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Writer/Moe

地方に引っ越して、LGBTQやジェンダーの意識の地域差を考える

私は最近首都圏を離れ、甲信越地方に暮らし始めた。その中で、ジェンダーやLGBTQをめぐる議論や人々の意識に地域差があるのでは、と感じた。そう感じる地方在住者の方は、少なくないのではないだろうか。

地方に住んで再発見する、性別とジェンダーに関する偏見

引っ越し先の地方で「ボク? お嬢さん?」と急に性別を問われた衝撃

先日、横浜の実家から両親と一緒に車で出かけ、私の住む甲信越地方のとある町へ用事をしに行った。田んぼと山々の景色の広がるのどかな地域だ。

帰りにおそば屋さんに入り、三人で食事を終えてお会計を済ませた時のことだ。私が「ごちそうさまでした」と言うと、店主の方がじっとマスクをした私の顔を見て「ボク、なのかな? それともお嬢さん?」と言ったのだ。これには、久しぶりに面食らってしまった。

その時の私の格好はというと、黒いウインドブレーカーに、黒いストレートパンツ。どちらも体にピッタリしすぎず、ブカブカでもないサイズ感だ。髪型はショートヘア。

しかし、年齢は三十代も半ばに近い。「ボク」とか「お嬢さん」とかいう歳でもないのだ。確かに、両親と一緒にいるというシチュエーションや、私がふらりと訪ねて来た「よそ者」であり、どんな人物かわからないという事情から飛び出した質問なのかもしれないが。

人々が思い思いの格好で行き交う都会で暮らしていると、自分の装いと性別について、あからさまなコメントをされるということがあまりない。言葉に出さないだけ、というのもある。

だから、自分が一見女性か男性かわからない格好をした「不可解な存在」として店主の目に映っているらしいということに、少し驚いた。そして改めて気づいた。やっぱり人は、見た目で相手を把握したいんだな、と。

それは、パッと見て相手が「男の子か、女の子か」とわかりやすい方が好ましい、という前提も含んでいるように思う。

続柄、結婚、子ども・・・地方ごとにジェンダーの規範にも差が?

この話を同じ神奈川出身の友人たちにLINEで共有したところ、別の地方に移住した友人も、同じように格好を見て性別を問われた経験がある、とリプライしてくれた。更に話していると、首都圏と地方の暮らしの対比でよく言われる人間関係の濃密さ・希薄さという話には、こんな側面もあるのかなと気づいた。

つまり、「自分がどんな人間か」ということ以前に「どこから来て、誰とどんな間柄の、何をしている人間か」で判断されるという傾向が、首都圏を離れてよりはっきり見えた、ということ。男性と女性が結婚して、子供が居て。という従来の分かりやすい家族のかたちにはまっていないと、役所の対応や近所づき合いでも心無い対応だったり風当りが強くなったりするのだ。

「首都圏と地方」という風に括るのは少々乱暴かもしれない。でも私自身、中部・甲信越地方の数か所に住んだ経験があり、人との接し方、相手にかける言葉に違いがあると実感する。車屋さんに行けば、「若い女性が運転しやすいような、○○な車を用意します」とか、知人と二人で歩いているのを見て「ご夫婦ですか?」とか「ご一緒に(この地域に)来たんですか?」と聞かれたり。決してそのひとつひとつに悪気はない。でも、単に意識が違うと思うのだ。ジェンダーや性表現に関する偏見の度合いは、地域ごとに差がありそうだ。

ふと、これはセクシュアルマイノリティやLGBTQへの視線にも影響するのではないだろうか、と思った。調べてみると実際、この地域差を指摘する調査が出ている。

日本全国対象の「LGBTQ+調査」であらわれた、地域ごとの意識の違い

電通による「LGBTQ+調査2020」

大手広告代理店・電通による多様性に関する調査・分析の専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」では、2012年より性の多様性に関する調査を実施している。

2012、2015、2018年と、3年ごとに行われてきた過去の調査は「LGBT調査」と題し、日本全国の約6万人を対象にしたインターネットでのスクリーニング調査に加え、セクシュアリティや性自認の分類、職場環境や法制度の整備に関する意識など様々な切り口でのアンケート結果がまとめられている。

それまでは「LGBT」としていたのを2020年の調査では「LGBTQ+」と改称し、さらに多様な性の在り方を調査対象に含めている。

また、2020年の調査では、日本の各地域での世論の比較をするため、各都道府県から120人ずつ、計6,240人のアンケート回答が集められた(LGBTQ+層555人、ストレート層5,685人と内訳されている)。この結果を受けて翌年11月に出された分析記事が興味深かったので、以下で少し紹介したい。

地域ごとのパートナーシップ制度の有無とLGBTQ+へのサポート意識の関係

2020年の調査の主な結果の一つが、パートナーシップ制度のある地域は、LGBTQ+当事者の住みやすさだけでなく、ストレート層の意識にもポジティブに寄与している、というものだ。

LGBTQ+ を自認しない「ストレート層」に対し、LGBTQ+へのサポート意識について調査が行われた。地域内で「全ての人が安心して過ごせる環境が大事だと思う」「当事者に不快な思いをさせたくないので正しい理解をしたい」「当事者の人達への職場や社会での差別は改善すべき」などの項目への回答をスコア化し、平均点を算出。

パートナーシップ制度のある自治体・ない自治体でまとめて比較したところ、「パートナーシップ制度のある自治体に住んでいる人の方が、LGBTQ +に対するサポート世論が強い」という分析結果となった。

実際、スコア上位の沖縄県や京都府はパートナーシップ制度を制定しており、こうした自治体の動きがLGBTQ+への意識にポジティブに影響するということは、想像しやすい。

LGBTQ+サポート意識のクラスター分析と地域ごとの特色

次に大きく紹介されたのは、「ストレート層のLGBTQ +に対するクラスター分析」というものだ。

課題意識、配慮意識、社会影響懸念、知識などにまつわる数十問の質問への回答をもとに、「ストレート層」の中でもどのような知識度・意識なのかを6つに分類している。「アクティブサポーター層」「天然フレンドリー層」「知識ある他人事層」「誤解流され層」・・・・・・など、詳しくはクラスター分析の記事を参照いただきたいが、細かいタイプ分けをされるとそれぞれのキャラクターが浮かび上がり、問題意識や誤解解消へのアプローチ検討のヒントにもなるため、興味深いと思った。

調査の結果、全国のストレート層でも最も多いのは「知識ある他人事層」(34.1%)で、「知識はあるが、当事者が身近にいないなど、課題感を覚えるきっかけが無い」というタイプだ。

この調査ではさらに、首都圏(東京、埼玉、神奈川、千葉)と、それ以外の都道府県でのクラスターの割合を分析。結果のグラフを見てみると、関東は「知識ある他人事層」が多いのに対して、北海道や沖縄・九州地域には「アクティブサポーター層」が最も多くなっていた。

分析記事では、この結果の背景について、前項と同じく北海道、沖縄、九州すべての県でのパートナーシップ制度が制定されていることを指摘している。それに加えて、私はこれらの地は地理的にも外国と近いことや、先住民族の歴史があることなど、マイノリティに関する議論がより根付いた土地であることも関係しているかもしれない、と思った。

一方で、LGBTQ+の人権への意識は持つが、少子化などの社会課題と結び付けて懸念する「誤解流され層」と分類される人々が比較的多いのは、中部・近畿エリアという結果だった。

LGBTQアクティビズムの地域差

LGBTQへの関心や話題への馴染みにも差が

私は日本全国すべての地域に暮らしたことは無いので、前述したような各都道府県での世論の差については、ひとつの調査結果としてとらえることしかできない。日本全国のLGBTQに関する活動について調べてみると、各地域の大きな街には必ず、LGBTQの団体や取り組みがあるということが分かった。

しかし、都市部からすこし離れた地域へ行くと、そのアクティビズムに温度差があると感じる。街頭のキャンペーン、パレード、ワークショップやシンポジウムなど、社会課題を考えるイベントが至るところで起きていて、歩いているだけであらゆる情報が流れ込んでくる都市部とは違って、地方では情報も少ないし、人が集まって問題意識を共有する機会や場所も少ない。

それに、住んでいる場所によって人々の関心が集まる課題も異なる。畑が広がる地域では「自分たちの農地を守ろう」ということに、工業地域では公害対策についておのずと関心が集まり、日々の暮らしの中で話されることが多いだろう。そんな中、LGBTQ当事者や、性の多様性の在り方について課題意識を持つ人々の集まりや連帯は、都会ほど顕著ではない。

LGBTQは身近な存在ではない?

前述した電通の「LGBTQ+調査2020」ではさらに、当事者を対象に、「カミングアウトをしているか?」という質問をしている。「カミングアウトしていない」との回答は首都圏で50.1%、首都圏以外で56.3%とやや高くなっている。また、自分の身近に「LGBTQ+当事者がいる」と回答した「ストレート層」の割合は、地域別に九州・沖縄、北海道、関東の順に多く、一番低いのが中部地域、という結果となっている。

LGBTQ+が自然に受け入れられる社会を理想とするならば、カミングアウトするか・しないかだけを判断基準にはできないが、前項のクラスター分析でのサポート意識の高い地域・低い地域と、LGBTQ+が認知されている割合が高い地域・低い地域が一致するのを見ると、地域によってLGBTQアクティビズムにも差が出ているのだろう。

自分の住む地域でLGBTQや多様性を考える仲間を作りたい

日々の生活で、同じ問題意識を持つ「仲間」とのつながりが、いきいきと生活するためにも、社会課題の解決にも大切だと思う。ジェンダーやLGBTQに関する偏見や誤解などへの問題意識についてどうやって仲間を作って行こうか、都会から離れて、こうしたつながりをどうやって持っていくのかが、目下の私の課題になっている。

まずは日常的に情報を仕入れること、人の集まりに出かけてみることから始める。たとえば、「LGBT総合イベントサイト COLORS JAPAN」では、日本全国のプライドパレードやLGBTQ関連イベントの情報が分かりやすく掲載されている。住んでいる地域で、イベントという形での開催が無ければ、Meetup などを使って自分の関心と近いグループを探し、オンライン/オフラインで会話してみるのもいいかもしれない。こうやって「仲間」と出会える機会を探してみようと思う。

■参考情報
電通、「LGBTQ+調査2020」を実施 – News(ニュース) – 電通ウェブサイト (dentsu.co.jp)

 

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