本人が他者にSOGIを開示することそのものは別に悪いことではありません(SOGIの開示はカミングアウトです)。SOGIの開示をするかどうかは本人の権利であるということが、自治体職員に知られていなかったようです。

一橋大学アウティング事件

「アウティング」という言葉が広く世に知れ渡るようになったきっかけは、言うまでもなく「一橋大学アウティング事件」でしょう。

2015年、一橋大学の法科大学院でゲイであった男子学生が、大学の建物から転落して亡くなりました。この男子学生は、別の同級生にLINEグループでゲイであることをアウティングされ、それが原因で心身に支障を来したと言われています。

この事件について個人的にショックだったことは、私自身が事件当時、この事件からある程度 “近い” 環境にいたのに、この出来事をまったく知らなかったことです。

2015年、私は一橋大学と交流の深い大学に通う、大学生でした。私自身は一橋大学の大学生と直接の知り合いはいませんでしたが、多くのサークルは一橋大学とのインカレ(共同サークル)だったこともあり、大学の友人には一橋大学の知り合いがいる人が多かったです。

当時、私は学部4年生で授業がほとんどなかったため、大学に毎日のようには来ていませんでした。しかし、大学内で学生が自死するという衝撃的な事件が身近な大学で起きたならば、私の耳にも情報が入りそうなものです。

ですが、実際には、一橋大学アウティング事件について知ったのは、大学卒業からしばらく経って、事件が広く世間に知られてからのことでした。自分から近しい場所で事件が起きてから、事件のことを知るまでに、ずいぶんと時間がかかってしまい、非常に残念に思いました。

もしかしたら、あちこちで多様性の大切さが謳われ、LGBTQが “流行り” である今のような時代にこの事件が起きていたら、事件がすぐに世間的にも話題に上がり、大学というコミュニティを通して私のところにも情報が入って来ていたかもしれません。

第三者のアウティングを聞いてしまったこと

ここからは、私の個人的なアウティング体験を、なるべく個人を特定できない形で紹介します。

アウティングは、ある日突然起こる

まずは第三者のSOGIがアウティングされるのを聞いてしまったときのことをお話します。
 ※本記事で紹介する事例は、プライバシーに配慮し、一部変更し再構成しています。

久しぶりに中学時代の友人A、B、Cたちと集まっていたときのこと。友人A、B、Cは、少なくとも自分自身がLGBTQ当事者であると開示していない、恐らくシスジェンダー、ヘテロセクシュアルの人たちです。私自身も、友人たちに自分のSOGIを明らかにしていない、クローズドの状態でした。

このとき、共通の友人であるDについての話題になりました。友人Dは、中学のときに私たちとは別のクラスでしたが、仲の良かった男子です。

友人Dには、女子と付き合っていた時期がありました。別れた後に、相手からよりを戻そうとしつこくせまられていたものの、友人Dはまったくその気がなく困っていたことを、私たちは振り返っていました。そのとき、友人Aが「まあ、Dはゲイだからね」と、さらりと口にしました。

友人BとCは、友人Dがゲイであると知っていたようです。ただ神妙に頷くだけで、驚きもしませんでした。LGBTQに対して差別的感情を抱いている様子も見受けられませんでした。

しかし、私は友人Dがゲイであることを知りませんでした。つまり、友人DのSOGIのアウティングを私が受けてしまったのです。

その場の雰囲気に合わせ、私は友人B、Cと同じように、さも友人Dがゲイであると知っているかのように振る舞いました。しかし、内心は「友人Aが、友人Dがゲイであるとアウティングしてしまった。そして私はそれを聞いてしまった。どうしよう・・・・・・」と動揺していました。

仲がよくても、相手のSOGIを知っているとは限らない

私はこのとき、確かに友人Dのあずかり知らぬところで、友人DのSOGIを知ってしまいました。しかし、実は、それまでの友人Dの言動から、友人DのSOGIについて思い当たるところは数えきれないほどありました。

思い返せば、友人Dに最初に出会ったとき、私は「Dは、LGBTQ当事者ではないか」と直感していました(第一印象から、友人Dになら、自分のSOGIをカミングアウトできるかなと考えていたことも思い出しました)。それ以降の友人Dの言動を振り返ってみても「それっぽい」人ではありました。

また、私は自分自身のSOGIがバレるのを恐れて、友人たちの間で度々繰り広げられる、いわゆる「恋バナ」を、積極的に避けてきていました。もしかしたら、私の参加していなかった以前の恋バナで、すでに友人A、B、Cは、友人Dからカミングアウトを受けていた可能性も考えられます。もしくは、友人A、B、Cの間で、友人Dについてのアウティングがすでに起きていたのかもしれません。

しかし、繰り返しになりますが、私は友人Dがゲイであることを、明確な情報としては知りませんでした。そして、アウティングという概念も、アウティングがいかにいけないことであるのかも、知っているつもりでした。

しかしながら、私は勇気が出ず「それ、アウティングだよ」「本人の許可なく、第三者にSOGIを言っちゃダメなんだよ」と友人A、B、Cに注意することができませんでした。つまり、このとき友人A、B、Cがアウティングについて学ぶ機会もなくなってしまいました。

せめて「本人がいないところでは、そういうことは言わない方が良いよ」くらいのことは言えたのではないかと、今でも悔やんでいます。

私がアウティングしてしまったこと

大変恥ずかしいことですが「それ、アウティングだよ」と指摘されて、自分のしでかしたことに青ざめた経験もあります。

何気なく口走ってしまったアウティング

私が失態を犯したのは、LGBTQコミュニティ内でのことでした。

あるトランスジェンダー当事者を主体とするLGBTQコミュニティで、10人程度で遊んでいたときのこと。そのコミュニティの中で、その中にはいない知人E(トランスジェンダー)のことが話題に上がりました。コミュニティ内の大半が、知人Eのことを知っていました。

知人Eを知っている人が多いなら、次に集まるときは知人Eも誘おうかという話になりました。そこで、私が「Eさんも、トランス男性ですからね」と、知人EのSOGIを何気なく口走ってしまいました。すると、コミュニティ内の一人が「それ、アウティングだよ」と冷静に指摘してくれました。

その指摘で、私は自分の過ちに初めて気付きました。アウティングという概念はもちろん知っていました。それなのに、指摘されるまで、自分の言動がアウティングだったと気付けなかったのです。

一度口にしてしまったことは取り消せません。ひとまずその場にいた人に自分がアウティングしてしまったことを認め、注意に感謝し、そして謝りました。

「みんな知っているだろう」という思い込みによるアウティング

私の過ちにも、先ほどのアウティングした友人Aにも、共通点が一つあります。「みんな、あの人のSOGIを知っているだろう」という思い込みです。

確かに、私が属していたコミュニティ内のほとんどの人が、知人Eのことを知っていました。知人EはLGBTQコミュニティの中でも顔が広い方で、何十人も集めるような主催イベントを何回も開いていましたし、あちこちのイベントにも参加していました。

名前と顔を出してSNSアカウントも持っていて、LGBTQ当事者としてテレビに出たこともあります。つまり、広く世間的にカミングアウトしているとも言えます。

しかし、ちょっとした有名人であろうが、LGBTQ当事者コミュニティ内であろうが、LGBTQ当事者を差別する人がその場にいなかろうが、そういう問題ではないのです。

知人E本人の「許可なく」「第三者に」SOGIを口走ってしまったこと。この行為がいけないのです。

自分自身ではその自覚がまったくなくても、アウティングをしてしまっていることがあるかもしれないということにゾッとするとともに、「アウティング、ダメ、絶対」を改めて心に刻んだ機会となりました。

新型コロナ・オミクロン株の感染拡大が懸念されるところではありますが、今年は東京レインボープライドが3年ぶりにオフラインで開催される予定です。久々に会うLGBTQ当事者の友人たちに、ぽろっと第三者のSOGIを絶対に言ってしまわないように、改めて気を付けようと思います。

■参考情報
両性愛を告白の尼崎市職員に市幹部が指導「市民に明かすのは不適切」 失望し退職「ショック。無理解を容認」(神戸新聞)
https://nordot.app/843824568391548928?c=110564226228225532

 

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