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Writer/Honoka Yan

ノンバイナリーな代名詞「They」は日本語でなんという?

最近、SNSのプロフィール上で「She/Her」「He/Him」「They/Them」と代名詞を表示した人を目にする。英語の代名詞というと中学で学んだような気もするが、ここでは「gender pronouns」と呼ばれる新しいアイデンティティの表現方法の一つを指す。

この新しい代名詞によってLGBTQ含む性的マイノリティの人々から、「ジェンダーやセクシュアリティをカミングアウトする必要がなくなった」「自然と伝えやすくなった」との声も上がっている。LGBTQだけでなく全ての人が性の当事者意識を持つことが大事だと考え、我々が代名詞を示すべき理由について述べる。

新しい代名詞

Gender pronounsは英語圏から浸透しつつある新しい代名詞である。三人称の英文を組み立てる場合、「He, She, They」を使うが、本当にその人の望む代名詞を使っているか?改めて考えることにする。

生まれた時から性別を演じてきた?

我々は、出生時に男女どちらかの性を割り当てられる。赤ちゃん服売り場に行くと、女の子用にピンク、男の子用にブルーと見事に区分されていて、出産祝いはその性別に合わせた色のプレゼントを渡すことが多いだろう。出産祝いの性別色分けは、生まれた瞬間から性役割という考えが強制的に働いているのだと思い知らされる。

女性性・男性性の概念を埋め込まれた我々は、社会の「女性・男性はこうあるべきだ」によって生きづらさを感じることが多いが、なぜそこまで性別に固執する必要があるのか。実は男女の性を無意識に演じてきた一人なのかもしれない。

「X」という新しい選択肢

一般的な英語教育では、彼女=She/彼=He/彼ら=Theyと教わり、問題の中で描かれた人物に対し、SheやHeに当てはめて答えることが大半だった。しかし、性別の判断材料はその人物の見た目に対する独断でしかなく、髪の長い女性的な見た目の人に対しHeを使えば、自認する性別にかかわらず減点されることも珍しくないだろう。

あくまで表面上の問題の話だが、もう一度問い直して見てほしい。仮にその人の出生時に割り当てられた性別が女性で、現在は男性として生きている場合、回答は本当に正しいだろうか。見た目だけで性別を判断していいとは言い難い。

ここ数年で性別を男女のどちらかに分類する男女二元論的な考えはナンセンスな時代へと突入しつつあり、(男女の二択に当てはめようとしない)ノンバイナリーな考えを当たり前に受け入れようという動きが増えてきた。女性もしくは男性でない人、両性な人、当てはめたくない人など、様々な理由で二元論に基づかない生き方をしている。それは生物学的な理由や、心の中で感じるニュアンス的な理由かもしれない。もしくは元からそうだったという人もいる。

オーストラリアの公的司法文書では、M(男性)、F(女性)の他に、「X」のカテゴリーも作るべきだと示し、パスポートやIDに「X」が加えられた。Xを「不確定/インターセックス/不特定」と定義することで、曖昧な方や不確実ではない方でも性別を決めなくても問題なく、選択肢が与えられるべきだと定めている。

たとえ見た目が女性的・男性的だと感じても、「個々が自分をどうアイデンティファイするか」が重要。今まで学んできたSheやHeは全ての人に適応する訳ではないと知ることと、相手の心地よい呼ばれ方で呼ぶことが前提として必要だ。

三人称単数のThey

ノンバイナリーな代名詞の一つとして「They」があげられる。有名な英語辞典ウェブスターでは、「自分の性別をノンバイナリーと認識している単一の人物」と新しい意味を加え、今までの三人称複数のTheyが三人称単数としても適応されることになった。しかし、「女だからShe」「男だからHe」「XジェンダーだからThey」を使う訳ではないという点に注意が必要。

・「自分は女性だが、男女二元論に基づかない生き方をしている。だから私の代名詞はThey」
・「自分は男性でも女性でもなく、LGBTQ当事者でもない。だけどHeと呼ばれることに慣れてきたから、Heと呼んで欲しい」

と様々な人がいる。どう呼ばれたいかはその人の決めることであり、周りが判断することではない。他にも「E」「Ze」などの代名詞もあるので、本人の好む呼ばれ方を聞くことを習慣化するよう心がけるべきだ。

日本語の場合

日本語の文では、代名詞を成り立つことが多いので、gender pronounsについて興味関心が少ないように感じる。確かに、「He just came.」を直訳すると「彼は今さっき来た」となるが、会話の中では「さっき来てたよ〜」と代名詞抜きの文が自然に聞こえる。しかし、日本語には特有の「ちゃん」「君」呼びが存在する。代名詞を使うことが少なくても、日常的に性別を基にした言葉は多いのだ。

ちゃん・くん呼び問題

日本語で一番耳にする敬称はおそらく「ちゃん」「くん」「さん」の三つ。初めて会った方や、目上の方には「○○さん」が一般的だが、友達同士だと呼び捨てや「ちゃん」「くん」が多い。初対面の人に呼び捨てで呼ぶように言われても、なんとなく馴れ馴れしさを与えてしまうことを避けるため、初めのうちは「ちゃん」や「くん」を付けて呼ぶ人もいる。だが、その呼ばれ方に違和感を持つ人もいるかもしれないので要注意。

また「貴女・貴方」「妻・夫」「OL・サラリーマン」など、性別的意味合いを含む用語を、「あなた」「配偶者」「会社員」のように、できる限りニュートラルな単語に言い換えて発する訓練もしてみるといいだろう。

日本語のTheyは?

性別的意味合いの含む単語が日本語に存在することがわかったところで、ノンバイナリーな代名詞「They」は日本語でどう言えるのかについて考えていきたい。日本語の三人称は「彼・彼女・彼ら・彼女ら」とどれも性別を限定する表現なので、一概にもノンバイナリーな意味を持つTheyにぴったり当てはめられる日本語が存在するとは言い難い。

もしかしたら「(名前)」「(ニックネーム)」「あの人」「あの子」が日本語のニュアンスに近いのかもしれない。あるジェンダーフルイド(性別が流動的に変化すること)を自認する方は本名が女性らしいことに違和感を覚え、ニックネームを伝えるようにしていると言っていた。

確かに本名で性別を判断されたくない人や、女性らしい・男性らしい本名を嫌う人などが気軽に付けられる名前として使え、「ちゃん」「くん」を避けることのできる普遍的な表現だ。

プロフィールに代名詞を示す意味

先日、「ジェンダーレス女子」と自認する人を見かけ、その人をどう呼べばいいのか迷ったことがある。性自認などは第三者が根掘り葉掘り聞くことでもないので、呼び方に悩むことがあるかもしれない。SNS上のプロフィールに「She/Her」「They/Them」とノンバイナリー当事者だけでなく、(出生時に割り当てられた性と自認する性が一致する)シスジェンダーの人も積極的に表示することは大事なアクションだ。全ての人が性の当事者であることを忘れてはならない。

代名詞を示す代わりに

ファーストネームで呼び捨てするのが英語では一般的であるのに対し、日本語は呼称のバリエーションが多いことから、日本でも「They/Them」のような代名詞の表記を一般化してもよいのではないだろうか。そこで、相手や第三者から名前を呼ばれる時の呼称について考えてみた。

自分の名前を例に出すと、「ほのか/ちゃん/彼女」と左から順に「居心地のいい呼ばれ方/呼称/代名詞(あれば)」と分けた。ある程度距離のある相手ならば、さん付けで問題ないと思われるが、近しい間柄であれば悩むことなくこれに沿って呼べる。例えば、英語の文章題で人物の名前の後ろに括弧で示したり、生徒の名簿にも示しておけば不快感のない会話が実現しやすい。

またSNS上の「職業」や「自己紹介」などの欄のほかに「呼ばれ方」の項目も追加し任意で示せるようにすれば、社会の性別規範から少しでも解放されるかもしれない。

シスジェンダーから広める

しかし、自分の代名詞や望ましい呼ばれ方をオープンにすることは強制してはいけない。ノンバイナリーやトランスジェンダー当事者にとって、アイデンティティを公にすることはリスクを伴う可能性もあるので、オープンにすることが安全だと感じた場合のみ示せばよい。シスジェンダー当事者から自分の代名詞を積極的に表示することは、様々な性のあり方の肯定をノーマライズ(当たり前に)する変化への第一歩であり、全ての人にとって生きやすいと感じられる環境づくりの身近な行動である。また代名詞の共有は以下のことも意味する。

・性的マイノリティの不透明化
・LGBTQアライであることの表し
・全ての人が生きやすい社会を作る行動
・ミスジェンダリング(相手の性自認とは異なる扱いをする一種の差別)の防止

もし相手の代名詞や呼び方がわからなかったら

まず、前提としてミスジェンダリングを防ぐことを頭に入れること。もしくは簡潔に相手に聞くことも一つの手だ。「My gender pronouns are She/Her. Can I ask yours if you don’t mind?(私の代名詞はShe/Herなんだけど、もしよければあなたのも聞いてもいいかな?)」と質問する前に自分のアイデンティティを伝えることがポイント。

日本語でも「ほのかと呼びづらかったらちゃん付けでも大丈夫だよ。私はなんと呼んだらいいかな?」のように、ただ一方的に質問するのではなく、自分の情報を先に伝えてから相手に聞くことを習慣化すれば、相手もプレッシャーを感じずに済むだろう。

「彼女」「彼」や「ちゃん」「くん」はニックネームや名前と違って性別的意味合いを含む用語であるため、当事者のいない会話の中でその言葉を使うことはアウティングになりかねない。なので相手から代名詞等を伝えてもらった際には「他者との会話でも同じように呼んでいいか」「他の人が間違えた呼び方をしていたら訂正していいか」等を確認できるのが好ましい。

初めての人とは中々難しいかもしれないので、名前やニックネームを使用し、性差を含む単語を避けることを心がけながら、親しくなった時にさりげなく聞いてみるのもいいだろう。相手の代名詞・セクシュアリティ・ジェンダー等を伝えられたからといって、全ての人にオープンにしているわけではない。トラブルや相手を困らせるようなことを避けるためにも、相手を理解し尊重することが大事である。

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