トランスジェンダーへのSOGIハラ要因は、性別移行に関する知識のなさ?
まずはトランスジェンダーへのSOGIハラ要因と思われる性別移行について、私の考えを話していきたいと思う。
トランスジェンダー女性へのSOGIハラが労災認定になった
SOGIハラは、性的指向(セクシュアルオリエンテーション)や性自認(ジェンダーアイデンティティ)に関するハラスメントをまとめた呼び方だ。
2020年6月から、企業はSOGIハラを防止することが義務付けられている。当初は大企業のみの義務だったが、今年4月から中小企業を含めるすべての企業が対象となった。
そして2022年6月30日、企業につとめるトランスジェンダー女性に発生したSOGIハラが労災認定となった。
女性が受けたハラスメントは複数ある。
女性は10年以上前から髪を伸ばし始めた。しかし上司から髪を切ることをうながす発言をくりかえし受ける。
そのあと性別移行を会社で公表した際にも上司から「くん」や「彼」などの言葉でくりかえし呼ばれ、自認する性とちがう呼び名で呼ばれる【ミスジェンダリング】を受けた。
そのうえ「戸籍上の性別変更をしてから言いなさい」「女性らしく見られたいなら、こまやかな心遣いが必要」(*1)など、性自認をまるごと否定するような攻撃も受けた。
(*1)この発言は私の目にはセクハラとSOGIハラが同居しているもののように見える。
これらのハラスメントの結果、女性は睡眠障害やうつ病を発症し2018年12月から休職することとなってしまった。(その後2021年9月に復職)。
トランスジェンダーの性別移行に関する知識のとぼしさがSOGIハラの引き金に?
今回のSOGIハラの加害者は、加害者の考えの中で「女性である」と証明できる要素がないと「トランスジェンダー女性は女性になることはない」と思い込んだような発言をしているように思える。
私は、こういった認識は大いに間違っていると思う。そしてこうした間違った認識は、性別移行に関する加害者の知識のとぼしさによるものと思えてならない。
そのため今回はトランスジェンダーの性別移行とは何か、その多様な実像を話していこうと思う。
性別移行とは―トランスジェンダーへのSOGIハラを起こしてしまう前に
トランスジェンダーの性別移行は【プロセス】だと思う
まずは性別移行について、私の考えを明らかにしておきたい。
性別移行とは、トランスジェンダーが自らの望む性別として生活していくプロセスのことだと私は思っている。
なぜプロセスと呼ぶかというと、私の経験上「この人は○○したから女性/男性/ノンバイナリー/Xジェンダーとして生きていける」といった画一的な型やゴールがあるわけではなく、さらに一朝一夕に叶う変化ばかりではないからだ。
そのプロセスは、自分の望む性のあり方とは何なのか自分と向き合い、それに合わせてどんな変化をどこまで行いたいのかよく考えながら、少しずつ移行していく地道な時間だと思う。
かくいうノンバイナリーの私も性別移行をはじめてそろそろ3年が経つが、いまだにいつごろ性別移行が終わるのか・自分がどう変化していくのかまったくわからないでいる。
プロセスには、たとえば以下のようなものが含まれる。
・服装や振る舞いなどの見た目を変えていくこと
・周囲にカミングアウトして、自認する性別として関わってほしいことを告げること
・通称名をつかうこと/または戸籍の名前を変更すること
・公共施設で望む性別としての施設を使うこと(トイレや更衣室など)
・医療ケア(手術やホルモン療法など)を用いて体を望む性のものに近づける
・戸籍の性別を変更すること など
性別移行のプロセスを無視するとトランスジェンダーへのSOGIハラを引き起こすかもしれない
プロセスの例を挙げたが、何をどのくらい行うのかむしろまったく行わないのかは、トランスジェンダーでも人それぞれだ。
しかし世間では「トランスジェンダー=精神科での診断 (*2)=医療ケアを受ける=戸籍変更」といった紋切り型の式が出来上がっているように思える。
こういったトランスジェンダーを一緒くたにする誤解が、他人による性別移行を認める/認めないというジャッジを促進しSOGIハラを起こしてしまうのだと思う。
トランスジェンダーの中には、医療的処置を望む人望まない人、部分的に望む人もいたりさまざまなのに。
(*2) 性別不合(性同一性障害)の診断は、精神科の受診が必要だ。改名や戸籍の性別変更は、医療ケアを望む際に必要となる。しかしすべてのトランスジェンダーが望むものではないので、トランスジェンダー=性別不合(性同一性障害)は間違い。
性別移行に決まった型は存在しない
「◯◯を達成しなくては望む性として生きていくことはできない」なんて決まりきった型はない。トランスジェンダー男性/トランスジェンダー女性/ノンバイナリーやXジェンダーにただしいあり方があるわけではない。
なのに「医療ケアを受けていないから」「戸籍を変更していないから女性/男性ではない」などと他人が偏った目線で決めつけることは、その人の性自認を否定する差別発言、つまりSOGIハラだ。
本人がそう思うなら、その人の性別は絶対にその人の思う通りのものだ。他人がとやかくいうことではない。
性別移行は十人十色!-具体例を知ってトランスジェンダーへのSOGIハラを防ぐ
トランスジェンダーの性別移行は十人十色。SOGIハラを防ぐためには知ることが大事
性別移行のプロセスはさまざまだ。これを知っておくことは、トランスジェンダーへのSOGIハラを防ぐことにつながると思う。
ここでは性別移行がどのように十人十色なのか、私がこれまで聞いたことがある例を伝えていこうと思う。
【振る舞い方】
トランスジェンダー男性/女性、ノンバイナリー/ Xジェンダーなどに関わらず、人によって男性/女性/中性らしい要素を取り入れるのか/取り入れないのか、そして取り入れる程度もさまざま。「◯◯ならば、〜だ」という、定まったただしい振る舞い方はない。
【通称名/戸籍名の変更】
通称名を使う人/使わない人、名前を変更する人/しない人などさまざま。たとえ自分の望む性と違う名前がもともとついている人でも、変更するとはかぎらない。
【カミングアウト】
職場にカミングアウトをする人/しない人、職場によって分ける人、親にカミングアウトをする人/しない人、パートナーにカミングアウトする人/しない人などさまざま。カミングアウトの範囲が広い方がよいということはない。
【公共施設の利用】
性自認通りのトイレや更衣室を使いたい人/使いたくない人、性別で分かれていないトイレや更衣室を使いたい人/使いたくない人などさまざま。トランスジェンダーならば、特定の施設を使わないといけないということはない。
【医療ケア】
医療ケアを受ける人もいれば受けない人もいる。選択する内容もさまざまだ。医療ケアを受けなければいけないということはない。
【戸籍の性別変更】
戸籍の性別を変更する人もいればしない人もいて、性別を変更しなければいけないということはない。
性別変更要件の厳しさのため踏みきれないと感じる人もいる。現在、戸籍の性別変更に関する法律では、生殖機能を失わせる手術を含める厳しい要件をすべてクリアしなければならない。
さらにノンバイナリー/Xジェンダーは、いまだ戸籍上認められていない性別のため戸籍変更の法律がなく、たとえ望んでいてもノンバイナリー/Xジェンダーの戸籍を得ることはできない。
性自認に関する違和感も多様
性別移行のプロセスに加えて、性別移行にいたる性別違和に関しても紋切り型が発生しやすいので例を挙げようと思う。
【性別違和に気づいた年齢】
3才ごろから18才以降の大人になってから気づいた人などさまざま。早く気づいていた方がただしいということはない。
【体との違和】
体全体に違和がある人、部分的にある人、まったくない人などさまざま。体との違和がなければトランスジェンダーではないということはない。
【社会が自分をどうとらえるかの違和】
日常的に高い頻度で違和を感じている人、場面によっては感じる人感じない人、あまり感じない人などさまざま。違和感が強ければ強いほどただしいというわけではない。
トランスジェンダーへのSOGIハラを防ぐために、性別移行の多様性を知ろう
トランスジェンダーのただしいあり方はない
ここまで紹介したように、一口にトランスジェンダーと言っても人間なのだから人それぞれ違う。「ねばならない」は存在しない。
もし、そもそも他者のSOGI(性的指向/性自認)に対して「ねばならない」があると思うなら、それはもしかすると、世の中には多様なセクシュアリティ(人間の性のあり方)があることを自分が知らない証拠かもしれない。
トランスジェンダーへのSOGIハラを防ぐために、性別移行の多様性を知る
だから「ねばならない」に気づいたら、それは多様なセクシュアリティついて知識を集める絶好のチャンスだ。
知識不足によりSOGIハラを起こし誰かを深く傷つけてしまう前に、このチャンスを生かして自分から積極的に知識を蓄える必要があると思う。
知識不足は人を傷つけるが、逆に知識を蓄える人が増えると性別移行をするトランスジェンダー本人の認識や意向がそのまま尊重される生きやすい社会になっていくと思う。
どんなあり方のトランスジェンダーもまるごと受け入れられる、そんな社会にみんなで生きていきたい。
■参考情報
・トランスジェンダー社員に上司「戸籍の性別変更を」・・・「SOGIハラ」でうつ病、労災認定 | 讀賣新聞
・2022年4月から中小企業もハラスメント防止義務化!SOGIハラ対策は進んでいますか? | 汐留社会労務士法人
・日本:性同一性障害者特例法改正に向けた気運が高まる | ヒューマン・ライツ・ウォッチ