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Writer/Jitian

神道政治連盟のLGBTQ差別から見える、根強い家族主義

神道政治連盟国会議員懇談会で、同性愛に対して差別的な内容が記載された文書が配布されていたというニュース記事が、2022年6月29日に公開されました。時代錯誤的なLGBTQ差別だとして、全国的にも話題になりましたよね。今回は、LGBTQ当事者の一人として見過ごせないこのニュースを、神道政治連盟が公開している文書をもとに深堀りします。

神道政治連盟とは

まずは聞き馴染みのない「神道政治連盟」について、あらためて確認します。

日本中の神社が関係する神道政治連盟

かの有名な伊勢神宮を中心に、日本各地の神社を包括する宗教法人「神社本庁」(「庁」とありますが、あくまで宗教法人であり、いわゆる官公庁ではありません)。その神社本庁を母体として結成された国民運動団体が、今回話題に上がっている「神道政治連盟」です。

神社本庁には多くの神社が関係しています。都会のど真ん中に位置する明治神宮も、神社本庁の地方機関としておかれている東京都神社庁に名を連ねています。今回の事件をきっかけに、会社員時代によく通っていた神社や、最近定期的にお参りしている神社も調べましたが、東京都神社庁のウェブサイトにきっちり記載されていました。

今回の事件について、神社でお賽銭を入れるとそのお金が巡り巡って神道政治連盟に渡るのではという意見も見受けられました。神様には申し訳ありませんが、今後神社にお参りしようと思った際には、お賽銭をためらってしまうかもしれません・・・・・・。

「行き過ぎた個人主義」

神道政治連盟は何を目的としている団体なのでしょうか。神道政治連盟のトップページには次のように書かれています。

“・・・個人と公共心とのバランスを欠いた、行き過ぎた個人主義が引き起こした事件が数多く見られるようになりました。神政連は、日本らしさ、日本人らしさを回復し、・・・さまざまな運動に取り組んでいます。”

この後、神道政治連盟が発行・公開している文書から、同性愛やLGBTQへの考えを明らかにしてきますが、どうやらLGBTQはこの「行き過ぎた個人主義」のなかに含まれているようです。

直近の総理大臣も神道政治連盟に

今回ニュースに取り上げられている文書が配られた「神道政治連盟国会議員懇談会」は、神道政治連盟に賛同する国会議員で構成される議員連盟で、具体的には自民党の国会議員が数多く所属しています。

神道政治連盟のトップページでは、所属している政治家の名前を確認することができます。現内閣総理大臣である岸田文雄氏、前総理大臣の菅義偉氏、元総理大臣の安倍晋三氏の名前も確認できます。神道政治連盟が、政治運営に大きな影響を及ぼしていることは確実でしょう。

神道政治連盟国会議員懇談会で配られた文書の驚くべき中身

ニュースや記事で取り上げられていた箇所以外にも、目を疑う内容がたくさん書かれていました。

同性愛は、若いときの気の迷い? 精神病?

今回ニュースになっていた神道政治連盟の機関紙『意』215号。LGBTQの活動家・松岡宗嗣さんが神道政治連盟の機関紙について執筆した記事が公開されたのが2022年6月29日。7月3日時点では閲覧・ダウンロード可能でしたが、5日に再度確認したところ、掲載を確認できなくなっていました。今回は、7月3日にダウンロードしたファイルから適宜抜粋します。

弘前学院大学教授である楊氏によると、同性愛は「後天的に生じる」ものであり、よって正常(=異性愛)に戻せるし、戻すべきというのが主な趣旨です。具体的には以下のような主張をしています。

・加齢によって、同性愛者の比率は減少することが明らかになっている。
・青少年期を大都市で過ごした人が、地方で過ごした人よりも同性愛をもつ比率が高い。
・同性愛を好感的に表現している映画や動画、BL/GL漫画に興味を抱き、同性との性行為を経験することによって同性愛者になる。
・東京オリンピック・パラリンピック2020においてLGBTQ当事者の選手が増えたことは、世界的に同性愛者の数が、増加していることを示している。

個人的には、特に3つめのコンテンツへの言及や、4つめのオリパラなど、本気で言っているのか? と、驚きで開いた口が塞がりませんでした。

性的指向が「変わる」ことはあっても、「変える」ことはできない

年月が経つにつれてSOGI(性的指向と性自認)が変わることは有り得ます。

「レズビアンよりバイセクシュアルのほうがしっくりくるな」など、自分のSOGIをより明確に言い表すカテゴリが見つかったとき。
「戸籍まで変えたいと強く思っていなかったからノンバイナリーだと考えていたけど、自分はやっぱりFtMだ」など、自分の考え方が変わったとき。
「異性愛が当たり前の社会とされていたから自分もそうだと思い込んでいたけど、同性とも恋愛関係を築けるな」と気付きを得たとき、などが考えられます。

そのなかで、たとえば10代のときに同性と付き合ったことのある人が年を重ねた結果、「あのときは、まだ自分のSOGIについてあまりよく分かっていなかったけど、やっぱり自分は異性愛者だな」と自覚するに至った人も、なかにはいるでしょう。

しかし、それを多くの人が当てはまることのように言われることは、個人的には疑問です。

実際、私がSOGIで悩んでいた学生時代、学校のカウンセラーに相談した際「大人になれば異性愛者になるかもしれない」「女性としての自覚が芽生えるかもしれない」などと言われたことがあります。ですが、「私は別にシスジェンダー・ヘテロセクシュアルになりたいんじゃない」とモヤモヤしました。そして、それから10年以上経った今でもシスヘテではないのです。

LGBTQ当事者が「増えた」のではなく、声を上げやすくなった

LGBTQ当事者そのものの人口比率は、実際には増えていないものと思います。増えたように感じる理由は次の2つが考えられます。

①SOGIを見直すきっかけが増えた。
②LGBTQ当事者であることをカミングアウトしやすくなった。

①については、社会全体が性の多様性に目を向けるようになった結果、自分のSOGIもシスヘテよりよりしっくりくるものを見つけた場合です。

先ほども書いた通り、「異性愛が当たり前の社会とされていたから自分もそうだと思い込んでいたけど、同性とも恋愛関係を築けるな」などと、当たり前とされているシスヘテだけでなく、性をグラデーションで考えるようになったことなどがきっかけとして考えられます。

②は、LGBTQ当事者の存在が認められ、尊厳を守るべきという意見が急速に多くなっている現状が関係しています。

たとえば、東京都が2021度に実施した「性自認及び性的指向に関する調査」では、全体の約7割がパートナーシップ制度を必要な施策と回答しています。

これまで、同性愛者だとカミングアウトすればバッシングされたり、場合によっては処罰を受けたりすることすら考えられました。しかし、同性カップルの存在が認められるようになれば、「もう異性愛者のフリをして生活しなくていいんだ」「同性パートナーとの関係を認めて欲しい」と考え、結果としてカミングアウトする人が増えることは必然ではないでしょうか。

子どもを生み育てるための家族?

子どもありきではない家族のかたちは「行き過ぎた個人主義」なのでしょうか。

法律婚は子どもを生み育てる前提?

今回、神道政治連盟の機関紙『意』215号以外の文書にも目を通すと、神道政治連盟の考え方がより鮮明に見えてきました。

たとえば、機関紙『意』209号。北海道の宮司が寄せた文書には次のような記述があります。

“もし同性婚を認めた場合、それを望む二人の自己決定の問題に収斂され、法律婚主義で守られている子の保護の観点が抜け落ちてしまうことにもなりかねません。”

この文を見て、私は次のようなことを疑問に思いました。

・そもそも、現状法律婚している夫婦のなかに、子どもを生み育てることを第一の理由として結婚した人は、果たしてどれだけいるのだろうか?
・この宮司は、法律婚しているが子どものいないカップルや、病気などを理由に子どもを設けられない人々のことをどのように捉えているのだろうか?

上記のほか、夫婦別姓に対する反対意見なども各種文書で見受けられました。このことから、神道政治連盟はいわゆる「家族主義」が強い団体のようです。

LGBTQ当事者は家族を解体しようとしている?

2020年に発行された冊子『神政連結成五十周年にあたって:政策推進の課題を考える』の第5章「家族問題・少子化問題を考える」には、さらに驚くべき内容が記されていました。

“いうまでもなく、われわれは家族の中で生まれ、成長し、そして結婚して新たな家族
をつくり、子を産み育て、務めを果たして死を迎えていくことを基本とします。”

“夫婦別姓やLGBTなど性的少数者による過度な権利保障、同性婚の法的保護を求める主張など、家族そのものの解体を企図する動きといったものも、最近は大きな影響力をもち始めているのが現実です。”

同性婚法制化を求めている同性カップルのなかには、子ども生み育て、家族として生活している人もいます。そのような新たな家族を作っている人々のことを「家族そのものの解体を企図」しているなどと言えるでしょうか。個人的にはこの内容に最も怒りを覚えました。

やっぱり、声を上げ続けることが大事

今回、神道政治連盟の主張を読んでいて、LGBTQ当事者・アライの考えと、神道政治連盟の主張は残念ながら一生交わらないような気がしてきました。LGBTQ当事者・アライとしては個人の人権として同性婚法制化などを主張していますが、神道政治連盟は上記の通り、「家族」を個人では捉えず、子どもを生み育てる機能ありきで考えているからです。

考え方の違いが存在していることは、互いに人間である以上仕方ないと思います。ですが、神道政治連盟は与党かつ第一党である自民党の国会議員に大いに関係する団体です。このような考えの人が多数派を占め続ける以上、同性婚法制化などへの道のりはまだまだ非常に険しいと言わざるを得ません。

それでも今できることと言えば、やはり声を上げることではないでしょうか。

東京都の同性パートナーシップ条例も、声を上げて世論を動かすことで実現へと向かっています。今回のようなニュースを見ると、ときどきしんどくなることもありますが、倒れない程度に声を上げ続けることが大事だと、あらためて実感しました。

みんなで力を合わせて、引き続き頑張っていきましょう。

 

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