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Writer/Honoka Yan

偏見・誤解から考えるバイセクシュアル排除

バイセクシュアルという用語理解の欠如について、たびたび議論さている。バイセクシュアリティを社会的不名誉として捉えるバイフォビアは、偏見や嫌悪感から形成されるもので、たちまちネット上やコミュニティ間で誤った情報が行き来する。バイセクシュアル当事者と付き合うことを避けるレズビアンの方の話を聞いたりすると、LGBTQコミュニティ内でもセクシュアリティの分断による差別が起きているのだと痛感する。

バイセクシュアル排除

日本におけるバイセクシュアルを自認する当事者の数は、同性愛者の数を上回ると統計が出されている。(LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」)「バイセクシュアル女性は結局男性に戻る」「今はバイセクシュアルだけど、どうせストレートになる」といった意見があるように、バイセクシュアリティに限って厳しい目を向ける人々が極めて多いことが現実だ。

バイセクシュアルに対する嫌悪感

バイセクシュアルは、一般的に性的指向が男性、女性に向くセクシュアリティと意味付けされている。多くのバイセクシュアル当事者は、ヘテロセクシュアルだけでなく、レズビアン、ゲイコミュニティからの差別や無視をされた経験を持つ。それらの事例は、バイセクシュアリティに対する偏見や嫌悪感からなるものだ。

LGBTQコミュニティの中でも極めて数の多いバイセクシュアルだが、いまだにそれらの問題は未解決のまま、彼らの存在そのものが不道徳なものとして軽蔑視されている。そしてバイセクシュアル排除により、当事者の健康状態、社会的生活、幸福度にも大きな影響を与えているのだ。

いちセクシュアリティとしての認識を

多くの人々がバイセクシュアルは存在しないと想定する場面がある。例えば、女性同士で手を繋いで歩いていると「レズビアン」と思われ、逆に異性と交際をしていれば「ヘテロセクシュアル」だとみなされる。また、バイセクシュアルはゲイやレズビアンの下に位置すると捉える人も多く、過去のバイセクシュアリティに関する誤ったデータは多く存在する。そのため、バイセクシュアルに焦点を当てた発見や明確な研究は数少ない。

また、バイセクシュアルは「男女の二性”のみ”に向く性的指向」と定義され、「バイセクシュアルは男女の二性しか存在しないと思っている」や「ノンバイナリー当事者に魅力を感じることはない」と勘違いされることが多い。これを受け、性的マイノリティの活動家であるRobyn Ochsは、「バイセクシュアルとは、”二つ以上”の性(セックス、ジェンダー)にロマンティック、感情的、または肉体的な魅力を感じるセクシュアリティ」と発表した。バイセクシュアルと一口に言っても、「男か女」という認識は必ずしも一般論ではないということだ。

*ノンバイナリー:性自認を男女の二性のみに当てはまらない考え

バイセクシュアルは存在する

たとえ、多様性に特化したメディアや雑誌でさえ、妥当性に頼り、バイセクシュアルを「ゲイ」「レズビアン」といったワードに代用する。世界中で有名な、フレディ・マーキュリーやエレノア・ルーズベルトは、「ゲイ、レズビアン」とメディアからはアイデンティファイされていたが、過去の異性との交際は無視されていた。

最近では、トランスジェンダーを始め、ゲイ、レズビアンコミュニティの地位向上に向けたムーブメントが世界中で発足されている。同じコミュニティ内にいる、バイセクシュアルの不透明化も問題視されるべきだ。

バイセクシュアルにまつわる誤解

マッチングアプリ等で「バイセクシュアルNG」と排除するような言葉を見かけたり、そこまで直接的でない場合でも、「レズビアン、ゲイオンリー」のような言葉に惑わされるバイセクシュアル当事者は多くいる。昔ほど差別的な事例はないかもしれないが、誤解はまだまだ残っているように感じる。そこで、バイセクシュアルにまつわる誤解について紹介する。

ゲイやレズビアンになる「過程」ではない

一つの性を恋愛対象とするヘテロセクシュアル、ゲイ、レズビアンが「安定」したセクシュアリティであると認識し、バイセクシュアルはそれらのセクシュアリティになる「過程」とした誤解が見受けられる。もちろん、性の流動性は誰もが持つ得るものなので、ヘテロセクシュアルからバイセクシュアル、バイセクシュアルからゲイやレズビアンへと変わる人もいる。ただ、バイセクシュアルが段階的なセクシュアリティとして、必ず最終的に一性を好きになるわけではない。

バイセクシュアル=ポリアモリーではない

バイセクシュアル=ポリアモリーではない理由として、バイセクシュアルは性的指向を指すが、一方、ポリアモリーとは、同意に基づいて複数の人と同時にロマンティックもしくは性愛的な関係を結ぶことを意味する。なので、バイセクシュアルにかかわらず、基本的にどのセクシュアリティであってもポリアモリーの性質を持ち得るということだ。逆に、セクシュアリティと恋愛・性愛スタイルは別の話なので、「バイセクシュアルだからポリアモリー」といった、直接的な因果関係は起こらない。

バイセクシュアルにまつわる偏見

また誤解だけでなく、偏見が原因で差別や理不尽な経験を余儀なくされることも。ごく一部ではあるが、よく耳にするいくつかの偏見をあげることにする。

性に奔放ではない

バイセクシュアルは、男女共にセックスをするから節操がないセクシュアリティであり、性感染症を持った当事者が多いと偏見を保たれがちである。だが、複数の性を好きになるからといって、バイセクシュアル当事者が他のセクシュアリティの人よりも多く、肉体関係を持つかは別の話。全てのゲイやレズビアンが、同性であれば誰とでも寝たいわけではないように、バイセクシュアルも誰とでも関係を持つということではない。

1980〜1990年代に、HIVの蔓延に関して、バイセクシュアル当事者が避難の的になった。(もちろん、セクシュアリティによってではなく、安全なセックスを行わなかった人たちによる結果だ)しかし、1994年のサンフランシスコの研究によると、当時のMSMW(men who have sex with men and women;男性、女性とセックスをした男性)であるバイセクシュアル男性は、避妊の割合が高く、極めて低いリスクでのセックスであったため、バイセクシュアルによるHIVの蔓延の可能性は低いことが提唱された。(American Journal of Public Health)

ユニコーンハンティング

「バイセクシュアル女性は複数人とのセックスが好きだ」という偏見は、特に異性愛者の男性に多く、バイセクシュアリティのフェチ化が懸念される。以前、NOISE記事「バイセクシュアル女性のモノ化【ユニコーンハンティング】」にも書いたような、バイセクシュアル女性を無差別に性の対象としてみなし、相手の意向なしに3Pやグループセックスに誘い出す差別的な出来事が起きている。

人間性の否定にまでおよぶ偏見

他にも、驚くような誤った考えが存在する。

・バイセクシュアルと自称するだけで、実は両性からの支持を得たいだけ
・バイセクシュアル男性は存在せず、実はゲイである
・バイセクシュアル当事者は彼らのセクシュアリティに確信がない
・相手を「人として」でなく「性別」としてしか見ていない
・トランスフォビアである
・恋愛に誠実でない
・バイセクシュアルは同性と付き合っていても、最終的には異性と関係構築する

このうちのどれかを言われた人、聞いた人はいるかもしれない。一つずつ説明することは省略するが、どれも誤ったバイセクシュアルに関するステレオタイプだ。「二性を好きになる」というイメージから広がる誤解や偏見は、差別や排除につながるので、上のような考えを正す必要がある。

偏見や誤解による影響

多くのバイセクシュアル当事者は、マイノリティストレスに衝突している。バイセクシュアリティの排除は、自殺や自傷のリスクを高めるだけでなく、精神的健康状態の悪化(摂食障害など)などの傾向が見られ、ヘテロセクシュアル、ゲイ、レズビアンコミュニティと比べて、私生活に悪影響を与えることがわかった。十分なセクシュアリティの理解と当事者のサポートが必要である。

健康状態

David J BrennanによるMen’s sexual orientation and healthでは、バイセクシュアル排除が当事者の心身に悪影響を及ぼすとし、以下の事例を発表した。

・バイセクシュアルはヘテロセクシュアル、ゲイ、レズビアンと比ベて、高血圧、喫煙、危険な飲酒の割合が高い
・ヘルスケア等の機関を利用するバイセクシュアル当事者が少ない。適切な情報が得られないことが原因(例えば、セックスなどの正しい情報など)
・大半のHIV、STI予防プログラムでは、バイセクシュアルに向けた的確な健康上のサポートに対応していない
・パートナーを持つモノガミーのバイセクシュアル女性は、家庭内暴力の経験の割合が高い

*モノガミー:一人のパートナーとロマンティックもしくは性愛的な関係構築を行う
スタイル

61%ものバイセクシュアル女性が、家庭内暴力やレイプ等をされた経験を持ち、同じ経験をした17%のヘテロセクシュアル女性や13%のレズビアン女性と比べて高い比率となった。(National Intimate Partner and Sexual Violence Study)

私たちにできること

私たちの多くは、意識的もしくは無意識にバイセクシュアル当事者を傷つけているのかもしれない。そしてそのことは、彼らのアイデンティティを隠すよう促すことにつながり、排除してしまうのだ。

もしあなたが、自身に内在する誤解や偏見を自覚しているのなら、それらをどうしたら修正できるか、自問自答してみるといいだろう。また周りの誤った情報に気づいたなら、注意する勇気を持つことも大事だ。

バイセクシュアルについてのポジティブな情報は、多くのメディアによる情報過多な現代社会にあっても、発信に遅れが生じているように感じる。そういった中で、正しい知見を身につけ、アウトプットすることのできる人たちがどれほど増えていくだろうか。誰もが間違えることはあると思うが、その間違いを認め、一緒にアップデートしていける社会を望んでいる。

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