私はレズビアンで、同性のパートナーと暮らしています。先日、パートナーの会社でパートナーシップ制度が導入されると聞きました。同性カップルの私たちにとって喜ばしい制度ですが、正直なところ、すぐに「利用しよう」と決めることはできませんでした。この制度を前に感じた迷いや向き合い方を綴ります。
同性カップル・事実婚カップルが利用できる会社の「パートナーシップ制度」とは?
近年は、同性カップルや事実婚カップルなどを対象にした「パートナーシップ制度」を導入する企業が増えています。具体的にどんな制度なのか、内容や要件を紹介します。
異性の法律婚カップルと同等の福利厚生を受けられる制度
企業のパートナーシップ制度は、同性パートナーや事実婚関係のパートナーがいる社員に対して、配偶者がいる社員と同等の福利厚生を適用する仕組みです。
これまで法律上の婚姻を前提に設計されてきた福利厚生や社内手続きの一部が、パートナーの性別や婚姻の形式に関係なく適用されるようになるのが特徴です。
法律上の結婚とは違い、法的な権利が変わるわけではありませんが、会社のなかでは「家族がいる」社員として処遇してもらえるようになります。
たとえばパナソニックグループは、2016年以降、社内の人事制度で同性パートナーを「配偶者と同等」として扱い、慶弔休暇や育児・介護支援、単身赴任手当などを同性パートナーにも適用する取り組みを進めています。
また、任天堂は2021年から同性パートナーや事実婚のパートナーを配偶者に準ずる存在として取り計らい、福利厚生や人事制度の一部を適用する方針を示しています。
制度の内容や運用方針は企業ごとにさまざまですが、多様な生き方を前提に、働く環境を整えようとする企業は増えています。
会社のパートナーシップ制度で同性カップルも利用できる福利厚生
会社のパートナーシップ制度を利用すると、異性の法律婚カップルと同じような福利厚生が同性カップルにも適用されます。内容は会社ごとに異なりますが、代表的な例としては次のようなものがあります。
<パートナーシップ制度の適用範囲の例>
・結婚(パートナーシップ)にともなう特別休暇や祝い金の付与
・パートナーやその家族に関わる慶弔休暇の付与
・育児休業・介護休業、看護休暇などの付与
・住宅手当や社宅制度の適用
・単身赴任手当の付与や転勤時の配慮
制度が使えることで、同性カップルや事実婚カップルがライフイベントや生活上の事情を理由に休暇や支援を受けやすくなり、働き続けるうえでの選択肢が増えます。
ただし、すべての福利厚生が対象になるわけではなく、適用範囲や申請方法には企業ごとの差がある点には注意が必要です。
会社のパートナーシップ制度の要件
会社のパートナーシップ制度を利用するには、企業ごとに定められたいくつかの要件を満たす必要があります。
<パートナーシップ制度の要件の例>
・同性カップル、または事実婚の関係にあること
・双方が成人しており、継続的なパートナー関係にあること
・法律上の重婚にあたらないこと
また、関係性を確認するために、簡単な手続きを求められる場合もあります。
<パートナーシップ制度利用時に提出する書類の例>
・自治体が発行するパートナーシップ証明書の提出
・事実婚であることを申告する書類や誓約書の提出
ただし、必要な書類や手続きの流れ、審査の有無などは企業ごとに違います。実際に利用を検討する際は、自分やパートナーの会社ではどのようなルールになっているのか、事前に確認しておくと安心です。
会社のパートナーシップ制度で何が変わる?同性カップルの私たちにとってのメリット
会社のパートナーシップ制度を利用することで、同性パートナーのいる人の働き方や職場での立ち位置はどのように変わるのでしょうか。制度が私たちの暮らし、仕事にどう影響するのかを考えていきます。
休暇・祝い金・手当が「対象になる」という現実的な変化

会社のパートナーシップ制度では、これまで私たちのような同性カップルだと対象外だった休暇や、祝い金、手当などが適用されます。
たとえば、パートナーとパートナーシップ宣誓をするタイミングで結婚休暇や祝い金を使えたり、同棲の際は住宅手当や社宅制度を利用できたりと、あらゆる場面でサポートを受けられます。
また、家庭の事情で会社を休みたいときも、慶弔や看護・介護に準じた休暇を申請できる点は大きな変化です。パートナーやその家族に不幸があった場合や、体調不良で付き添いが必要なときに、理由をぼかしたり、無理に説明を省いたりする必要がなくなります。
これまでは通常の有給休暇で対応せざるを得なかった場面でも、事情に見合った休暇を使えることで、精神的な負担が軽くなり、仕事と生活のバランスを保ちやすくなるでしょう。
「家族としての手続き」が社内で成立する
会社のパートナーシップ制度を利用することで、同性パートナーとの関係が社内でも「家族」と認識される場面が増えます。
これまでは、パートナーがいても人事書類や各種申請では独身扱いとなり、その都度説明が必要だったり、記入に迷ったりする場面もありました。
しかし、制度を利用すれば、緊急連絡先や福利厚生の申請、社内システム上の登録などで、自然にパートナーの存在を前提に手続きを進められるようになる可能性があります。
特別な説明をしなくても制度として認められていることは、日常の小さなストレスを減らし、安心して働く土台になります。
目に見える支援だけでなく、大切なパートナーとの関係が「会社の中でどう位置づけられるか」が変わる点も、この制度の大きな意味だと感じます。
「同性カップルが使える制度」があるという事実が、交渉材料になる
会社にパートナーシップ制度があるという事実は、実際に制度を使うかどうかに関わらず、同性カップルが働き方を考えるうえでの「交渉材料」になります。
たとえば、パートナーの転勤や体調、将来の生活設計に合わせて働き方を調整したいとき、「同性のパートナーがいます」と一から説明しなくても、会社として想定されている制度があることで、話を切り出しやすくなります。
また、時短勤務や勤務地の配慮、休暇の取り方などについて相談する際も「会社にパートナーシップ制度がある」という前提があることで、個人的なお願いではなく、制度にもとづいた相談として扱われやすくなります。
同性カップルにとっては、これまで個別対応に頼らざるを得なかった場面で、後ろめたさや過度な遠慮を感じることなく相談できること自体、大きな意味があると思います。
私は、パートナーの会社に制度が導入される話を聞いたときに、制度があるというだけで「パートナーが家庭を持つ社員として、組織に迎えられる」という実感がわきました。
これまで「同性カップルが異性カップル同様の待遇を求めるのは、おこがましいのではないか」と、どこか申し訳なさを抱いたことが、これからは正当な権利として話せる。
その安心感があるだけで、私たちのような同性カップルの職場での孤独感が和らぎ、もっと前向きに、自分らしく仕事に向き合えるようになるのではないかと思いました。
同性カップルの私たちが会社のパートナーシップ制度を利用するうえで気になる点
会社のパートナーシップ制度は、同性カップルにとって心強い仕組みである一方で、実際に利用するとなると、立ち止まって考えてしまう点もありました。
制度を使う=カミングアウトになるという重さ

会社のパートナーシップ制度を利用するということは、多くの場合、職場の誰かに「同性のパートナーがいる」を伝えることとセットになります。申請書類の提出や手続きの過程で、少なくとも人事や関連部署の担当者にはLGBT当事者であることが伝わるからです。
これまでLGBT当事者であることを伏せていた人が、会社でカミングアウトすることは、決して簡単なことではありません。
実際、私のパートナーも職場の雰囲気や人間関係、今後の評価への影響を考えてしまい、頭では「制度を利用した方がいい」と理解していても一歩踏み出せていない状態です。
制度を「使える」ことと「安心して使える」ことのあいだにある距離を、私たちはどうしても意識してしまうのです。
同性カップルであることがバレたら? アウティングの可能性はないか
会社のパートナーシップ制度を使うとき、アウティングの不安がどうしても頭をよぎります。
どんな制度でも、本人の意思に反して性的指向やパートナーの存在が、周囲に広まるリスクがゼロとは言えません。
人事部門だけの管理にとどまる仕組みであれば安心感はありますが、すべての企業がそこまで明文化されたルールを持っているわけではありません。私のパートナーシップの会社も、まだアウティング禁止に関わる規程は発表されていません。
いっぽう、大手企業のなかでは、任天堂がパートナーシップ制度の導入にあわせて社内のハラスメント規程を改訂し、性的指向・性自認に関する差別的な発言や、本人の了承なく他者に性的指向を公表する「アウティング」行為を禁止しています。
こうしたコンプライアンス面での整備は、制度利用時の不安を軽くするひとつの指標になります。しかし、同様のルールが全企業にあるとは限らないという点は、制度を利用する前に確認しておきたいポイントです。
上司を通さなければならない場面の有無
パートナーシップ制度を利用するうえで、どうしても気になるのが「情報はどこまで共有されるのか」という点です。
制度上は人事部門だけが把握する想定でも、実際には上司の承認が必要な手続きや、現場を通さなければ進まないケースもあります。
そうした過程で、意図しない形で同性カップルであることが伝わってしまわないか、アウティングにつながらないかという不安は拭えません。
誰に、どこまで、どんなタイミングで知られるのかが見えにくいままでは、制度を使う決断は簡単ではありません。制度そのものよりも、運用の透明性や配慮が問われる部分だと感じます。
会社のパートナーシップ制度を使わない選択も、間違いではない

会社のパートナーシップ制度は、同性カップルにとって確かに大きな前進です。ただ、その存在をどう受け止め、いつ、どんな形で利用するかは、人それぞれだと感じています。
また、制度の内容によっては “ひとまず始めてみる” というようなスタートの切り方もありますが、従業員の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの個人情報に関連する新しい制度は、慎重に検討を重ねて運用することが欠かせません。
アウティングなどのSOGIハラの理解が低い職場環境は、従業員の離職にとどまらず、自死へと追いやってしまう可能性もあるからです。
私のパートナーも、制度があることに希望を感じつつ、現時点では「使う」と決めきれずにいます。
制度を利用しない選択は、後ろ向きでも消極的でもありません。安心できる環境やタイミングを待つことも、自分たちの暮らしを守るための大切な判断です。
選択肢があること自体を力にしながら、これからも同性カップルである私たちなりの距離感で、パートナーシップ制度と向き合っていきたいと思います。
■参考情報
・パナソニックグループ LGBTQ+に関する取り組み
・任天堂 社員一人ひとりが力を発揮できる環境づくりに努めます。


