昨今、弁護士ドットコムニュースというメディアに掲載された「複数恋愛のポリアモリー男性が抱える葛藤 『ひとりの女性を愛するのは怖い。傷つくのが怖いんです』」という記事が話題を呼んだ。今回はこの記事を読んで思ったことをまとめていきたい。
ポリアモリーにおけるカミングアウトと合意
ポリアモリーの定義
まずポリアモリーの定義について、記事では以下のように説明されている。
複数の人を感情的に堂々に愛して関係を結ぶ「ポリアモリー」、パートナー以外の人とリレーションシップ(関係)をもってもよいという同意に至ったカップルの関係を「オープン・マリッジ/オープン・リレーションシップ」と呼ぶこともある。
この説明には重要なポイントが抜けている。すなわち、 ”ポリアモリーは「全員の合意」のうえで築かれる関係である” という点だ。
これを「堂々」と表現するのは不十分と言わざるを得ないだろう。穿った見方をすれば、ただの開き直った二股関係とも受け取られかねない。
カミングアウトとポリアモリー
記事の中でポリアモリー当事者として登場している山本さん(仮名)は「なかなかポリ同士で恋愛ができないんです・・・・・・。だから、結局、非ポリの人と出会ってデートをしばらくして、やっと自分がポリだということをカミングアウトする」と語っている。
ポリアモリーという自分の生き方についてどのタイミングでカミングアウトするかは、もちろん当事者1人ひとりの自由だ。
しかし、”ポリアモリーではない人と出会ってデートをしばらくして、ある程度親密になってからやっと自分がポリアモリー当事者だということカミングアウトする” ことについて、私自身はモヤモヤする気持ちを拭いきれない。
その方がポリアモリーである自分を受け入れてもらえる確率は上がるのかもしれないものの、相手との親密さを人質にとってはいないか? と思ってしまうのだ。
私個人がポリアモリーであることをSNSのプロフィールに書くなどフルオープンにしているのは、親密さを人質に「後出し」で相手に我慢させるような関係をもちたくないからである。
もちろん、モノガミーな人と交際するうち相手がポリアモリーになっていった・・・・・・という経験も何度かあるが、基本的には、相手がポリアモリーとは付き合えないというなら、その感覚を尊重した距離感で接したい、と考えている。
当然、ポリアモリー当事者なら誰しもがポリアモリーであることをオープンに生きるべき! とは思っていない。モノガミーを是とする今の世の中で、それはあまりにも困難な生き様だ。
ただ、ポリアモリーである自分を受け入れてほしいという気持ちがあるなら、それを受け入れられないという相手の気持ちも、等しく尊重していたいとは思う。
ポリアモリーにおける合意の大切さ
ポリアモリーの定義
記事には「現在、山本さんには付き合っている人が2人いるが、ひとりはポリを受け入れているが、もう一人には内緒にしている」「半年つきあっている女性はモノアモリーなので、山本さんは、別の女性と付き合っていることを隠している」とあるが、それは「全員の合意を得る」というポリアモリーのもっとも本質的な定義から外れている以上、ポリアモリーと呼べるものではない。
だからと言って外野から「もう一人にもカミングアウトするべきだ」と責めることはできないし、内緒にしている関係性を悪と裁くこともできない。だが端的に「辞書的な定義とズレているので、それはポリアモリーではない」とは言わざるを得ないだろう。
自認のみでは成立しないポリアモリー
ポリアモリーは相手に押し付けるものではない。
相手にはこちらの言い分を受け入れず、離れていく自由もあるのだ(そしてそれは、ポリアモリーに限らずあらゆるパートナーシップに言えることでもある)。適切な情報開示をせず、関係性を選ぶ自由を相手から奪ってしまうのは、健全なパートナーシップとは言えないだろう。
ポリアモリーを望むと相手に言いづらい気持ちは分かるし、人は誰しも傷つきたくないものだけれど、他者と親密になって大切にしたいと思うのであれば、ある程度は傷つきを引き受ける覚悟をしていてほしい・・・・・・と思ってしまう。
ポリアモリーは自認のみで成立するものではなく、関係者全員の合意が不可欠なパートナーシップの形だ。
人によっては、合意内容を公正証書に残す場合もある。それほど合意形成を大切にするライフスタイルなのである。
ポリアモリーと ”傷つき”
ポリアモリーと傷つきのリスク
「ひとりの女性にすべてを賭けて愛するのは怖い。傷つくのが怖いんです」と語る山本さん。そういう人にとってポリアモリーは、なかなか茨の道なのではないだろうか。
ポリアモリーは、恋人が複数いるから1人失っても傷つきは浅くなる・・・・・・というようなものではない。関係者が多い分、幸せも大きいがトラブルや傷つきのリスクもまた大きいパートナーシップのあり方だと思う。
ポリアモリーは、人間関係における傷つきを回避したい人には、なかなか合わないライフスタイルではないだろうか。交際相手とのコミュニケーションで生じる負荷を忌避する人には、あまり向いていないものかもしれない。
相手ありきで成立するポリアモリー
ポリアモリーは全員の合意があって初めて成立するライフスタイルなので、「ポリアモリーを隠す」「ポリアモリーをカミングアウトする」といった表現がそもそも当てはまらない。
ポリアモリーは自分がどうしたいかの先に、相手との合意によって築かれるパートナーシップの形だ。
ポリアモリーという形は、たとえ傷つく痛みを伴うとしても正面から相手と向き合い、コミュニケーションを重ねていきたい人にこそ適している付き合い方といえるのではないだろうか。