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Writer/Sogen

LGBTのメンタルヘルスの問題と現状

現代、生活はますます豊かになりながらも、「孤独」や「うつ」が蔓延しています。特にLGBTが患うメンタルヘルスイシューはひどく、あまり明るみに出ない裏の世界があります。今回はそこに焦点を当て、実態を探り、最後には1人ひとりにできることを述べていきます。

メンタルヘルスは物質的な豊かさとは反比例する

「メンタルヘルス」とは何か

メンタルヘルスの直訳は「心の健康」。 海外ではすっかりとこの言葉が浸透しており、感情や心の中の些細な起伏から、俗にいう「精神病」までを含む「心の状態」を表します。うつ病や統合失調症などは、長年ネガティブなレッテルを貼られていましたが、特に欧米圏では徐々にそのレッテルは剥がれつつあります。メンタルも身体的な病も同じように医学の治療が必要と思われてきています。

アメリカではメンタルヘルスや個人の成功を手助けするための職業までもが出ており、「ライフコーチ」は今、欧米圏で最も成長を遂げている産業の1つです。

一方、アジアでは依然として「メンタルヘルス不全」をそのまま「精神病」と扱う傾向にあり、ゲイを始めとするLGBTのことを精神病の一種と捉えている国もあります。

物質的な豊かさでは測れないメンタルヘルス

日本を一例にとればわかりやすいでしょう。日本はGDPにおいて世界第3位の先進国。世界のパワー生産国であり、G7のリーダーの1人でもあります。ただ、それだけ豊かでも「自殺者」は絶えません。2020年の統計によれば、自殺者は年間2万人。2003年をピークに少しは和らいではいるものの、依然としてシビアな社会問題です。

また、10代後半から30代の最も多い死因は自殺です。その年代はちょうど「自己」を「世界」へと広げていく時期。LGBTの場合は、カミングアウトすることを含む、社会と摩擦したり順応したりする時期にあたるのではないでしょうか。

アメリカ「The Trevor Project」の調査によれば、L・G・Bの若者はストレートの若者と比べ、自殺を試みる割合が5倍にも及びます。また、家庭によって拒絶されたL・G・Bの若者は、そうでない者と比べて8倍以上高く自殺を試みるのだそうです。日本でも同じような状況だと容易に想像できます。

個人レベルでの救済が必要

LGBTに関する課題に対して、近年アジアでは「同性婚」を中心に取り組んでいるように感じられます。日本では「パートナーシップ制度」を法律婚として移行するための取り組みが進められていますし、アジア圏で初めて同性婚を法制化させた台湾でも「国際同性婚」をテーマに権利の拡大を図ろうとしています。

こうしたマクロな環境が変わっていくのは、必ず大衆の幸せにつながります。ただ、一人ひとりの人生に一歩深く入り込むと、そこには個別の家庭事情、文化や社会に影響された考え、周りのサポートの有無が視界に映ります。

よって、メンタルヘルスは、ミクロの面、個人レベルで考えることも必要です。「一当事者として、私にできることは何なのか」を問うことから始めるのが第一歩です。

アイデンティティが崩壊した中学時代

セクシュアリティの自己認識と価値観の崩れ

私が性的指向を自認した話を少し聞いて下さい。私は、中学時代まで比較的優秀な生徒でした。手前味噌ですが、成績や学業に対して辛い経験を味わったことは、ほとんどありません。学校で良き成績を取り、放課後はバイオリンを弾くといった繰り返しを当たり前のようにしていました。

また、父のお陰で大変豊かな暮らしを送ることができ、将来に不安を感じる要素は何もありませんでした。それでも、ある日、体育の授業で制服に着替える際、自分の「異変」に気付きました。

こう言い表すといかがなものかと思いますが、仏教徒である私はゲイである自分がまるで「神に落とされたルシファー(堕天使)」になった気分でした。そこには悲壮感や神様に裏切られた憤慨、それでいて誰にも言えない辛さがともない、毎日「この感情を消してください」と祈ったことを覚えています。もちろん、その気持ちは決して消えてはくれませんでした。

信仰への葛藤

やがて私は、二重人格になったかのように、ある時はゲイとして振る舞ったり、同性の先輩を慕い、またある時は社会に迎合した自分に戻り、あくまで「好青年」であり続けました。そして、貪るように周辺の宗教の書籍を探し、「ゲイ」「LGBT」「同性愛」というキーワードが出るセクションを読みあさりました。ただし、そこに解はありません。

一方、中高時代に流行っていたLGBTの映画は、どちらかというとキリスト教への葛藤を描いているものが多かったです。それは、特にカトリック派の反LGBT思想はLGBT当事者の親や子どもに多大な影響を及ぼしています。私はこのような映画を観るたびに、自分のアイデンティティに絶望を感じていたことを今でも鮮明に覚えています。

その後、少しずつ信仰を手放していったように思います。無神論や無信仰になった訳ではありませんが、自ら距離を置くようになりました。そうすると、これまで行動の根幹だった「Aを行うのはこうだから」「Bをする理由はそうだから」など、自分をバックアップしてくれる哲学、思想を失っていったのです。

「自殺」を初めて考えたその頃

数十年前とは異なり、インターネットによって、外の世界には私と同じようにゲイがいると分かっていました。ただそれでも、とてつもない孤独感に襲われ、夜中ひとりでしくしくと泣きながら寝ていた日々が続きました。

しかし、私には自殺をする勇気がありませんでした。「自殺をすれば地獄に落ちる」。という考えが、私の心にブレーキをかけてくれたのです。今考えたら不思議です。あれだけ信仰にぶれていたのに、皮肉にも信仰に救われていたとは。

LGBTのメンタルヘルスが重視される時代へ

「IT GETS BETTER」というスローガンを基に

「IT GETS BETTER」というスローガンは1990年代、2000年代、私の足元まで押し寄せてきました。アメリカの作家Dan Savage氏は、LGBTの自殺問題やうつ病に対する対策を呼びかけるため、「IT GETS BETTER – すべては良き方向へ向かう – 」という謳い文句を広げました。目の前の苦しみだけに囚われず、もっと遠い未来に期待することを伝えています。

しかし、当時の私にはDan Savage氏の考えがどうも理解できませんでした。今日にでも死にたいというこの気持ちを、いかにして明日への「期待」や「希望」に変えられるのか。

それでも私は仲間に恵まれていたのです。受け入れてくれる友だちが徐々に増え、自分の人生の「暗黒な中世時代」をなんとか過ごすことができました。

「希望」と「絶望」が共存するLGBT関連のニュース

世界がLGBTを少しずつ受け入れていることに感謝しています。特に私の場合は、日本と台湾のハーフとして、同性婚が可能な台湾に暮らしていることに幸せを感じます。ドミノ倒しのように、世界中の国が同性婚を認め始めています。

そんな「光」が広がる一方、絶望を感じさせる悲しいストーリーやニュースは、世界中で今も起きています。ゲイという理由だけで刑務所に入れられる仲間。ゲイという理由だけで親と友達に絶交される仲間。中でも特に私を大きく悲しませたのが、2006年にアメリカで報じられたゲイの息子を亡くした母親のストーリーです。

自分の息子がゲイだと知った母親は、拒絶し、すぐさま息子を家から追放しました。母親の姉が「一度は会ってあげて」「受け入れてあげて」と熱心に訴えかけましたが、すべては手遅れ。息子は薬物の過剰摂取によって死に至りました。

「息子を死に至らせたのは自分だ」と、その母親は今でも後悔の念でいっぱいです。ニュースの中で、彼女は最後にこう言い残しました。「私に変えられることは1つもありません。自分の選択した人生を生きるしかありません。ただ、他の親がこのニュースを読んでくれることを切に願います」

LGBTへの理解が深まり希望が広がる一方、世界では悲しい出来事がまだ絶えず起きているのです。

出会い系アプリによるメンタルヘルスの悪化

「Grindr」をはじめとする出会い系アプリもまた、メンタルヘルスを悪化させる要因と考えます。自身のセクシュアリティを受け入れられ、更には運よく友達や家族にも受け入れられたとしても、今度は「出会いを求めるアクション」に苦闘が生まれます。勿論、出会い系アプリは、本来出会えなかった2人を結びつけるとても便利なツールで、存在自体が「悪」ではありません。

しかし、他のメインストリームであるSNS、例えばFacebookやツイッターなどと同じように、過度に使用すると虚しさがともないます。また、出会い系アプリによっては、更にセックスも絡むため、より一層深刻な孤独感を生み出します。

一時的な快楽を追求しては後悔し、孤独になったらまた依存的に同じことを繰り返す。そんな無限ループに一度おちいると、なかなかそこから抜け出せません。薬物依存に似た行動パターンを描いていますが、「出会い系アプリはまさにヘロイン中毒のようだ」と、カウンセラーや心理学者は述べています。

LGBTのメンタルヘルスを救うのはあなた

周りには必ずいるLGBT

一説によれば、LGBTは人口の5から10%を占めると言われています。最近のより広義なLGBT、例えばアセクシュアル、パンセクシュアルなどを含めると、その割合は更に増えるでしょう。

私が好きなゲイのアメリカ人フィギュアスケート選手、Adam Rippon氏はユーモア高くこう言いました。「右を見てください。彼/彼女はLGBTですか。左を見てください。彼/彼女はLGBTですか。それでもいなければ恐らくあなた自身がLGBTです」あくまで比喩ですが、それほど私たちの周りにはLGBTが存在しているということ。あなたが思ってもいない彼、彼女が実はLGBTかもしれない、とAdam Rippon氏は語ったのです。

私は極めてラッキーな少数派

家族にカミングアウトした後、父には「ゲイは一時的な迷いだよ」と言われたことありますが、母をはじめ、兄弟、友達は自分のセクシュアリティを快く受け入れてくれました。それはごく稀なことです。稀なことだと知ったのは、ここ最近のことです。台湾のLGBT関連のNGOに勤めてからです。

多くのゲイやレズビアンなどの人生の話を聞く機会がありましたが、私とは異なりそのほとんどが、いじめや追放などの挫折を経験しています。ただ、それでも私は私なりに挫折はありましたし、心内の屈折は大きいものでした。

助けを求めるのは弱さじゃない

「IT GETS BETTER」の言葉通り、私は10代から20代の苦しさを乗り越えて、心底良かったと思っています。その間に感じたうっくつとした自分を殺したかった気持ち。しかし、実行しなかった過去の自分。今は、周りの人に感謝しています。

LGBT当事者ではない方には、自分の身の回りから手を差し伸べてもらいたい。
今日はこの人に連絡しよう
明日はあの人に連絡してみよう
・・・・・・というぐらいの手助けで十分です。

そして、当の本人たちには、もっとHELPという手を挙げてほしい。助けを求めるのは決して弱さではなく、強さです。なぜならば、それは「生きる」という決意表明であり、将来をつかみ取りたい勇気を持っていると、私は思うからです。

一日を終えたらこう自分に問いたい。
「今日はだれを手伝い、だれを笑顔にさせ、だれを助けてあげられたか」。そんなひとりの愛ある温かみが、必ず相手を救います。

◆参考情報
・Why Coaching Is One Of The Fastest Growing Industries In The World
・警察庁オフィシャルウェブサイト「自殺者数」
・厚生労働省オフィシャルウェブサイト「第8表 死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合」
・The Trevor Project: Facts About Suicide
・Dear Jody: Mother regrets rejecting gay son who died
・We need to talk about how Grindr is affecting gay men’s mental health

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