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個々に事情は違うから、セクシュアリティは細かく分かれてていい。【後編】

個々に事情は違うから、セクシュアリティは細かく分かれてていい。【前編】はこちら

2019/07/30/Tue
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Ryosuke Aritake
野口 侑樹 / Yuki Noguchi

1989年、愛知県生まれ。両親と姉との4人家族で育ち、中高一貫の私立男子校に進学。東京の理系大学・大学院に進み、物理学を研究した後、民間企業に就職。その3年後、公務員試験に合格し、公務員に転職。社会人になってから、女装を楽しむようになり、現在では自身のライフスタイルに欠かせないものとなっている。

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INDEX
01 「クエスチョニング」という枠の中
02 家族からの肯定・否定・無関心
03 年齢不相応なひねくれた子ども
04 陰険ないじめと強い負けん気
05 異性愛者と同性愛者の境目
==================(後編)========================
06 堅実な1人暮らしとフタをした欲求
07 ヒーローのように人助けできる仕事
08 プライベートだけの趣味女装
09 カミングアウトした人とできない人
10 1人ひとり異なるセクシュアリティ

06堅実な1人暮らしとフタをした欲求

上京後の節約生活

高校卒業後は、東京の理系大学に進む。

「同じ高校の人があまりいないところに行ったんで、この時もリセットの感覚がありました」

上京したての頃は、親から仕送りをしてもらっていた。

初めての1人暮らしで、自由になれた気がした。

「だけど、単純にお金に余裕がないし、気持ち的にも節約意識が高まって、お金を使わないようにしてました」

もともと大学は、遊ぶためではなく勉強をするために行こう、と考えていた。

さらに、幼い頃の経験も影響していたように思う。

「姉からよく『こんなもの買ったの? もったいない』って、言われてたんです」

「安かったんだよ」と説明しても、「買わなきゃ、もっとお金かかんないじゃん」と言われた。

「姉の考えに影響されてか、今も80円の納豆ではなく75円の納豆を買う、みたいな生活です(笑)」

塾講師のアルバイトを始めてからは、親に仕送りを止めてもらった。

「家賃だけ、出してもらっていましたね」

「塾講師は時給がいいけど、時間が長く入れないんで、節約生活は続きました(苦笑)」

震災のボランティアに参加した時には、同じ参加者の女の子と仲良くなった。

「その子のことが好きになって、ごはんに誘ったりしましたね」

「はっきりとは告白してないけど、ダメでした(苦笑)」

女性の服装への関心

高校生活が終わりに向かう時期から、女性の服装に興味を持ち始める。

大学に入る時にははっきりと、女性の格好がしたい、と思っていた。

「昔から、服のデザインはレディースの方が好きだったんです」

これまでファッションには、ほとんど興味がなかった。

それでも、親と一緒に買い物に行くと、「あの服いいな」と思うものはレディースだった。

「大学生になってもファッションに詳しくないから、何を着ていいかわからないし、お金もないしで、女性の格好はできないなって・・・・・・」

1人暮らしの家には、何を置いても親の目が気にならなかったが、知識もお金もないから買えない。

「我慢している感覚はありましたね」

「女装ができるようなアルバイトを、探した時期があるんです」

「でも、普通の求人サイトには載ってなかったから、やっぱりないのかな、って諦めました」

「もうちょっと探して、新宿二丁目のお店とかで働けてたら、楽しかっただろうな、って思います」

07ヒーローのように人助けできる仕事

目指し続けた公務員

大学3年までは、研究職を続けていこう、と考えていた。

「いざ4年で研究室に入ると、ちょっと違うな、って感じがしちゃったんです」

その頃になると、周りでは就職の話が出始める。

「就職するならヒーローっぽい仕事に就きたい、って思いました」

「公務員試験の講座とかを受ける中で、公務員は人のためになれるんじゃないかなって」

大学院に進んだ後、公務員試験に挑んだが、落ちてしまった。

滑り込みで、民間の中小企業に就職し、働きながら公務員試験の勉強に励む。

「3年かけて、ようやく合格することができました」

「同期と比べると、だいぶ年上です(笑)」

満足の配属

昔から憧れていたヒーローのように、世のため人のためになる職業に就くことができた。

「自分で自分をかっこいい、と思える仕事がしたかったんです」

「最初は、警察とか自衛隊、消防がヒーローに近いな、と思ってました」

「でも、体力的に自信がないし、いままでやってきた勉強も生かせないから、考えを変えました」

現在は、防災関連の部署に所属している。

「人助けに寄与できる仕事なので、今の配属はすごく満足してます」

「あと、親が人に自慢気に話せるような仕事だから、良かったかなって(笑)」

勤務先も都内のため、「愛知に帰ってこい」と、言われる心配もない。

理想の仕事をしながら、親に安心させ、1人で自由に暮らせる環境。

ベストな選択だったといえそうだ。

08プライベートだけの趣味女装

「かわいい」のひと言

最初の会社に就職してから、女性の服を着るようになる。

「大学院を卒業する頃、『新宿二丁目に女装させてくれるお店がある』って、話を聞いたんです」

「行きたいな、と思いつつ、なかなか勇気が出なくて(苦笑)」

「就職して初めてのゴールデンウィークに、思い切って行きました」

たどり着いた先は、ウワサに聞いていた二丁目の女装サロン。

「着いてから、何度も店の前をうろうろしました。ここに入ったら、道が変わっちゃうんじゃないかって」

意を決してサロンに入ると、その中は楽しそうな雰囲気に満ちていた。

「学生の頃にワイワイできなかったから、そこにいると取り戻せる感じがしましたね」

初めてメイクをし、女性の服を着た自分を見ても、あまりしっくりこなかった。

「でも、最初からうまくできるわけじゃないから」

インターネットで、「女の子のメイクは詐欺だ」という内容の動画を見たことがある。

「メイクで女の子の顔が変わるなら、男の自分の顔でも女の子が作れるんじゃないか、って思ってました」

サロンに行くたびに、店員やお客さんが「かわいい♪」と、言ってくれた。

「中学の時は容姿をバカにされたけど、ここでは容姿を褒められて、めっちゃうれしかった!」

「メイクがうまくなればもっと楽しいんじゃないかと思って、練習しましたね」

他者を受け入れる世界

「初めて買ったレディースの服は、モノクロのスタジャンでした」

サロンで知り合った女性を買い物に誘い、代わりにレジに持っていってもらった。

最初は趣味として、二丁目に行く時の遊びとして、女装を始めた。

しかし、サロンにいると「MTFなの?」と、聞かれることもある。

「『趣味でやってる』って言うと、本気で悩んでるMTFの人に失礼なんじゃないか、って考えた時期がありました」

「でも、MTFの人たちが『全然気にしないでいいんだよ』って、言ってくれたんです」

「こんなに自由で、他者も受け入れている世界があるんだ、って驚かされました」

父に見られたスカート

最初の会社に勤めている3年間、転勤で上京した父と同居していた。

「隠れて女装していたから、結構不便でした(苦笑)」

「二丁目に行く日に限って、父が同僚の人を家に連れてくるんですよ」

「家でこっそり準備しようと思ってたのに、人がいたらできないから、荷物だけカバンに詰めて出かけてました」

わざわざカラオケに入り、メイクや着替えをして、二丁目に向かった。

「でも、一度だけ父に見られちゃったことがあるんです」

二丁目で夜通し遊び、父が出かけた後に帰宅した日のこと。

着ていたスカートを洗濯し、ベランダに干したまま寝てしまった。

夕方に目が覚めると、スカートは取り込まれていた。

「父から『お前が干してたスカート、何なの?』って、聞かれましたね」

「その時は『飲み会のノリで、みんなで買った』って、とぼけました(笑)」

父はそれ以上追求してこなかったが、どう感じていたかは確認していない。

公務員に転職する頃、父も転勤が決まり、愛知に帰っていった。

09カミングアウトした人とできない人

同期の納得のリアクション

職場では、同期の何人かに、プライベートで女装していることを話している。

「最初は、たまたま見られちゃったんです(笑)」

同期の女性に、スマホで撮った写真を見せていた時、誤って女装姿の写真を画面に出してしまった。

「なんとか誤魔化すというか、話をそらそうとしたんです」

「でも、その子は『そんな感じはしてたしね』って、普通に受け入れてくれました」

もともとその女性には信頼感があり、人に言いふらしたりしないだろうと感じた。

半年ほど、こっそりと「最近の写真ないの?」と聞かれたり、自分から話したりする関係が続いた。

2019年春、同じ部署だった同期全員が、散り散りに異動することが決まる。

「せっかくだから、全員で旅行に行こうって話になったんです」

「バラバラになるから後腐れもないなと思って、その旅行には女装して行きました」

メイクをして、レディースの服を着ていったが、誰にも驚かれなかった。

「髪型は今の感じだったからか、みんなが『多分そうだろうなって思ってたよ』って(笑)」

「あとは、ちゃんと仕事をこなしてたのも良かったのかな、って思います」

仕事上で信頼を得ていれば、ちょっとしたことでは否定されないのだと感じた。

察しているような母のひと言

両親には話していないし、自分から話すことはないかもしれない。

「父には、よく『早く彼女作って、結婚して、孫見せろよ』とか、言われますね」

「そのたびに『モテないから無理だよ』って、かわしてます(笑)」

結婚を急かされるようなことを言われたくない気持ちがあり、一度母に伝えたことがある。

メールで「僕の子どもは諦めてくれ」と。

「セクシュアリティとか女装の話はせずに、その時も『モテないから』って、理由にしました」

母からのメールには「あんまり気にしてないよ」と、書かれていた。

「その中で、普通『彼女』『奥さん』って書くであろう部分が『パートナー』になってたんです」

「わざわざ『パートナー』なんて使わないはずだから、察してるのかなって」

家で干していたスカートの話は、父から母に伝わっているのかもしれない。

母は、LGBTに関する知識を、どこかで得ているのかもしれない。

「2年ぐらい実家には帰ってないけど、今の状態で帰ったら、すぐバレる気がしますね」

「でも、今は女装が趣味以上になってきてるから、バレたらバレたで、話すしかないかな」

10 1人ひとり異なるセクシュアリティ

MTFの診断書

女装の延長で、女声を出すためのボイストレーニングに通っている。

「そこの先生と話していた時に、『あんたは女装趣味というより、MTFっぽい』って、言われたんです」

「MTFを自覚し始めた人と同じようなことを言ってるから、ここ行ってみなさい」と、病院を紹介された。

「何十人もMTFや女装の人を見てきている先生なので、言う通りにしてみようかな、って病院に行きました」

何度か通うと、MTFの診断書が出された。

「診断が出て良かったんだろうな、って気持ちはあります」

「でも、多少怖さもあるかな。親はどう思うだろう、とか」

治療のプラスとマイナス

女性ホルモンを打つことを、手放しでは喜べない。

「肌がキレイになるとは思うけど、筋力も体力も落ちたら仕事に支障がないかな、って不安はありますね」

異動前の部署は、肉体労働がメインだった。

もし、その部署に戻されたら、体力が落ちた状態で対応できるのだろうか。

「もともと慎重なタイプなんで、打つ前にいろんな人の話を聞いたり、調べたりしてます」

「メンタルも体も壊しちゃう人がいるって聞くから、ちゃんと知識を得てからじゃないと、判断できないし」

プラス面とマイナス面を考慮しながら、自分が進む道を見定めていきたい。

中途半端な状態

「男か女か、どっちになりたいっていうのは、まだはっきりとしないです」

「だから、治療を始めるのも不安だし、病院の先生にも『女装はもともと遊びだった』って、話したんです」

セクシュアリティに対して悩んでいるわけではないのに、病院に来てもいいのか、相談した。

「いい方の変化はうれしいけど、悪い方も考えてからじゃないと動けないから」

セクシュアリティを定めなくてもいいのではないか、という考えも抱いている。

「一度、カミングアウトした相手から『結局オカマだろ』って、言われたことがあるんです」

その人は、真面目に話を聞いてくれた上で、そう判断したようだった。

それでも、簡単に枠を当てはめないでほしかった。

「『クエスチョニング』とか、新しい用語ができると余計にわかりづらくなる、って考えの人がいるのはわかります」

「でも、所属する場所ができて安心する人もいるし、私みたいに一括りで見られそうで嫌だって人もいる」

「いろんな人がいるから、私は細かく分けていきたいです」

同じセクシュアリティでも1人ひとり事情は違い、一括りでは考えられないから。

「私はまだ、結論が出ていないです」

「今の中途半端な状態を、受け入れることもできていない、って思う時もあります」

さまざまな可能性、危険性を検証しながら、自分の行き先を探しているところ。

これからの自分がどの道を選ぶのか、心配であり楽しみでもある。

あとがき
長い手足、まあるい瞳、ふんわりとした表情の侑樹さん。どの時代にも、それぞれの侑樹さんが、自分の価値観で考え、決断してきた。壊れずにここまでたどりつけた理由の一つかもしれない■他人の目や評価は、やる気を奮い起こしたり、時には自分を律してもくれる。マイナスばかりではないけど、[他人軸]はどこまでいっても、ただそれだけ■「誰かにではなく自分に・・・堂々と生きたい」。静かで力のある表明だった。今日も私を生きよう、堂々と。(編集部)

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