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Writer/チカゼ

バイセクシュアルを自称していたけど、このたび自分がパンセクシュアルだと判明しました

年末の大掃除の際、クローゼットの奥の奥から、大量のブランドバッグやら財布やら時計やらが発見された。それらをぼくにプレゼントした彼ら・彼女ら──つまるところ元恋人たちの顔を脳裏に蘇らせながら、ふとこう思ったのだ。「ぼくはバイセクシュアルなのかパンセクシュアルなのか、いったいどっちなんだろう」と。

性自認について主に悩んでいた10代

そもそもなぜぼくが「バイセクシュアル」を自認・自称していたのか、まずはそこから整理してみたい。

悩みの方向が、性自認へ向かっていた

自分が「女性」ではないことは、これまでNOISEで書いてきた通り、生まれたときから知っていた。強烈に自覚したのは、第二次性徴が始まったころ。胸が膨らみ、初潮が来て、心と体の剥離が明白になった。

自分の “容れ物” が、どうにもこうにもしっくりこない。自分の身体のはずなのに、自分が思い描く形と一致しない。だからぼくのセクシュアリティの悩みは、いつだって「自分の内面」へばかり向いていた。つまるところ己の「性自認」についてばかりうんうん悩んでいたために、「性的指向」の方にまで気が回らなかったのだ。

「性的指向は男性に限られる」と思い込んでいた10代

第二次性徴が始まったころ、ぼくが恋をするのは決まって「男の子」に限られていた(とそのときは思い込んでいた)。それもフェミニンさの一切ない、背が高くて肩幅の広い筋肉質な「男の子」ばかり。

男性性が濃くて、イニシアチブを握ってくれる、そんな「男の子」が好みだったのだ。だからこそ、自分は「女の子」ではないにせよ、恋をするのもセックスしたいと思うのも「男の子」のみに限られると疑いもしていなかった。

今振り返ると、ぼくが単に「ネコ」だからってだけ

あとで言及するけれど、10代のときに恋をした女の子も実はいたのだ。その当時は無意識だったけど、「今振り返るとあれは確実に恋だったな」というものがいくつかある。それでも恋をしてきた相手は、やっぱり圧倒的に「男の子」が多い。今でも好きになる芸能人は、比率でいえば「男性」が過半数を占める。

いったいどうしてなんだろう、「女性」に惹かれることはあるけれど、基本的には「男性」のみが恋愛対象なんだろうか。「ヘテロよりバイセクシュアル」的な表現の方が、ひょっとして適切なんじゃないか(ぼくがノンバイナリーである以上、“ヘテロセクシュアル” って表現が正しいんだかなんだかよくわからないけれど)。

自分の性的指向についてモヤがかかったみたいに思えていたんだけど、これについても最近やっとはっきりした。恋する相手に「男性」が多かったのは、ぼくが単純に恋愛において受け身──「ネコ」の立場を好むからだったのだ。リードされたいし、尽くされたいし、車道側を歩いてほしい。なんならお会計もお願いしたい。けっしてがめついからじゃなくて。・・・・・・たぶん。

だから必然的に、イニシアチブを握りたがる「男性」が多かったってだけなんだろう。

ぼくが「バイセクシュアル」を自認した経緯

圧倒的に男性にばかり恋をしてきたのに、どうして「バイセクシュアル」を自認するようになったのか。それは以前にも書いた通り、カウンセラーさんに言われた一言がきっかけだった。

カウンセリングを通じて「バイセクシュアル」を自認した

ぼくの両親はいわゆる「毒親」で、かなり激しい暴力を伴う虐待を受けて育った。そのせいで20歳のころうつ病をはじめとするいくつかの精神疾患を発症し、心療内科に長いこと罹っている。

精神疾患の大本はもちろん家庭環境にあったとはいえ、原因は包括的なものだ。そのため抗うつ剤での治療と併せて受診していたカウンセリングでは、セクシュアリティについても扱っていた。

その治療を通じて、心の奥底に封じ込めた「女の子への恋の思い出」というパンドラの箱をこじ開けたことにより、自分は女性も恋愛対象に含むのだと知ったのだ。

好みのタイプは「男性的な男性」と「女性的な女性」

女性を好きだと自覚したときは、すでにセクシュアル・マイノリティに関する知識はそれなりに持っていた。そのためバイセクシュアルという言葉も、パンセクシュアルという言葉も、両方知っていたのだけれど。

そこでぼくが「バイセクシュアルなんだろうな」と判断したのは、ぼくが「男性的な男性」もしくは「女性的な女性」ばかりに恋をしていたからだ。芸能人でいうならば、ぼくは綾野剛の10年来のファンだし、最初に心を奪われた女の子は高校生のときコンビニの雑誌の表紙を飾っていたビキニ姿の篠崎愛ちゃんである(この出来事を思い出したのも、カウンセリングを受けた後だ)。

この2人が自分の中のストライクゾーンど真ん中だったから、「少なくとも性表現が『男性』もしくは『女性』である人にしか惹かれないんだろう。ということはつまりバイセクシュアルなんじゃないか」と考えるに至った。

ティモシー・シャラメには恋をしないから、「バイセクシュアル」なのかな?

シスジェンダー・トランスジェンダー問わず、とにかく「中性的な人」には総じて恋愛的/性的には惹かれない。最近でいえばティモシー・シャラメがすごく好きなんだけど、彼のことを恋する目では見ていないのだ。

ティモシーと付き合いたいんじゃない。ティモシーに抱かれたくもない。そんな目で彼を見たくないし、見てもいない。ただぼくは、純粋に、ティモシー・シャラメになりたい。明日朝起きたらティモシーになってねえかなあ〜と思いながら毎晩眠りについているし、毎朝鏡に映った自分がティモシーになっていないことに絶望している。

ティモシー・シャラメに恋をしないぼくは、やっぱりバイセクシュアルなんじゃないか。「男性」と「女性」しか恋愛対象じゃないのかな。ぼんやりそう思いつつも、特に追求せずに今日まで至っていた。明らかにする必要性も、そこまで感じられなかったし。

パンセクシュアルだと確信したワケ

バイセクシュアルをなんとなく自称しながらここまでものを書いてきたわけなんだけど、あるTwitterでの投稿をきっかけに「やっぱパンセクシュアルなんじゃねえか疑惑」が自分の中で湧き上がった。

パレットークさんの「パンセクシュアル」に関する発信を見て

ある日Twitterのタイムラインに、パレットークさんの「パンセクシュアル」についての投稿が流れてきた。

箱の中に「男性」「女性」と書かれたボールが入っていて、そこから惹かれたものを取り出すのが「バイセクシュアル」。そしてなにも書かれていないボールの中から選び取り、開けてみて初めて「男性でした」「女性でした」とわかるのが「パンセクシュアル」。ツイートの漫画内では、そんなふうに表現されていた。

もちろんこの解釈がすべての人の「バイセクシュアル」「パンセクシュアル」の概念に当てはまるわけではないと元ツイートでも書かれているけれど、でもこの図解にはものすごくピンときた。「そうだ、これだ! 人を好きになるときの感覚って、これにめちゃくちゃ近い!」って長年目の前にかかっていたモヤが晴れた感じがして、ちょっと興奮してしまった。

「バイセクシュアル」「パンセクシュアル」じゃなくて、厳密にいえばぼくは「異性愛者」

ぼくは初対面で無意識のうちに、その人自身の性自認や服装などの性表現問わず「異性」「同性」に振り分けている。男性にも女性にも、そのどちらでもない人にも、どちらでもある人にも、真ん中に立っている人にも、定まってない人にも、あえて「決めていない」人にも、とにかく人間全員に対して「異性」「同性」という感覚を覚えるのだ。

「異性」「同性」それぞれの中には、友達になりたい人や気に食わない奴がいて、でも恋と欲情の対象は「異性」にしか現れない。「同性」に恋や欲情は、絶対にしないのだ。だからぼくは厳密にいえば、ぼく自身のことを「異性愛者」だと思っている(ただそれはぼくだけの感覚だし、わかりにくすぎるので、便宜上「バイセクシュアル」「パンセクシュアル」という言葉を用いる)。

「恋をするときに性別を意識するのがバイセクシュアルで、そうじゃなければパンセクシュアル」

そしてぼくは、恋に落ちるのがめちゃくちゃ早い。初対面ですぐに特定の「異性」に対して「あ、この人好きになっちゃうかもな」と思うし、それが外れることはほとんどない。ほぼ例外なく、きっちり惚れてしまうのだ。

「恋をするときに性別を意識するのがバイセクシュアルで、そうじゃなければパンセクシュアル」
なんとなくこういう解釈でいたけれど、ぼくの場合恋に落ちるスピードがとにかく尋常じゃない。そのため思い返してみても、自分にとっての「異性」「同性」ではなく、相手個人の性別──性表現が「男性」か「女性」かを意識してるんだかしてないんだか自分でも判別がつかなかったのだ。これが、バイセクシュアルなのかパンセクシュアルなのかわからなかったいちばんの要因。

シンプルに好みが「マスキュリンな人」「フェミニンな人」だっただけ

「男性」「女性」の中からだれかを選んでいるんじゃなくて、恋に落ちたらそれが「男性らしい男性」及び「女性らしい女性」だった。シンプルにぼくの好みが、極端にマスキュリンな人かフェミニンな人に限られるってだけの話だったのだ。

だからぼくは綾野剛やヒース・レジャー、篠崎愛ちゃんや田中みな実には恋をするけど、ティモシー・シャラメや松倉海斗くん(ジャニーズJr.のTravisJapanのメンバー)には恋をしない。セクシュアリティとごちゃごちゃになってたけど、単純にぼくの「タイプ」の話だったのか。そう確信して、ぼくは思わず膝を打った。

パンセクシュアルだと自覚したからといって、なにも変わらないけれど

さっきも述べた通り、己の性的指向がバイセクシュアルなのかパンセクシュアルなのか、ことさら突き詰めようとはあまり思っていなかった。さして重要ではないし、明らかになったところでなにが変わるわけでもないし。

これからは「パンセクシュアル」当事者としても発信していきたい

たしかに性的指向が明らかになったとてぼく自身なにかが変わるわけではないんだけど、でも自分のことをより深く正確に知ることができた気がして、ちょっと嬉しかった。それにこれまでは「ノンバイナリー」としての発信が主だったけれど、性的指向が明確になったおかげで、「パンセクシュアル」の当事者としても語ることができるようになったわけだ。

これはぶっちゃけ、物書きとしておいしい。書ける範囲というか、幅がより広がるわけだし。これまでの恋を掘り起こして、もっともっとパンセクシュアルについて知っていきたい。そしてセクシュアリティのカテゴリの中では認知度低めな「パンセクシュアル」について、当事者として発信していきたい。そんな感じで、今ぼくはとてもワクワクしている。

パンセクシュアル当事者としての、初めての発信

やっとのこと自身の性的指向に確信が持てたわけだし、せっかくだから最後にパンセクシュアル当事者として初めてのメッセージをここに残しておこう。

年末の大掃除で発見された、プレゼントの贈り主たちへ。

飲み会を抜けてぼくをホテルに誘った、実は彼女がいた先輩へ。あなたがくれたハミルトンの時計、この色違いを彼女にもあげていたのをぼくは知っていたけど、2人の恋人に同じものを贈るのはいくらなんでもやめといた方がいいと思うぜ。ちなみにこちらは、1万円で売れました。

真剣交際をしていたつもりのぼくに、あっさりと「え、私たち別に付き合ってないよ?! ただのセフレでしょ?」という身も蓋もない台詞を放ってトラウマを残した挙句、知らぬ間にTinderで知り合った男と結婚していたあなたへ。あなたが「もう使わないから」と言ってくれたヴィトンのバッグは、買取店に持ち込んだものの中の最高額である約10万円で売れました。

その他の元カレ・元カノたちよ、ありがとう。このお金をぼくは、うっかり使い込んじまったクレカの返済に充てることにします。そしてあなたたちのエピソードを、今後も飯の種にさせてもらうね。

■参考情報
パレットーク https://twitter.com/palettalk_/status/1384464592722481160?s=20

 

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