「LGBTQ、特にトランスジェンダーを描いた作品はないかなぁ」と調べていたところ、アニメ『放浪息子』に出会いました。心をえぐられそうになりながらも、思わず一気見！ 今回は、第二次性徴で揺れるトランスジェンダー当事者や、周囲の人間模様を描いた青春群像劇アニメ『放浪息子』を紹介します。
トランスジェンダー当事者が主人公の攻めたアニメ『放浪息子』
アニメ『放浪息子』がもし2025年現在に放送されても「攻めた」アニメだな、と感じると私は思います。
トランスジェンダー当事者を描いたアニメ『放浪息子』
志村貴子先生の同名マンガを原作としたアニメ『放浪息子』は、2011年1月からフジテレビの深夜アニメーション枠「ノイタミナ」で放送されました。
2011年ごろは「LGBTQ」という言葉はまったく一般的ではなかったと思います。（この十数年でLGBTQを取り巻く環境が本当に様変わりしたんだなぁ、と思い知らされます）。
LGBTQへの理解はおろか「オネェ」という言葉に代表されるように、性的指向とジェンダーアイデンティティが一緒くたにされることが当たり前でしたよね。
そんな環境下で、トランスジェンダー女性を主人公とするアニメ『放浪息子』が放送されていたことに、さすが「アニメの常識を覆したい」をモットーにするノイタミナ枠、かなり尖っているなぁ、と感嘆しました。
なお、原作マンガは2000年代前半から連載がスタートし、2013年に完結しているという時代背景もあるからか、アニメでもマンガでもジェンダーアイデンティティに揺れるキャラクターたちが「トランスジェンダー」であるとは、一度も説明がなされていません。
ですが、私はアニメを見てマンガを読んだうえで「トランスジェンダー当事者の話である」と受け止めたので、今回はその解釈のもと、作品を紹介します。
アニメ『放浪息子』あらすじ
女の子になりたい男の子・二鳥修一（シュウ）は、地元の中学に進学しました。幸いなことに、クラスメイトには小学校からの友人が何人かいて、それなりに穏やかで楽しい中学校生活をスタートしました。
シュウは、第二次性徴が比較的遅いタイプで、男子としてはかなり可愛らしい顔つきをしています。そのアドバンテージを生かして、小学校高学年から密かに行っている趣味「女装」して街中を歩くことを、中学生になっても続けています。
シュウの友人には、もう一人の主人公である、男の子になりたい女の子・高槻よしのがいます。
よしのは長身でスタイルがよく、友人の佐々ちゃんからは「高槻くん」と呼ばれるほどボーイッシュです。でも、身体が成熟するスピードもかなり早く、小学5年生の時点ですでに初潮を迎えるなど、自分の身体が大人の女性として成長することにストレスを感じています。
一方、中学で新しくシュウたちのクラスメイトになった友人の一人、更科千鶴。彼女は「私が着たいから」という理由だけで、入学式早々、学ランに身を包んで登校します。
千鶴は、周囲からの目をあまり気にせずに自分のやりたいことを突き通す、自他ともに認める「変な人」。シュウやよしのは、千鶴の思い切った行動に驚きながらも「かっこいいな」と憧れを抱きます。
新しい環境、新しく出会った人、そして今まで続いてきた人間関係のなかで、シュウやよしのは第二次性徴を経ながら、どのような選択をしていくのでしょうか。
だれもが黒歴史を抱える中学生時代？ を描いたアニメ『放浪息子』
中学生って、子どもでもなければ大人でもなく、漠然とした不安を常に抱えている時期ですよね～！ と思うのですが、私だけでしょうか？
アニメ『放浪息子』で思い出される、屈折した中学生時代（笑）
トランスジェンダー当事者の私としては、アニメ『放浪息子』の一番の見どころは、やはり第二次性徴を迎えて急激に心身が変化していく中学生時代に、トランスジェンダー当事者の主人公たちが自分や友人たちと、どのように向き合うかだと思います。
ですが、アニメ『放浪息子』では常に ”中学生らしい” 人間模様が描かれています。トランスジェンダー当事者でなくても「あのころの、ままならない自分」を思い出して共感できると思います。
たとえば、シュウに女の子の服を着せることに喜びを覚える友人・千葉さおり（千葉さん）と、よしのの関係。
2人とシュウを合わせた3人組は、小学生時代とても仲がよかったのですが、中学生になった2人は、なんだかぎこちない雰囲気・・・・・・。というのも、小学生のときにシュウをめぐってすれ違ってしまったのです。
この2人の仲の悪さが、周囲にも影響してしまいます・・・・・・。
アニメ『放浪息子』の人間模様を見ていて、私も中学生当時、友人同士のケンカに巻き込まれて、当時好きだった初恋の女の子と（私と相手は互いを嫌っていないのに）なぜか絶交することになってしまったことを思い出しました。
ちなみに私の場合、ひび割れた関係が修復することは二度となく、正直今でも引きずっています・・・・・・。この出来事のせいで、性格がさらに歪みました（苦笑）。
アニメ『放浪息子』には多くのキャラクターが登場するので「中学の自分も、あんなことをしてたなぁ（苦笑）」と、当時の自分と重ねて共感できる場面が、きっとどこかにあるはずです。
アニメ『放浪息子』から感じる、かなり変化した制服事情
2011年のアニメ放送当時、私は高校生でした。私服OKの高校でしたが、周囲は制服代わりの「標準服」を着ている人が大半。あまり目立ったことをする勇気のなかった私も、標準服のブレザーとチェックスカートを着用したうえで「何か」に反抗したくて、リボンではなくネクタイを着用していました。
「目立ちたくない」と言う割には、茶髪に染めたり、パーマをかけたり、たまにメイクをしたりしていました。今振り返ると、10代って矛盾だらけですね・・・・・・。
つまり、何が言いたいかというと「2011年当時は、私服の高校ですら、女子高校生がスラックスを着用することなど考えられなかった」ということです。
私が高校を卒業してから数年後、女子学生向けにスラックスを選択できる学校が少しずつ出てきました。そのニュースを聞いた当時は「選べるんだったら、俺もスラックスにしたかったわ」「でも多くの女子学生がスカートを選ぶなかで、あえてスラックスを選ぶ勇気が俺にあっただろうか？」などと考えていました。
でも、今や街中でスラックスの女子学生を見かけることは珍しくなくなりましたよね。
さすがに、千鶴のように男子学生の学ランを着用する人は、今でも好奇の目にさらされるかもしれません。ですが少なくとも、よしのがスラックスを選べていたら、もう少しストレスなく中学生活を送れたのだろうな、とアニメ『放浪息子』を見ていて思いました。
一方、現在では男子学生がスカートを着用してもよい学校も出てきました。でも、スラックスを着用する女子学生に比べたら、実際にスカートを着用する “男子” 学生は、本当に少数派だと思います。
アニメ『放浪息子』では、周囲に触発されたこともあって、シュウが女子学生の制服を着用して登校を試みますが、果たしてその結果は・・・・・・？ ぜひアニメで確認してみてください！
アニメ『放浪息子』を理解しづらいと思った人は、ぜひ原作マンガを！
正直言って、私自身もアニメ『放浪息子』を視聴しただけでは、キャラクターを把握しきれませんでした・・・・・・。
小学校の延長線上にある中学校
シュウは、地元の小学校を卒業して、地元の中学生に進学しています。中学には、よしのをはじめとする小学校からの知人・友人のほかに、中学校で新たに知り合った知人もいます。
つまり、登場人物がかなり多いのです。
それに加えて、志村貴子先生ご自身もマンガのあとがきでおっしゃっているのですが、たとえばシュウとよしのは目つきがかなり似ているなど「キャラクターの描き分けがかなりはっきりしている」とは、正直言えないかな、と・・・・・・。
アニメ『放浪息子』では、小学生時代に何が起こったのか、どのような人間関係が展開されたのかについて、ほとんど説明がなされません。
そのため、「このキャラクターはだれだっけ？ どんなエピソードがあるんだっけ？」と、理解が追いつかないことがたびたびありました・・・・・・。
原作マンガ『放浪息子』を読むしかない
人物理解に若干苦戦しながらも、私はなんとかアニメ『放浪息子』を見終えました。
そして視聴後、あらためて調べてみると、なんと原作マンガでは小学校高学年から高校卒業まで描いているというではありませんか！
男女のグループ分けがはっきりしてくるなか、その流れに馴染めなかった小学校高学年。
第二次性徴にモヤモヤした中学生時代。
大人の男／女の身体に折り合いをつけつつ、将来の選択を迫られる高校生時代。
アニメ『放浪息子』で、シュウが結局第二次性徴をそこまで迎えずに終わったこともあって、シュウのそれまでとこれからを見届けたい！ 原作マンガを読むしかない！！ と、そこから原作マンガをすぐに購入し、徹夜して一気に読みました。
さすがに小学校高学年～高校卒業と長い期間を描いているだけあって、巻数も全15巻と、まあまあなボリュームでした(笑)。
原作マンガを読むと、各キャラクターの背景をしっかり把握できて、アニメ『放浪息子』の理解がより深まりました。
というわけで明日10/2（木）公開の記事では、マンガ『放浪息子』について書きます。乞うご期待！
※アニメ『放浪息子』は、U-NEXTやHuluなど、各種サブスクリプションサービスで視聴可能です。
■作品情報
・志村貴子 マンガ『放浪息子』①～⑮ KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/200700002446/
・アニメ『放浪息子』公式ウェブサイト
https://www.houroumusuko.jp/index.html
