02 ヒエラルキーの真ん中
03 勉強にまったく興味が持てなかった中学時代
04 ドラえもんのキャラクターからが始まった男性への恋心?
05 遊びの水泳部で楽しい毎日
==================(後編)========================
06 バイセクシュアルだと自認
07 ホテルの婚礼会場で10年間アルバイト
08 初体験の相手は台湾人のカメラマン
09 将来も考えた3人目の恋人
10 ゲイとバイセクシュアルの間
01古いタイプの父とやさしい母
父親は会社に泊まり込む仕事人間
生まれも育ちも東京・葛飾区亀有。両親と姉の4人、下町で暮らしてきた。
「父親は古い人です。口が乱暴で、なんでも突っかかってきますね。亭主関白っていうか、女性を下に見ているようなことを平気でいうんで、聞いていて気分が悪くなるときがあります」
年をとって、その性格がひどくなってきたと感じている。
「昔は建設関係でしたけど、今は住区センターで学童関係の事務の仕事をしてます」
現役の頃は仕事大好き人間で、平日はずっと会社に泊まり込んでいた。
「完璧な週末家族でした。日曜に帰ってきても寝てるだけなんで、一緒に何かをした記憶もありません」
父は小学生のときに母親を亡くし、父親も外に働きに出ていたため、両親との触れ合いが少なかったらしい。
「これは母から聞いた話です。父のそんな幼少期から、子どもとの遊び方、触れ合い方が分からないっていうんです・・・・・・難しいですね。本人が悪いわけじゃないんでしょうけど」
子育ての現場は、必然的に母親に一任された。
社交的でやさしい母
「母はやさしかったですね。あまり小言をいわれた記憶もありません。父親の態度を許しているくらいですから、心が大きいんでしょう(笑)」
母親は会社のテナントを売る不動産会社で、営業や事務の仕事に携わってきた。
「営業が合ってたみたいですから、社交的な面があるんでしょうね。そういえば、私が台湾にいるときに、私のイタリア人の元カレと銀座で食事をしてました」
人に対してやさしく、親しく接することができる人だ。
「母方の実家が近くにあるんで、週末には祖母ともよく会ってました。食べ物を大切にしなくちゃダメよ、ってよくいわれてました」
姉とは毎日、ケンカ
6歳上の姉とは、子どもの頃からケンカが絶えなかった。
「ケンカの理由なんて、覚えてませんね。私が生意気だったんで、気に入らなかったんでしょう。よく、泣かされてました(笑)」
子どもの頃はおしゃべりだったため、「男のくせにべちゃべちゃ喋るな! うるさい!」と怒鳴られた。
「ほとんどが口ゲンカでしたね。たまに手が出ることもありましたけど、私、力が強くなかったんで、それも分が悪かったです(苦笑)」
中3のとき、食事中に一度、本気でブチ切れたことがあった。箸を折って投げつけ、味噌汁をぶっかけて、姉の部屋に製氷機に入っていた氷を投げ入れた。
「とにかく、何かしてやらないと気がすまなかったんです。姉も逆上して、氷を投げ返してきました」
氷を選んだのは、液体だと後が大変、という “配慮” が働いたため?
「固形物なら大丈夫と思ったんでしょうね(笑)」
その姉は、映画「マリリンに逢いたい」に感動して、沖縄で犬と暮らすことに憧れていた。
「本当に沖縄に行って、災害救助犬育成とドッグセラピーの団体を立ち上げて10年くらい、向こうで暮らしてました。夢を叶えたんですから、すごいですよね」
「電話もLINEも知りませんけど、家に帰ってきたら普通に話すくらいの関係です」
02ヒエラルキーの真ん中
みんなが同じ方向に向かうのが気持ち悪い
小学生のときの友だちは、近所の幼なじみがほとんどだった。
「よく鬼ごっこをしてました。男女問わずに遊んでましたね。ヒエラルキーでいえば、ちょうど真ん中くらいでした」
リーダーシップを取るわけでもないが、いじめられることもない。いわゆる普通の男の子だった。
「当時、ポケモンが流行ってたんですけど、ひねくれてたんで、そんなもの何が面白いんだ? って認めてなかったんです」
うまくいえないが、みんなが同じ方向に向かっているものに乗りたくなかった。
「全員がいいと思うことが気持ち悪かったんです。ハイパーヨーヨーも同じでした。斜めから見てましたね(笑)。ようやく受け入れられたのがピカチュウバージョンからで、それからハマり始めました」
その頃、人知れずひとりで夢中になったことがあった。
「フィルムを入れる円筒形のケースがあるじゃないですか。あれに輪ゴムを詰め始めたんです。何がきっかけだったのか、まったく分かりません」
カラフルな輪ゴムというわけでもなく、ただの家庭用の茶色い輪ゴム。それを、ただひたすらフィルムケースにぎゅうぎゅうに詰めた。
「友だちに見せるわけでもありませんでした。ただ、詰めて、ときどき開けて見るだけ。いったい、何が面白かったんでしょうね。今、考えても分かりません(笑)」
チーム競技がとにかく苦手
学校では、特に目立つことがない生徒だったと思う。
「体育は大っ嫌いでした。特にチームでするスポーツが大の苦手でした」
一度、体育の授業でサッカーがうまくできずに、クラスのリーダー的な子から「ぶっ殺すぞ」と怒鳴られたことがあった。
「それくらい下手で、外れてましたね。友だちもそれほど多くなくて、遊びといえば、相変わらず近所の友だちとの鬼ごっこでした」
絵も上手くない。何をしたらいいか、よく分からないまま過ごしていた。
「たとえば、学期末に1日だけ、ランドセルじゃなくていいですよっていう自由な日があるんです。そうすると、じゃあ、どのカバンで行けばいいんだろうって不安になっちゃうタイプでした」
よくいえば、「我が道を行く」だが、協調性に欠けるといわれても仕方なかった。
03勉強にまったく興味が持てなかった中学時代
知らないうちに転校しちゃった
初恋は小学4年生のとき。
「同じクラスの女の子でした。“少女” っていう感じのおとなしくて、かわいい子でした」
ある日、その子を学校の屋上に続く階段に誘い出した。ほかに誰もいない場所で、自分の気持ちをシンプルに伝えたのだ。
「ありがとうっていわれて、その後、どうしたらいいのか分からなくて、ポカンとしちゃいました(笑)」
結局、「じゃあ、教室に戻ろうか」ということになり、それで終わった。
「で、ある日、気がついたら、その子がクラスにいないんですよ。それで、誰かに聞いたら、転校したよっていわれて、え? 転校したって(笑)」
初恋の相手は、何もいわないままどこかに行ってしまった。
部活はボランティア部
中学に入ると、ヒエラルキーは真ん中から下層に落ちた。
「派手にいじめられることはなかったけど、上層の人たちにいじられるようになりました」
例えば・・・・・・利き手があることは知っていたが、足にも利き足があることは知らなかった。
「利き足ってあるんだ!? って驚いたら、あいつ、本当は知っているのに知らないフリしてるんだって、陰でコソコソいわれたりしましたね」
入ったサークルはボランティア部。運動部は嫌だし、絵や楽器もしたくない。ボランティア部は、何の努力もしなくていいサークルに思えた。
「活動は、点字のシートにひたすら穴を開けるだけでした。それを何かに使うわけでもなく、ただ開けるだけ。1年間やって、辞めちゃいました」
その後、2、3年生は部活に入ることはなかった。
最悪だったのは英語の文法
勉強も全科目にわたって興味が持てなかった。
「唯一、近代史だけは、祖母が生きた世界で面白いなって思いましたけど、ほかはまるでダメでした」
小学校では公文に通い、中学では個人経営の塾に通ってはいたが、成績は低いまま浮上しなかった。
「最悪だったのは英語で、amとかwasの意味が分かったのは、中3になってからだったんですよ。ああ、そういうことだったのかって・・・・・・。もう、手遅れですよね(笑)」
体育も数学も大嫌い。定期テストのときは、ざっと問題を見て、すぐに分かるものだけ答えを書いて、あとの時間は窓の外を通る自動車の数を数えて過ごした。
「点数は0点はなかったけど、どれも10点くらいでした。母からも、さすがに、もうちょっとがんばりなさいよと、いわれました」
やりたくないことはやらない。そんな生活だった。
04ドラえもんのキャラクターからが始まった男性への恋心?
初めて買ったCDはハリーポッターのサントラ
クラスに仲のいい子がひとりいた。
「静かでひかえめな子でした。彼はアニメが好きだったんですけど、それに影響を受けることはなかったですね」
放課後は、ふたりでチャリで遠くまで出かけた。チャリさえあれば、どこまでも行けるような気になっていた。
「中1から映画館にいくようになりました。ヒーローものはスパイダーマンくらいであまり好きじゃなかたですね。ヒューマンものとか、けっこう観てました」
映画館には、いつもひとりでいった。特に好きな俳優もできず、気が向くままに映画を見続ける。
「ハリーポッターのシリーズは好きでした。初めて買ったCDも、ハリーポッターのサントラでした」
崩壊する街を描く
小学生のときの輪ゴム集めに続いて、変わった作業に夢中になった。
「授業中、ノートの上の数センチの横長の余白に、ひたすら崩壊した街の絵を描き続けたんです。自分でも病んでたなって思います(笑)」
最初は、カクカクした、ただの四角だった。それに窓を描き足したり、奥行きをつけたりするうちに街ができていった。それがいつの間にか崩れたビルになり、爆弾で粉々に破壊された街になる。
「どこからそれが出てきたのか、分からないです。なんだったんだろう? 授業中にずっと描き続けて、それが楽しかったんです」
隠すつもりもなかったが、積極的に誰かに見せることもなく、壊れた街はページをまたいで続いていった。
あのときから男性へ恋をした?
中学3年になって、周囲が恋愛話で盛り上がっても、まったく実感がわかなかった。
「話を振られれば、適当に合わせていました。グラビアのアイドルを見ても、何も感じなかったですね。唯一、ビールの宣伝のポスターは、なぜか好きでした(笑)」
リアルの世界で好きになった人はいなかったが、「好き」と感じるキャラクターが現れた。
「ドラえもんの『のび太の太陽王伝説』に出てくるイシュマルさんていう人が好きでした」
登場人物のひとりで、いい人なのだが、特に重要なキャラクターではない。
「なんで、イシュマルさんに惹かれたのか、自分でも分からないです。でも、多分、このときから男性への恋心が始まったんだと思います」
05遊びの水泳部で楽しい毎日
ダラダラ遊ぶだけの部活
王子から都電で通える高校に入学した。
「実は、都立の試験に落ちたんです。いわゆる滑り止めの私立です」
前年まで女子校で、その年から男子生徒を受け入れるようになった共学1期生だった。つまり上級生はすべて女子。
「4つのクラスに分かれていて、私たちは共学クラスでした。ほかにはITクラスとかあって、棟が違ったんで、上級生の女子と一緒になることはありませんでした」
何か部活に入らなくてはいけない決まりがあり、水泳部を選ぶ。学校の地下にプールがあり、環境が整っていた。
「夏にプールに行って泳いだりしていたので、まあ、水泳部ならいいかって感じでした」
ところが、これが楽しかった。
「全国大会を目指すちゃんとした水泳部もあったんですけど、私が入ったのは遊びの水泳部で、同好会みたいなものでした」
ちゃんとした水泳部はオリンピック選手も輩出する強豪だったが、自分にはまったく関係のない世界。遊びの水泳部はダラダラいい加減に時間を費やすことができた。
「ベンチをプールに投げ入れてみたり、排水溝にトイレットペーパーを突っ込んで詰まらせてみたり。とこどき、クラスの友だちが海パンを持って遊びにきてました」
後半、顧問が変わって区民大会にだけは出るようになったが、自分が何の種目で出たのかすら覚えていない。まったく呑気な部活だった。
誘われて聴きにいったゴスペルにハマる
水泳部の部員は6人、全員男子だった。当然、自分たちの学年が初代だった。
「その部活の仲間たちと、放課後も一緒に遊んでました。みんな、似たような性格でした」
公園に行って鬼ごっこをしたり、ただぼうっと電車が通るのを眺めたりした。彼らとのつき合いは、最近まで続いていた。
ある日、公園でブラブラしていると、牧師を育成しているという人たちが声をかけてきた。
「そうしたら、教会でゴスペルを歌っているから聴きに来ないかっていうんです。なんとなく興味を持ったんで、親にも許可をもらってひとりで聴きにいきました」
独特のノリのいいサウンドが好きになり、それから毎週金曜日、高校を卒業するまで教会に足を運んだ。
「歌の途中で、聴いている人たちも立ち上がって、一緒に踊りながらコーラスに参加したりするんです。前で歌う人たちに参加したいとは思わなかったですけど、それも楽しかったですね」
<<<後編 2023/02/25/Sat>>>
INDEX
06 バイセクシュアルだと自認
07 ホテルの婚礼会場で10年間アルバイト
08 初体験の相手は台湾人のカメラマン
09 将来も考えた3人目の恋人
10 ゲイとバイセクシュアルの間