INTERVIEW
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個々に事情は違うから、セクシュアリティは細かく分かれてていい。【前編】

出会って早々の撮影に、はにかみながらも、控えめな笑顔を見せてくれた野口侑樹さん。スタイルが良く、女性ものの服をさらりと着こなす野口さんのセクシュアリティは、「今の時点ではクエスチョニング」。男でも女でもないわけではなく、どちらとも判断できない。セクシュアリティに関して、いまだ揺れている。そんな状態の自分が、表に出る意味はきっとある。

2019/07/26/Fri
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Ryosuke Aritake
野口 侑樹 / Yuki Noguchi

1989年、愛知県生まれ。両親と姉との4人家族で育ち、中高一貫の私立男子校に進学。東京の理系大学・大学院に進み、物理学を研究した後、民間企業に就職。その3年後、公務員試験に合格し、公務員に転職。社会人になってから、女装を楽しむようになり、現在では自身のライフスタイルに欠かせないものとなっている。

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INDEX
01 「クエスチョニング」という枠の中
02 家族からの肯定・否定・無関心
03 年齢不相応なひねくれた子ども
04 陰険ないじめと強い負けん気
05 異性愛者と同性愛者の境目
==================(後編)========================
06 堅実な1人暮らしとフタをした欲求
07 ヒーローのように人助けできる仕事
08 プライベートだけの趣味女装
09 カミングアウトした人とできない人
10 1人ひとり異なるセクシュアリティ

01「クエスチョニング」という枠の中

「クエスチョニング・・・・・・かな?」

「当てはまるセクシュアリティを決めるとしたら、クエスチョニングかな、と思ってるところです」

今の時点では、まだ自分の性別は確定していない。
・・・・・・というよりも、どこかに所属したくない。

「男か女かっていわれたら、私自身が “男” だけで構成されているわけではないことは、はっきりしてます」

「もともと趣味で始めた女装も、趣味の域を超えてきてるな、って実感してます」

「だからといって、女の子になりたい! って、わけでもないんです」

男性の体に対して、嫌悪感を抱いたことはない。

しかし、 “おっさん” にはなりたくない。

「髪の毛がパサついて、肌がテカって、臭くなっていくのは、すごく嫌だな」

「単純に老けたくないのか、おっさんになったら女装できないから嫌なのか、自分でも理由はよくわからないです」

「クエスチョニング」と名乗る自身に対して、疑いの目を向けたことがある。

「自分は流行の言葉に乗ってるだけなんじゃないかな、ってちょっと抵抗感があるんです」

「だから、名乗りづらい部分もあります」

自分がコントロールできないもの

他者から「クエスチョニング」という枠に、当てはめられることも快く思わない。

「『君はクエスチョニングだから、こう考えるんだね』みたいに思われるのが、嫌です」

「いまだに『女装してるから、男が好きなんでしょ』って見られるのも、どうなのかなって」

男性のAさんと男性のBさんが別人であるように、FTMのCさんとFTMのDさんも別人。

セクシュアリティに関係なく、好みも考え方も、人それぞれ異なるのは当然のことだ。

「だから、法律では決まっていないのに、強要される文化、ルールみたいなものが苦手です」

「男は台所に立つな」「男はスカートをはくな」という考えには、昔から違和感を抱いてきた。

「私は、自分のコントロールの利かないことに抵抗があるんじゃないか、って思います」

長く続く文化も人の思考も、自分がコントロールできるものではない。

「その最たるものが、性別だと思うんです」

「男に生まれるか、女に生まれるか。希望調査なんてされないし、事前に知らされもしないじゃないですか」

「一生に影響することを勝手に決められていることが、納得いかないです」

「こういうことって、自分の性別に疑問を抱いたことがないと、考えないことですよね」

この世に生まれてきたこと自体は、良かったと思っている。

それでも、幼い頃から、他者や社会にルールを強要されることに、反発心を抱いてきた。

02家族からの肯定・否定・無関心

姉と共有する漫画

2人きょうだいの姉とは、2歳離れている。

「歳が近いから、女の子の遊びを一緒にやってました」

大人になってから、母に幼い頃のことを聞いたことがある。

「あんたは、お姉ちゃんのおままごとセットで勝手に遊んでた」と、話してくれた。

「姉が買ってもらっていた少女漫画雑誌の『りぼん』を、私も借りて読んでました」

「逆に、私の少年漫画を姉が読んだり。持ち物は共有してましたね」

「その頃の趣味は、特別女の子寄りってわけではなくて、男の子向けのものも好きでした」

姉は中学生になると『りぼん』を読まなくなったが、代わりに自分が買ってもらうようになった。

「母は『ジャンプ』を買うくらいの感覚で、普通に買ってくれました」

「おままごととかの遊びも、両親から否定されることはなかったと思います」

少し寂しい両親との思い出

母は遊びに関しては寛容だったが、将来のことになると違った。

「私がやりたいことを主張すると、結構な確率で否定されました」

中学受験を決めた時も、高校で俳優を志した時も、はなから否定される。

「『あんたには難しいから、やめときなさい』みたいな感じでしたね」

今思えば、心配からくる言葉だったかもしれないが、当時はショックだった。

一方で、父は子どもの教育に関心のない人。

「勉強とかにも、口を出してこなかったです」

「授業参観や運動会には来てくれたけど、保護者参加競技には出てくれなくて」

「私も1人で参加するのは恥ずかしかったから、一緒にサボってました・・・・・・」

父が競技に参加してくれなかった理由は、今でもよくわからない。

絶えないケンカ

両親は、自分が幼い頃からケンカが絶えない。

きっかけは、ほんの些細なこと。例えば、「フォーク取って」「そうやってすぐ命令して、人を使う」というやり取りから始まる。

「売り言葉に買い言葉みたいな感じで始まって、終わんないんです」

東京で就職してから、愛知の実家に帰った時のこと。

「たまに帰ったら、家族でゆっくり話したいじゃないですか」

「でも、私のことはガン無視で、ずっとケンカしてたんです」

節約生活の中、お金をやりくりして帰省した子どもの気持ちは、汲んでもらえなかった。

「当時、資格の勉強もしていて、その時間を削って帰ったんです」

「でも、自分のために良くないな、って思っちゃって、あんまり帰らなくなりました」

03年齢不相応なひねくれた子ども

苦手な教師と好きな友だち

「小学校は、好きじゃなかったです」

中学年から高学年にかけて、乱暴な教師が多かった。

「言葉遣いも『○○しろよ』みたいな威張った感じで、暴力をふるってくる先生もいました」

「本当に、学校に行くのが嫌でしたね」

勉強は好きだったため、放課後に通っていた塾は楽しみだった。

友だちと遊ぶ時間も、好きだった。

「3年生ぐらいまで同じ団地に住んでた男の子とは、幼稚園に入る前から仲良かったです」

「小学校に入ってからは、男の子とも女の子ともよく遊んでたな」

「たまに、女の子数人と私1人で遊ぶこともありました」

子どもらしいリアクション

当時の自分は、だいぶ変わった子どもだったと思う。

「大人に反抗的というか、あんまりリアクションをしない、ひねくれた子でした(苦笑)」

「子役みたいな子どもっぽい振る舞いが、全部演技のように感じてたんですよね」

友だちと一緒にいる時は、年相応に騒ぐこともあった。

しかし、大人が良かれと思ってしたことに対して、オーバーに喜ぶようなことはできなかった。

「もちろん楽しい時は笑いますけど、楽しくない時に『わーい!』とかは言えなかったです」

「子どもの振りをすることも、大人につき合ってあげることも嫌だ、って思ってました」

“子ども” というカテゴリーに当てはめられることが、嫌だった。

「この頃から、どこかに所属させられることに、苦手意識があったんだと思います」

「大人はズルい」と言っている “中二病キャラ” のようにもなりたくない。

「それはそれで作られたキャラだし、そこに当てはめられることは避けたかったです」

リセットのための受験

中学受験は、自分の意志。

「母は『あんたには難しい』って言ってたけど、ちゃんと勉強してたから、受けさせてくれました」

地元の公立ではなく、私立に進むことを決めたのは、環境を変えたかったから。

「子どもっぽく振る舞えなかったのもあって、周りとズレてる感覚はあったんです」

「それに、『地元の中学は荒れてる』って、噂も聞いたんですよ」

「なんとなく、自分みたいなひねくれたやつがそこに行ったら、いじめられると思いました」

それまでとまったく違う環境に身を置けば、人間関係をリセットできると思った。

04陰険ないじめと強い負けん気

バイブルは太田光の自伝

私立の男子校に進み、環境はリセットできた。

しかし、自分の性格までは、リセットできなかった。

「私自身はひねくれたままだし、思春期だからか顔中がニキビだらけになりました」

中学2年になる頃から、容姿をバカにされるようになっていく。

「見た目がきっかけで、いじめにあったんです。『整形しろ』って言われたり・・・・・・」

「学校に行きたくなくなりました」

いじめられる日々は、ただただ辛い。それでも、学校は休まなかった。

「中1からよく本を読むようになって、爆笑問題の太田光さんの自伝を読んだことがあったんです」

太田さんも、高校時代にいじめられた経験があったことを知る。

「その中に『不登校は負けた感じがするから、休まなかった』みたいに、書いてあって」

その言葉を思い出し、休んじゃいけないんだ、と思った。

「ただ、行事の時は嫌がらせが多かったから、体育祭や文化祭は休みました」

「本当は修学旅行も休みたかったけど、母に無理やり学校まで連れていかれて、行かされましたね」

発散するための趣味

いじめの悩みを聞いてくれるような友だちは、いなかった。

「1人だけ仲良くしてくれる子はいたけど、その子は友だちが多かったんですよ」

「修学旅行とかの班決めも、その子はすぐに決まっちゃって、私は1人残される感じ」

校外に楽しみを作るしかない、と考えた。

そんな時に、たまたまストリートライブをしているバンドを見かける。

「ロック系のインディーズバンドで、すごくかっこいい、って思いました」

チラシの載っていたホームページから連絡を取り、ライブに赴くようになる。

「バンドのメンバーもファンの人たちもみんな大人で、歳が近いのはファンの高校生の女の子くらい」

お小遣いは、月1回程度のライブのためだけに使った。

「ファンの人ともメンバーとも遊ぶようになって、めっちゃ楽しかったです」

校外での楽しみを見つけつつ、勉強は手を抜かなかった。

「いじめられて、成績を落として、負けたって思われたくなかったです」

「人間関係からは逃げても、学校から逃げてるわけじゃないんだぞ、って主張のつもりでした」

学年3位まで上りつめ、あまり成績の良くないいじめっ子たちに見せつけた。

「塞ぎ込んで成績を落としていたら、学校には行けてなかったと思います」

女の子っぽいキャラ

中学時代、自分の性別に違和感を抱くことはなかった。

「ただ、男子校の中で女の子っぽいキャラになりたい、みたいな憧れはありました」

「実際はいじめられてたから、そんなキャラにはならなかったけど(苦笑)」

女の子っぽさへの憧れは、うっすら心の中にあった気がする。

しかし、自分は男だという自覚もある。

05異性愛者と同性愛者の境目

タイムマシンを生む学問

中高一貫校だったため、高校に上がっても顔ぶれはほとんど変わらず、いじめも続いた。

しかし、高校2年に上がると、いじめがやむ。

「高2から、学力別のクラスになったんです」

「いじめてた子は文系だったり下のクラスだったから、クラスが離れていって、勉強してて良かったなって感じ」

高校生にもなれば、わざわざ他のクラスにまで来て、いじめてくるようなことはなかった。

それからは、大学受験のための勉強に集中しやすくなった。

「クラスメートも成績がいい人たちだから、受験の話ができて良かったです」

進路も、本格的に考え始める。

その頃、「タイムマシン」をテーマにした物理系の本を読む。

「タイムマシンが物理的に考えられることを知って、作りたい、と思いました」

大学では物理学を学ぼう、と具体的な将来を見据えるようになっていく。

「オシャレとかサークルとかは全然考えてなくて、大学には物理を学びにいこう、って思いだけでした」

憧れのヒーロー

高校時代には、俳優を志したこともあった。

「昔からヒーローものの特撮ドラマが好きで、出たかったんです」

演劇部に入り、何回かオーディションも受けた。

「もし本当に俳優になれたら、いじめもなくなるだろう、って考えもありました」

「それに、役を通して自分と違う人になれるじゃないですか。現実から逃げたかったというか」

俳優の夢は諦めることになるが、いつかヒーローになりたい、という思いは心の隅に残った。

好きな人の性別

高校生活を送る中で、女の子っぽい雰囲気の男の子と知り合う。

その子はやや長めに髪を伸ばしていて、かわいらしかった。

「その子のことを、女の子として見て、好きになったんです」

「相手を男として好きになったわけじゃないけど、自分はゲイなのかな、って悩みました」

さまざまな本を読み、セクシュアリティについて知識を得た。

その頃から、「LGBT」という言葉が世に出始めたのだろうと思う。

いくら調べても、相手の男性を女性として見て、好きになった人の話は出てこない。

「この頃は、性自認とか性的指向とかも全然わからなかったです」

「自分は変わってて、LGBTといわれる人たちに近い距離にいるんだな、って実感しました」

さらにさまざまな本を読み進める中で、自分はゲイではない、という考えにたどり着く。

「性別上は男だとしても、女の子として好きになってるから」

「それに、男でも女でも等しく振られる可能性はあるから、性別は関係ないのかなって」

男子校に入ったから、仕方なく男の子を好きになったわけではない。

たまたまその子が、気になっただけ。

 

<<<後編 2019/07/30/Tue>>>
INDEX

06 堅実な1人暮らしとフタをした欲求
07 ヒーローのように人助けできる仕事
08 プライベートだけの趣味女装
09 カミングアウトした人とできない人
10 1人ひとり異なるセクシュアリティ

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