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FTMの夫と夢を叶えるため、これからも前を向いて。【後編】

FTMの夫と夢を叶えるため、これからも前を向いて。【前編】はこちら

2018/04/14/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
福島 美沙希 / Misaki Fukushima

1996年、愛知県生まれ。小学校入学直前に両親が離婚したあと、母親が行方知れずになり、中学3年生まで妹とともに祖父母に育てられる。その後、戻ってきた母と高校3年生まで一緒に暮らす。高校卒業間際に知り合ったトランスジェンダー男性と1年間の交際を経て、2016年4月に結婚を果たす。

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INDEX
01 祖父母に育てられた幼少期
02 男性が苦手な母、ちょっと変な父
03 名前が変わって、人も変わった
04 初恋の相手はバイセクシュアル
==================(後編)========================
05 恋人に感じた物足りなさ
06 ツイキャスでの出会い
07 FTMだからこそ発見できた
08 自分たちの家を建てたい

05恋人に感じた物足りなさ

グイグイ来てくれてもいいのに

初めて恋人ができたのは、中学2年生の冬。

相手は保育園から一緒だった幼馴染だ。

小学校の時に仲が良いことをからかわれても、ふたりともまんざらではなかった。

「バレンタインデーのチョコを渡す時、いつもは友チョコとして渡していたのに、『今年は意味が違うから』と言って渡しました」

彼はホワイトデーにお返しをくれて、付き合うことになる。

しかし、恋人としてはなかなか進展がなかった。

「インターネットで情報を仕入れたり、夜遊びの経験があったりしたので、私としてはグイグイ来てくれてもいいのになって思っていました(笑)」

手をつなぐこともあまりしない。キスなんてとんでもない。

どこかにデートに行くよりは、家でふたりで漫画を読んでいる方がよかった。

「彼は優しくて、大人だったんだと思う」

「その頃の私は不登校になったりとか、不安定だったから、大切にしてくれていたんだと、今なら分かります」

彼のことは好きだった。

でも、物足りなさと違和感を消し去ることはできなかった。

「私から『まだ付き合うの?』と別れを切り出しました」

女性として物足りない

中学校には3年生の春から復帰した。

どうしても高校に行きたかったからだ。

そして、無事に出席日数もクリアし、北海道芸術高等学校の名古屋サテライトキャンパスに合格。

夢だった声優になる勉強を始めることができた。

さらには、不登校になったことがきっかけで、行方不明だった母親が娘を案じて戻ってきた。

母親との生活が再開したのだ。

「途中から通信制に変更して、アルバイトしながら勉強を続けていました」

「演技について経験を積むために、地域演劇の活動に参加したりもしました」

その地域演劇でも出会いはあった。

しかし彼もまた、優しいけれど奥手だった。

「強く求められないので、女性として物足りなさを感じました」

「デートに行くのも、私から提案しなくちゃいけなくて」

そして、やはり別れることになった。

男性は引っ張ってくれる人がいい。

改めてそう思った。

06ツイキャスでの出会い

本名も知らない、会ったこともない

そしてある時、ライブ配信サイト「ツイキャス」で、人気アニメの声真似をしていたことから、のちに夫となる人物に出会った。

高校3年生の終わり頃のことだった。

「彼も、そのアニメが好きで、ツイキャスで私に声真似を披露してくれたんです」

「それがきっかけで、仲良くなりたいなと思って」

その頃、ツイキャス上での相方だった年下の男性から好意を寄せられていたが、自分には付き合うつもりがなかった。

そのことが原因で、その男性とは縁が切れてしまった。

「彼と、その男性は知り合いで」

「電話をかけてきてくれて『君の相方の子がすごい落ち込んでるんだけど、どうしたの?』って心配してくれたんです」

「それが初めての電話でした。2時間くらい話しましたね(笑)」

ネット上で知り合った彼。

本名も知らない。
写真は見たが、実際に会ったこともない。

その電話で初めて、住んでいる場所、年齢、仕事を知った。

同棲している彼女がいること、その彼女を愛していること。

そして、彼が女性であることも知った。

女性の体で生きてきた彼

「彼が戸籍上女性であることを知っても、特に戸惑うこともありませんでした」

「写真を見ても、声を聞いても、全然気づかなかったし(笑)」

「これまでにもトランスジェンダーの方に会ったことがあったし、母の友だちにトランスジェンダーのカップルもいて、話を聞いていたせいもあったのかも」

でも、FTMという言葉は知らなかった。

自分がそうであると、彼から教えてもらった。

そして、そこで初めて、「もしもトランスジェンダーの人と付き合うなら」と考えた。

「でも、その頃彼には彼女がいたし、最初は恋愛対象ではありませんでした」

その日から毎日、ラインやスカイプで会話をするようになった。

彼のことを知れば知るほど、好きになっていく。

「自分でやると決めたことは必ずやり通そうとする姿を見て、並の男よりも男らしいと感じました」

そして、彼女と別れたという報告を受けたあと、晴れて恋人として付き合うことになった。

「FTMの人と付き合うのは初めてだったので、どう理解したらいいのか分かりませんでした」

「ただ、女性の体で生きてきた人なので、女性ならではの苦しみも理解してくれるのかな、と」

「そういう関係っていいな、と思いました」

07FTMだからこそ発見できた

彼がFTMでも悩まなかった

付き合いを始めることについて、ためらいはなかった。

「彼のことを、男性とか女性とかじゃなく、ひとりの人間として好きだと思ったから、FTMであることに対しても悩みませんでした」

「実は、まだ会ったことはなかったんですけど(笑)」

初めて実際に会ったのは、付き合い始めたあと。

夜行バスで愛知から東京へ、彼に会いに行った。

「東京駅のバスターミナルで会った彼は、シンプルな服装で好印象でした(笑)」

「香水もつけていて、いい匂いだなって」

彼はすぐに手をつないでくれた。

その感覚がとても新鮮だった。

「今までは私からアプローチしないと手もつなげないこともあったし、手をつないでも、相手の身長が高すぎて歩きづらかったんです」

「でも、彼とはストレスなく手をつないで歩けて」

「これが恋人ってことなんだ、て本当に感動しました(笑)」

会いたくて仕方なかった彼にやっと会えた喜びでいっぱいだった。

会えた瞬間、ずっと我慢していた気持ちも弾けた。

“体の相性” は選べる

「ホテルに行って、そこで初めて彼の体を見ました」

「不思議な感覚でした」

その時、彼はホルモン治療を行なっていたが、性別適合手術は受けていなかった。

筋肉質で、胸もないが、男性器もない。

「でも、それ以上に彼のことが愛おしくて」

「気持ちよくさせてあげたいと思いました」

彼も、体を重ねるために準備をしてきていた。

「その日は、なんというか、達成感がありました(笑)」

不思議な体、初めて出会った体。

でも、自分はその体を愛することができ、彼を喜ばせてあげられる。

そのことが自信にもなった。

「それからも試行錯誤して、使うものはもっと小さい方がいい、形はこっちの方がいいって、ふたりで選ぶようにしています(笑)」

「そんな風に、自分の体に何が合うかを知るきっかけにもなりました」

もともと彼の体に備わっている男性器であったなら、変えることはできない。

「でも、私たちは “体の相性” を選ぶことができるんです」

これから長く付き合っていく上で、それは大きな発見だった。

08自分たちの家を建てたい

家族からも受け入れられ

初めてのデートから、彼との未来を考えるようになった。

「もともと実家のリビングで彼とスカイプで話したりしていたので、母と妹にも彼のことを言ってあったんです」

「母は友だちにもトランスジェンダーの人がいたこともあって、理解が早くて『応援する』って言ってくれました」

「思春期真っ盛りの妹も『お姉ちゃんがいいならいいんじゃない』って」

そして、彼が実家に遊びに来た時、改めて家族に紹介した。

「祖母からも『かわいい子だね』って受け入れられてホッとしました」

そして、付き合って1年後の2016年4月に入籍。

夫婦になって、もうすぐ2年が経つ。

「結婚するまでも、結婚してからも、実はいろんなことがあったんですが、今は目標があるので、それを目指してふたりで頑張っています」

目標は、家を建てることだ。

そのために、現在はふたりとも正社員として働き、資金を貯めている。

「今住んでいる賃貸の更新が2年後なので、それまでに引っ越しできるように準備をしたいと思っています」

お互いに学び、成長している

そして、もうひとつ、まだおぼろげな夢がある。

「いつかは子どもと暮らせたらいいな、と思っているんです」

「経済力も安定して、家を建てることができたら、養子を迎え入れることもできるかなって」

小さな頃に両親がいなくなった経験も、両親のいない子を迎え入れるという選択肢を浮かび上がらせたのかもしれない。

「意外に、しっかりと人生設計を立ててるんですよ(笑)」

「主人も頑張って成長しようとしてくれています」

「出会えたことで、お互いにいろんなことを学ぶことができて、成長していっている気がしますね」

以前は、自分ひとりで抱え込んで、抱え込みすぎて壊れそうになったこともあった。

「でも、今は主人と会えて、前向きに進めています」

「主人と会えたことは、私にとっては大切な財産なんです」

あとがき
「取材のために買ったコートとニットなんです」。美沙希さんは楽しそうに伝えてくれた。白くてフワフワの装いは、久しぶりの雪景色にピッタリ■家族のこと、愛する相手との営みのこと・・・。過ごしてきた場面をとても細やかに表現する美沙希さん。その理由は、記事を受け取る誰かの不安や関心に寄り添うおもいだと感じた■セクシュアルマイノリティに関して、触れにくいけれど、知りたいことは何だろう? それが無配慮な興味か、まっすぐな問いになるのか? 言葉よりも相手と築く関係性だ。(編集部)

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