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Writer/Jitian

「陰キャ」なFTMと「陽キャ」ギャルの交流を描いたマンガ『佐々田は友達』

読者の皆さんは、自分のことを「陽キャ」「陰キャ」のどちらだと思いますか? 私はバリバリの陰キャです。陰キャで、そしてトランスジェンダーでもあるなら、スタニング沢村先生のマンガ『佐々田は友達』が刺さるかもしれません。

「このマンガがすごい! 2025」にもランクインした傑作マンガ『佐々田は友達』

SNSで検索すると、絶賛するレビューばかりです。ちなみに、主人公のセクシュアリティは明示されていませんが、私はFTM(トランスジェンダー男性)だろうと感じながら、読み進めました。

「陰キャ」のFTM? が「ド陽キャ」と出会って


©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

突然ですが、私は大人数の飲み会が大の苦手で、どうしても参加しなければならないときには、隅の席でひっそりとウーロン茶を飲んでいます(下戸なので、肩身の狭さをより感じます)。

たまにXジェンダー当事者の交流会に参加したときには、イベント終了後に参加者や主催者がわいわいと盛り上がっているのを尻目に、さっさと一人で帰ることが多いです(じゃあなんで参加したの? と言われると、返す言葉がありません・・・・・・)。

こんな私の言動が「わかるわ~(笑)」という方には特に、マンガ『佐々田は友達』はおすすめです。

マンガ『佐々田は友達』の主人公は、佐々田絵美(ささだ・えみ)、埼玉県内の高校に通う2年の女子高生。ですが、実際には「歳をとったらカラシ色の似合うおじさんになりたい!」と密かに思っているFTM(トランスジェンダー男性)です。

リアクションが薄めで、他人とはある程度の距離感で付き合いたい佐々田。高校2年生の新学期から1週間たっても、友人ができず一人で過ごしていました。

帰宅部である佐々田の心安らぐ時間は、放課後の帰宅時間。ある日、昆虫などの生き物好きな佐々田は、林のなかへ立ち入ります。その小さな林を抜けた先で、たまたまクラスメイトの超陽キャギャルである高橋優希(たかはし・ゆうき)とばったり鉢合わせてしまうのです。

高橋は、学校が大好き!! と公言して遠慮のないタイプ。

佐々田とは、水と油。いつも声量が大きく、他人との距離感もかなり近め。女子バスケ部ではエースを張る一方で、実は成績優秀でもあります。朝6時から起床して、(校則違反だけれど)ちょっとだけメイクをすることも欠かせません。

高橋の周りにはいつも陽キャ集団が集まって騒がしいですが、実は高橋は、分け隔てなくみんなと関わりあいたいタイプでもあります。そういうわけで、林のなかから突然現れた佐々田にも、いつもの明るい調子で話しかけます。

なにもなければ交わらなかったはずの2人。佐々田と高橋は、そして同級生たちはどのように変わっていくのか、いかないのか・・・・・・。高2の1年間が、全3巻で描かれています。

トランスジェンダー当事者の作者が、マンガ『佐々田は友達』で描く、高2 FTMの日常

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

マンガ『佐々田は友達』の作者であるスタニング沢村先生は、「FTM寄りのFTX(ノンバイナリー)」と公言されています。佐々田のキャラクターには、高校生のときにセクシュアリティで悩んでいたご自身の姿が一部投影されているそうです。

といっても、実は本作では、LGBTQに関わるエピソードが途中までほぼ出てこない、と言ってよいほど。

佐々田は、制服のスカートも(一見悩んでいないような感じで)着ているし、一人称も「私」です(読み進めていると、表に出にくいだけで性別違和がないわけではないとわかるのですが)。

女性だとわかる下の名前「絵美」から取ったあだ名ではなく、苗字で読んでほしいと周囲に伝えるなど、トランスジェンダー当事者なら「もしかして?」と感じる部分はちょこちょことあります。

ですが、佐々田自身が感情をあまり外に出さないこともあり、読者にも直接的に伝わる部分は決して多くないと言ってよいでしょう。トランスジェンダーでなければ特に引っかからずにスルーする場面もあるかもしれません。

その分、1・2巻では、内気な佐々田がどうやって周囲とコミュニケーションを取っていくのか、将来にどう向き合っていくのかに焦点が置かれているように感じました。

トランスジェンダー当事者以外でも手に取りやすいかも

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

マンガ『佐々田は友達』1・2巻では、セクシュアリティにまつわるエピソードが控えめだからこそ、LGBTQ当事者か否かにかかわらず、共感できるポイントを見つけやすいのではないか、と感じました。

「LGBTQが押しつけがましくない」作品で、マジョリティでも読みやすい仕上がりになっています。

実際、X(旧Twitter)では、LGBTQ当事者というわけではなさそうな人でも、本作を評価しているコメントばかりです。

でも、先ほどお伝えした通り、一見だれでも体験しそうな「普通」の悩みのように見えて、特に大人のトランスジェンダー当事者なら特に共感できる場面も少なくありません。

たとえば、佐々田はライフプランを考える授業でプリントをほぼ白紙状態で提出するなど、自分の将来像を描けません。「結婚」「出産」など、セクシュアリティに関わるライフイベントを想像しなさい! と言われても・・・・・・という場面は、LGBTQ当事者あるあるだと思います。

マンガ『佐々田は友達』は、いままさに高校生活を送っているトランスジェンダー当事者も将来を考えるヒントになるはずです。

大人になったトランスジェンダー当事者には、懐かしくほろ苦い「あのとき」がよみがえることでしょう。

陰キャの私が感じた、佐々田への共感

自分を「陰キャ」だと思っている人には、佐々田の生きづらさが伝わると思います。

ただ引っ込み思案なだけではない佐々田

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

私自身、一人でいることが大好きで、普段は基本単独行動。佐々田の考えや言動には共感するばかりでした。

たとえば、佐々田は「陰キャ」の美術部員グループと行動を共にするようになります。ただ、佐々田はたまに美術部に顔を出すことはあっても、入部はしません。

友人たちがマンガやアニメの話題で盛り上がっていても、同じ知識量と熱量がないので、ついていけていないと感じています。

私自身は、陰キャながらも高校は友人たちとめちゃくちゃ楽しく過ごしたのですが、むしろ社会人になった現在のほうが一人の時間がより必要になったので、いまの私の他人との距離感は、高2の佐々田に近いものがあるな、と思いました。

ただ、佐々田は常にひっそりと過ごしているのかと言えば、必ずしもそうではありません。

成績低迷を痛感して通い出した塾では、2浪の「死神」と友人になります。友人たちと一緒に作った映画にも、演者として出演します(自分で志願したわけではありませんが)。

特に、他人の心にグイグイと土足で踏み込む高橋に「もうちょっと距離感があると助かる」と、おずおずと伝えた佐々田には、意外と勇気があるな! と驚きました。ともすれば「あなたと親密な関係なりたくない」と、マイナスな印象を持たれかねない台詞だからです。

一方で、そう言わざるを得ないほど、佐々田は心のガードを高く設定しておかないと息ができないのかな、と感じました。

一口に「LGBTQ」と言ってもさまざま

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

2巻まで読み終えて「めちゃくちゃ面白いけど、そういえばそんなにクィアな要素って出てきてないな?」と思ったちょうどそのころ、3巻になってようやく(?)佐々田以外のLGBTQ当事者が登場します。

と言っても、佐々田とはキャラがまったく異なり、学校内でも目立っていて、高校生活も充実しており、とてもキラキラしています。

そんな人たちを見たからか、2学期も半ばになっていよいよ進路に向き合わなければならなくなったからなのか? 佐々田の足は、学校からだんだんと遠ざかっていきます。だれかにいじめられたわけでもないはずなのに、陽キャも陰キャもみんな楽しく過ごしていたはずなのに、どうしたんだろう? と心配するクラスメイトたち。

果たして、佐々田はどのように彼らの元に戻っていくのか? そして30歳を迎えたとき、はたまたそのさらに先の未来で、彼らは高校時代をどう振り返るのか? 物語の「結果」は、ご自身で読んでください。

マンガ『佐々田は友達』の、純文学のような読後感

意外な結末に驚きました。

陽キャなりの苦悩

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

マンガ『佐々田は友達』を読んでいて、佐々田や友人たちの「陰キャ」の解像度が高いな~と感じましたが、陽キャ・高橋の内面もしっかりと描かれています。陽キャの思考回路や気持ちがわからない私としては、大変勉強になりました(笑)。

高橋は、とにかく毎日を全力で楽しむことが最重要課題。勉強に部活にと励む一方、タピオカジュースを飲んだり、カラオケで歌いまくったり、プールではしゃいだり、と大忙し。「陽キャは、そもそも気力と体力が自分とは桁違いなんだな・・・・・・」と思い知らされました。

だれから見ても明るさ1000%の高橋。「マジ アイビリーブマイセルフ」と言ってのけるほどの圧倒的な自己肯定感! と自分自身でも思っていた高橋ですが、多感な高校2年生、悩みがないわけではありません。むしろ、自他ともに「自分は明るい子」と認められているからこそ、自分の奥底に潜む闇には気づきづらいのかもしれません。

高橋の苦悩が気になる方は、ぜひマンガを読んで確認してください。

きっとみんなが予想外。マンガ『佐々田は友達』の結末

©『佐々田は友達 』 スタニング沢村(文藝春秋)

佐々田は2学期の途中から不登校気味になり、それまでの青春から一変して、だんだんと不穏な空気が流れるようになります。

でも、最後にはきっと丸く収まるんでしょ!? と思ったら・・・・・・。佐々田と高橋の関係や、最終的に彼らがどのよう大人になるのか、すべてを予想できる読者は、おそらくいないと思います。それだけリアルで、意外だからです。

青春群像劇を描いた多くのマンガにはない終わり方でした。

さすが、文藝春秋から出版されているマンガなだけあるわ・・・・・・と、純文学を読み終わったかのような気分に浸りました(そういう意味では「普段純文学をよく読むけれど、マンガはあまり読まない」という人にもおすすめです)。

とはいえ、マンガ『佐々田は友達』は、他者とのコミュニケーションや性別違和といった「重め」の要素だけで構成されているわけではなく、クスリと笑える部分もたくさんあります。

個人的には、佐々田と高橋が観た映画『マッドドックス:怒りのワンコロード』が、どういう内容なのかとても気になりました(笑)。途中で挟まれるキャラクターたちの顔芸も秀逸です。

全3巻と手に取りやすい長さなので、ぜひご自身の目で佐々田や高橋が選んだ道を見届けてください。

 

■作品情報
マンガ『佐々田は友達』
作:スタニング沢村
出版社:文藝春秋
完結済(全3巻)
佐々田は友達1 https://amzn.asia/d/3SKbmKD

 

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