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Writer/HIKA

LGBTのセーフスペースを意図しない6色のレインボー

最近、レインボーのイラストなどがあしらわれたポスターやグッズを公共空間で目にする機会が増えた。自分たちにとってレインボーを安心安全な場所―セーフスペース―の目印としてきたLGBTにとって、この状況は良いことなのか? 考えてみる。

レインボーはLGBTにとってどういう意味? セーフスぺ―スって?

LGBTにとってのレインボー

赤、オレンジ、黄、緑、青、紫。この6色のレインボーは、LGBTのプライドを表す柄だ。

その歴史は古く、1970年代後半サンフランシスコのゲイプライドで使われたレインボーフラッグが発祥とされている。その後普及しやすくなるよう現在の6色レインボーフラッグに変更されたり、インクルーシブになるためトランスジェンダーフラッグ(水色、ピンク、白)や有色人種(茶、黒)を示す色が追加されたりしながら、今日までさまざまなLGBTのプライドと共に歩んできた。

レインボーは、どう使うかによってその意味が変わることがある。たとえばLGBT当事者が使う場合は、自身のクィア性を自身で肯定し精神的な健康を保つ目的があったりする。

また、デモなどの運動でLGBTの人権擁護を訴えるときにはLGBTの存在を可視化し、性の多様性を周知する目的のためにも働いたりもする。

こういったさまざまな用途がある中で今回考えていきたいのは、セーフスペースとして使われる6色のレインボーに関してだ。

セーフスペースの目印になるレインボー

6色のレインボーグッズは、LGBTの心と体を守る最後の砦-セーフスペース-を自らが提供すると表明する効果をもつ。

セーフスペースは、安心安全に自分らしくいられる個人間の関係や空間のこと。

このセーフスぺ―ス、社会で生きていくためには、多くのLGBTにとって必要不可欠なものなのではないかと思う。シスジェンダー・ヘテロセクシュアルを前提にする社会でLGBTが生きていくのは危険ばかりだからだ。

いつでもどこにいっても自らを否定され続ける状況は、LGBTの心と体を危険にさらしてきた。低い自己肯定感、うつ、希死念慮、いじめ、虐待、暴力、性暴力、貧困・・・・・・。

LGBTには、社会から守られ安心安全に自分らしくいられるセーフスペースが必要なのだ。

そして6色のレインボーフラッグはもちろん、レインボー柄のポスターやシール、バッジ、そのほかさまざまなグッズは、セーフスペースのありかを示すために使われてきた。とりわけLGBTのプライドの象徴として多く使われてきたのが、冒頭で紹介した赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色レインボーだ。

LGBT当事者の私にとっても

LGBT当事者の私を、レインボーを掲げる人と組織はサポートしてくれた。

私はトランスジェンダーのノンバイナリー。性別移行をして、自分のノンバイナリー性を表現するような服装や振る舞い方に変えている。その結果、知らない人にじろじろ見られたり、ときには敵意に満ちた目でにらまれるようになった。いつまで経っても慣れないほど、恐ろしいことだ。

男性or女性のバイナリー(2言論)は、私がこの世に存在することを否定する。病院や役場の「男・女」の性別欄の前で立ち尽くし、会話や広告に登場する「男女」という言葉に息を詰まらせ、外ではトイレにも公衆浴場にも行けずみじめな思いばかりしている。

しかし外で精神や身体が危険にさらされても、安心できると思える職場に出会った。そこにはレインボーフラッグが掲げられ、レインボーで彩られた社内ポスター、そのほかレインボーグッズを身に着ける社員がいる。

部を挙げてLGBTのセーフスペースづくりに努めている私の職場は、セクシュアリティに関わるプライバシー保護やハラスメント対策、性自認や性的指向などを尊重した整備がよくされていると思う。

さらに職場の同僚は、私がオープンにしている性自認や服装、振る舞いを尊重するのみならず、どの呼称(さん、くん、ちゃんなど)で呼ばれるのを望むかも聞いてくれた。もし間違えたセクシュアリティと私を関連づけてしまうことがあれば、訂正し心から謝ってくれた。

そんな職場で掲げられている6色のレインボーは、安心安全に自分らしくいられる空間のシンボルだ。

しかし昨今街中に増えたレインボーはこうしたセーフスペースを示す目的で使われているのか、疑問に思うことがある。

LGBTのセーフスペースとは無関係の6色レインボー・・・

レインボーは増えたが、LGBTにとっては・・・

6色のレインボーを街中で見かけることが格段に増えた気がする。レインボーが使われたポスター、バッグにタンブラー、帽子、Tシャツ、アクセサリー、リフレッシュグッズ、そのほか諸々のグッズ。

レインボーが街中に増えたことでLGBTがセーフスペースを見つけやすくなった、そうしたプラスの変化が起きるように思えるかもしれない。

しかし私はそうは思えない。むしろマイナスなのでは、と思っている。

なぜならそのレインボーを使用する人の多くは、6色のレインボーがLGBTのプライドの象徴であるという認識のないまま使っていると明らかな場合が多いからだ。

だれのための6色レインボーか

マイナスだと思ったきっかけは、単なるモチーフやかわいい柄として起用された6色のレインボーを目にしたこと。そう、LGBTやプライドに関連のあるテーマや言葉は見当たらないグッズだったのだ。

この状況には、作り手側が6色のレインボーをLGBTプライドの象徴という認識なく使用すると同時に、消費者側にも問題がある気がする。

ためしに有名ブランドが出している6色レインボーグッズの口コミを見てみると、LGBTに関連性のあるコメントはほとんど見つからない。よくあるコメントは「柄がかわいい」「遠くからでも目立つ」「珍しい」など。こうしたコメントから推測するに、6色レインボーはLGBTとは関係のないモチーフととらえられていそうだ。

もちろん口コミだけを見て、6色のレインボーがLGBTのプライドの象徴であるという認識なく消費されていることが多いと言い切ることはむずかしい。でももし、LGBTのプライドの象徴だという認識があった上で使用されていたら、LGBTにとってもう少し生きやすい社会になっていていいはず。

つまり、6色レインボーはいまやLGBTのためのものではなく、マジョリティ=シスジェンダー・ヘテロセクシュアルのためのおしゃれな柄なのだ。

こうして、6色のレインボーグッズがLGBTプライドの象徴だという認識なく増加することはLGBTを危険にさらすのではないかと、私は危惧している。

いまのレインボーの使われ方は、LGBTにとって危険?

どこにLGBTのセーフスペースがあるのか分からなくなる

セーフスペースの目印ではないレインボーが増えることは非常に危険だと思う。どこがセーフスペースなのかそうでないのかの違いが分かりにくくなってしまうからだ。

冒頭にも言ったが、セーフスペースはLGBTにとって最後の砦。砦がどこにあるのか分かりにくければ、アクセスしにくくなってしまう。

助けが必要なときに、どこに助けを求めたらいいか分からない。そんな状況になればLGBTが抱える理不尽な問題がエスカレートし、本来助かるはずだった命が助からなくなることも考えられる。

たとえば職場でSOGIハラ(性的指向・性自認に関する侮蔑的な言動)が起きてしまったら。人事部に助けを求めるのと同時に、同じ職場でSOGIハラを目撃していて助けてくれそうな人を見極める必要も出てくるだろう。

そんなとき、単なるモチーフとして6色のレインボーを身に着けている人とセーフスペースの提供のためにレインボーを身に着けている人が混在していれば、誰に助けを求めたら良いか分からなくなり一人で抱え込んでしまうかもしれない。

またはレインボーを見て助けを求めた先が、実はセーフスペースを示す目的ではなくモチーフとして使っていた場合、逆にSOGIハラに合うきっかけになってしまうかも。

どの可能性をとっても、LGBTの精神的、身体的な健康を奪いかねず、最悪の場合は生存を左右してしまう重大な問題となりかねない。

6色レインボーの誤用により新たに生まれる危険

セーフスペースへのアクセスしにくさ以外にも、危険は考えられる。

それは、セーフスペースを示す重要なシンボルである6色のレインボーが誤用されることによる精神的ストレス。実際、私はストレスを感じている。マジョリティがいかにLGBTに無関心か、思い知らされてしまうのだ。

「自分の周りにLGBTはいないよ」

こうした発言を耳にしたことがある人は少なくないと思う。この発言は、LGBTがクローゼットになる確率が高いことが関係している、ということを理解しているが、傷つきボロボロの私はそうした背景に思いをはせる前に、LGBTに無関心でいられる社会の現実にうちのめされてしまう。

無関心。このあからさまではない暴力に、私は苦しんでいる。LGBTに無関心でいるということは、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルが基準である社会で、自身の苦痛がこれからも続くということになり得るからだ。そしてこの基準はLGBTを「個性がある人」とか「変わった人」、つまり「普通」の基準を満たさないエラーとしてラベリングする。

実際にラベリングされると、「自分と同じ人間ではない」と線を引かれ疎外されていると感じてしまう。

6色レインボーがマジョリティに消費されている状況は、紹介したような発言での無関心さによく似ている。

6色レインボーは、セーフスペースを示す目的で使われていくのか?

6色のレインボー=LGBTのセーフスペース

このままでは、6色レインボーの意味さえ変わりかねない。単におしゃれな柄に。それだけは避けなければいけない。

生存を守るため、6色レインボーを失うわけにはいかないのだ。

私は、レインボーはLGBTのプライドを表すシンボルであり、それを掲げたり使用したりすることはセーフスペースの提供を表明することだという認識が、マジョリティの間で広がるべきだと思っているが、いまのままでは簡単に広がらなさそうだ。

すでにLGBTの当事者団体によってさまざまな取り組みは行われてきた。LGBTのための6色のレインボーという認識が日本に持ち込まれ、少しずつ広がってきているのはそうした先人たちのおかげだ。

しかしマイノリティ側だけの努力では、きっかけをつくることに成功してもマジョリティの認識を変えるところまで到達するのはむずかしい。では何が必要か。

マジョリティ側の協力だ。

協力と言っても、他人事としてサポートするものではない。6色レインボーの認識を変える当事者として先頭に立つ、積極的な協力だ。こうした協力がマジョリティ側からあれば、6色レインボーは少しずつLGBTのために使われ始めるだろう。

なぜならマジョリティを変える力は、マジョリティにあるからだから。

その良い例として、冒頭で紹介した私の職場がある。もとより全員が6色レインボーをLGBTのプライドの象徴と認識していたわけではなかっただろう。ここまで認識が広がったのには職場を挙げて認識を広めようとしたマジョリティ側の人の努力があった。

これがマイノリティだけの取り組みであったなら、そうはいかなかっただろう。会社でもLGBTは変わらず少数だ。LGBTへのさまざまなバリアのせいで、LGBT当事者は社内での認識や文化、空気を変えるほどの発言力を得るのは難しい。取り組みに参加することで意図せず、自分のセクシュアリティが周囲に知られるきっかけとなるリスクもある。

6色レインボーが誤用される状況を変えるには、やはりマジョリティの協力が不可欠なのだ。

6色のレインボーを見れば、LGBT当事者が安心できる社会へ

マジョリティの協力により、6色レインボー=LGBTのセーフスペースといった認識が広がっていくことに期待したいが、忘れてはいけないのはレインボーを使うだけでセーフスペースができるわけではないということ。

名実ともに安心安全なスペースをつくるには、6色のレインボーグッズを使うアライがSOGIハラスメントや性の多様性、社会構造や制度上の不平等によるLGBTの生きづらさについての知識を身に着けなければいけないと思う。そのうえで、当事者が望むような方法(プライバシー保護など)を用いたうえでサポートを行うことも求められる。

こうしたアプローチを取った上で6色のレインボーを掲げるアライが増えれば、本当の意味でLGBTが安全安心な社会を実現できるだろう。6色レインボーが、そんな社会の目印になってほしい。

■参考情報
Chasing the rainbow: lesbian, gay, bisexual, transgender and queer youth and pride semiotics | Jennifer M. Wolowic, Laura V. Heston, Elizabeth M. Saewyc, Carolyn Porta, and Marla E. Eisenberg.

 

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