INTERVIEW
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”枠” を超え、それぞれの違いを受け入れられたら【前編】

待ち合わせ場所に、染谷さんは自転車に乗って颯爽と現れた。前の晩、遅くまで仕事をしていたとは思えないほど、元気でいきいきとしている。それは、染谷さんが何物にもとらわれない、とらわれたくないと生きている証なのかもしれない。「いやいや、屈託ありまくりですよ」と照れながら、今ここまでの道のりについて包み隠さず語ってくれた。

2017/05/15/Mon
Photo : Taku Katayama Text : Yuko Suzuki
染谷 梢 / Kozue Someya

1988年、埼玉県生まれ。東放学園専門学校卒業。FTMで、バイセクシュアル。一般企業に勤めた後、飲食、販売の仕事を経験。現在、神宮前にあるBarの店長として働く傍ら、株式会社ニューキャンバスに籍を置き、代表である杉山文野さんのアシスタントも。2016年から、コミュニティFM「渋谷のラジオ」にて毎週日曜日「渋谷のサンデー〜神二の愉快な仲間たち〜」のパーソナリティを務めている。

USERS LOVED LOVE IT! 60
INDEX
01 初恋の相手は男の子
02 女の子のことが、好き?
03 映画のような大恋愛をして
04 そうか、自分は男だったんだ
05 嘘をついていたくない
==================(後編)========================
06 母の思い
07 俺は男だ、わかってくれ!
08 マイノリティだからこそ面白い
09 性別って、何だろう?
10 生き方は、”何でもあり”

01初恋の相手は男の子

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待望の女の子

第二子として、6年ぶりに生まれた女の子。6年ぶりの第二子、両親にとって初めての女の子。とくに母親はかわいくて仕方がないようだった。

「髪の毛はずっと、いわゆる ”女の子らしく” 長かったし、小さい頃なんてパーマをかけられてソバージュみたいな髪型をしていた時もありました」

「ようは、母親が僕に、自分がさせたい格好をさせていたんです」

スカートも、普通にはかされていた。

しかしその頃は、長い髪の毛にもスカートにも、とくに違和感を抱くことはなかった。

「ただ、母親に髪の毛を触られるのは苦手でした。小学校の頃、毎朝学校に行く前に母親が髪の毛をとかしたり結わえたりしてくれたのですが、それが嫌で嫌で、毎日のように泣いていたんです」

でも、それはただ、「髪の毛を触られること」だけが嫌。

そう思っていた。

イケメン大好き

性格は、とにかく明るくて活発。

周りの子たちを楽しませ、笑わせることが好きで、クラスのムードメーカーのような存在だったと思う。

小学校でも中学校でも、学級委員を務めるなどいろいろなことに積極的に参加。学校生活を満喫していた。

恋もした。

初恋は4年生の時、相手は男の子。

「かなりイケメンで、運動神経がよくて、おもしろい子でした。告白することなく終わったけど、その後も、イケメンでモテる子ばっかり好きになって(笑)」

ジャニーズなどのアイドルも好きだったから、自分が女性として生まれてきたことについて、疑問に思うことはなかった。

「中学校に入って周りの子たちがお化粧をし始めると、自分もたまにしてましたしね」

「周りに流されやすいタイプなんですよ(笑)」

02女の子のことが、好き?

男の子でもなく女の子でもなく

もっとも、思春期に入る前の子どもの多くは、自分の性についても相手の性についても、さほど意識することはないのかもしれない。

小学校、中学校通じて、自分が属していたクラスは男女の垣根がなく、本当に仲がよかった。

みんな友達。男だから、女だから、なんて誰も気にしない。
そんな感じだった。

「だから、スキンシップも激しかったですね。でも、そんなふうに思春期の男女がじゃれあっていることを傍から見て、よく思っていなかった人もいたのかもしれません」

ひょっとして、レズビアンなの?

中学に入り、大親友と呼べる女の子に出会った。

「クラスは違ったけど、彼女と過ごす時間は長かったんです」

話をしていると楽しくて楽しくて、別れがたい。

「ある時ふと、彼女に対する『好き』という気持ちが、ほかの友達に対するそれとは違うことに気がつきました」

「ずっと一緒にいたい」という純粋な気持ちから、下校する時も、帰り道が本当は彼女と違うのに、わざわざ遠回りをして一緒に帰っていた。

「彼女が家の中に入るのを見届けてもまだ、もしかしたらまた外に出てくるかもと思って、しばらく近くをぶらぶらしたり、わざと大きな声で歌を歌ったり」

待ち伏せをしたこともある。

「いま考えると、相当あぶないヤツですよね(笑)」

彼女のことを、恋愛対象として好きなことに気がついたのは、2年生の春だった。

「でも、自分は女の子。彼女のことを特別に思うということは、ひょっとしてレズビアンなのかも?と思い始めたんです」

テレビドラマなどで「同性愛」というものがあること、女性同士の場合は「レズビアン」と呼ばれるということは知っていた。

まさか自分が? 

ひどく動揺した。

「当時、持ち始めたばかりの携帯電話で、レズビアン関連のホームページやブログを探しては、読んでいましたね」

そこで初めて、レズビアンの女性と知り合った。

それでも自分がレズビアンだという確信は得られない。

悩み戸惑うなか、男の子とつきあったことも。

「彼とつきあったら、このレズっぽい気持ちは治るのかなと思ったんです」
でも、それによって逆に、彼女への思いの強さに気づかされてしまった。

03映画のような大恋愛

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告白、撃沈。

彼女への恋心を、どうにも抑えられない。

「僕はおしゃべりなので(笑)、彼女のことを好きになった時点で、同じクラスの友達に『彼女のこと好きになっちゃんたんだよね』と話していたんです」

「それが事実上のカミングアウトになるんでしょうけど、僕の感覚としては、好きになっちゃったんだけどどうしよう、という ”普通の恋の相談” のつもりでした」

そして2年生の秋、勇気を出して告白。

「見事、ふられました」

理由は、「いまの、ものすごく仲がいいこの関係を崩したくないから」で、「私は女の子には興味がない」ということではなかった。

それでも、失恋したことには変わりない。

「ショックで、また周りの子たちに『ふられちゃったよ』『こんなに好きなのに』・・・・・・って話を聞いてもらいました」

「そうしたら、みんなが『そんなに好きなら、無理にあきらめなくてもいいんじゃない?』『いろいろな愛の形があって、ただ見守っているというのも愛なんじゃないの?』って」

いま思うと、不思議だ。

男女、お互いに性を意識することなくつきあっていたほど幼かったのに、恋愛観だけは、みんな大人びていた。

そして、自分が女の子に恋をしていることに、誰ひとりとして「おかしいよ」などと言う子はいなかったのだ。

再告白、成功!

周囲のアドバイス通り、彼女のことは無理にあきらめないでいた。

でもやはり、見守っているだけは、つらい。

「インターネット上のレズビアン関連の掲示板で知り合った年上の女性に、『ふられちゃったんだけど、どうしよう』と相談しました。彼女とは一面識もなくて、メールのやり取りをしてただけだったんですけど、僕にとっては ”姐さん” 的な存在で」

姐さんが「その子と話をしてみたい」と言うので、彼女に了解を取ってから連絡先を伝えた。

その後、2人は連絡を取り合っていたらしい。

また周りの友達も、自分の知らないところで彼女の相談に乗っていたようだ。

「ある日、みんなから『もう一回、告白してみたら』と勧められたんです」

驚いたが、彼女への思いは冷めていないどころか以前にもまして好きになっていたから、迷わず再告白。

今度は即、「OK」だった。

「その時は、彼女に何の魔法がかかったのかと思いました。後で聞いたところ、彼女も ”大親友” の関係をとても大切に思っていたから、女性同士でつきあうことで僕との関係がどう変わってしまうのか・・・・・・いろいろな不安や葛藤があったようです」

特別な相手がいる、という安心感

彼女は「あなただから、つきあってもいい」と言ってくれた。

その後、彼女とはつきあったり、別れたりを繰り返しながら、その関係は長く続いた。

「その子とは本当に色々あって、1本の映画ができるくらいの大恋愛だと思ってます(笑)」

好きな人にとっての特別な存在でいられる、というのはこの上ない喜び。

それまで一度も味わったことのない安心感が得られた。

「また、この恋がきっかけで、僕は自分のセクシュアリティについて考えるようになったんです。その意味でも、彼女とのことは僕の人生において大きなターニングポイントになりました」

04そうか、自分は男だったんだ

いつも背伸びをしていた

実は、彼女とつきあう中で新たな気づきがあった。

自分を男性だと思っている、ということだ。

「直接のきっかけは忘れちゃたんですけど、高校1年のとき何かの拍子にふと、自分がいつもつま先立ちしていることに気づいたんです。その時、あれ?と思いました」

当時、身長は151cm。女の子としてもやや低めだが、女の子ならかわいらしいイメージで通ったかもしれない。

でも、男としては断然低い。

そのことにコンプレックスを感じて、無意識のうちに背伸びをしていたのだろう。

ということは・・・・・・自分は、男なのか?

ちょうどその頃、長かった髪をばっさり切っていた。

「子どもの頃から、僕としてはとくに理由もなく髪の毛を伸ばしていたわけですが、高校に入ったらショートヘアのボーイッシュな子がいて、すごく似合っていたんですね」

「じゃあ自分もと短くしたら、長い時よりも断然、心地よかったんです」

パズルのピースが次々にはまっていく

そのうち、自分は周りから女の子として見られたくないのだと、徐々に気づく。

「高校は共学だったのですが、女の子の友達のほうが多かったからトイレも女子用を使っていたのですが、彼女たちと一緒にトイレに入るのがすごく嫌だった」

「なんでだろうと考えると、ああ、自分は女の子として見られること、扱われることが嫌なんだ、って」

そこからは、おぼろげな記憶の一つひとつの輪郭がはっきりとして、欠けていたジクソーパズルに次々とはまっていった。

そういえば、「女の子らしくしなさい」と言われるのが嫌だった。

気づいた時には、スカートをはくことも嫌だった。

女の子と遊ぶのも楽しかったけれど、男の子とのサッカーのほうが断然、夢中になれた。

「そうやって考えていくと・・・・・・自分はやっぱり男なんだ、と確信したんです」

ただ、一つ疑問が残った。

「初恋の相手は男の子でしたし、自分が男だとわかっても、この人のことを好きなのかな?と思うほど魅力を感じる男性もいたんです。これはどういうことなのかと」

その答えを知ったのは、少し先のことだ。

05嘘をついていたくない

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基本的にフルオープン

あの子のことが好き。

女の子を好きになっちゃった。でも、ふられた。

なのに、もう一度告白したら、今度はつきあえるようになった!

自分について、何か気づきがあるたびに、友達には包み隠さず話してきた。

「それは、自分が好きな、仲のいい人にはありのままの自分を知ってほしいと思うから」

「そして自分も、相手のことを知りたい、相手のありのままを受け止めたい。その気持ちは、今も変わりません」

中学2年の時の恋で、はからずも初のカミングアウトをすることとなったが、それ以降も、自分のセクシュアリティについて基本的にはフルオープンにしている。

「カミングアウトしないと、嘘をついているような気がして。それに、悪いことをしているわけではないのだから、隠す必要もないですしね」

でも、母親だけには・・・・・・

ただ一人、カミングアウトをするのをためらった人がいる。

「母親です。女の子としてですけど、僕のことを本当にかわいがってくれていましたから」

両親は幼い頃に離婚し、兄は自分が中学3年の頃に独立して一人暮らしを始めたので、当時は母親と二人暮らし。

「それだけにお互いにかけがえのない存在で、自分のことを母親には一番わかっていてほしいけれど、一番言いづらかったんです」

ところが、その時が突然訪れた。

高校3年の、夏だったような気がする。

自分のセクシュアリティに気づいてから、制服のスカートを履くことへの拒否感や、それまで心の中でもやもやしていた思いが膨らみ続け、その日の朝、爆発した。

学校に行きたくない。

「登校をぐずっている僕を見て、母親が『何やってるの、早く学校に行きなさい!』と言ったんです。その言葉で、僕の中の何かがブチッと切れてしまった」

自分は、本当は男の子なんだと思っている。
だからスカートを履いて学校に行きたくない。
女子トイレに入るのが嫌だ・・・・・・。

自分の中にたまっていたものを一気に吐き出した。

「僕は一方的にまくし立てたので会話にもなっていなかったと思いますが、1、2時間は話していたような気がします」

「いきなりそんなことを告げられて母親は驚いたでしょう。でも、話を聞き終える頃には落ち着いていました」

そして、こう言った。

「あなたがどうであろうと、お母さんはあなたの一番の理解者でありたいし、応援団長でいたい。だけど、とにかく学校には行きなさい。それだけは約束して」

ああ、よかった。

お母さんはやっぱり、自分のことを理解してくれた。


<<<後編 2017/05/17/Wed>>>
INDEX

06 母の思い
07 俺は男だ、わかってくれ!
08 マイノリティだからこそ面白い
09 性別って、何だろう?
10 生き方は、”何でもあり”

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