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恋愛に興味がない「アセクシュアル」ってセクシュアリティに、興味が湧いた。【前編】

ほがらかな笑顔を浮かべる谷藤泉さん。まとう空気は、凪のように落ち着いていて穏やか。人当たりの良さを感じたが、その内面を深掘りしていくと、「あんまり人間に興味がない」と教えてくれた。しかし、その言葉は決してネガティブなものではなく、谷藤さんが生まれ持った感覚であり、健やかに生きていく手段でもあった。

2020/04/15/Wed
Photo : Rina Kawabata Text : Ryosuke Aritake
谷藤 泉 / Izumi Tanifuji

1995年、東京都生まれ。必要以上に干渉してこない両親のもとで、のびのびと育つ。小学生の頃から “恋愛” に対する関心が薄く、高校生の頃に「アセクシュアル」だと自認。専門学校卒業後は、公務員、ディズニーリゾートのキャストを経験し、現在はIT企業でシステムエンジニアになるべく、アシスタント業務に従事している。

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INDEX
01 自分の中にはない “恋愛感情”
02 一定の距離を保った家族関係
03 “1人の時間” を好んだ少女
04 理解できない恋愛小説の面白み
05 3年間続けたバレーボール部
==================(後編)========================
06 みんなとは違うかもしれない自分
07 コイバナだらけの女子高生ライフ
08 「アセクシュアル」に抱いた安心感
09 自分の生き方を決めるのは自分
10 大切なものは “興味” と “経験”

01自分の中にはない “恋愛感情”

恋愛=ファンタジー

自認しているセクシュアリティは、アセクシュアル。

「私は、恋愛感情がないし、性欲もないです」

「友だちとして好き、って感情はあるけど、恋愛が絡んでくるとわけわかんなくなって」

「ラブソングの歌詞に共感することも、一切ないです」

世の中の楽曲や小説、コマーシャルに至るまで、多くの作品には “恋愛要素” が含まれている。

「大半が男女間の恋愛を想定しているけど、私にはわからないんです」

「恋愛ってきっと楽しいんだろうな、って想像はできるけど、違う世界の話みたい。ファンタジーですね」

「性欲もないというか、行為に対しては嫌悪感もあるかもしれません」

「友だちと手をつなぐくらいなら大丈夫だけど、そこが限界だと思います」

いままでに、パートナーがほしい、と思ったことは一度もない。

「あんまり人間に興味ない」

アセクシュアルであることを、身近な人にはカミングアウトしていない。

「友だちや親から『好きな人はいないの?』って、よく聞かれるんです」

「その度に、『あんまり人間に興味ないんだよね』で終わらせちゃいます(笑)」

そう返答すると、さらに深く聞かれることはほとんどない。

親からは、「結婚しないの?」と、聞かれたこともある。

「『結婚する気ないから』って話したら、それ以上つっこまれなかったです」

セクシュアリティに関しては話していないが、自分の言葉はすべて本当のこと。

ウソをついて、誤魔化してきたわけではない。

『LGBTER』に出ようと思った理由は、「アセクシュアルの記事が少ないから」。

「記事が少ないなら、私もそこに入ろう、って軽い気持ちで参加しました(笑)」

今、興味のあること

「他人に恋愛感情を抱かない」という感覚が、一生続くかどうかはわからない。

「ただ、しばらくは変わんないと思います」

だから、今は自分が興味のあること、好きだと思えることに、時間を費やしたい。

「小学生の頃に楽器をやってたんですけど、また音楽を始めたいなって」

「この間、音楽教室の体験講座でヴァイオリンを弾いたら、楽しかったんです」

興味が湧いたことに対しては、一気にのめり込むタイプだと感じている。

「今、抱いている夢は、病気をしないことです。あんまり欲深くはなりたくないので(笑)」

基本的に、人や物に執着しないで生きてきた。
その姿勢は、幼い頃から変わっていない。

02 一定の距離を保った家族関係

干渉されたくない子

生まれも育ちも、東京都台東区。

「ドヤ街が近くて、治安はあんまり良くないです(苦笑)」

「でも、最近は再開発が盛んで、高層マンションがたくさん建ち始めました」

「浅草も近いんで、お祭りとかは結構行ってますね」

父は秋田出身、母は東京出身。なぜ、荒川区に住み始めたのかは、よく知らない。

「両親は、あまり干渉してこないです」

「そもそも、私が『自分のことは自分でやるから、何も言わないで』って、言ったんですけど(笑)」

幼い頃から、自分自身ですべて進めていきたい性格だった。

「そんな子だったからか、親から『勉強しなさい』とか、言われたこともないんです」

「口うるさく言われることがなかったから、親子ゲンカもしたことなくて」

6歳上の兄のすることには、両親も口をはさんでいた記憶がある。

「それを見て、自分は言われたくないからちゃんとしよう、って思った気がします」

「親からすると、私は手のかからない、おとなしい子だったと思いますね」

年の離れた兄

兄とは年が離れていたが、一緒に遊んだ思い出はたくさんある。

「6歳離れてるんで、私が小学1年生になったら、兄は中学1年生なんですよ」

「それでも小学生の時は、よく遊んでましたね。兄のおかげで、自転車も乗れるようになりました」

穏やかな兄は、女の子の友だちが多かったように感じる。

「兄は、誰とでも分け隔てなく接するキャラだから、いろんな友だちがいたんだと思います」

「たまに、兄の友だちと一緒に遊んだりもしてましたね。兄ともケンカらしいケンカはしたことがないし、今も仲良しな方です」

自立した4人家族

それぞれに自立し、ほどよい距離感を保った家族関係。

「子どもの頃から、ごはんを食べる時間はバラバラでしたね」

「おかずが作ってあって、『好きな時に食べな』みたいな」

4人揃っての食事はほとんどなかったが、寂しさを感じることもない。

「今も実家に住んでるんですけど、家族が揃うのは大晦日に年越しそばを食べる時くらいです(笑)」

「家族といっても、奥の方まで踏み込んでくる感じではなくて、一定の距離を保った関係性がちょうどいいです」

03 “1人の時間” を好んだ少女

遊びは自分のペースで

物静かで、1人遊びが好きな子どもだった。

「今も昔も、人が騒いているのを、周りから見てるのが好きです」

「1人が好きで、大人数で遊んだりは、あんまりしなかったですね」

幼い頃、チョロQにハマる。

1人でチョロQを引っ張り、手を放して走らせる。その過程を楽しんだ。

「でも、ずっと1人ってわけでもなくて、たまに友だち数人と鬼ごっこしたり、外で走り回ってました」

友だちがいないわけではなく、好んで1人で過ごしていたのだ。

「小学生になってからは、1人で本を読むのも好きだったし、友だちとプリクラを撮りに行ったりもしてましたよ」

平均よりちょっと上

「当時から、自分なりのルールを作りながら、決められたことをちゃんとやってました」

「でも、優等生ってわけではなかったかも(笑)」

成績は、平均よりちょっといいくらい。

「良すぎず、悪すぎずって感じで、テストも点数が8割くらい取れればいいかなって」

「両親も、『それでいいんじゃない』って感じでしたね」

「休み時間には、校舎内で鬼ごっこしてたし、真面目すぎるわけでもなかったです」

女友だち数人と、校舎全体を使っての鬼ごっこ。
教師とすれ違う時は走らず、早歩きでやり過ごした。

遊ぶ時は遊び、勉強する時は勉強する。メリハリのある子どもだったと思う。

熱中した楽器

小学校の部活動では、和太鼓に挑戦した。

「バスケットボールとかバドミントンもあったんですけど、人気ですぐに埋まっちゃったんです」

「和太鼓は空きがあったから、『じゃあ、和太鼓で』って」

楽器に面白みを感じ、高学年になってから、マーチングバンドに入った。

「5~6年生の時に、ユーフォニアムって金管楽器を担当してました」

「なかなか楽器を吹く機会ってないので、楽しかったですね」

特に思い出深いイベントは、地域の交通安全パレード。

「真夏の暑い中、30分くらいずっとパレートしながら演奏するんですよ」

「吹きながら、こんな暑い中で何やってんだろう、って余計なことを考えながら(笑)」

「その時の記憶は、ものすごく残ってますね(笑)」

興味があることにのめり込む性格からか、ユーフォニアムもキレイに吹けるようになっていった。

04理解できない恋愛小説の面白み

好きなジャンルは「ホラー」

読書が好きだったが、感想を誰かと共有するようなことはない。

「小学生の時はホラー系の小説が好きで、『呪怨』とか読んでました」

「ホラー好きな兄の影響もあったけど、割とマジで興味がありましたね。でも、友だちに『呪怨』好きはいなかったです(苦笑)」

共有しなかったというより、共有できる相手がいなかった、ともいえる。

「漫画も読んでたけど、ほとんどギャグ漫画でしたね。『浦安鉄筋家族』をずっと読んでました」

同世代の女の子とは、趣味が合っていなかったのかもしれない。

わからないキュンポイント

同じ頃、同級生の間でケータイ小説が流行していた。

「『恋空』とか、恋愛ものが人気で、友だちは『あの登場人物がかっこいい』って、話してました」

恋愛漫画を読み、「キャー」と騒いでいる子もいた。

「私は、恋愛ものの小説にも漫画にも、興味が湧かなかったです」

友だちの感情を知るため、試しに読んだこともあったが、面白さは理解できないまま。

「どこにキュンポイントがあるのか、わかんないんですよね」

「小さい頃から、ロマンチックなものには関心がなくて、現実主義でした」

小学校高学年にもなると、周りの女の子はアイドルやイケメンの同級生に夢中だった。

「あの子、かっこいいよね」という話題が出ることも、珍しくない。

「その時は、みんなの話を聞いて、情報を仕入れてました。あの子が好きなんだ、みたいな(笑)」

第三者的な立場で、話の聞き役に徹した。

友だち同士のイベント

バレンタインデーは、チョコをもらうばかり。

「同級生の女の子たちも『好きな人に告白する』というより、『友だちにお菓子をあげる』みたいなノリで、友チョコがメインでしたね」

「でも、作って配るのが面倒だったから、私はもらってました(笑)」

「バレンタインデーにお菓子をもらった子には、ちゃんとホワイトデーに返してましたよ」

同級生の雰囲気からも、恋愛要素を感じるイベントではなかった。

あくまで友だち同士の仲を深めるイベントとして、参加する感覚。

05 3年間続けたバレーボール部

新しい環境

中学は、あえて少し遠くの学校を選んだ。
バスで20分、徒歩だと50分くらいかかるところ。

「地元の中学だと、小学校の友だちがそのまま上がるじゃないですか。それだとつまんないなと思ったので」

「『○○ちゃんと同じ学校がいい』とは、思わなかったんです。それよりも、新しい環境に興味が湧いていったんですよね」」

「どんな人がいるんだろう、って楽しみな気持ちが大きかったな」

同じ小学校から進んだ友だちも数人いたが、同級生のほとんどは見知らぬ顔。

それでも、クラスに馴染めた。

「すぐに話せる友だちができたので、中学に行きたくない、って気持ちは一切なかったです」

「部活に入ったことも大きくて、先輩との関わりが持てたので、いい中学生活でした」

良好な上下関係

中学で入った部活は、バレーボール部。

「同じ小学校の子から、『バレー部に入るけど、どう?』って誘われたんで、入部しました」

「初めての運動部だったけど、ここから体を動かすことが好きになりましたね」

強い部ではなかったが、先輩との関係は良好だった。

「入った時は3年の先輩がいなくて、2年の先輩だけだったんです」

「先輩と一緒にごはん食べに行くこともあって、ギスギスした上下関係ではなかったですね」

進級して、後輩ができてからも、部内の空気は変えなかった。

「同期で部長をしてた子は、しっかり後輩を指導してくれましたけど、私はやさしめな先輩だったと思います」

「『あんまり気にしなくていいよ』とか、声をかけるタイプでしたね」

厳しすぎる顧問

部員同士の関係がギクシャクすることはなかったが、顧問は校内でも有名な厳格な教師。

「これまで接してきた先生の中で、一番怖い人です」

「顧問の先生が体育館に入った瞬間に、部員の空気が変わる感じ(苦笑)」

「あまりの厳しさにびっくりしたけど、ちゃんと頑張ろう、って思いましたね」

中学2年生の時、椎間板ヘルニアを発症し、ドクターストップが出てしまう。

「1年間、練習ができなくて、ずっとボール拾いをしてました」

でも、部活を辞めようと思ったことはなかった。

「顧問の先生に『辞める』って言うのが怖くて、言わなかったところもあります」

「『辞める』なんて言ったら、『本気で言ってんのか?』って、無言の圧をかけられそうで(苦笑)」

「でも、顧問が厳しかったこともあって、続けることを学びましたね」

本気で辞めたい、と思うこともなく、部活を通じて友だちも増えた。

そして、3年生までまっとうして、引退。

部活から得られたものの多い3年間だった。

 

<<<後編 2020/04/18/Sat>>>
INDEX

06 みんなとは違うかもしれない自分
07 コイバナだらけの女子高生ライフ
08 “1人の時間” を好んだ少女
09 自分の生き方を決めるのは自分
10 大切なものは “興味” と “経験”

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