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Writer/酉野たまご

映画『ソウルメイト』で描かれたのは愛か、友情か? レズビアンである私の記憶

映画『ソウルメイト』のポスターで、仲睦まじく抱き合うふたりの少女の姿を見たとき、これは私が観るべき映画だ、と強く思った。レズビアンの話だと思ったからではなく、きっとふたりの少女の「名前をつけがたい関係性」を描いた作品だと思ったからだ。

映画『ソウルメイト』のあらすじとは

韓国映画『ソウルメイト』は、中国・香港合作映画である『ソウルメイト/七月(チーユエ)と安生(アンシェン)』をリメイクした作品だ。

映画『ソウルメイト』に登場するふたりの少女

物語の主人公は、ミソとハウンという、ふたりの少女。

親の引っ越しの都合で済州島の小学校に転校してきたミソと、すぐに仲良くなったクラスメイトのハウン。

人前では明るく奔放にふるまうけれど、繊細な内面を隠しているミソと、ミソの自由さに憧れる、まじめな性格のハウンはお互いを大切におもい合い、どこへ行くにも一緒だった。

しかし、ハウンがジヌという男性に恋心を抱き、交際するようになってからふたりの関係は変化してしまい・・・・・・。

映画『ソウルメイト』は、レズビアンの物語というわけではない

タイトルの『ソウルメイト』という言葉からも少し想像がつくけれど、ミソとハウンは恋人同士というわけではない。

小学校からずっと仲良しで、家族同然の付き合いを続けてきて、耳にピアスの穴を開けるときも、誕生日を祝うときも、いつも一緒にいたというだけ。

だからこそ、ハウンが異性に恋をしたとき、ミソはなんともいえない表情をする。

自分こそがハウンのいちばんの理解者で、これからもずっと一緒にいる存在だと思っていたけれど、ハウンにとってはそうではないかもしれない・・・・・・。

そんなふうに不安に思う気持ちは、レズビアンであっても、そうでなくても、案外変わらないのではないかと思う。

もしも自分が異性だったら、ハウンに「付き合おう」と言えるかもしれない。
「結婚して、ずっと一緒にいよう」と約束できるかもしれない。

でも、そうじゃないから、ミソは身を引いて、ハウンとジヌから離れる決意をしたのだ。

そのときのミソのやりきれない気持ちや、これでいいのだと自分に言い聞かせるような決意の感情は、私自身にもおぼえがあった。

映画『ソウルメイト』と重なる昔の記憶

大学生の頃、ひとつ年上の先輩に片想いしていた。自分がレズビアンだと気づいてから一年ほど経った頃で、その先輩には、自分のセクシュアリティも早い段階で打ち明けていた。

映画『ソウルメイト』のようだった、大学時代の先輩の記憶

「私も女の子と付き合いたいと思ったことあるから、気持ちわかるよ」

そう言って、私の失恋話をやさしく聞いてくれた先輩のことを、いつのまにか好きになっていく。

ただ、先輩はいつも同い年の女友達と一緒にいた。
近くでそれを見ていた人たちは、皆そろって「ふたりは親友だよね」「もしかして付き合ってるの?」などとからかっていた。

それを笑って受け流していた先輩と、先輩の親友。

「家族ぐるみの付き合いだし、家に何度も泊まったことあるし、もはや恋人よりも恋人っぽい仲だよねえ」なんて笑い合うふたりの関係が、心底羨ましかった。

しかし、どれだけ嫉妬しても、先輩と仲を深めようと努力しても、ふたりの親密さにかなうことはなかった。

遠方の出身で、大学に通うためにこの街に出てきたという先輩は、この街が地元である親友の実家にたびたび泊まって、まるで家族のように一緒に過ごしていたという。

映画『ソウルメイト』のミソとハウンの仲睦まじい姿は、ちょうど大学時代の先輩と、先輩の親友との記憶と重る。

レズビアンである私に、先輩がこぼした複雑なおもい

先輩はあるとき、こんなことをつぶやいていた。

「私とあの子(親友)の関係って、変だよねえ。あの子のお母さんにもお父さんにも娘みたいにあつかってもらってるし、おじいちゃんにもおばあちゃんにも会ったことあるし、何度もおうちに泊まってるし。ふつうの友達の域を超えちゃってるよねえ」

私はそれを聞いて、いつものように嫉妬と悔しさをおぼえながらも「素敵な関係じゃないですか!」と盛り上げるような言葉を返した。

だけど、今思うと、先輩は親友である彼女のことが、恋愛として好きかもしれないと感じていたのではないだろうか。

レズビアンであることを打ち明けていた私だからこそ、ついあいまいな気持ちをこぼしてしまったのではないだろうか。

あのとき、先輩はどこか遠い目で、笑いたいような、泣きたいような、複雑な表情をしていた。

当時の私は、たぶんうすうす先輩の感情を知っていたのだけど、気づかないふりをしていた。

ふたりの関係が、そこまで決定的に深いものだと思いたくなかったから。

レズビアンである私の、映画『ソウルメイト』と重なった記憶

ミソとハウンの繊細な感情をおさえた演技と、ふたりが描く絵にのせて表現している映画『ソウルメイト』は、私の心にまっすぐ響いた。もしかすると、人によっては、ふたりの感情が理解できないという意見もあるかもしれない。

レズビアンとして映画『ソウルメイト』から感じた思い

なぜミソはハウンから離れたのか?
ミソもハウンもお互いを大切におもい合っているのに、どうして傷つけ合うような態度をとってしまったのか?

はっきり言葉では示されていないから、ジヌという異性の存在によって、友情に亀裂が入ったのだと受け取る人もいるかもしれない。

ただ、私が映画『ソウルメイト』から感じたのは全然違う思いだ。

ミソはハウンの心が離れるのが怖くて「私とずっと一緒にいて」と言う勇気が出なかった。

ハウンはミソに憧れて、羨ましく思っていたからこそ、ミソが自分と距離を置こうとしていることが悲しかった。

だからこそふたりは離れてしまったのだし、離れると暮らしも環境も変わり、以前のようにすべてのおもいを分かち合うことはできなくなる。

単純に、異性であるジヌを取り合って、三角関係のもつれの末に仲違いしたのではない。

ふたりとも、友情や親友という枠を超えて、お互いを心の底から大切だとわかっていたからこそ、いつのまにかできてしまった距離に耐えられなかったのだ。

恋人にはならなかったふたりと、映画『ソウルメイト』のふたりの姿

先輩が大学を卒業する少し前、私は先輩の親友に連絡を取った。
「先輩のことが好きなんです」と打ち明けるために。

振り返ってみると、われながら卑怯な手を使ったなと思う。

少なくとも、先輩の親友は先輩に対して恋愛感情を抱いていないかもしれない。

そのことを確かめたくて、かつ、私だってあなたに負けないくらい先輩を好きなんだということをアピールしたくて、相談という建前で連絡したのだ。

私は決死の覚悟で、先輩への恋心を打ち明けた。

しかし、先輩の親友は「そうかあ」とつぶやいただけだった。
こちらの気が抜けそうなほど、力が入っていない、自然体の声色だった。

「あの子は強がりだから強く見えるかもしれないけど、甘えるのが下手なだけなんだと思う。だから、力ずくで甘えさせてくれるような人がそばにいたほうがいいんだろうなって、ずっと思ってた」

先輩の親友が続けて語った内容は、それだけだった。
でも、私には彼女が何を言っているかがわかる気がした。

きっと先輩には、私でも、先輩の親友でもなく、異性の恋人が必要なのだろう。
彼女の語った言葉を、私はそんなふうに受け取った。

先輩の親友が、先輩に恋愛感情を抱いていたかどうかは、わからない。
そんなことは確かめようとするほうが野暮だったのだ。

ミソとハウンがお互いに距離を取ってしまった理由と、先輩と先輩の親友が恋人にならなかった理由は、もしかしたら全然違うかもしれない。

ただ、映画『ソウルメイト』でミソとハウンが、涙ながらに好きだと言い合いながらも、一緒にいることができなかった姿と、先輩と先輩の親友の姿は、私の中で重なって見えた。

こんなに長い間一緒にいた先輩の親友が、先輩は異性とお付き合いしたほうがいいのだと言うのであれば、きっとそれは本当なのだろう。

私は納得して、ただの後輩として卒業するふたりを送り出そうと決めた。

映画『ソウルメイト』と、それぞれが迎えた未来

数年前、大学時代の友人の結婚式に参列した。その席には、先輩と、先輩の親友の姿もあった。

映画『ソウルメイト』のようにはならなかった数年後の未来

ふたりは数年のブランクも感じさせないほど、大学時代と変わらず仲が良さそうだった。
なんとなく、そんなふたりの姿を見てほっとする自分がいた。

先輩も、先輩の親友も、それぞれ結婚していたということを、その場で報告された。
写真を見せてもらうと、どちらの夫婦も幸せそうで、心の底から「おめでとうございます」と言うことができた。

映画『ソウルメイト』では、ミソとハウンも、ハウンとジヌも、生涯を支え合うパートナーとして一緒にいることはできなかった。

でも、人生は映画ではないから『ソウルメイト』のように仲睦まじかった先輩ふたりが、それぞれに結婚して幸せになるという結末もあり得るのだ。

あのとき、先輩の親友が、先輩への恋心を胸に突っ走りそうな私をやんわり引きとめてくれてよかったと、心の底から思えた。

レズビアンである私の記憶にも共鳴する、映画『ソウルメイト』の魅力

映画『ソウルメイト』は、レズビアン映画ではないかもしれない。

でも、レズビアンである私も深く共鳴できる、女性同士の「名前をつけがたい関係性」を描いた、素晴らしい作品であることに変わりはない。

ミソとハウンの間にあったのが、恋心なのか友情なのか、そんなことは突き止めようとするほうが野暮なのだ。

ただ、お互いを大切におもう気持ちを疑わず、心が離れることを恐れずにいれば、ミソとハウンもそれぞれに納得のいく人生の道を見つけられたのかもしれない。

そんなふうに、幸せであったかもしれない未来を想像してみたくなるほど、ミソとハウンの関係は美しく尊く、仕舞い込んでいた私の記憶を揺さぶってくるようなリアリティに満ちている。

数年前の結婚式で、先輩は私の右手の薬指にはまっているリングを見て「もしかして、お付き合いしている人がいるの?」と聞いてきた。

「はい、女性の恋人とお付き合いしています」

そう答えると、先輩はまぶしそうな表情で「よかったね、おめでとう」と言ってくれた。

あのときの先輩の表情と、最後にハウンと再会したミソが浮かべた表情を、私はつい心の中で重ねてしまった。

恋愛関係にならなくても、名前をつけがたい関係でも、大切におもい合える人がいるのはうれしいことだ。

大学生の頃の自分に、そっと耳打ちして教えてあげたくなった。

 

■作品情報
『ソウルメイト』
監督・脚本:ミン・ヨングン
脚本:カン・ヒョンジュ
出演:キム・ダミ、チョン・ソニ、他
配給:クロックワークス

 

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