INTERVIEW
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やっと大きな夢が叶って、スタートラインに立ったところ。【前編】

やわらかな雰囲気をまとうキュートな鴇田美羽さんは、トランスジェンダー女性(MTF)。幼い頃は「女の子として産まれたのに、男の子に変えられてしまったのではないか」と不思議に思っていた、と話してくれた。そんな鴇田さんが “自分らしく” 生きられるようになったのは、大きな第一歩と周りの人のあたたかさがあったから。

2025/05/14/Wed
Photo : Yasuko Fujisawa Text : Ryosuke Aritake
鴇田 美羽 / Miu Tokita

2002年、群馬県生まれ。幼い頃から自身の性別に違和感を抱き、中学生の頃にLGBTという言葉を知る。2024年8月に性別適合手術(SRS)を受け、戸籍上の性別を変更。小学6年生からヴァイオリンを習い始め、音楽大学に進学し、現在はヴァイオリン講師としての道を歩み始めたところ。

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INDEX
01 大切に育ててくれた家族
02 気になるものと与えられるもの
03 小6で始めたヴァイオリン
04 思春期に入って生まれた悩み
05 トランスジェンダーという自覚
==================(後編)========================
06 大好きな音楽を続けていく覚悟
07 大切な人たちへのカミングアウト
08 性別を変えたい
09 女性としての人生のスタート
10 「自分らしく生きる」ために

01大切に育ててくれた家族

のどかな街での暮らし

生まれ育った群馬県大泉町は、田んぼが並ぶのどかな風景が広がる街。

近所には大きな工場があり、そこで働く外国人も多く住んでいる。

「ブラジル系の方が多くて、ブラジル系スーパーやレストランがずらっと並んでる通りもあります」

ただ、外国人と接する機会は少なかった。

「両親が共働きだったので、隣町の母方の祖父母の家にいることが多かったんです」

「保育園も小学校も祖父母の家の近くで、毎朝、両親のどちらかが仕事に行く途中に送ってくれてました」

放課後は祖父母の家に帰り、母が迎えに来るまで待っていた。

友だちと外で遊ぶこともあれば、祖父母とおままごとをすることもあった。

「祖父母と一緒に、キッチンやレジのおもちゃで遊ぶのが好きだった記憶があります。ぬいぐるみも好きでしたね」

「でも、流されやすい性格だったので、周りの男の子たちがラジコンで遊んでいたら、自分も一緒に遊ぶみたいな」

懐の深い両親

「両親にも祖父母にも、すごくかわいがってもらいました。叱られたことは、ほとんどなかったです」

母は、産後すぐに仕事復帰したらしい。

「近くに住んでいた祖父母が私の世話をしてくれたから、復帰しやすかったんでしょうね」

「母はいつも協力的で、私が『やりたい』と言うことを応援してくれる人です」

「『勉強しなさい』と言われたことはあったけど、基本的には危険なことでない限り、自由にやらせてくれましたね」

父も母と同じように、やさしく見守ってくれる人。

「父は、チャレンジするよりも安定を求めるタイプだと思います。習い事よりも、勉強を頑張ってほしかったみたいです」

両親は互いに干渉することも主導権を握ることもなく、それぞれのやりたいことを尊重し合う関係のように感じる。

「両親とはすごく仲が良くて、今でも一緒にいるといっぱいしゃべります」

夏休みの思い出

小中学生の頃の夏休みは、家族旅行が定番だった。

旅行好きの父の提案で、北海道や沖縄を巡ったり、海外に行ったりすることもあった。

「行きたい場所が父と似てたので、『ここに行きたい』となんとなく伝えると、その場所をメインにした計画を立ててくれました」

特に印象に残っているのは、小学3年生の夏休みに行った沖縄。

「初めての飛行機だったので、乗ってる間も楽しかったし、沖縄のキレイな海で遊んだのも忘れられません」

「南国ならではの景色を見にいくツアーに参加したのを、今でも覚えてます」

両親は、特別な思い出をたくさん作ってくれた。

02気になるものと与えられるもの

小学生時代の交友関係

幼い頃は人見知りで、決まった友だちと遊ぶことが多かった。

「保育園の頃は、男の子も女の子も仲が良かったと思います」

「同じ保育園から同じ小学校に上がった子がいたので、その子と遊んでいるうちに、自然と友だちも増えていった感じでした」

「小学生になってからは、男の子の友だちのほうが多かったかな」

友だちとは、ニンテンドーDSやWiiなどのゲームでよく遊んでいた。

「マリオとかのキャラクターも人気で、消しゴムを集めたりしてましたね」

友だちと過ごす時間は長かったが、恋愛感情のようなものを抱くことはなかった。

「『この人が好き』みたいな感情は覚えてないので、多分好きな人はいなかったんだと思います」

「バレンタインのチョコは、仲良しの女の子たちと交換してました」

いわゆる “友チョコ” の感覚で、遊びの一環だったように思う。

ランドセルの色

当時は、親が買ってきてくれた男児向けの服を着ていたし、髪の毛も周りの男の子たちと同じように、短めにカットしていた。

「服は買ってきてくれたものを着る感じで、自分で選びにいった記憶はないんです」

「ただ、クラスの女の子が着てるかわいい服に、憧れてました・・・・・・」

女の子たちが着ているブラウスやスカートを見て、着てみたいな、と感じた。

女の子が背負う水色のランドセルが、特別なもののように見えた。

「入学前にランドセルを買ってもらう時、『水色がいい』って、言ってみたんです。でも、両親から『6年間使うものだし、無難な色にすれば良かった、って思うかもしれないよ』って、説得されました」

「当時は、親の言うことは正しいだろう、自分の気持ちも変わるかもしれない、って思ったんですよね」

両親の言葉を受けて、紺色のランドセルを選んだ。

それでも、水色のランドセルへの憧れは消えなかった。

「内気な性格で、自分から『こうしたい!』って主張できない子だったんです。流されるままに生きていた気がします」

03小6で始めたヴァイオリン

興味が湧いた楽器

小学6年生から、ヴァイオリンを習い始めた。

「ヴァイオリンが出てくるドラマをたまたま見て、興味が湧いたんです」

祖父母の家にピアノがあり、遊びの延長で触れたことはあった。

「『ねこふんじゃった』が弾ける程度で、楽譜も読めなかったけど、妙にヴァイオリンに心惹かれたんです」

「母と『学校以外の経験を積むために習い事でもしようか』って話してた時期だったので、『ヴァイオリンがやりたい』って言いました」

自宅から車で行ける距離に音楽教室があり、体験レッスンを受けることになった。

「その教室の先生がやさしくて、ここで習ってみたい、と思って通い始めました」

楽器を習い始めるには遅いスタートだったかもしれないが、あくまで趣味で始めたもの。

毎日練習するほどの熱量ではなかったが、ヴァイオリン教室が週1回の楽しみになり、長く続ける習い事になっていく。

将来の夢

小学4年生の頃、先生になりたい、と思っていた。

「当時、すごくやさしい先生がいて、自分も同じようになりたい、って思ったんです」

しかし、ヴァイオリンを習い始めてから、将来の夢は変化した。

「小学6年生の時に、将来なりたい姿を粘土で作る授業があったんです」

「その時に、ヴァイオリニストになった自分を作ったことを覚えてます」

具体的に将来を考えていたわけではないが、それほどヴァイオリンに打ち込んでいた。

04思春期に入って生まれた悩み

「女っぽい」

中学に進学してからもヴァイオリンを続けながら、学校ではバドミントン部に入った。

「運動はあまり好きじゃなかったけど、体験入部でやったバドミントンが楽しかったんです。でも、基礎トレーニングがハードすぎて、4日で退部しました(苦笑)」

トレーニングが大変だったこともあるが、男女別で練習する環境にも違和感があった。

同じ頃、クラスの男の子の一部から、いじめられるようになる。

「問題児っぽい5~6人のグループから『女っぽい』って、からかわれて・・・・・・」

「多分、使ってる文房具がかわいいものだったり、床の座る時に女の子座りをしてたりしたのが、その子たちの目に留まったんだと思います」

小学生の頃は、使っているものや仕草に対して、人に何かを言われることはなかった。

「中学生になってからかわれて、男の子はこういうことしちゃダメなのかな、って思うようになりました」

持ち物は、男の子に人気のアニメのキャラクターが描かれたものやシンプルなものに替えた。

座り方も意識し、床に座る時は体育座りをするようになった。

「男の子っぽい動きを意識して、女の子っぽくならないようにしてましたね」

理想と逆の成長

小学校を卒業する頃から体毛が生え始め、気になっていく。

「毛が生えてくるのがコンプレックスだったけど、剃ると『女っぽい』って言われる気がして、できなかったです」

中学2年生になり、声変わりも経験した。

「声変わりした自覚はなかったけど、久々に会った友だちから『声低くなったね』って言われて、結構ショックでした」

同じ年頃の女の子たちは徐々に胸が膨らみ始め、女性らしい体つきになっていく。

「女の子の変化は、見ていればわかるじゃないですか。それが羨ましかったです」

「女の子みたいになりたい、と思ってるのに体は変わらなくて、すごくイヤでした。でも、女の子に憧れる理由はわからなくて、自分で自分が不思議でしたね」

もしかしたら誰もが、異性になりたい、という感情を抱え、黙っているだけなのではないか、と考えたこともあった。

「答えはわからないけど、自分の体が望む方向と逆に進んでいくことに、悩み始めました」

本当にイヤだったこと

体の変化以上に負担に感じていたのは、男の子のグループに入れられること。

「小学校までは体育も男女一緒だったのに、中学校から男女別になるんですよね。それが居心地が悪くて・・・・・・」

「特にプールの授業がイヤで、水着も着たくないから、適当に理由をつけて見学してました」

「サッカーの授業とかで、いじめてくる子からボールをぶつけられたりもしたんです。それもあって、ますますイヤになって・・・・・・」

体育がある日に病気のふりをして、学校を休んだこともあった。
当時は、抱えている悩みや感情を、誰かに打ち明けることはできなかった。

「内気な性格だったし、人に悩みを相談して心配をかけるのもイヤだな、って思っちゃうタイプで」

学校生活での悩みや体に対するコンプレックスは、自分の中で抱えるしかなかったのだ。

05トランスジェンダーという自覚

初めて聞いた「トランスジェンダー」

中学2年生の3学期、LGBTという言葉を知る。

「タレントのはるな愛さんは性転換(性別移行)をしてる、ってなんとなく聞いたことはあったんです」

「その流れでYouTubeで『性転換』みたいに調べたら、性同一性障害(性別不合/性別違和)の方のドキュメンタリーが出てきました」

その動画を見て、LGBTやトランスジェンダーといった言葉を初めて聞いた。

自分はLGBTの「T(トランスジェンダー)」に当てはまるのかもしれない、と感じた。

「以前から、自分もはるな愛さんと同じなのかな、って思ってたので、しっくりきたんです」

「いままで感じていた謎が解けたような気分で、一瞬気持ちが落ち着きました。でも、周りに自分と同じような人はいなかったし、LGBTも世の中に浸透し切っていなかったので、何もできないというか・・・・・・」

YouTubeで見るトランスジェンダーは前向きに生きていて、自分もそうなりたい、と思った。

しかし、何をすればいいのかがわからず、相談できる相手もいなかった。

「高校ではいじめの標的にならないように、男の子の学生として生きよう、って決意しました」

深まる悩み

中学校は体操服登校という校則があったため、制服を着る機会はほとんどなかった。

しかし、高校では基本的に制服を着て登校し、授業を受ける。

「学ランを着てる自分がすごくイヤで、とにかく早く行ってさっさと帰りたい、と思ってました」

「頭髪検査も厳しくて、男の子は耳が出る長さで、前髪も眉毛にかかるとダメなんです。だから、好きな髪形もできませんでした」

女の子たちが着ている制服や、うっすらしているメイクに憧れた。

「周りの女の子は少しずつ変わっていってるのに、自分はそうなれないのか、って悩みましたね」

「1人の男性としてこの先もずっと生きてくのかな、その未来も考えなきゃいけないのかな、って思っても想像ができなくて・・・・・・」

こっそりと母の透明なマニキュアを使い、爪を1本だけ塗ってみた。

「1人の時に塗って、いいな、って思いながらも、それ以上のことはできなかったです」

男の子としての友だちの作り方もわからず、入学当初は交友関係を広げられなかった。

「自分の素を出しちゃいけない、周りに合わせなきゃいけない、って思えば思うほど、人間関係の築き方がわからなくなっちゃって・・・・・・」

行けなかった修学旅行

中学校と変わらず、高校でも多くの場面で男女に分けられた。

「男の子だけの場所にいるのがイヤだし、場違い感がずっとありました」

なかでも窮屈さを感じたのが、修学旅行。

2泊3日、男の子たちだけの部屋で過ごすことに、戸惑いと苦しさがあった。

「同じ部屋の子は仲良しの友だちではあったけど、学ランを着て修学旅行に行って、男の子たちと同じ部屋に泊まるのが本当にイヤだったんです」

修学旅行の予定を立てる段階から、周囲には「行かない」と伝えた。

「学校行事は好きじゃないキャラ、みたいな感じを装ってたんです(苦笑)」

修学旅行当日、行く準備はするものの、どうしても参加する気持ちになれず、両親の前で号泣してしまった。

「母も父も『そんなにイヤなら、行かなくていいよ』って、言ってくれました」

「友だちからは、LINEで『本当に休んだな(笑)』って、言われましたね(苦笑)」

 

 

<<<後編 2025/05/21/Wed>>>

INDEX
06 大好きな音楽を続けていく覚悟
07 大切な人たちへのカミングアウト
08 性別を変えたい
09 女性としての人生のスタート
10 「自分らしく生きる」ために

 

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