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Writer/酉野たまご

着物をLGBTQ+当事者におすすめしたい理由―洋服以上に自由でポップな世界

「着物」といえば、日本の伝統的な衣装であり、特別なお祝い事やイベントの際に着るものというイメージが強いかもしれない。しかし私は、実は意外とジェンダーレスに楽しめる「着物の世界」を、特にLGBTQ+の人たちにオススメしたいと思っている。

LGBTQ+である私が着物にハマった理由

私が着物にハマったきっかけは少し変わっていて「洋服のおしゃれ」が苦手だったことに由来がある。

洋服よりも自由度の高い「着物の世界」を知って

私の実家には着物を着る習慣のある家族はおらず、かろうじて子ども用の浴衣がある程度だった。

祖母は昔、普段着として着物を着ていたらしいのだけれど、私が物心つく頃にはすっかり着なくなってしまっていた。

だから身近に着物を着る人のロールモデルはいなかったけれど、私は社会人になってから着物の世界にハマってしまった。

その理由のひとつが「洋服のおしゃれよりも(自分にとって)わかりやすい!」と思ったから。

洋服のコーディネートは、形(シルエット)や素材、首元や袖、肩回り、裾など細部のデザイン、ボタンやレースなどの装飾、色や模様、トップスとボトムスの組み合わせ、靴やバッグなどの小物との組み合わせ・・・・・・というふうに、考えるべきことが無数にある。

10代のうちからおしゃれに親しんでこなかった私にとって、洋服の世界はあまりにも複雑だった。

「トップスとボトムスの丈の組み合わせが変だよ」
「その服の素材は春夏っぽいから今の季節に合わないんじゃない?」
「全身の色が似すぎているから、どこかに差し色を入れたら?」

家族や知人から飛んでくるアドバイスも、聞くたびに頭が混乱していた。

どういう洋服を着ればおしゃれになるのかも、自分が本当はどういう洋服を着たいと思っているかも、よくわからなくなってしまっていたのだ。

しかし、着物の世界は、そんな私に新たな扉を開いてくれた。(着物については、以前の記事もぜひ!NOISE記事『レズビアンはどのようにファッションを選んだらいいのか?―私の場合―』)

SNSでは、デニム着物にスニーカーを合わせたり、着物のインナーとしてブラウスを着たり、波柄の着物にドット柄の帯を合わせ、魚や貝をかたどった小物をつけて「水族館コーデ」を楽しんだりと、洋服よりもずっとポップで、自由気ままに見える着物の世界が広がっていた。

そんなふうに自由な着物コーディネートを披露する人たちの画像を見ていると、胸が高鳴った。

洋服のおしゃれには自信がないけれど、着物のおしゃれなら楽しめるかもしれない!

そう思って以来、私はかれこれ約7年ほど、着物のコーディネートにハマり続けている。

「着物」がLGBTQ+ゆえの息苦しさを忘れさせてくれる

私が着物の世界に夢中になった理由は、もうひとつある。

それは、洋服のおしゃれに迷走していた頃に感じた息苦しさを、着物では感じにくかったということだ。

おしゃれになるにはどうすればいいのかと調べるたびに「女性らしい服装」や「20代にふさわしいファッション」といったフレーズにぶつかる。

家族や知人には「もう少し可愛らしい服も着たらいいのに」「スカートを履いてしっかりメイクしたらもっとモテるようになるよ」などと言われ、そのたびに辟易していた。

10代の終わりに「自分はレズビアンなのかもしれない」と気づき、LGBTQ+当事者として生きていた私にとって、「(シスジェンダー女性であることを前提とした)女性らしい服装」や「(異性モテを意識した)20代にふさわしいファッション」を他人に押しつけられることは、自分のアイデンティティを否定されているような苦しさがあった。

ボーイッシュな女性や中性的な女性に恋愛感情を抱き、彼女たちに憧れてパーカーやデニムといったジェンダーレスな服装を選ぶと、すぐに周囲から「もっとおしゃれしたら?」と言われてしまう。

かといって、自分の年代や容姿に似合う(とされる)服にはときめきを感じることができず、おしゃれで自分らしさを表現できそうな洋服を選びぬく自信もなかった。

その点、着物の世界は、特に「和洋折衷コーデや現代風のスタイリングをする着物の世界」は、一般的な「女性らしさ」や「異性モテ」を超越した、自己表現の世界だ。

また、着物は洋服よりもちょっとコスプレ感が強い分、非日常の衣装として「へえ、そんな格好もするんだね!」と周囲におおらかに受け止めてもらいやすい気がする。

LGBTQ+当事者で、自身のセクシュアリティとファッションの関係性にモヤモヤした感情を抱えている人に、自由な着物コーディネートは「自分らしさを堂々と表現する」手段として強くオススメしたい世界なのだ。

LGBTQ+の人にオススメしたい! 着物コーディネートのメリットとは

LGBTQ+当事者の人が着物を着ることのメリットは、ほかにもいくつかある。

体型を隠す前提の着付けで「LGBTQ+ならではのモヤモヤ」を軽減

まず、着物のシルエットはどんな人が着てもほぼ同じだ。

着物と帯はどちらも直線でできているし、着付けたあとも基本的に直線を描くようにできている。

そのため、洋服のように、自分に似合う形のデザインをわざわざ選ぶ必要も、衿や袖の形といった細かい部分のデザインにこだわる必要もない。

また、自分の体の女性らしさ(あるいは男性らしさ)が好きじゃないというLGBTQ+当事者の人の多くは、洋服を着る際に体の好きではない部分をできるだけ隠そうと努力した経験があると思う。

私自身、以前はバストのサイズが大きく、過度に女性らしく見えてしまうことがコンプレックスで、できるだけ大きいサイズのトップスを選んだり、胸元の開いたデザインを避けたりしていた。

しかし、着物は基本的に体のラインを強調しないつくりなので、気になる部分はある程度隠すことができる。

むしろ、補正をすることが当たり前なので、胸とお腹、くびれとおしりの段差を埋めてまっすぐなラインにしたり、あるいはがっしりした肩をたおやかな形に見せたりと、工夫を凝らしている人が多い。

胸のサイズを抑える効果のある下着を探して、こんな苦労をしているのなんて自分だけかもしれない・・・・・・と恥ずかしさをおぼえたこともある私にとって、胸を平らに近づけるための和装下着の存在は心強かったし、自分の体の女性らしさを堂々と隠せることはうれしかった。

自分の体つきにモヤモヤとした思いを抱いているLGBTQ+当事者の人に、着物の「補正」という概念はある意味親しみやすいものなのではないだろうか。

ジェンダーの垣根を越えて着物コーデを楽しむこと

着物は日本の伝統衣装なので、正直なところ、洋服以上にしっかりと「女性向け」「男性向け」とジャンルが分かれているところはある。

たとえば、レディース着物は脇の部分(身八つ口)や袖の後ろが開いており、男性向けの着物は閉じて縫われている。そもそも縫い方が違うのである。

また、レディース着物はおはしょり(帯の下に出す折り返し)がある前提だけれど、メンズ着物におはしょりはない。そのため、レディース着物は身長と同じくらいの丈、メンズ着物は身長から約30cm引いた丈を選ぶという違いがある。

帯の種類も、女性向けは袋帯や名古屋帯、半幅帯などで、男性向けは角帯や兵児帯というふうに異なっている。

ただ、格式ばった場に出るわけではなくて、遊び着として自由にコーディネートを楽しむのであれば、着物におけるジェンダーの垣根も越えてしまっていい、と私は思っている。

実際、着物スタイリストの方が「女性が楽しむメンズ着物」としてスタイリングを紹介していたり、呉服屋のスタッフの方が「男性がレディース着物を着る」様子を発信したりと、ジェンダーレスに着物を楽しむための情報がインターネット上にも増えてきている。

私も、パーカーの上にデニム着物を着て、中性的なカジュアルコーデを楽しんだり、たまにメンズ着物を着て角帯を締めてみたり、あるいは洋服だとなかなか選ばない、レースやフリルのついた着物で可愛らしいコーディネートをしてみたりと、そのときの気分に合わせた着物コーデをしている。

前述したように、着物はコスプレに少し近い存在なので「LGBTQ+当事者だからこういう(ジェンダーレスな)格好をしているんだ」という見方をされることも少ない。

何かイベントがあるのかな、写真撮影でもするのかなという目では見られるかもしれないけど、楽しそうにしていれば怪訝な目で見られることも、変な指摘をされることもほとんどない。

LGBTQ+当事者であっても、そうでなくてもジェンダーレスに楽しめる着物コーデは、私たちの心を自由にしてくれる。

「自分らしさ」と出会い直すことができる着物の世界

私には同性のパートナーがいて、初デートの際に着物を着て会って以来、年に一回くらいは「おそろいで着物を着て出掛けようよ」とあちらから提案してくれる。

「女性だけどメンズ着物を着たい!」パートナーとの試行錯誤

パートナーは基本的にメンズ服ばかり着ていて、最初におそろいで着物を着ようということになったときも「男物の着物が着たいな」と言っていた。

一緒に着物を着てくれる人がいるのはうれしいことなので、私は張り切って策を練った。

パートナーは背が低いほうなので、一般的なメンズ着物ではサイズが合わないだろう。

レディース着物をメンズ着物風に着付けることもできるけれど、工夫が必要だし、どうしても「女性がメンズ着物を着ている」という両性的な雰囲気になってしまう。

パートナーの普段の雰囲気を考えると、もっとしっかりメンズっぽく、カッコよく着られるほうがよさそうだった。

そこで、パートナーの身長に合いそうなサイズのメンズ着物がないか、フリマアプリで古着を探しまくった。
昔の日本人は背の低い人が多かったので、古着であれば小さいサイズのものがあるだろうと思ったのだ。

タイミングよく、サイズも状態もよさそうなメンズ着物と羽織のセットが見つかり、購入することができた。

それからというもの、初詣や紅葉狩りなどの着物が似合いそうなおでかけの際、パートナーはメンズ着物、私はレディース着物でコーディネートを楽しんでいる。

女性であるパートナーがメンズ着物を着ていても、道ゆく人にネガティブな視線を向けられたことはない。むしろ「いいわねえ、お着物デート!」と明るく声をかけてくれる人がいるくらいだ。

LGBTQ+だからこそ自由な着物コーデを楽しめるのだと、パートナーの姿からも教えてもらっている。

「着物を着たら素直になれた」LGBTQ+当事者である私の思い

着物にハマり始めた当初、私は洋服のおしゃれについては迷走しまくっていた。

自分がLGBTQ+であるということ、女性らしい服装や振る舞いを押しつけられると違和感をおぼえること、でもそのふたつに因果関係があるのか自分でもわからなかったこと・・・・・・。

洋服について考え出すと悩みの森から出てこられそうになかったので、着物のコーディネートをひたすら考えて過ごしていた。

不思議と、着物であればレースやフリルのついたもの、ピンク色や花柄といった甘い色柄も抵抗なく「可愛い!」と思えたし、着ることができた。

ガーリーな着物コーディネートを楽しむうちに、だんだん「私が女性らしい服装に抵抗をおぼえたのは、LGBTQ+だからというわけじゃないんだな」と気づき始めた。

私はただ、ステレオタイプな「20代の女性会社員」というイメージを他人に押しつけられるのがイヤだっただけで、周りからの視線は関係なく、可愛い色やデザインもちゃんと好きなんだ。

そう気がついてから、少しずつ洋服選びも楽しくなっていった。

雑誌やインターネットの情報で見る「オススメのコーディネート」ではなく、着物のときと同じように、どんな色やデザインにときめくか、どんな組み合わせが自分らしいかと考えることで、洋服のおしゃれがだんだんとわかるようになった。

セクシュアリティに悩んでいた影響で洋服迷子だった私が、着物の世界を楽しむことで自分の素直な気持ちを知り「自分らしい洋服」を選ぶことができるようになった。

私が着物の世界に感謝したいと思う、大きな理由のひとつである。

LGBTQ+だからこそ実感できた着物の魅力

パートナーとの初デートに「着物を着て行ってもいいですか?」と聞いた私。

その理由は「一番自分らしいと思える服装で会いたいと思ったから」。

私はレズビアンだけど、自分ではボイかフェムか中性かもよくわからない。

洋服のおしゃれはまだスタート地点に立ったばかりで、スカートをはいても自分らしくのびのびとしていられるのか、窮屈な思いをするからパンツスタイルでいたいのかも判断がつかない。

でも、大好きな着物であれば、年代や性別にこだわらず、「自分らしくて素敵だと思えるコーディネート」ができると思ったのだ。

LGBTQ+である私は、恋活にもセクシュアルマイノリティならではのハードルを感じることが多く、パートナーに出会うまでに様々な紆余曲折があった。

それでも、パートナーとの初デートを笑顔で過ごせたのは、自分がLGBTQ+であることのハードルを忘れさせてくれる「着物」の存在のおかげだった。

自由でおしゃれであらゆる垣根を越えることができる「着物」の世界を、あなたも覗いてみませんか?

 

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