先月末に下された、同性婚が認められていない現状は憲法違反にあたらない、との「合憲」判決。自分には関係ないと感じているクィアや、わたしのように反婚主義のクィアもいると思います。しかし、同性婚が認められていないということが、いかにクィアの権利を奪うのかは、知っておいたほうがいいかもしれません。12月13日から劇場公開される映画『これからの私たち – All Shall Be Well』は、わたしたちに何を訴えているのでしょうか。
※この記事での「同性婚」は、あくまで戸籍上同性同士の婚姻を指します。「同性婚」が法制化することで、戸籍上女性のトランスジェンダー男性とシスジェンダー女性という異性カップルや、戸籍上男性のトランスジェンダー女性と法律上男性のノンバイナリーのカップルなども結婚できるようになることを断っておきます。
「同性婚訴訟」。合憲判決ってどういうこと?
11月28日、東京高等裁判所が、同性同士の結婚を認めていない民法や戸籍法が「合憲である」との判決を下しました。つまり、同性婚ができない現状は「憲法に違反していない」という、ひどすぎる判決が出たということ。
「同性婚訴訟」ってなに?
2019年から、同性カップルや、トランスジェンダーを含めた異性カップルたちが、同性婚を認めていない今の法制度は「憲法違反だ!」と起こした「結婚の自由をすべての人に」訴訟のこと。
憲法は「個人の尊重」や「法の下の平等」を原則としています。そのため、「憲法によれば、同性婚も認めるべきだ」などの主張を展開しました。
これまでの高等裁判所での判決は、すべて「違憲」だった? 「合憲」判決は今回だけ?
同性婚訴訟は、地方裁判所で5件、そのあと高等裁判所で6件審理されました。
地方裁判所では5件中4つ、高等裁判所では5件連続「違憲」判決が出ていました。「合憲」判決は、2022年6月の大阪地方裁判所の1件のみ。
しかしその後、控訴審の大阪高等裁判所が2025年3月25日に「違憲」との判断に変更しました。
わたしも、同性婚法制化への勢いを感じ「ようやく日本でも実現するのか!」と、裁判のゆくえを注視していました。
しかし今回、高等裁判所6件目である東京高等裁判所第2次裁判で、高等裁判所では初めて「合憲」判決が出てしまったのです。
同性婚はいらない? 事実婚で足りる?
東亜由美裁判長が合憲判決の理由として挙げたもののひとつが「同性カップルは事実婚として認められてきているから結婚(法律婚)が必要ない」ということ。
それに対する反論としては
・そもそも同性カップルを事実婚に該当すると認めている法令や制度は限定的
・事実婚ではなく、結婚(法律婚)していないと得られない権利がある
などが言えそうです。
「事実婚扱いで充分だ」「いや、法律で認められた同性婚が必要だ」という2つ目の論点について。実際のところどうなのか。映画『これからの私たち – All Shall Be Well』をもとに、考えていきます。
映画『これからの私たち – All Shall Be Well』が示す「同性婚が認められていない社会」の厳しさ
今月13日公開の映画『これからの私たち – All Shall Be Well』を、渋谷ジェンダー映画祭でひとあし先に観てきました。舞台は、同性婚が認められていない香港。
パートナーを失って・・・
※画像はイメージです。映画の登場人物とは異なります。
『これからの私たち – All Shall Be Well』は、レズビアンカップルとして長く一緒に生きてきたパットとアンジーが、ふたりの家でお茶を淹れているところから始まります。
ほかのレズビアンカップルの友人たちや、仲のよいパットの親族たちに囲まれ、幸せそうなふたり。
しかし、パットが突然亡くなり、雲行きが変わります。
同性婚が認められておらず、ふたりが生前に結婚できなかったために、アンジーはさまざまな苦難を経験することになるのです。
映画『これからの私たち – All Shall Be Well』であらわになる「家族>残されたパートナー」
『これからの私たち – All Shall Be Well』の前半では、パットの葬儀の場面が描かれます。
パットは生前、アンジーに「死んだら海に骨をまいてほしい」と伝えていました。
しかし、パットの兄夫婦は、宗教上の理由からパットのお骨をロッカー式の納骨堂に入れてしまいます。
葬儀場の人が「パットの配偶者はいないので、残された唯一の『家族』であるパットの兄が決めるべきだ」と言ったからです。
法律上は結婚していなかったため、アンジーとパットにはパートナーであったことを証明する公的な書類がありません。そのため、パットの遺骨について決定権があるのは、法律上はパットと無関係のアンジーではなく、親族になってしまったのです。
『これからの私たち – All Shall Be Well』で、親族からも周りからも軽視されているアンジーの姿を観て「わたしの身にいつか起こるかもしれない」と、とてもつらくなりました。
同性婚ができないと・・・家から追い出される
葬儀の件で、対立したアンジーとパットの親族。
さらに、パットの遺産をめぐってもめごとが起きます。
遺言状で特別な指定がない場合。香港の法律上、遺産の相続は「配偶者」、または「配偶者」がいなければ親族がすることになっています。
そして、パットは遺言状を残していませんでした。
同性婚が認められていないせいで、アンジーはパットの法律上の「配偶者」ではありません。このままではパットの遺産がすべて「法律上唯一のパットの親族である」パットの兄に行ってしまうということです。
パットとアンジーは、若い頃にふたりでひとつの家を買って住み、長い間一緒に事業もやってきました。
しかし、アンジーは「親族」ではないため、パット名義の口座を操作できません。
そして、家の契約書にはパットの名前しかありませんでした。そのため、ふたりで貯めたお金だけでなく、ふたりでずっと住んできた家さえも、親族に奪われる可能性が出てきました。
映画『これからの私たち – All Shall Be Well』は、わたしの結婚観をゆさぶる作品でした。
同性婚がなくてもいい? パートナーの死後は?
パートナーシップ制度だけでなく、同性婚の法制化が必要だということは、今までも議論されてきました。映画『これからの私たち – All Shall Be Well』は、その中でもパートナーの死後、残された人にどんな権利が認められていないのかを描いた作品でした。そのうちのひとつ、相続権について。日本の法律では、どうなっているのでしょうか?
同性婚が認められていない日本の場合
※画像はイメージです。映画の登場人物とは異なります。
法律上の配偶者は「配偶者居住権」が認められると、亡くなった人が所有していた建物に無償で住み続けることができます。そして、配偶者居住権は原則として終身存続するため、死ぬまで家に住み続けることが可能だそうです。
『これからの私たち – All Shall Be Well』のパットとアンジーのように、パートナー同士で同じ家に住んでいた場合はどうでしょう?
同性パートナーを含め、「配偶者」ではない人は、家を相続できません。何年一緒に住んでいたとしても、アンジーのように家を追い出される可能性があります。
そして、亡くなったパートナーの名義の預貯金口座を一緒に使っていた場合。
パートナー名義の口座は凍結されるため、預貯金が引き出せなくなります。こちらも「配偶者」など、法律上の相続人であれば、凍結解除の手続きが行えますが、同性のパートナーにはその権利がありません。
同性婚が法律的に認められていないことで、まさに映画でアンジーが苦心していた状況と同じことが起こります。
同性婚ができないなら遺言書をつくる?
残されたパートナーが相続するためには、生前に遺言書を作成する必要があります。
「まだそんな歳ではない」「相続する財産がそんなにない」と、遺言書づくりをためらうカップルも多いでしょう。大学生のわたしもそのひとりです。
しかし「公正証書遺言」をつくっておくと、家や共同財産、生命保険金など、パートナーへの相続に安心感が生まれます。
ただ、法律上の「配偶者」は心配しなくていい「遺留分」が発生します。
遺留分とは、遺言書がなければ相続するはずだった人たち(亡くなったパートナーの親や子など)に、担保されている相続分。つまり、法律上の配偶者であれば自分がもらえるはずだった相続の一部を、亡くなったパートナーの親族へ受け渡さなければならないのです。
加えて、遺言書に基づいて、残された同性パートナーが財産を相続しても、相続税が加算されるそうです。通常、配偶者や親族などは相続税の加算はありません。法律上の配偶者でないことが理由です。
このように遺言書をつくったとしても、遺留分や相続税などの点で、法律婚をしている異性カップルと比べ、同性婚ができない同性カップルは不利な立場に置かれています。
わたし自身、相続に関する知識はまだまだ足りませんが、調べるほどに同性婚の法制化が必要だと強く思います。
映画『これからの私たち – All Shall Be Well』が訴えかける 同性婚法制化はどうして必要か?

わたしは、結婚しないと決めている非婚主義者のクィアです。
結婚によって
・パートナーとの間に支配関係が生まれてしまうかもしれないこと。
・世の中で婚姻関係のみが特権化されてしまうと思うこと。
・結婚制度を利用しないシングルは不利な状況に置かれると思うこと。
などをふまえると、結婚制度自体に大手を振って賛成できません。もちろんパートナーとの関係性は千差万別ですが、わたしにはそんな懸念があります。
そのため「同性婚」についてもなんとなく懐疑的でした。
しかし、映画『これからの私たち – All Shall Be Well』を観て、だいぶ揺さぶられました。日本の法律なども調べていくうちに、少し考えが変わったように思います。
法律婚によって、ふうふの間にはさまざまな権利が認められる現状が日本にはあります。そのため「同性婚」が認められることが、まずは必要だと強く実感しました。
今回の同性婚訴訟において、合憲判決に打ちひしがれているクィアも「パートナーシップでいいじゃん」と感じているクィアも、「結婚する気はない」クィアも、映画『これからの私たち – All Shall Be Well』を今だからこそ、ぜひ観てほしいです。そして、自分やパートナーとの、あるいはクィアコミュニティの将来を、ぜひ考えてみてほしいと思います。
同性婚が認められていないことで、パートナーの死後でさえ、社会からどんな扱いをうけうるのか。どのような権利を奪われているのかを突きつけてくる作品です。
映画『これからの私たち – All Shall Be Well』の結末は、ぜひ劇場で。
■作品情報
『これからの私たち – All Shall Be Well』
公式サイト:https://movie.foggycinema.com/korekarano/
監督・脚本:レイ・ヨン
出演:パトラ・アウ、マギー・リー、タイ・ポー、フィッシュ・リウ
配給:Foggy
■参考情報
・Marriage For All Japan 公式ウェブサイト
・松岡宗嗣のニュースレター『司法による「意志をもった差別」東京高裁判決の5つの問題点』
・東京弁護士会『同性カップルがやがて直面する相続問題』
・ベリーベスト法律事務所『同性パートナーがいる場合の4つの相続対策』
・相続遺言サポートオフィス『同性パートナーの相続権について』
・相続会議『同性カップルの相続は税金がより多くかかりやすい 計算式と具体例で詳しく解説』
・ワケガイ『配偶者居住権とは?相続における権利範囲と注意範囲を解説』

