INTERVIEW
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FTMの夫と夢を叶えるため、これからも前を向いて。【前編】

福島美沙希さんは今21歳。しかし、成人となったばかりのあどけなさの残る笑顔に対して、その考え方は驚くほど成熟している。「夢に向かって主人も、頑張って成長しようとしてくれています」と6つ年上の夫について話す。そんな風に、静かに相手を見つめつつも、あたたかく包み込むような、母性すら感じる福島さんの人間性を形づくったのは、生まれ育った環境やさまざまな人たちとの出会いかも知れない。

2018/04/12/Thu
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Kei Yoshida
福島 美沙希 / Misaki Fukushima

1996年、愛知県生まれ。小学校入学直前に両親が離婚したあと、母親が行方知れずになり、中学3年生まで妹とともに祖父母に育てられる。その後、戻ってきた母と高校3年生まで一緒に暮らす。高校卒業間際に知り合ったトランスジェンダー男性と1年間の交際を経て、2016年4月に結婚を果たす。

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INDEX
01 祖父母に育てられた幼少期
02 男性が苦手な母、ちょっと変な父
03 名前が変わって、人も変わった
04 初恋の相手はバイセクシュアル
==================(後編)========================
05 恋人に感じた物足りなさ
06 ツイキャスでの出会い
07 FTMだからこそ発見できた
08 自分たちの家を建てたい

01祖父母に育てられた幼少期

両親の離婚

小学校入学を待つ春休みに、両親が離婚した。

父親と暮らしていた家を出て、母親とともに実家で暮らし始めた。

「実は、離婚する前から母のお腹には妹がいて、離婚したあとに生まれたんです」

「小学校に入ったばかりの私と、生まれたばかりの妹を抱え、さらには親戚から責められ、母は精神的に参ってしまったんだと思います」

母親は、辛い時も愚痴を言わない人だった。

「でも、ふたりでお風呂に入っている時に母が言った、『このまま寝ちゃったらラクになるのにね』って言葉を覚えています」

「今思うと、死にたい気持ちだったのかなって・・・・・・」

ノイローゼに陥り、入院することもあった。

ついには実家に居場所がなくなったと感じたのか、母親は家を出た。

「夜中に妹の泣き声で目が覚めたんです」

「みんなで寝ていた2階の部屋に母はいなくて、最初は妹のミルクをつくりに1階に行ったのかなと思いました」

しかし1階には誰もおらず、玄関のドアが少しだけ開いていた。

「ドアを閉めるとガチャンと音がするので・・・・・・母は閉めなかったんだと思います」

誰にも知られず、出て行きたかったのだろう。

リビングのテーブルには手紙が2つ置かれていた。

「祖母に宛てたものと私に宛てたものでした」

「手紙には、『また病気が悪くなっちゃったから病院に戻るね』と書いてありました」

「じゃあ1年くらいしたら戻ってくるのかな、と思っていました」

しかし、1年以上が経っても一向に戻って来なかった。

最愛の人から捨てられた

小学2年生に上がる春休みに、親戚や父親が集まっている席で真実が告げられた。

母親は病院ではなく、遠くに行ってしまった。

「これから、ひとりぼっちなんだ」

「妹も祖父母もいたけど、最愛の人から捨てられたんだと思いました」

「悲しくて大泣きしました」

1年前に手紙を読んだ時は、姉としてしっかりしなきゃと思った。

「今度は私がお母さんにならないといけない、と思いました」

それから、同級生との付き合いが変わった。

当たり前に両親がいて、それが揺らぐことがないと思っている同級生たちと話す時、違和感を感じた。

「私は、みんなとは違って、絶望した経験がある」

「わがままなんて言ってはいけない」

鬼ごっこの時は進んで鬼になり、ゲームで人数が多い時は自ら休憩を申し出た。

いつでも空気を読んで先回りし、周りと距離を置く癖がついた。

02男性が苦手な母、ちょっと変な父

体を触られるのが好きじゃない

「父は母が好きだったと思うし、母も嫌いではなかったと思う」

「でも、ふたりともネガティブな性格だったから、良い時は良いんですが、一方が暗くなるともう一方も釣られてしまっていたのかも」

しかも母は、幼い頃は同級生の男の子と話せないような内気な子だった。

「“お嬢様 ” とか “お姫様” とか、あだ名をつけられるくらいだったそうです」

恋愛経験もほとんどないまま、結婚をしたのだという。

「多分、母は男性が苦手だったんだと思います」

「そもそも体を触られるのが好きじゃないらしくて、当然、夜の営みとかも苦手で」

もしかしたら、その点での衝突があったのかもしれない。

「父は、なんというかちょっと変わった人でした」

「スポーツ万能で、テニスクラブに所属していて、土日になるとテニスに行っちゃうし、たまに家にいても疲れているからと遊んでくれませんでした」

父に置いて行かれた記憶

4歳の頃の忘れられない出来事がある。

父とふたりで自転車を並べてサイクリングしている時のことだった。

「私が転んじゃって、父に『待って』と呼びかけたんですが」

「父は『スポーツの世界は甘くないぞ』と言って、置いて行ってしまったんです」

「まったく振り返ることもなく」

ショックだった。

手を差し伸べるのではなく、見守るのでもなく、置いて行かれた。

「オリンピックを目指している選手に言うなら分かるんですけどね(笑)」

「4歳の女の子相手に・・・・・・ちょっと変ですよね」

さらには、同じことを何度も繰り返して話すこと、亭主関白で母を労うことがなかったことなど、父の姿を見るにつけ、気持ちが離れた。

「もちろん父として見ていましたが、好きではなかったと思います」

両親が離婚して、妹が物心ついてきた頃、祖母に父親にはしばらく会いたくないと告げた。

それからは、あまり会うこともなくなった。

03名前が変わって、人も変わった

わがままを言えなくなった

小学校2年生で、父の名字から母の名字に変えた。

「人も変わった気分でした」

「これから人生が変わるんだなって意識もありました」

今までは言えていたわがままを言えなくなったのも、変化のひとつだった。

「友だちと本気で喧嘩をすることもなくなったし、みんながやりたがらない委員会も進んでやりました」

小学生の時は、先生も認める “できる子” だった。

そして中学1年生の冬、ある出来事が起こった。

「祖母が交通事故に合って、両足を骨折してしまったんです」

祖母の看病とともに、祖母の代わりに家事をしなければならなくなった。

「祖父が妹を保育園に送ってくれたりはしていましたが、朝からご飯を用意して洗濯して・・・・・・、とても部活の朝練には行けませんでした」

中学校では剣道部に所属していた。

顧問の先生には事情を話していたが、部員たちには伝わっていなかった。

「サボっていたんじゃなくて、止むを得ない事情があったことをみんなに伝えておいてほしかった」

「私も忙しくて、部活の友だちに話していなかったこともあって、一番仲が良かった友だちから無視されるようになってしまったんです」

強すぎた責任感

次第に祖母が回復して、部活に出られるようになったが、ひとりになってしまった気持ちだった。

ひとりで闘うスポーツとは言え、相手がいなければ練習ができない。

今更、家の事情を話しても、部員たちからは受け入れてもらえなかった。

「どうしたらいいのか分からなくて、部活を辞めました」

「2年生になったら、目立つことはせずに、ひっそりと過ごそうと決めていました」

しかし、推薦を受けてクラス委員に選ばれた。

担任の先生からも「やってくれるよね」と念を押され、断ることはできなかった。

「ものすごいプレッシャーでした」

「小学生の頃から、宿題をやっていないと学校に行ってはいけないと思うような子だったので」

「ひっそりと過ごしたいのに、やると決めたからには完璧にやらなければと思っていて」

「でも、祖母の看病もあって、勉強も少しずつ付いていけなくなって・・・・・・」

責任感が強すぎたのかもしれない。

どんどん自分に自信が持てなくなっていった。

「中学2年の夏休みに入る前からは、学校へ行かなくなりました」

04初恋の相手はバイセクシュアル

ネットで出会った王子様

お年玉でパソコンを買ったのは小学校5年生の時。

インターネットを通じて、いろんな知識が増えていった。

「不登校になってから、ますますネットにハマって」

「スカイプやチャットで、遠くに住んでいる人とも仲良くなれるのが楽しかったですね」

本当は、学校から離れてしまった辛い気持ちを誰かに打ち明けたかった。

祖母に内緒で夜遊びをして、辛さを忘れようとしたこともあった。

そんな時、ネットに出会いがあった。

池袋に住んでいて、私立の中学に通う、ひとつ年上の男性。

「クラリネットをやっていて、コンクールに出場するほどの腕前でした」

まるで王子様のような存在だった。

「いつの間にか好きになっていました」

しかし、何度もスカイプで話をするうちに、彼には好きな人がいることを知る。

同じ部活の、男性の先輩だった。

「彼は彼で、自分が好きでも相手は振り向いてくれない、と悩んでいて・・・・・・」

「でも、私は、彼が『君と話していると楽しい』と言ってくれていて、好きでいてくれていると思っていました」

「だから、彼の恋がどうせ叶わないのなら、私と付き合えばいいのにと思っていました」

彼には幸せになってほしい

それでも彼を想う気持ちは複雑だった。

バレンタインデーに意中の先輩へ、手づくりクッキーをプレゼントすることを決意した彼を応援した。

好きな彼には幸せになってほしい、と思った。

しかし、彼の恋は叶わなかった。

「彼は『やっぱり先輩のことが忘れられない』と言っていました」

「私の気持ちを知ってくれていたので、『この気持ちのまま、君に向き合うのも失礼だと思うし、いつか君と付き合うことがあっても、それは今じゃない』と」

「あと『自分よりすてきな人が現れるかもしれないし、そのチャンスを潰してしまうのは苦しいんだ』と言われました」

「私は本当に好きだったので、悲しかったですね・・・・・・」

「絶対に忘れないし、実際に会うことがあったら、やっぱり好きだって言ってやるんだ、とその頃は心に決めていました」

その後、しばらくして彼には女性の恋人ができたのだと聞いた。

それでも今も連絡は取り合っていて、一緒にディズニーシーに遊びに行く仲になり、友だちとしての関係が続いている。


<<<後編 2018/04/14/Sat>>>
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05 恋人に感じた物足りなさ
06 ツイキャスでの出会い
07 FTMだからこそ発見できた
08 自分たちの家を建てたい

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