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Writer/Jitian

『THE LAST OF US』と性の多様性

突然ですが、皆さんは “神ゲー” と呼ばれるゲーム『THE LAST OF US』を知っていますか? 2023年1月からゲームを原案とした海外ドラマも配信され、人気が再燃している『THE LAST OF US』。今回は、『THE LAST OF US』で描かれている多様性やLGBTQに焦点を当てます。

『THE LAST OF US』 とは

とても “重い” ゲームですが、神ゲーであることに間違いありません。

ストーリー重視のゲーム『THE LAST OF US』

『THE LAST OF US』は、日本では2013年にPlay Station 3ソフトとしてリリースされたサバイバルアクションゲームです。2020年には『THE LAST OF US PART II』、2022年にはPlay Station 5用にフルリメイクされた『THE LAST OF US PART I』も発売されており、その人気ぶりがうかがえます。

舞台は現代のアメリカ。人間に寄生し、ゾンビ化させる謎の「菌」が全世界で蔓延し、人間社会は瞬く間に崩壊。主人公・ジョエルは、初期の混乱時に娘を殺されたものの、自分自身は何とか生き延びます。

―――時は過ぎて、パンデミックから20年後。すっかり中年男性になったジョエルに、ある少女・エリーを運ぶ依頼が舞い込みます。パンデミック後の荒廃した世界に生まれ、家族の温かさを知らない孤児のエリーには、ある重大な秘密がありました。

ともに旅をするなかで、ジョエルはエリーを亡くなった娘に重ねて、次第に情が湧いていきます。そしてようやく目的地にたどり着いたとき、ジョエルは驚くべき事態に直面します。そのとき、ジョエルは何を選ぶのか・・・・・・。

パンデミックから20年後の世界、ジョエルがエリーを運ぶ任務をこなすのがPART Iの内容です。PART IIでは、主人公が成長したエリーに代わり、プレイヤーはエリーの虚しい復讐の旅を経験することになります。どちらのストーリーでも重苦しい雰囲気が常に根底に流れており、ゲームが終わった後には主人公の選択が正しかったのかどうか、考えさせられること間違いなしです。

また、人気が根強い『THE LAST OF US』ですが、いよいよドラマ化が決定。2023年1月から配信が始まっています。日本ではU-NEXTで視聴可能です。2023年2月3日現在、字幕版が3話まで公開中で、2月13日からは日本語吹き替え版も配信予定とのこと。ゲームの日本語吹き替え版と同じく、ジョエルの声を山寺宏一さん、エリーを潘めぐみさんなどが務めるとのことで、ドラマの日本語吹き替え版も個人的にかなり注目しているところです。

ゲーム『THE LAST OF US』はLGBTQを含む多様性も重視

ゲーム『THE LAST OF US』は、ストーリーも素晴らしいですし、リメイクされて映像美もますます極めています。そういったところが、多くの人が『THE LAST OF US』を称賛している大きな理由だと思います。しかし、LGBTQ当事者でもある私としては、ゲーム内、ドラマ内で多様性が重視されているところが大きな魅力の一つだと思っています。

たとえば、PART Iでは、反社会組織「ファイアフライ」のリーダーは黒人女性のマーリーンが務めています(ドラマ版でも黒人女性の俳優が演じています)。PART IIでもう一人の主人公として登場するアビーは、体格のよい女性兵士のキャラクターです。また、エリーの友人ジェシーはアジア系男性です。

一昔前までは、ゲームのキャラクターとして登場するのは若くて美形な白人ばかりだったではないでしょうか。現実世界で多様性を認めようとするだけでなく、ゲーム内でも「黒人女性がリーダーを務める」「体形、人種など、人はさまざま」といった多様性が表現されることで、プレイヤーの固定観念を変えてくれるきっかけになるはずです。

 『THE LAST OF US』主要キャラクター、エリーの “性の多様性”

エリーというキャラクターそのものにも、そしてエリーを演じる俳優にも、性の多様性が見受けられます。

ゲーム『THE LAST OF US』のエリーはレズビアン

ゲーム『THE LAST OF US PART I』では主人公と旅を共にする重要なキャラクターとして、またPART IIでは主人公となる、主要なキャラクターの一人であるエリー。実は、エリーにはレズビアンであるという側面があります。

ゲームのリメイク版PART IのDLC(ダウンロードコンテンツ)『LEFT BEHIND』では、ジョエルと出会う前のエリーが主人公。親友ライリーとの思い出が描かれているのですが、物語の終盤でエリーはライリーにキスします。この時点でエリーの性的指向は女性に向いていることがうかがえます。ちなみに、ライリーは黒人の女の子です。

PART IIでは、エリーはディーナという女性キャラクターと恋に落ちます。ディーナ自身は、男性(ジェシー)との間に授かった子どもがお腹の中にいる状態。ゲームでは、エリーがディーナとパートナーシップを築き、ディーナが生んだ赤ちゃんと3人で、ささやかな自給自足の生活を送る様子などが描かれています。PART IIもPART Iに劣らず悲壮感漂うストーリーですが、この3人家族の仲睦まじいシーンは心温まる場面のひとつです。

エリーがレズビアンであることは、PART I、IIともにストーリーに大きな影響を与えています。しかしながら、あくまでレズビアンである部分がエリーの構成要素の一つとして自然に描かれているところも、個人的に共感が持てます。また、LGBTQを含む多様性を否定するような描写が基本的にないことも、安心してゲームをプレイできるポイントとして高いでしょう。

現在配信中のドラマでは、エリーのセクシュアリティに直接的に言及する場面はまだ登場していません。今後どのような形で描かれるのか、楽しみですね。

ドラマ『THE LAST OF US』エリー役のベラ・ラムジー、ノンバイナリーをカミングアウト

現在配信中のドラマでエリー役を務めているベラ・ラムジー(Bella Ramsey)。2023年1月に、自身がノンバイナリーであることをカミングアウトしました。正確にはジェンダー・フルイド(ジェンダーアイデンティティに流動性がある)のようです。

英語圏で生活するトランスジェンダーにとって、 “he/ she”など性別が限定される「代名詞(pronoun)」はとても重要な問題ですが、ベラ・ラムジーは「あまり気にしていない」とインタビューで答えています。

ベラ・ラムジーのインスタグラムを見ると、カミングアウトする前からすでに、LGBTQ当事者を応援するストーリーや、ドレスではなくパンツスーツでレッドカーペットを歩く姿をアップしており、前々からLGBTQに関心が高かったことがうかがえます。

ゲームやドラマなどのエンタメコンテンツ内で多様性を表現することも大事ですが、実際に同じ時代を生きている人がLGBTQ当事者であると声を上げてくれることも、市井のLGBTQ当事者をエンパワメントしてくれますね。

ドラマ『THE LAST OF US』で大きく取り上げられたゲイカップルの生活

ゲームのシナリオから離れたストーリーに驚くとともに、深く感動しました。

ゲーム版『THE LAST OF US』では掘り下げられなかったゲイのキャラクター、ビルの生活

ゲームで『THE LAST OF US』のファンになった私は、ドラマ『THE LAST OF US』ももちろん視聴しています。1、2話はゲーム『THE LAST OF US PART I』の序盤のストーリーをおよそなぞっていたのですが、3話になって突然大きく変わりました。

ゲーム『THE LAST OF US PART I』では、ジョエルとエリーの旅を助けてくれるキャラクターとして登場する、ビルというキャラクター。ビルはどうやらゲイらしいことはゲーム内の描写からうかがえるものの、とにかく性格がひねくれていてサバイバル能力の高いおじさんというイメージが強かったです。

ゲームでは主人公(PART Iの場合はジョエル)の視点で物語が進むため、どのようなキャラクターで、どのようなバックグラウンドを抱えた人物なのか、深く掘り下げられなかったビル。しかしドラマ第3話では、ビルと、ひょんなことからビルとパートナーシップを築くことになるフランクとの、愛おしい生活がたっぷりと描かれています。そして、ドラマの終盤はゲーム版とは異なるシナリオが展開されていきます。

個人的には、あまりの癖の強さに、ゲーム内では苦手意識を感じざるを得なかったビル。しかしドラマを観たことによって「ビルにこんな過去があったのか」「ビルにこういう温かいところもあったのか」と、ビルを(少しだけ)好きになりました。

ゲーム版のシナリオを知っていて、LGBTQ当事者でもある私でも大満足した、ドラマ第3話。しかし、これ以上語ると「ネタバレ」になってしまうので、残念ながら控えさせていただきます・・・・・・。

ですが、私だけでなく多くの視聴者が、この第3話に惹き付けられたようです。第1、2話を超えて、第3話はシリーズ最大の視聴者数を記録したとのこと。いわゆる「神回」であると話題のようです。多くの視聴者向けにラブ・ロマンスを表現するにあたって、異性カップルであることや、美形のキャラクターであることは必ずしも必要ないことが証明されたと言ってもいいでしょう。

ゲームがグロテスクで暴力的なシーンが多いR18指定作品のため、ドラマでも残酷なシーンが多々あるのは事実です。ですが、第3話に限っては(前半は怖くてつらいシーンが続きますが)ビルとフランクの「客観的」に言って「ロマンチック」な生活により、ホラーでバイオレンスな部分が中和されているはず・・・・・・!

「リアルに表現されたゾンビはグロテスクで苦手」「ホラーはちょっと・・・・・・」という方でもぜひ、第3話だけでもいいので観ていただきたいです。配信ドラマなので、バイオレンスな部分など見たくないシーンは飛ばして、ビルとフランクのロマンスあふれる生活だけを視聴することもできます!

ドラマ『THE LAST OF US』でのLGBTQの取り上げ方に今後も注目

ドラマ『THE LAST OF US』第3話にて、『THE LAST OF US』のもつLGBTQエンパワメントな部分が初めて取り上げられました。

ですが、先ほど書いた通り、まだエリーのセクシュアリティなど、描かれていない部分も多く残っています。

エリーのセクシュアリティはドラマ『THE LAST OF US』でどのように描かれるのか? そして、ジョエルとエリーの旅の結末はどうなるのか? ゲーム『THE LAST OF US』を知っている人もそうでない人も、ぜひドラマ『THE LAST OF US』をチェックしてみてはいかがでしょうか。

 

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