セクシュアルマイノリティにも通いやすい、LGBTフレンドリーな美容室がもっと増えてほしい。美容室でのモヤモヤを長年抱え、苦手意識を持ち続けてきた私は、その原因と「理想の美容室像」について考えてみることにした。
美容室への苦手意識が消えない理由
そもそも、美容室選びって難しい
そもそも私は、美容室選びが苦手である。
十代の頃に通っていた美容室のスタイリストさんと、そりが合わなかったのが発端だと思う。「美容院」と口に出したら「美容室、でしょう?」と笑われたことがトラウマで、今でも人前で「美容院」というワードを出すことができない。(調べたら美容院と美容室に明確な違いはなく、より正確な単語は「美容院」のほうらしい。笑われ損である)
知らない人と喋ることも得意ではないし、特別流行に敏感なわけでもないので、オーダーする時も専門用語がよくわからなくて戸惑う。
そして、苦手意識を抱えながら、自分が通い続けたいと思える美容室を探すことは非常に難しい。
スタイリストさんとコミュニケーションが上手くいかないと、施術の間ずっとモヤモヤすることになり、再び同じお店に行く勇気が出なくなってしまう。
今までに何度も通うお店を変え続け、私はすっかり美容室難民になっていた。
LGBT視点で気になってしまう、美容室でのトーク
自分がセクシュアルマイノリティだから気になってしまう点もある。
特に顕著に感じるようになったのは、同性の恋人ができてからだろうか。スタイリストさんがふいに口に出す、「ご結婚されてるんですか?」「恋人はいらっしゃるんですか?」といった質問に、身構えるようになってしまった。
悪気がないことはわかっているのだけど、初対面でその質問をしてくるスタイリストさんとは価値観が合わないと感じることが多く、二回目には担当を変えるか、美容室ごと変えてしまうこともあった。
正直に答えてもいいのだけど、もしそれで返答に困られたり、うろたえられたりしたらと思うと身構えてしまい、とっさに口ごもってしまうのだ。
これは、同性の恋人を持つ私のような人だけでなく、他のあらゆるセクシュアルマイノリティの方もモヤモヤする事例ではないだろうか。
不本意なカムアウト、ジェンダーバイアス・・・実際に体験した美容室でのモヤモヤ
プライベートな話を聞かれて戸惑う
前述したように、まず私が美容室選びでぶち当たる壁は「トーク」なのだ。
スタイリストさんとほとんど話さずに済むという美容室も増えているけれど、気に入る髪型を一緒に探っていくためには、最低限のコミュニケーションは必要である。そうなると、少なからずスタイリストさんと話をすることになるのだ。
私は自分のセクシュアリティを隠したいという思いがないので、雑談の中で「同性の恋人と今一緒に暮らしています」と話すこと自体に抵抗はない。
でも、本当にこれは初対面の相手に話すことだろうか? とは思ってしまう。
性的指向とか、パートナーの有無とか、そもそもかなりプライベートな話題なのではないだろうか。職場の同僚や親しい知人にすら、全員に話しているわけではないのに、スタイリストさんにすべて明かす必要があるのか、悩んでしまうのだ。
嘘をつくのも隠したり誤魔化したりするのも、それなりのエネルギーが要るので、できればしたくない。こちらが悩むような質問はしないでいてくれたら一番有難いのだけれど、その思いがなかなか通じないのが現実だ。
髪型のオーダーがスムーズに通らない
トーク以外に、ヘアスタイルのオーダーの際にも困ることがある。以前、髪をショートカットにする際「襟足を刈り上げたいです」と言ったところ、スタイリストさんに強く止められたことがあった。
「かなり男性っぽい見た目になりますよ」「スカートとか、女性らしい服が似合わなくなるかもしれませんよ」と繰り返し言われ、最終的に「一旦刈り上げはせずに、カットだけにしましょう!」と押し切られてしまった。
初対面のスタイリストさんで、意思疎通が上手くいかなかったこともあるけれど、その後も結局、その美容室で髪を刈り上げてもらえることはなかった。
私がメンズライクな髪型をオーダーして、スタイリストさんに難色を示されたのは、その時が初めてではなかった。
たぶん、想像以上に尖った仕上がりになることを避けるための配慮なのだろうけど、「男性っぽくなりますよ」という言い回しには毎度引っ掛かりを覚えてしまう。
そう見えてもいい、そうなりたい時もあるのに、なかなか理解してもらえないことがあるのだ。
ジェンダーバイアスを感じる、雑誌問題
特に困ってはいないけれど、地味に気になることもある。「美容室で渡される雑誌問題」である。
私の経験してきた中では、いくつかのパターンがある。一つは、こちらの年齢層に合わせたファッション誌を渡されるパターン。そして、ファッション誌と料理雑誌や生活雑誌を混ぜて渡されるパターン。
さらに、電子書籍で雑誌を読むためのタブレット端末を渡されるか、もしくは何も渡されないパターンもある。
ファッション誌や生活雑誌を渡される時、有難くはあるのだけど、なんとなくジェンダーバイアスを感じてしまうことが多い。年齢と性別だけで、こちらのアイデンティティを判断されているように感じてしまうのだ。
欲を言えば、ファッション誌はユニセックスな雰囲気のものを読みたいし、むしろ普段は手に取る機会がなかなかない、メンズ向けのファッション誌を渡してもらえたら素敵だなと思う。
こちらの性別にかかわらず、女性向け、男性向けのファッション誌を複数混ぜて渡してくれる美容室があったら、それだけで通い続けたい気持ちになる。
最近出会った二つの美容室―LGBTフレンドリーな対応とは
LGBTフレンドリーに近い空気を感じた美容室
今年に入ってから、新しく二軒の美容室に行った。どちらもLGBTフレンドリーを掲げているわけではなかったが、過去に通っていた美容室とは異なる居心地のよさを感じた。
春先に行った美容室では、既婚でお子さんが一人いるというスタイリストさんが対応してくれた。話の流れで「ご結婚は?」という質問をされて、とっさに誤魔化す気持ちになれなかったので「同性のパートナーと暮らしています」と答えた。
あまり前向きな気持ちでカムアウトしたわけではなかったのだけど、少し驚いたようなリアクションの後、スタイリストさんは「シャンプーはアシスタントの子が担当するんですけど、男性スタッフは嫌じゃないですか?」と確認してくれた。
実際は男性スタッフの方でもまったく問題ないのだけれど、配慮してくれるその気持ちが嬉しかった。
その後、スタイリストさんは自分の子どもの話をしつつ、私のパートナーについての話も積極的に聞いてくれた。時々、やや的外れなコメントもあり、LGBTについて知識や理解があるとは言い難かったが、彼女なりに誠実に対応してくれたことが伝わってきた。この美容室に通うなら今後もこの方を指名したいな、と思った。
プライベートを深掘りしない、距離感が絶妙な美容室
次に行った美容室では、結果的に、自分のセクシュアリティのことは一切話さなかった。
担当してくれたスタイリストさんは、そもそも口数が少なく、踏み込んだ質問などをしない方だったのだ。
髪型のオーダーは丁寧に聞いてくれて、髪質にあわせた提案もしてくれて、あとはひたすらカット。たまに「今日はお休みだったんですか?」とか「暑いですね」といった軽い雑談が挟まるくらいで、淡々と、黙々と施術をしてくれた。
これが、とても居心地よかった。
私自身の性格によるところも大きいのだけれど、あまり仲が深まっていない相手にプライベートな話をすることはやっぱりストレスなのだと、改めて実感した。
その日はセクシュアリティの話だけでなく、自分の職種も、趣味も、住んでいるところも、一切話さずに終わった。私が具体的に答えなかった質問について、スタイリストさんが深掘りせずに流してくれたこともある。
モヤモヤする瞬間がなく、自分の髪型が変わっていく過程だけを楽しむことができて、とても嬉しかった。
美容室自体がLGBTフレンドリーを謳っているわけではなくても、偏見を感じないというだけで、ここまで居心地がよくなるのかと目から鱗が落ちる思いだった。
しかも、口数少ないそのスタイリストさんは、理由も聞かずオーダー通りに襟足とサイドを刈り上げてくれた。
これもかなり嬉しいポイントだった。
私が思う理想の美容室―セクシュアルマイノリティでも通いやすいお店とは
プライベートに関する話は、聞くなら少しずつ聞いてほしい
最近行った二つの美容室はどちらも素敵だったのだけど、比較すると、あまり話をしなかった美容室のほうが今後も通い続けたいと思えた。
私個人の性格によるところも大きいのだけれど、やっぱりプライベートな話題は、あまり最初の段階で聞き出さないようにしてもらえると有難い。
カットやカラーの技術が信頼できて、なりたいヘアスタイルを叶えるために一緒に考えてくれて、この人を今後も指名し続けたい、と思えたところで、初めて自分の話をオープンにしてもいいかな、という気持ちになるのだ。
ジョーン・G・ロビンソンの児童文学作品『思い出のマーニー』に、「少しずつ仲良くなっていきたいから、一日一つずつお互いの秘密を明かすことにしよう」と少女たちが約束する場面がある。
スタイリストさんともそんなふうに、ゆっくり少しずつ中を深められたら素敵だな、と思うのだ。
これは私の場合なので、もちろん、スタイリストさんにセクシュアリティをオープンにしたくないという方もいるはず。言いたくない方が無理をしなくてもいいよう、配慮をしてもらえると有難いと思う。
ジェンダーやセクシュアリティを決めつけないでほしい
完全に個人的な希望ではあるのだけど、紙の雑誌を渡す美容室では、ぜひ複数のジャンルの雑誌をミックスして渡してほしい。
ファッション誌であれば、年代や性別、服装のテイストもごちゃ混ぜに。生活雑誌以外にも、マイナーなジャンルの雑誌も入れたりして、「こういう雑誌、普段は読まないなあ」というようなラインナップにしてくれたら、雑誌選びだけでもわくわくするし、自分に対する先入観を感じなくて済む。
トークの際には、「彼氏さんは?」「ご結婚は?」といった、こちらのジェンダーやセクシュアリティを決めつけるような話し方はしないでほしい。
例えば「本とか漫画って読みますか?」や「最近食べておいしかった料理ってありますか?」といった、できるだけ年代や性別を問わないトークテーマで話していただけると、雑談が苦手な私でも多少は気持ちが楽になると思う。
私自身も常にできているとは言い切れないけれど、「二十代くらいの女性」ではなく、「一人の人間」として、自分のことを見てもらえたら嬉しい。
誰しもが通いやすい、LGBTフレンドリーな美容室が、今後もどんどん増えていきますように。