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Writer/Jitian

米大統領選、日本のLGBTQ当事者も他人事じゃない!

先日、アメリカ大統領選が行われました。最終的には最高裁まで泥沼の争いが続くとみられていますが、現状はバイデン氏が当選の見通しです。

さて、日本でもここ最近毎日のようにニュースで聞かれる米大統領選。実は日本のLGBTQ界隈も注目すべきだと思っています。今回は、トランプ大統領在任の間、主にトランスジェンダーがどのような扱いを受けていたのか振り返りたいと思います。

トランスジェンダーは軍隊に入れない?

今回の選挙では、トランプ大統領とバイデン氏の丁々発止のやり取りばかりがフォーカスされ、政策方針や実績にあまり目が向けられなかった印象があります。しかし、トランプ大統領の実績をトランスジェンダーという観点から振り返ると、実は明らかな差別的政策が行われていました。そのうちの一つが、軍隊における政策でした。

トランスジェンダーは従軍できない?

2017年、トランプ大統領は自身のTwitterで、トランスジェンダーの人がアメリカ軍で仕事をすることを認めないと発言しました。

これは、あるマイノリティが自由に職業に就けないように制限するという、明らかな差別です。しかも、そういった明らかな差別を、世界で最も権力を持つ一人が、Twitterという世界中の誰もが目にするプラットフォームで発信するというのは、到底受け入れられない、考えられないものでした。

実際、このニュースは当時の日本でも数日間全国レベルで取り上げられるほど、世界的に大きな波紋を呼びました。言われてみれば、そういうこともあったなと思い出す人もいるのではないでしょうか。

アメリカ軍で働くトランスジェンダー

新たにアメリカ軍隊に入隊したいと考えているトランスジェンダーが、大統領の好き勝手な発言によってその望みをかなえられないのは、極めて重大な問題です。

一方で、このトランプ大統領の発言がなされた時点で、実はすでにアメリカ軍には多くのトランスジェンダーが仕事をしていました(当たり前のことではありますが)。2016年のある調査では、予備役を含めると約4,000人のトランスジェンダーが働いているという結果が出ています。さすがアメリカ軍、働いている人の人数も非常に多いですが、トランスジェンダーの人数だけも大企業並み。驚くべき数字です。
現代の日本は軍を持っていないのであまり考えにくいかもしれませんが、アメリカの軍人はいわば公務員の一種です。ただでさえ、就職活動で差別に遭うなどして就職が難しいトランスジェンダーには、軍隊が手堅い就職先の一つの選択肢なのだそうです。

すでに入隊しているトランスジェンダーは?

長らく活動していたトランスジェンダー当事者、アライたち

トランプ大統領が就任する前、つまりオバマ政権のときから、軍隊の中のトランスジェンダー差別撤廃などを求めて、軍隊に所属する一部のトランスジェンダー当事者や、その家族などのアライの人々が内外で活動を行っていました。しかし、彼らはその時々の大統領の政策方針によって左右され、一歩進んでは二歩下がるような、悔しい思いをしてきたのです。

現在所属しているトランスジェンダーの軍人の方は、目立たないように、またはトランスジェンダーであることがバレないように出生時の性別のまま、惨めな思いをしながら働いていると言います。政権が変わっても、変わらなかったとしても、トランスジェンダーの軍人たちがこのような肩身の狭い思いをすることから、一刻も早く解放されるのを祈るばかりです。

アメリカ国内の反応は?

トランプ大統領のTwitter発言に対し、当時アメリカ国内では有名セレブや、いわゆる世界を牛耳る大企業「GAFA」の経営者たちなど、数多くの著名人からの批判、非難の声が殺到しました。これには、当事者であるアメリカ軍隊希望者や、すでに入隊しているトランスジェンダー、それ以外のあらゆるトランスジェンダー当事者やアライの人も勇気づけられたのではないでしょうか。

かく言う私も、トランプ大統領の発言について、「2017年にもなって、世界の最高権力者が、こんなこと言っちゃうんだ・・・・・・」と、最初はショックを隠せませんでした。しかし、その後怒りの声が続々と上がる様子を見て、「LGBTQ当事者でなくても、こうしてはっきりトランスジェンダーへの差別発言を批判してくれる人がこんなにいるのも、また救いだな。やっぱり時代は進んでいるんだな」と感じたことを覚えています。

それに比べ、先日の足立区議、春日部市議の発言に対して、明確にNOという声明を上げている著名人が、果たしてどれくらい日本にいるでしょうか。

もちろん、色んな番組でニュースとして取り上げられましたし、足立区議や春日部市議の発言を批判するキャスターやコメンテーターもいました。全国レベルで取り上げてくれること、批判コメントを出してくれることだけでも、10年前に比べればかなり進んだと思います。

しかし、アメリカに比べると、こういった出来事に対してLGBTQ当事者以外の人たちは、まだ対岸の火事という印象を持っている人が多いように感じられます。実際、足立区議の発言に関して「足立区を滅ぼす」といったワードが、面白おかしいものとしてトレンドに上がりました。著名人による政治的発言(主に現政権批判)が叩かれる風潮がある日本では、はっきりと声明を出すのは難しいのでしょうか・・・・・・。

トランスジェンダー差別を容認?

トランプ大統領は、トランスジェンダーの軍隊加入を認めないという方針を打ち出した後、さらに大胆な方針を発表したこともありました。

性別=生まれたときの身体の性別のみ!?

前述の通り、トランスジェンダー従軍問題は日本のニュースでも取り上げられたほど、世界中で波紋を呼びました。

しかし、トランプ大統領はこれでも懲りなかったのか、翌年の2018年、性差別禁止条項の読み替えを行いました。性差別を禁止するのは、非差別側が出生時の性別に対して差別された場合だけであるというように解釈を変更したのです。つまり、トランスジェンダーなどが性別を移行した場合や、ジェンダーアイデンティティに基づく性別は、差別禁止の対象から外すよう計画していると発表したということです。

これが正式に成立した場合、トランスジェンダーへの差別が公然と行えるということになります。到底、看過できるものではありません。

すんでのところで差し押さえ

もちろん、この読み替えによる変更も、複数の当事者団体が訴訟を起こして争っていたように、アメリカ国内でも物議を醸したようです。

実際、今年2020年の夏にこの条項が施行されることになっていましたが、ニューヨークの地方裁判所で施行差し押さえとなりました。司法が正当な判断をしてくれて、本当によかったです。

このように、トランプ政権下では、トランスジェンダー差別が公然と行われようとしていたのです。日本国内のLGBTQを取りまく情勢ももちろん注視しないといけませんが、なんせアメリカは世界一の大国です。世界の潮流を作る発信地でもあるので、こういった出来事には今後も注目したいものです。

バイデン氏に求められるものとは

LGBTQ当事者のことを忘れない

今回の大統領選勝利宣言の演説で、バイデン氏はLGBTQ当事者を含めたマイノリティや生きづらい人の存在にも言及し、彼らを支えると宣言しました。勝利演説の中で、LGBTQ当事者のことに明確に触れられたのは、歴代の勝利演説でもこれが初めてです。

アメリカくらいの大国となると、外交、環境など、あらゆる社会問題が常時議論されているので、とかくLGBTQ差別問題は忘れられがちなように感じます。しかし、早速言及してくれたとなると、前述の軍隊問題などは早急に解決されるのではないかと、個人的にはバイデン氏に期待したいです。

初の黒人女性の副大統領となるハリス氏

今回のバイデン氏当選確実との報道に対し、バイデン氏よりむしろ注目を集めているのでは? と感じるのが、副大統領に就任予定のハリス氏です。副大統領として黒人女性が就任するのは、今回が初めてとなります。

人種、性差別の中で特に激しく差別されているのが黒人女性です。黒人、女性と言う二つのマイノリティを抱えているからです。今回、ダブルマイノリティであるハリス氏が就任することで、LGBTQを含むあらゆるマイノリティの人にも、政策のスポットライトが当たることを個人的には願っています。

バイデン氏のセクハラ問題は?

一方、繰り返しになりますが、今回の大統領選挙では「史上最悪」と言われた討論会でのやり取りの様子など、その「外面」ばかりが注目されました。肝心である過去の実績や今後考えている政策などは、あまり取り上げられなかったように思います。

ところで、バイデン氏はハリス氏を副大統領に起用するなど、マイノリティに理解があるのかと言えば、そうでもないのかもしれないと思わせられる過去の疑惑があります。バイデン氏が、議員や従業員にかつてセクハラや性暴力を奮ったという証言や告発が、主に昨年や今年の春頃を中心に相次ぎました。

バイデン氏はこれらすべてを否定しています。疑惑の真偽は、結局のところ、選挙戦が終わりつつある今もなお、はっきりしていません。

そもそも、日本に比べてアメリカはハグやキスといった接触が多い文化なので、一部の告発内容(キスされた、肩を触られた、など)は本当にセクハラに値するのかといった声も上がっているそうです。セカンドレイプは避けなければなりませんが、確かに日本とはボディタッチに対する感覚が異なるのだろうなと思います。

しかし、年齢を言えばバイデン氏は後期高齢者です。今はもうそのような卑劣なことはしないかもしれませんが、ひと昔前、ふた昔前だったら、バイデン氏でなくともセクハラが日常的に当たり前のように行われていたとも考えられます。

最終的には、最高裁での判決をもって次期大統領が正式に決定することになると思いますが、バイデン氏が大統領になった場合、トランスジェンダーをはじめとするLGBTQ当事者に対してどのような政策や方針を打ち出すのか、引き続き注目したいです。

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