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自分を使い切り、シンプルに生きる【後編】

自分を使い切り、シンプルに生きる【前編】はこちら

2016/08/11/Thu
Photo : Taku Katayama Text : Momoko Yajima
新谷 理恵 / Rie Shintani

1979年、石川県生まれ。幼い頃から自らの性別に違和感を覚えながら過ごす。中学2年生から過敏性腸症候群や、大学時代にパニック障害、社会人でうつ病などを経験・克服しながら、一般企業などに勤める。現在は退職し、自分にできることなら何でもやるという「レンタルりえたん」を開始。セクシュアリティは、自分の性別を男性、女性のどちらかに明確に分けられないXジェンダー。

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INDEX
01 「レンタルりえたん」始動
02 女性への初恋とやんちゃな子ども時代
03 中学のソフトボール部でのカミングアウト
04 人目を気にして自分を偽り始めた高校時代
05 東京の大学へ行けば何かが変わるかも!
==================(後編)========================
06 女性の恋人、男性の恋人
07 「Xジェンダー」という存在の安堵感
08 職場とLGBT
09 セクシュアリティを表明して生きたい
10 自分の内面の声を聴こう

06女性の恋人、男性の恋人

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好きになった女性と初めてのお付き合い

度重なる不調のため、大学時代にグループカウンセリングを受けていたのだが、唯一そこでは自分のセクシュアリティを話すことができた。

そこに参加していた女性と、お付き合いをすることになる。

好きになった女性と付き合えるということは、ありのままの自分を受け入れられるということでもある。この経験は、自己肯定感を得るという意味でもとても大きな出来事だった。

また、大学の頃までは自分が男性だという意識を強く持っていたが、その意識も徐々に変化していく。

「身長も低いし華奢だし、これで男になっても似合わないな、かっこよくなれなさそうだしって諦めも入ってきて・・・・・・」

性別適合手術を行い男性になることも考えなくはなかったが、ホルモン治療による副作用や身体への影響も不安だった。

「心と体の性がバラバラだけど、自分を無理に何かにあてはめるために身体にメスを入れるというのはちょっと違うような気がして。私よりもっと身体に違和感がある人は手術をするのかもしれないけど・・・・・・」

男性の恋人

親元を離れて色々な人と会い、わかったことがある。

「女子のノリに合わなくて男子の中に入ってみたけど、それも合わない」ということだ。

心は男でも、身体という箱が女性としてできているため、生理があるなど、いろんな場面で身体の制約を感じる。

心と身体は影響し合っているものだから、その女性の身体の影響が考え方にも及んでいることを考えると、完全に「男性」とも言い切れないのではないか。

そんな風に思うようになる。

そして29歳の時に男性の恋人ができる。

新谷さんがライブバーで弾き語りをしていたところで出会い、音楽が共通の趣味ということで会うようになり、なんとなく気になり始める。

「いままで女性しか好きになったことがなくて分からなかったのだけど、この感情は好きってことなのかな」

それまで男性と付き合うという発想はなかったが、「相手が男性だからというより、その人だからよかった」という感覚でお付き合いをすることになる。

しかし相手は「恋人なんだから自分の前では女らしくしてほしい」と言う人。

女性という意識がなく、スカートもはかない、化粧もしない新谷さんに対し、「なんでそうなんだ!」と度々衝突。結局1年で別れてしまった。

「頑張ってスカートをはいたりしてみたんですけど続かなくて。私だって付き合っている人と一緒にいる時はリラックスして素の状態でいたいのに、なんでそこまで無理しなくちゃいけないんだろうと思ったらつらくなってしまって・・・・・・」

その後も男性と付き合い結婚する話まで出たが、考え方の違いから別れてしまう。

07「Xジェンダー」という存在の安堵感

どちらの性も否定できない

幼少期から思春期までは心の性は「男性」という意識の方が強かったが、徐々に、身体という「器の性」にも
意識が影響を受けているのではと感じるようになった。

「身体は確かに “女” だけど、いわゆる女という感じじゃないし、だからといって ”男” と言えるかというとそれもどうかな・・・・・・と。中性とか両性、無性とかいろいろな呼び方はあるけど、本当に何と言えばいいのか。どっちもあるし、やっぱり “X” なのかなと思います」

自分は男か女か、何者なのか。

そんな悩みを30年以上抱えながら生きてきた。淡々とした見た目からは想像できないほど、苦しく難しい道だったに違いない。

「Xジェンダー」という言葉を知ったのはここ1~2年ほどだ。

インターネットで知り、その解説を読んだ時「私、これじゃん」と思った。

「ホッとしました。自分の性を表わすものが、やっと見つかったって。それからようやくカミングアウトできるようになったんです」

すこしずつ、カミングアウト

最近ではFacebookや「『わたし』に出会う旅」というパーソナルレターでカミングアウトを始めている。言えそうな人にも少しずつ伝えている。

「反応はバラバラですけど、まずは驚きですね(笑)」

家族では兄にだけ伝えた。「もしかしたら、そうじゃないかと思ってた」と兄は受け止めてくれた。

本当は両親にも伝えたいが、高齢で体調も不安定で、あまり心配をかけたくない。特に父は古い考え方の人で、男性がピンク色のシャツを着ているだけで嫌な顔をするほどだから、カミングアウトは難しいだろう。

母はこれまで自分が苦しむ姿を見てきてくれているので、おそらく理解を示してくれるのではないかと思うが、不安を感じた時に相談に乗ってくれる人や機関の情報をきちんと準備できてからにしたいと考えている。

「自分だけ言ってスッキリというのでは、親がかわいそうでしょう。もちろん自分にやましいところはないけれど、世の中的にはやっぱりみんな、どこかの誰かの話だと思ってるから。まさか自分の子どもが、って分かったらショックだと思う」

セクシュアリティを明らかにして生きていきたかった願いは、少しずつ叶い始めている。

でも、家族が受ける衝撃を考えると、やはり身内へのカミングアウトは慎重になってしまうのだ。

08職場とLGBT

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LGBTに偏見のある職場で

いくつか転職をしながらも、つい最近まで会社勤めをしていた。

「職場はまったくカミングアウトできる環境ではなかった」と言う。特に最後の会社は古い体質の会社で、頻繁にLGBTをからかう言葉が飛び交う。

「そんなところでカミングアウトなんてしたら自殺行為。インターネットなどでバレたら仕方ないけど、積極的に言おうとは思わなかったですよね」

職場ではどこも女性として勤務した。制服がないところでも、スカートやヒールなどのキレイ目なファッション、いわゆる「オフィスカジュアル」が求められた。

「このオフィスカジュアルが非常に苦手で(笑)。お化粧もしないし、本当はTシャツにジーパンでいたいタイプなんで、無理ですよ。周りがみんなスカートなのにひとりだけズボンで出勤していたので若干浮いている感じもありましたが、もういいやって」

LGBTであることと仕事は無関係ではない

実は、職場でLGBTであることをカミングアウトすることには賛否両論の議論がある。

「会社は仕事をするところなんだから、どうしてわざわざ誰が好きだとか大っぴらにするの?ビジネスとプライベートは関係ないじゃない」という声もあるのだ。

しかし新谷さんは、「関係大アリだ」と言う。

「職場でも世間話って大事なコミュニケーションですよね。それがあるおかげで情報交換がスムーズにいったり、仕事が円滑になったりする。仕事に関係ないプライベートなおしゃべりが、ゆくゆくは生産性につながると思うんです」

例えば「さっき来た宅配便のお兄さんかっこよかったね」など他愛もないおしゃべりにも本当は参加したいが、そうなると自分の恋愛のタイプなど、セクシュアリティについて話さなくてはならなくなる。

以前の職場では他人を見て「あの人ってちょっとおかまっぽいね」「気持ち悪い」などと会話しているのを聞いてしまったのでどうしても言えなかった。

「そうすると私もコミュニケーションから身を引くようになってしまって。仕事とプライベートは関係ないと言うけど、コミュニケーションの距離によって情報共有の密度も変わるから、情報を知っている人と知らない人の間に仕事の出来に差が生まれるなんてこともあるんです」

同僚とのランチや飲み会も嫌いなわけではない。

ただそこでどうしても恋人の有無や、休みの日に何をしているかなどの話題となるだろうし、その話題はできれば避けたかった。

09セクシュアリティを表明して生きたい

”誠実な関心” は大歓迎

恋愛トークが苦手というより、本当のことを話せないまま話に加わるというのが大きなストレスだった。

「ストレートの人たちは、『こういう人がタイプ』『うちの嫁が』っていう話を何気なくしますよね。それって、自分がストレートだというセクシュアリティを毎日表明しながら生きているということなんです」

「自分は、それができない。できないけれど、周りだけを受け入れなければならないというのは、ちょっと・・・・・・いや、だいぶつらいですね」

新谷さんのようにセクシュアリティで悩んでいる人を、周囲の人はどう受け入れたらいいのだろう。

心と身体の性が違うということに率直な質問をぶつけられることや、逆に聞いてはいけないと思って聞かない人もいるかもしれない。

聞かれること自体は嫌ではないのだろうか。

「聞き方って大事だと思うんです。本当に知識もないけどあなたのことが知りたいから聞くっていう人は、いわば “誠実な関心” を寄せてくれている人。そういう態度を示してくれる人と話すのはむしろ好きです」

ゴシップ的な関心を寄せられていると思えば誰だって話したくはないし、そういう人たちの前では口をつぐんでしまう。

逆に、「自分」という存在に興味を持って知りたいと言う人は、きっと自分を尊重してくれるはずだ。これはセクシュアリティに限った話でもないと思っている。

カミングアウトすることのメリット

実はカミングアウトして以来、「私も・・・・・・」とメッセージや連絡をもらうことが増えた。

「パーソナルレターを読んでメッセージをくれる人が結構いるんです。『自分もLGBTです』という人や、なんらかの社会的なマイノリティの当事者であることをカミングアウトしてくれる人がいて」

「自分がカミングアウトすることで、予期しないメリットがあったな、という感じです」

また、これまで周囲からは女性として見られてきたため、よかれと思ってか「いい男性を紹介するよ」「あの人いい感じだから誘ってみたら?」など言われることも多かったが、カミングアウトすればそれはなくなる。

逆に自分のセクシュアリティを知った上で近づいてきてくれる人とは、仲良い友人になれたり、恋人に発展する可能性も高まる。

つまり、「出会いのミスマッチ」が減るということも分かった。

10自分の内面の声を聴こう

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声にならない思いを歌に乗せて

もともと音楽を聴くことが好きだったが、悩める時期、病める時期に自分を救ってくれたのも音楽だった。

詩を書き、歌っている時が唯一自分らしくいられる時間でもあった。歌いたい欲求が膨らみ、28歳の時に音楽を始め、ライブバーや路上で弾き語りをし、インディーズでCDも出した。

人に言えない、表明できない、でも生きなければならない、その苦しさや葛藤から生まれる何かを言葉にして紙に落としていく。

それを歌うということは、「私はここにいる」ということを表明すること、心からの願いを叫ぶことに他ならない。

歌がなければ、生きられなかった。

一度は歌うことから離れていたが、最近はまた歌い始めている。

大々的にというのではなく、レンタルりえたんで呼んでくれた友人のお店や招いてくれた人の家で歌わせてもらっている。

自分のセクシュアリティが長いこと分からなくて、社会の枠に自分をあてはめようとして生きてきた。

その間に多くのものを諦めたし、ため息とともに出ていってしまったものもある。

いまはもう少し、自分自身の内側の声を大事にしたい。

心を自由に解き放ち、やりたいことがあふれ出る

会社を辞め、「レンタルりえたん」を始めて一か月。

「会社員時代よりいまの方が、断然心が自由な感じです」と笑う。

「会社を辞めて驚いたのが、忘れていたはずの『やりたいこと』が、次から次へと思い出されて、こんなことやりたい、あんなことやりたいとあふれてきたこと。だから『レンタルりえたん』は、自分がやりたいことが全部できるという意味でも、すごく自分に合っていると思います」

何かに特化せず、自分を枠にはめず、できることを全部やる。

「まさにいま、全体性を生きてるって感じです(笑)」

お手伝いに行った先でみんながすごく喜んでくれて、「ありがとう」と言ってくれる。小さなことかもしれないけれど、自分が誰かの役に立っているという手ごたえがあり、とても楽しい。

笑顔が戻る。自分が、どんどん元気になっていくのが分かる。
乗せられていた重しを外したいま、「りえたん」は、空に向かって伸び伸びと胸を開く。

あとがき
LGBT当事者へ配慮するあまり、「口数が減ってしまう」ともらした人がいたことを思い出した。「何を聞くかよりも、どのように聞くかがポイント」。理恵さんがくれたヒントは、当たり前の心遣い。違いはないのだ■自分の性について、再認識を迫られる日常ーーーとてもリアルだった理恵さんの話し。好感をもって自分を迎えられた日から、何かを犠牲にすることはない。「やりたいことは全部肩書になる」。その言葉はとてもハッキリと聞こえた。(編集部)

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