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Writer/Jitian

コカ・コーラ「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を活用しよう

2022年7月20日、日本コカ・コーラ株式会社およびコカ・コーラシステムが「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を策定し、無償で公開しました。表紙を含めて全8ページの冊子ながら、LGBTQ+や性の多様性を理解するのに最低限必要な知識や心構えを網羅している素晴らしいハンドブックになっています。

コカ・コーラのLGBTQ+に対する取り組み

大企業であるコカ・コーラの従業員全員が「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を一読することの影響力は計り知れません。今回はこのコカ・コーラの「LGBTQ+アライのためのハンドブック」をご紹介するとともに、ハンドブックから見えてきたカミングアウトする側のポイントを考えます。

LGBTQ+理解増進も「多様性の尊重」の一環

SDGsに注目が集まる昨今、LGBTQ+に関する企業の取り組みにも注目が集まっています。だれでも知っている超大企業であるコカ・コーラもやはり「多様性の尊重」を重視する取り組みを行っており、「LGBTQ+アライのためのハンドブック」の制作・公開もこの一環として行われました。

ハンドブックは、コカ・コーラの従業員がLGBTQ+のアライとなり、LGBTQ+当事者をサポートする内容となっています。従業員一人ひとりが、状況に応じた適切な対応や考え方を身につけることを目指しています。

内容の「深度」としては、LGBTQ+アライとなって東京レインボープライドなどにも参加するほど “積極的な” アライを目指すというより、最低限の知識や心構えをまずは学ぶ、という印象を受けました。

身近なところにプライドグッズを置いて、アライであることをそれとなく表明できる程度の、アライの第一歩を踏み出すための最低限の知識や心構えです。“積極的な” アライを増やしてほしいと考えているLGBTQ+当事者の人たちにとっては物足りないかもしれませんが、LGBTQ+に対してさまざまな考えを持つあらゆる従業員に配るものとしては必要十分ではないかと個人的には感じました。

コカ・コーラ「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は、だれでもダウンロード可能

「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は、コカ・コーラの日本全国約2万人の従業員に配布されるとのことなので、十分に「効果」のある取り組みだと思います。

また、「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は無償で公開されているので、だれでも、どの企業や団体でも利用可能になっています。すでにコカ・コーラ以外にも、パナソニックグループでの導入が予定されているとのことです。企業の大小関係なく、また企業だけでなく官公庁などの公務員、さらには学校でも活用してもらいたいです。

コカ・コーラ「LGBTQ+アライのためのハンドブック」の中身

コカ・コーラの「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は、性の多様性やLGBTQ+を理解するための第一歩となる情報が詰まった一冊となっています。

内容の “濃い” ハンドブック

私が「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を読んで一番驚いたことが、LGBTQ+アライとして必要最低限の知識が分かりやすく8ページに凝縮されているところです。決して情報量は多いとは言えませんが、必要なものを必要なだけ8ページという制約の中で収めていて、濃い内容だなと感じました。

具体的には、「LGBTQ+アライのためのハンドブック」には以下のようなことが書かれています。

・いきなり「LGBTQ+」の説明に入るのではなく、まず性の多様性について説明している。
・「LGBT」だけでなく「Q+」についても触れている。
・データでLGBTQ+当事者を「見える化」しながらも、LGBTQ+当事者がカミングアウトしづらく、実生活ではLGBTQ+当事者が見えづらい現状を説明している。
・ストーンウォールの反乱から始まり、長い年月をかけてLGBTQ+への理解が広まりつつある現在までの歴史をざっと遡っている。
・「悪意」の有無にかかわらず、気をつけたほうが良い言動やカミングアウトされた際の注意点、アウティングの危険性を掲載している。

ここまでさまざまなことに触れると、どうしても文字量が多くなり読みづらくなることも考えられますが、挿絵などもふんだんに使われていて、圧迫感のないハンドブックに仕上がっています。

LGBTQ+支援団体「プライドハウス東京」監修

上記のように、ここまで過不足なく最低限の知識を網羅するのは、一個人や一企業だけでは難しいだろうと思っていましたが、東京2020オリンピック・パラリンピックを契機に創設されたプロジェクト「プライドハウス東京」監修とのこと。内容の充実度にも納得です。

東京2020オリパラのスポンサーでもあるコカ・コーラと、東京2020オリパラから生まれたプライドハウス東京によって生まれた「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は、まさに「レガシー」の一つと言えそうです。

ハンドブックの視点は「企業が社員のLGBTQ+の理解を高めるための冊子」になっていますが、LGBTQ+当事者も一読しておいて損はないほど大切な知識をぎゅっとまとめたハンドブックに仕上がっています。

所属先や使用目的などの簡単なアンケートに答えればだれでもPDFをダウンロード可能なので、ぜひ一度目を通してみてはいかがでしょうか。

カミングアウトする際に注意すべきポイント

ハンドブックの内容から「逆算」すると、カミングアウトする側の注意点が見えてきました。

カミングアウトの前に、前提知識も大事

コカ・コーラが公開した「LGBTQ+アライのためのハンドブック」は、文字通りLGBTQ+アライになるために最低限必要な知識や、カミングアウトされた際の対応が記された冊子です。

裏を返せば、ハンドブックに書かれていることは、カミングアウトされる側が読んでおいたほうがよいことです。つまり、ハンドブックに書かれていることは、カミングアウトするLGBTQ+当事者側も留意しておくべき事項と言えます。

まず、カミングアウトする際に必要なことだと個人的に改めて感じた項目は、「性の多様性」という前提知識です。

「LGBTQ+」のなかには、私自身もきちんと把握できていないほど、たくさんの「ラベル」が存在しています。今後、さらに新たに増えるラベルもあることでしょう。その一つひとつを覚えることは、LGBTQ+当事者でも難しいと思います。LGBTQ+当事者でない人からしたらなおさら、「LGBT」だけでは収まらないラベルの多さに、たじろいでしまうかもしれません。

しかし、それらを細かく覚えずとも「性は多様性に富んだグラデーションである」ということを覚えておけば、今後どんなSOGIの人と出会ったとしても理解しやすいと思います。

私自身、ついつい「どんなラベルがあるのか」「この人はどういうラベリングなのか」に着目しがちですが、それ以前に性の多様性があることを理解し、相手にも性の多様性を理解してもらうことが、カミングアウト「成功」の第一歩なのかもしれないと感じました。

「LGBT」「LGBTQ+」の前提として「性の多様性」を理解してもらうのに、コカ・コーラの「LGBTQ+アライのためのハンドブック」はかなり役立つと思います。カミングアウトする相手にハンドブックを手渡すのもいいかもしれませんね。

カミングアウトとアウティング防止策はセット!

相手がLGBTQ+に偏見がなかったとしても、気をつけなければならないのがアウティングです。相手にまったく悪意がなかったとしても、「そういえば・・・・・・」と、第三者にSOGIをぽろっと明らかにしてしまう可能性は否めません。

アウティングのリスクは正直に言ってゼロにはできませんが、以下のようなSOGIの「公開範囲」を予めカミングアウトする相手に伝えておくことで回避しやすくなります。

・すでにだれにカミングアウトしているか
・だれに自分のSOGIを伝えてもよいのか/いけないのか

家族にカミングアウトする場合だと「兄弟にはもう伝えている」「親戚には言わないで」など、身近な公開範囲についても話題に上るかもしれません。

しかし、もしかしたら友人同士だと「私にカミングアウトしたってことは、あの子にも言っているだろう」と思い込むこともなきにしもあらず。「AさんとBさんには伝えているが、ひとまずここだけの話にしたいので、ほかの人には言わないで欲しい」など「くぎを刺しておく」ことが大事になります。

カミングアウトする相手のSOGIを決めつけない

自戒を込めて大事だと思うこと。それは、カミングアウトする相手のSOGIを決めつけないこと、相手がシスジェンダー・ヘテロセクシュアルだと決めつけないことです。

数値上でもLGBTQ+当事者の数が決して少なくないことは、NOISE読者の皆さんならご存じだと思います。それでも私自身、こうして記事を書くときや何かを伝えるとき、たとえばLGBTQ+に関連するトピックでネガティブな内容で話題になった著名人を、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルであることを前提として書いてしまうことがあります。

ですが、たとえLGBTQ+の話題で「炎上」した人物であったとしても、その著名人が自分のSOGIを公開していない限り、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルであるとは限りません。それと同じで、カミングアウトする相手もシスジェンダー・ヘテロセクシュアルであると決めつけて話さないようにしたいです。

コカ・コーラの「LGBTQ+アライのためのハンドブック」5ページ目には、性の多様性を前提としない偏った考えから生じる発言例が掲載されています。

カミングアウトも、10人にすれば1人はLGBTQ+当事者である可能性があります。性の多様性を前提としない偏った考えから生じる発言を受けて傷付く自分自身がいるように、「ここには、自分以外のLGBTQ+当事者はいないだろう」と思って発言した結果、傷付いている人がいるかもしれません。

自分以外のLGBTQ+当事者はいないと思うことこそ偏見であるという考えをもってコミュニケーションを取りたいものです。

まだコカ・コーラの「LGBTQ+アライのためのハンドブック」を読んだことのない人は、ぜひ一度ダウンロードしてみてください。私自身がそうであったように、「LGBTQ+についての基本的なことはもう全部知ってるよ」と思っている人でも、その「基本的なこと」を改めてさらうことで、新しい発見もあるかもしれません。

■参考情報
日本のコカ・コーラシステム全6社にて 「LGBTQ+アライのためのハンドブック」導入、無償公開 ~多様な人材が、ともに働きやすい環境の整備を目指す~(日本コカ・コーラ株式会社)

 

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