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家族のあり方に正解はない。Xジェンダーの私と夫が見つけた最適解【後編】

家族のあり方に正解はない。Xジェンダーの私と夫が見つけた最適解【前編】はこちら

2020/04/11/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Sui Toya
金子 秀美 / Hidemi Kaneko

1968年、栃木県生まれ。都心のスポーツクラブでインストラクターとして勤めた後、脳梗塞で倒れた父の看病のため、地元に戻る。イタリアンレストランに就職し、そこで知り合った13歳上のパートナーと結婚。ビストロを開業した夫を支えるため、25歳からワインを学び始める。ソムリエの資格を取得し、現在はフリーのソムリエとして、様々な場所でワインを紹介する仕事をしている。

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INDEX
01 穏やかな子ども時代
02 女の子のそばが安心
03 父との距離
04 世の中ってそういうもの
05 進路を決める
==================(後編)========================
06 恋愛ってどこがおもしろいの?
07 それでも家族
08 Xジェンダーへの共感
09 最初に話すべき人
10 同世代へのエール

06恋愛ってどこがおもしろいの?

パートナーとの出会い

父の体を案じて地元に戻ったはいいものの、田舎にはまだスポーツクラブが進出してなかった。

インストラクターの資格を活かせる働き口がなく、どうしようか迷っていたときに、近所にイタリアンレストランがオープンすることを知る。

「高校生のときに飲食店でバイトをしていたし、とりあえずそこで働けたらいいと思いました」

「面接に行って採用されたときは、転職先が見つかったことにホッとしましたね」

「その店の立ち上げのために、東京から応援に来ていた人が、今の主人です」

一緒に仕事をするうちに仲良くなり、出会ってから付き合うまでにそう時間はかからなかった。

現実の恋愛はこんなもの

「主人とは年が13歳離れています。私が24歳のときに、主人は37歳でした」

「最初は一方的にアプローチされて、断りきれなかったんです(苦笑)」

アプローチされて、嫌な感じはしなかった。

年が離れているぶん、これまで出会ってきた男の子たちにはない包容力や優しさも感じた。

「東京にいたとき、何度か男の子と付き合ったことがありました」

「たぶん、本当に好きな人となら、手をつなぐだけで嬉しいと思うんですよ」

「でも、そういう感情が全く湧いてこなくて・・・・・・」

「恋愛ってどこがおもしろいの? って思ってました」

トレンディードラマ全盛の時代、あのキラキラは現実にはあり得ないと、自分を納得させた。

07それでも家族

ワインを学ぶきっかけ

付き合い初めて1年ほど経った頃、夫からプロポーズされる。

それと同時に、「自分のお店を開きたいんだけど、手伝ってくれない?」と思わぬ誘いも受けた。

「主人はもともと、ビストロ料理で有名だったお店の料理長をしてたんです」

「そのときの常連さんが『金子さんの店ができるなら行くよ!』と言ってくれて、実際にたくさんの方が来てくださいました」

常連客は、ワイン好きな人ばかり。

一方で、ホールを任された自分は、ワインについて何ひとつ知らなかった。

「お酒はそんなに飲めないし、どうしたらいい?」

夫に相談すると、「大丈夫だよ。僕が教えるから」と言われた。

「そこから少しずつワインについて学び始めて、ワインのおもしろさにハマっていったんです」

ソムリエの資格を取り、あれから26年間、ワイン関係の仕事を続けている。

「まさか、こんなに長くワインに携わることになるとは思ってませんでした(笑)」

「人生のターニングポイントって、どこに転がってるかわからないですね」

荒んだ10年間

お店を経営していた頃、夫とは、仕事でもプライベートでもずっと一緒にいた。

一緒にいる時間が長すぎて、いつも1人になりたいと考えていた。

「ビストロがまだ珍しい時代で、売上には波がありました」

「結局、4年でお店をたたむことになったんです」

店はなくなったものの、立ち上げるにあたって借りたお金は返済しなければならない。

「29歳のときにお店をたたんで、そこから10年くらいは借金の返済に苦しみました」

「ワインを学び始めたばかりだったのにとか、こんな人生じゃなかったのにとか・・・・・・」

「そんな考えばかり浮かんできて、心がかなり荒れましたね」

夫とのケンカが増え、家の中には常に険悪な雰囲気が漂っていた。

しかし、そんなことよりも、働いてお金を返さなければいけないという焦りのほうが強かった。

「人生の中で、一番荒んでいた時期かもしれません。なんでこんなに上手くいかないんだろう、って」

「子どもを作る時間も、考えもありませんでした」

すれ違いの生活

30代の頃は、借金返済のために、昼間はカフェで働き、夜はワインバーで働くような生活をしていた。

当然ながら、夫と顔を合わせる時間も減っていく。

「一緒に暮らしているのに、口もきかないことが、2年ほど続きました」

「1人で電車に乗りながら、自分だけの部屋を借りようと思って、賃貸情報誌を熟読した時期もありましたね(笑)」

「そんな冷えきった関係でも、主人に対しては、家族として愛情を感じていたんですよ」

「パートナーというよりは、父や母の延長線上にいる人という感覚でした」

経済的な事情もあり、当時は義母と3人で暮らしていた。

仕事をしている時間が長く、頻繁に顔を合わせることはない。それでも、長く一緒にいると、お互いに遠慮がなくなっていく。

「こちらもストレスを抱えているし、義母も年を取って頑固になっていくし・・・・・・」

「大きなぶつかり合いはなかったものの、決していい関係ではありませんでしたね」

08 Xジェンダーへの共感

Xジェンダーと確信したとき

30代の頃、同じアルバイト先の女の子を好きになった。
その子に会いたくて、仕事がある日はソワソワした。

「でも、時代が時代だったので、気持ちを抑えました」

「もし付き合えたとしても、主人に悪いし、不倫になっちゃいますからね」

そうしたことがきっかけになり、長らく閉じ込めていた違和感が再び頭をもたげ始める。

借金の返済が終わりに近づき、心に余裕ができ始めた頃、ネットでセクシュアリティについて検索するようになった。

「お金を返さなきゃという焦りが落ち着いて、自分の内側や世の中の色々なことに目が向き始めたんです」

「借金返済とか夫婦関係のこじれとか、色々な問題でマスキングされていたモヤモヤが、一気にウワッとあふれ出てきたんですよね」

「本当のセクシュアリティを確信したのは、45歳を過ぎた頃でした」

男になりたいという気持ちはない。
とはいえ、女性と言われてもしっくりこない。

「男性でも女性でもない。私って何なんだろう?」

そう考えていたときに、Xジェンダーというセクシュアリティを知る。

「最初は興味半分で当事者のインタビューを読んでたんですけど、共感ポイントがあまりに多すぎたんですよ」

「こういうときってそういう気持ちになるよね、わかるわかる、みたいな」

Xジェンダーというセクシュアリティを知って、これまで覚えてきた違和感が、すとんと腹落ちした。

次に芽生えたのは、夫に対する罪悪感だった。

「知らなかったとはいえ、結果的に騙したことになるんじゃないか、って思いました」

1人暮らしをしたい

2011年に東日本大震災が発生し、東北に住んでいた義妹が、東京に一時避難してきた。

仕事から帰ると、あまり顔を合わせたことがない姪っ子たちが居間で遊んでいる。

「そういった生活環境の変化についていけなかったんです」

あるとき、夫に「大変申し訳ないんだけど、1人暮らしをしたい」と切り出した。

「女性じゃないのに結婚してしまった」という夫への罪悪感と、義理の家族への気遣い。

日々、プレッシャーに押し潰されて、もう限界だった。

「『何言ってるの?』って怒られると思っていました」

「ところが、『もう20年も頑張っていただいたので、好きにしてください』って言われたんです (笑)」

夫は料理の仕事を辞めたあと、カメラマンとして生計を立てていた。
自分は時間の決まった仕事、夫は時間が定まらない仕事。

生活時間の食い違いから、小さな言い合いになることがしばしばあった。

「早く寝なきゃと思っているのに、主人が夜通し写真の編集をしていると、音が気になって眠れないんですよ」

「『明日仕事だからさ』って文句をつけると、『いや、僕も仕事だから』って言い返されて、ケンカになるんです」

2013年末に1人暮らしを始めてからは、そういった煩わしさがなくなった。

「私たちにとっては、離れて暮らすことが、いい関係を保つための最善策だったんです」

「別居婚を始めてからは、主人も『こういう生活のほうが楽』って言ってますね」

09最初に話すべき人

夫の反応

離れて暮らすようになってから、夫とは良好な関係が続く。

しかし、「騙している」という罪悪感は拭えなかった。

2018年にYouTuberかずえちゃんの「LGBTQ100人のカミングアウト」という動画を見て、夫に打ち明けるべきじゃないかと思うようになる。

「自分の性格を考えても、一生隠し通すのは無理だなと思いました」

「どういう反応をされても、打ち明けることで罪悪感は消えると思ったんです」

その年の暮れに、セクシュアリティについて夫に話すことを決める。

夫と会う約束をした日。
素面ではとても話せないと思い、ワインの力を借りた。

「性別に違和感があるんだ。気持ちが女子じゃないんだよね。でも、男性になりたいっていう強い気持ちはなくて・・・・・・」

「そういうの、Xジェンダーっていうんだって」

なるべく淡々とした口調を保つ。反応が怖い。

「何も言わずに黙り込んでしまうかもしれないな、って予想してました」

しかし、夫から返ってきたのは「ああ、そうなんですか」という、何とも拍子抜けするひと言だった。

「結婚して25年経つし、あなたはワインの仕事を一生懸命やってきたよね」

「僕は、そういうあなたに尊敬と信頼があるから大丈夫ですよ」

カミングアウトするまで、夫に告げるべきか、散々迷った。

夫との関係を崩したくないという気持ちもあったし、カミングアウトによって、夫の知らない一面を見てしまったらどうしようという不安もあったからだ。

「その言葉を聞いて、上から目線だけど、主人のことを見直しました(笑)」

「『あらこの人、意外といいこと言うじゃん』って思いましたね(笑)」

「本当に気持ちが楽になりました」

僕はおかしいとは思わない

夫は、こんな話もしてくれた。

絶対に成功させなきゃいけない仕事をしているときに、こういう気持ちは女の人には伝わらないだろうと思うことがある。

でも、仲のいい男同士なら、そういう気持ちをわかってくれる。

そういう、同性ならではの絆みたいなものを感じることがあるんだ。

同性同士でしかわかり得ないことは存在するし、その気持ちが恋愛に発展してもおかしいとは思わない。

だから、男性で男性が好き、女性で女性が好きっていう人がいても、おかしいことじゃないよね。

「言いたいことが伝わりにくい話で、未だにあの話の真意はわかりません」

「それでも、精一杯の言葉で私を肯定してくれているのはわかりました」

週に一度の水いらず

夫とは、別居してからも、週に一度会ってお酒を飲む。
世間では、これを「週末婚」というのだろう。

「週1で会い続けようね、って約束したわけではないんです」

「主人と会うというよりも、友だちと一緒にお酒を飲む感覚に近いですね」

「週に1回、友だちのおじさんが遊びに来るっていう感じです(笑)」

2人の絆をつないでくれているのは、25年前に学び始めたワインだ。

LINEで「何か1本買っておく?」と聞くと、「僕も何か1本持っていきますよ」という返事。

2人でワインを数本あけて、ほろ酔いになりながら、とりとめのない話をする。

仕事のことや、最近観た映画のこと、セクシュアリティのこと。

慣れ親しんだ家族との会話は、あちこち脱線しながら進み、次の日にはほとんど覚えていない。

「『何だかんだいって、ワインの仕事を続けているんだから偉いよね』って、主人はよく言ってくれるんです」

「そうやって褒めてもらったことだけは、しっかり覚えてますね(笑)」

10同世代へのエール

気づかなかったからこの人に出会えた

・・・・・・いつかこの違和感はなくなる。

10代の頃はそう信じて、時間が解決してくれる日を心待ちにしていた。

しかし、違和感は心の隅にずっと潜み続け、40歳を過ぎてから膨れ上がった。

「Xジェンダーを知ったとき、こんなに自分にしっくりくる言葉があるなんて幸せだなと思いました」

「こんな違和感を抱えた人間は、自分の他にいないかもしれない、って悩んだ時期もありましたからね」

もっと早く自分のセクシュアリティに気づいていたら、どんな人生を歩んでいただろう。

「もし若いときに気づいていたら、結婚はしていなかったかもしれません」

「でも、気づかなかったからこそ、主人と出会えた。それは、幸運だったなと思います」

「彼がいなかったら、おそらくワインの仕事をしていなかったと思うので」

今のところ、カミングアウトしたのは、夫の他に、大切な親友1人だけ。

「LGBTに理解のない人たちに話をしようと思うと、ものすごいエネルギーが必要なんです」

「『そんなわけないじゃん』とか『なんで?』っていう反応に、すごく疲れちゃうんですよ」

「私は夫に言ったことで楽になったけど、必要以上にオープンにしなくていいかなと思ってます」

50代、60代のLGBT当事者たちへ

ミドル世代のLGBT当事者の中には、1人で悩み続けてきた人もいるだろう。

結婚や出産を経験し、何年も経ってから、本当のセクシュアリティに気づく人も多いと聞く。

「結婚もして、子どももいて、生活の基盤が既にでき上がってしまっている。今さらそんなこと絶対に言えないという方が、たくさんいらっしゃると思います」

「私のように、『家族を騙している』という罪悪感に打ちのめされている方も、きっといるでしょうね」

無理に打ち明ける必要はない。でも、これだけは知っておいてほしい。

LGBTの悩みは、若い世代だけのものじゃない。
50代、60代、その上の世代にも、少なからずLGBT当事者はいる。

「どんなセクシュアリティでも、必ず仲間がいるから」

「あなただけじゃない、大丈夫だよ」

同世代のLGBT当事者に、この記事を通して、そっとエールを送りたい。

あとがき
「・・・気づかなかったからこそ、主人と出会えた」。秀美さんの表情はとても穏やかだった。誰かと関係を保ち続けるには、お互いの努力を要する。婚姻関係を超えて、パートナーさんと秀美さんは、戦友でもあり? 親友でもあり?? なんだかいい感じ■生きていると何度も、自分の意志を超えためぐり合わせを発見する。それは、抗えないものなのか? みんなは、どう思うのだろう?? 運命のせいにはしたくないけど、うまくいった時こそは、運命だ!と喜びたいな。(編集部)

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