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Writer/雁屋優

トランスジェンダー、Xジェンダーと性別違和(性別不合・性同一性障害)の治療

性別適合手術について、調べたことのある方もいるかもしれません。望む性別の身体になることは、心身の苦痛を和らげる可能性があります。トランスジェンダー、Xジェンダーなど、性別に違和感のある人々は、医療とどのようにつきあうのがいいのでしょうか。私自身の気持ちも交えて、考えていきます。

トランスジェンダー、Xジェンダーは “精神疾患” か

ある日、手に取った科学雑誌では、“精神疾患” として、性別違和(性別不合・性同一性障害)が紹介されていました。私はXジェンダーとして、医療との距離を考える思索の旅がここから始まります。

精神疾患として紹介されていた性別違和(性別不合・性同一性障害)

つい先月のことです。私自身が精神障害を持っていることもあり、自分の病気について知識を深めようと、ある科学雑誌を購入しました。精神疾患においては、自身の病状を自覚することが回復のためになるということもありますし、一番は、私が医学に興味を持っていたからです。

帰宅して、科学雑誌を開いて、目次を見た私の目に飛びこんできたのは「性別違和」の項目。本来目的としていた、私自身の精神疾患はそっちのけで、ページをめくり、“性別違和” のページを読み始めました。

トランスジェンダーやXジェンダーって、病気なの?
治療しなくてはいけないの?

そんな思いで、いっぱいになりました。

トランスジェンダーやXジェンダーの人々のなかで治療が必要な方がいることは、既に知っていました。しかし、精神疾患として紹介されていることには、納得がいきませんでした。

2022年からは精神疾患ではなくなる

ショックのあまり、最初に読んだときは読み落としていたのですが、2018年に世界保健機関(WHO)より診断基準「ICD-11」が発表され、性同一性障害が「精神疾患」から外れることになりました。2022年に実効されます。

「ICD-11」で、これまでは精神疾患の一つとして記載されていた「性別違和」は、新たにできた、性の健康に関連する状態の一つとなり、名前も「性別不合」に変わります。自分の性別に違和感があることは、精神疾患ではなくなるのです。

この記載を見て、私は心からほっとしました。性別に違和感を持っていることそのものが病気なのではなく、望む性別と実際の性別が一致しないことに苦痛があると解釈が変わっているからです。

トランスジェンダーやXジェンダーと治療

それでも、医療の診断基準に載っていることに、不満のある方もいるかもしれません。私も、この結果に完全に納得できるわけではありません。しかし、性別適合手術やホルモン療法などを望む方には、必要なことなのです。健康体に投薬や手術をするわけにはいきませんから。

ここで改めて、私はトランスジェンダーやXジェンダーの人々と、治療との距離について考えてみることにしました。

性別違和(性別不合・性同一性障害)の治療

治療というと、まっさきに性別適合手術を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。私も、その一人でした。

治療を知ることへの恐怖

性別違和(性別不合・性同一性障害)と診断されたトランスジェンダーやXジェンダーに対する治療を調べようと思い立ったものの、インフルエンザワクチンで大騒ぎするほど痛みが苦手な私は、検索する勇気を出すまでに時間がかかりました。自分がもしこの治療を受けるとしたらどんな風だろう、と想像したときに痛みまで想像してしまうのが、怖かったのです。

そうは言っても、いつかは知るべきことなのだとわかっていました。そして、勇気を出して、「性別違和 治療」と検索しました。

その結果、治療を受けたトランスジェンダーやXジェンダーの方の体験談や、ジェンダークリニックのサイトがヒットしました。そこで、私は、トランスジェンダーやXジェンダーの方が受ける治療とは、性別適合手術だけではないことを知ったのです。私自身が治療を必要としていないことから、これまで本腰を入れて調べたことがなかったのです。

日本国内でも性別違和(性別不合・性同一性障害)の治療が受けられる

性別違和(性別不合・性同一性障害)に関する治療について、私は、「お金がかかる」「海外に行く」などの断片的な情報を持っていました。実際に治療を受けた方の体験記を読んでも、費用のかかるものであることは間違いなさそうです。ただ、具体的な金額はその方の望む治療や、医療機関によって違うようでした。

海外に行かなければそのような治療を受けられないかというと、そんなことはありません。限られていますが、国内にも性別違和に対する治療を行っている医療機関は存在します。ジェンダークリニックやジェンダー外来などで、性別違和に関する治療が受けられます。

また、日本国内で治療を受けるためには、かなり個人的なことまで医師に話さなければならない、精神療法と手術療法は健康保険を適用できるものの、ホルモン療法との併用では保険適用できないなど、ハードルは高いです。

性別違和(性別不合・性同一性障害)の治療に関する問題点

性別違和に関する治療は高額です。治療を望む人々は、他のことを犠牲にして、治療のためのお金を貯める必要があります。もちろん、治療そのものの負担ものしかかってきます。

現状、トランスジェンダーやXジェンダーで治療を望む人々は、度を越してそうでない人々より多くのコストをかけさせられている。私は、そう感じました。

私の精神科通院には、自立支援医療制度があります。難病で、一定額以上の治療を必要とする人にも、補助があります。しかし、トランスジェンダーやXジェンダーの人々が治療を望んだとき、そういった支援が適切に用意されているとは到底言えません。

ジェンダークリニックは不十分

ジェンダークリニックやジェンダー外来自体が、そもそも足りていません。

地域で治療を受けられない

さまざまな問題を抱える治療ですが、とにかくジェンダークリニックやジェンダー外来にたどりつけば、何とか治療を開始できるのだろうと思っていた私は、とんでもなく甘い考えの持ち主でした。まず、ジェンダークリニックやジェンダー外来といった、専門の医療機関の数は、多くありません。

地方では、治療を望むトランスジェンダーやXジェンダーの人々が、遠方の都市圏にある医療機関に通う、といったことも少なくないのです。遠方の医療機関に通う際の交通費も、大変なものです。

ジェンダークリニックの問診票

そうしてたどりついたジェンダークリニックでは、いったいどんな風に治療が行われるのでしょうか。私は治療を望んでいないXジェンダーなので、自分の体験を書くというわけにはいきません。精神科で少しばかり「性別に違和感がある」と話したことはありますが、それとは様子が違っているはずです。

ジェンダークリニックを検索していると、問診票を公開しているところがあったので、どんなものなのか、見てみました。読んでみて、唖然としました。これを、性自認に悩む人に書かせる、もしくは質問する。そう思うだけで卒倒しそうな内容でした。

治療に必要なのかもしれません。しかし、性自認に悩む人々に対し、いくつもの嫌な体験を詳細に思い出させるような質問が並んでいます。また、現状について尋ねる質問も、つらいことを考えながら答えなければならないようなものばかりです。

治療はやはりハードなもの

私はインターネットから問診票を見ただけですから、判断を下すことは避けておきます。実際には時間をかけて、患者と医師の信頼関係を築きながらこの内容を聞き取っていくのかもしれません。それでも、トランスジェンダーやXジェンダーの人々が治療を望むことは、たしかにハードであるとよくわかりました。

性別違和に悩む人々に情報を

トランスジェンダーやXジェンダーという言葉を知らなかった頃の暗闇を、私は忘れられません。

性別違和(性別不合・性同一性障害)の治療について、知識をアップデートし続ける

恥ずかしながら、私は、この記事を書くまで、トランスジェンダーやXジェンダーの人々がもつ性別への違和感に対する治療とはどういうことか、よくわかっていませんでした。テレビで、「おネエ」の方々が海外で性別を変えた話をするのを観たときのまま、知識がアップデートされていなかったのです。

痛いのもつらいのも嫌なので、現在治療は望みませんが、将来、飲み続けることで無性であれる薬が開発されて、その副作用が小さく、費用も手が出せるものであるなら、私は投薬を望むでしょう。そのようなことが、実現可能かどうかはわかりません。

けれど、もしも実現したときのために、普段から情報収集したり、治療を受けたトランスジェンダーやXジェンダーの人々が生きやすいように行動したりすることは、決して無駄ではないはずです。

言葉に出会う、そして世界を知る

私は高校生になってからトランスジェンダーやXジェンダーという言葉を知り、自分がXジェンダーだとはっきり自覚するまでに十年近くを要しました。言葉を知り、自身のセクシュアリティを自覚するのにも、ここまで時間がかかっていたのです。

また、性別違和(性別不合・性同一性障害)の人々に対する治療の知識にたどりつくまでにも、相当に時間を必要としました。何でも検索すればわかる時代ではありますが、検索する言葉を持たなければ、検索できません。

トランスジェンダーやXジェンダーの人々にとって、性自認に悩み続けるのは、苦痛です。自分が何に苦しんでいるのか、どうやったら解決できるのか、何一つわからず暗闇をさまよっています。その状態を解消するには、概念、つまり言葉が必要です。

状態を表現する言葉があり、そして選択肢を知ることは、大きな救いになると思うのです。
もちろん、トランスジェンダーやXジェンダーだからといって、治療をしなければならないわけではありません。治療を行わないことも、選択肢の一つです。でも、治療することもできると知っていることは、性自認に悩んでいる人々にとって、一つの光になると、私は考えています。

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