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アセクシュアルという事実に、性格や働きぶりが左右されるわけじゃない。【前編】

涼やかなワンピースが似合う、クールな出で立ちの河合めぐみさん。落ち着いた佇まいで、「かつては優等生だったんです」という言葉にも納得させられた。そんな河合さんは、他者に恋愛感情や性的欲求を抱かないアセクシュアル。とはいえ、深く思い悩むことはなかったそう。あるがままを受け入れてきたフラットな生き方を、紐解いていこう。

2021/10/16/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Ryosuke Aritake
河合 めぐみ / Megumi Kawai

1992年、神奈川県生まれ。両親と双子の兄の4人家族で育つ。両親の影響で、幼い頃からゲームやアニメ、漫画に触れ、高校卒業後は美術大学で漫画を専攻。大学時代にTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)にのめり込み、そこでの人間関係を通じて、自身がアセクシュアルであることを実感する。現在はゲーム制作会社に勤務。

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INDEX
01 楽しい仕事があって楽しい趣味がある
02 それぞれ自立しつつも仲のいい家族
03 小学生の少女が抱いた夢
04 中学時代にのめり込んだ漫画の世界
05 人より少しだけ早く知った社会
==================(後編)========================
06 漫画以上に好きになれたもの
07 うまく表現できなかった “恋愛感情”
08 “アセクシュアル” は問題解決の言葉
09 伝えるべき人と伝えなくてもいいこと
10 「同じような人がいるよ」って伝えたい

01楽しい仕事があって楽しい趣味がある

充実していた初めての仕事

大学卒業後は、リアル脱出ゲームの企画・運営を行う会社に入った。

「脱出ゲームは、全然やったことがなかったんです(笑)」

「就職活動中に、楽しそうな会社がいいな、と思って調べたらその会社が出てきて、応募したら受かりました」

謎解きの経験はなかったが、大学で学んだことが就職に生きた。

「昔から漫画を描くのが好きで、大学も漫画学科に進んだので、物語を作る力が認められたんです」

「謎解きに偏らず、ストーリーも重視した企画が評価されて、新人ながらいろいろ経験させてもらいました」

「仕事的には、その会社が一番楽しくて、やりがいもありましたね」

社員同士の関係も良好で、流行に敏感な上司とも信頼関係を築けていた。

「ただ、かなりの激務だったんです。体力的に厳しくて、1年ほどで転職しました。でも、その後も業務委託で謎解きを作ったり、社員さんと一緒に遊んだり、関係は続いています」

好きなものに携われる環境

現在の職場は、ゲーム制作会社。

シナリオチームに所属しているが、自分でゲームのシナリオを書くわけではない。

「シナリオライターのスケジュール管理や他部署とのやり取りが、主な業務です」

「仕事を進めやすくするために調整したり、資料を集めたり、いろんなことに対応してます」

物語を作る側ではないが、マネジメントの業務は自分に合っていると感じる。

「前の会社でイベント作りをしていたので、対外的なやり取りの多い部署に配属されたんだと思います」

ゲームはもともと好きだった。

「両親がゲーム好きで、常に最新ゲーム機がある家で育ったんです。だから、ゲームをするのが当たり前だったし、昔から好きでしたね」

好きなものに携われる今の会社も、楽しみながら勤めている。

アセクシュアルの自分

やりがいのある仕事での出会い、それとは別に趣味でつながった友だちもいる。

しかし、人と交際したことはない。

「多分、私はアセクシュアルで、人に恋愛感情や性愛感情を抱かないんですよね」

ないものを証明するのは難しいが、恋愛感情が湧かない。

「人とおつき合いしたことがないので、やってみないとわからない、ってところもあります。人生経験の1つとして、つき合ってみるのはありかなって」

「ただ、相手に『私は恋愛感情を抱かないけど、つき合ってみませんか?』って、了承を得られたらですけど(笑)」

そう考えてみることもあるが、今は仕事に趣味に大忙し。

「今はまだチャレンジしなくていいかな、って感じです」

人はみんな顔も性格も違う。恋愛感情を抱かない人がいたって、不思議なことじゃない。

02それぞれ自立しつつも仲のいい家族

休日は一家でおでかけ

生まれも育ちも神奈川県厚木市。
小学2年生の時に、厚木市北部に引っ越した。最寄りの駅までは車で30分。

父は忙しい会社員で、平日はいつも帰りが遅く、母もフルタイムで働いていた。

「家族で過ごす時間が長かったかというと、そうではなかったです。でも、週末の休みは、家族全員で1週間分の買い出しに行ったりしてましたね」

「父がイベント好きで、父の友だちとのバーベキューに連れていってくれたり、休日に出かけることは多かったです」

「平日はそれぞれ忙しそうだったけど、家族仲は良かったと思います」

同い年のきょうだい

自分には、双子の兄がいる。

「性格が真反対の双子ですね。私は、大人の言うことを聞く優等生タイプ。一方、兄は勉強しないで寝てるようなタイプでしたね(笑)」

「でも、仲は悪くなかったというか、ケンカはほぼしないし、中学生くらいまでは一緒に行動することが多かったです」

一緒にゲームで遊び、一緒に剣道やスイミングといった習い事に通った。

「だからといって、『双子だから2人で1つ』みたいなことはなかったように思います」

両親は、2人に差が生じないように、育ててくれていた気がする。

「それぞれ別々の人間として見て、育てられた感じがしますね」

「2人で共有するのは誕生日のケーキくらいで、携帯ゲーム機もそれぞれ与えられてました」

双子だからといって、おそろいの服を着せられるようなこともなかった。

「だから、私は家の中で不平等やひいきみたいなものを感じたことはなかったです」

活動的で自立した両親

両親はともに自立心があって、行動的。

「母はヒマが苦手で、専業主婦より働いて成果を上げたいタイプの人です」

自分と兄が中学に上がるタイミングで、仕事復帰していた。友だちつき合いは活発ではないが、仕事のために外に出る人だと感じている。

「父は海外に住んでいた時期があったからか、大らかで国際的な人です」

いまだに大学時代の友だちと交流があり、年に数回イベントを開催している。

「特に父がゲーム好きで、幼い私が寝てる隣の部屋で『ドラゴンクエスト』をやってた、って話をよく聞きます」

「ふすまを開けて、父がやってるゲームをこっそり見てた記憶がありますね(笑)」

03小学生の少女が抱いた夢

真面目な学級委員

小学生の頃は、絵に描いたような優等生だったかもしれない。

「2クラスしかなかったですが、同学年の子の顔と名前は全員一致していました。どこかのグループに属することはなくて、全員と話せるタイプだったと思います」

男女の区別もなかったため、休み時間は男子のサッカーに混ざって遊んだ。

「学級委員とか児童会長とかもやってましたね」

「目立ちたいわけじゃなくて、誰もやりたくなさそうだから『じゃあ、私がやります』って、手を挙げてました」

「学級委員とかをやって、不利益なことはないですから」

うるさくする同級生には、「先生の言うこと聞きなさいよ」と、注意することもあった。

「今となっては恥ずかしいですが、真面目な優等生だったんです(苦笑)」

たまに、同級生の男の子から「この絵描いて」と、漫画の絵を渡された。

「小学生くらいから絵を描くのが好きで、渡された絵を見て、模写することもよくありましたね」

やりたいことと好きなもの

親が持っていた漫画を読むくらいで、漫画が特別好きだったわけではない。
しかし、ある1冊の本が、自分を漫画の道へと突き動かした。

「小学3年生くらいの頃に、『漫画家になろう』みたいな本を読んだんです」

「その本は漫画の描き方がわかりやすく載っていて、すごく興味が湧きました」

具体的な描き方を知り、自分も描いてみたい、と思うようになる。

「絵を描くのも好きだし、お話を考えるのも好きだったから、やってみたいなって」

小学3年生で漫画家という夢を抱き、その後、大学まで夢を貫くこととなる。

「小学生の頃は、小説もよく読んでました。『ハリー・ポッター』シリーズが大ブームだったんです」

学校でも家でも、時間があれば本を読んでいたように思う。

「小説から知識を得ていたからか、少し大人びたところはあったのかも。6年生くらいから、目上の人には敬語を使わないといけない、って思ってた覚えがあります」

「当時は漫画を描くことより、日々の勉強と読書が生活の中心でしたね」

04中学時代にのめり込んだ漫画の世界

好きなものは “かっこいいキャラクター”

地元の中学校に進み、絵画部に入った。

「いわゆる美術部ですが、工作とかはしないで、絵だけを描く部活でした」

部員は主にイラストを描く。自分はイラストも描きながら、油絵にも挑戦した。

「友だちと絵を描く時間がすごく楽しくて、部活が学生生活の中心になりました」

「中学で仲のいい友だちも、ほとんどが絵画部の部員で、全員女の子でしたね」

そこから本格的に漫画を描くようになり、ストーリーも自分で考えていく。

「私は、少年漫画ばっかり描いてました。当時、休日の朝や平日の夕方に放送しているアニメは、少年漫画原作のものが多かったんです」

「『ONE PIECE』『NARUTO』『名探偵コナン』といった作品に、影響を受けましたね」

少女漫画に触れていないわけではない。しかし、選ぶ作品はアクション要素のあるものが多かった。

「『セーラームーン』とか『Dr.リンにきいてみて!』とか、かっこいい女の子の作品が好きでした」

当たり前のように存在しない「恋愛」

中学生になると、ませた女の子たちは「○○くんとつき合った」という話をしていた。

「そういうウワサを聞くこともあったんですけど、そうなんだ、くらいの感覚でした」

絵画部のメンバーの間では、恋愛の話が出ることはなかったように記憶している。

「絵とか漫画、アニメの話ばかりで、恋愛の話をしたことはないんですよね。中には恋愛要素の強い漫画が好きな子もいたけど、互いに好きな作品を押しつけ合うようなこともなかったんです」

「どちらかというと、『その絵うまいね』『コマ割りどうしよう』みたいに、制作中の漫画の話ばかりしてました」

その環境にいたからか、自分自身が恋愛に目覚める瞬間もなかった。

「小学生の頃に1回、短い間だけ、人を好きになった記憶があります。でも、その1回きりで、中学生以降は人に恋愛感情を抱くことはなかったです」

「周りで恋愛の話が出ないこともあって、何の不自然さも感じないまま、ここまで来ました」

男性アイドルを見ても、「確かにかっこいいね」と思うくらい。

「今も中学の絵画部のメンバーとはやり取りしていて、『結婚しました』『子どもができました』って、報告を受けるんです」

「でも、そこから恋愛の話に発展することはないし、私も焦るようなことはないですね」

05人より少しだけ早く知った社会

組織運営を学んだボランティア活動

中学生から高校生にかけて、地元のボランティア活動に参加していた。

ジュニアリーダーという組織で、地域のイベントに出向き、子どもの面倒を見たり運営を手伝ったりするもの。

「確か、友だちに誘われて、兄と一緒に参加しました。体系化された組織で、子ども飽きさせないように遊ぶタイムキープ術や危険感知の方法を学ぶ研修もあったんです」

「ボランティアに参加したことで、計画を立てて、グループで成し遂げる力が磨かれました」

兄は、子どもと一緒に遊び、盛り上げるのが得意なタイプだった。

「私は真逆で、イベントを円滑に進めて、時間通りに終わらせることに快感を覚えるタイプなんです」

それぞれの個性が際立ち、役割分担ができていた。

特別な思い出のない高校時代

高校は、公立の進学校に進む。

「中学の絵画部のメンバーは10人くらいいたんですけど、見事に全員違う高校に進んだんです」

「だから、高校は趣味の話ができる友だちが2人くらいしかいなくて、あまり思い出がありません(苦笑)」

自分1人で絵画部のような同好会を立ち上げたが、部員は集まらない。

「部を大きくしたいわけじゃなくて、絵を描くスペースが作りたかったので、良かったかなと」

「同好会とは別に、通信科学部にも入って、理系男子たちにゲームを教えてもらってました」

「無線の大会のため、という名目で部員と一緒に学校に泊まり込んだのも、面白かったですね」

改めて振り返ると、通信科学部での日常はいい思い出といえそうだ。

作品を人に見てもらう喜び

高校の中盤辺りから、画像投稿サイトpixiv(ピクシブ)で活動を始める。

「当時、『こういう世界観のイラストを募集します』といった企画を立ち上げることが、ブームだったんです」

「私もたまたま参加した企画が面白くて、企画を立ち上げる側になりました」

サイト内でイラストや漫画が評価され、定期的に更新していくことになる。

「作品を待ってくれている人がいる、というクリエイターとしての喜びを初めて知りました」

「漫画を投稿する締め切りができて、技術的にも成長できた期間でしたね」

約2年間、イラストや漫画を投稿する日々が続いた。

「それまで1人で描いていたものが外の世界に広がって、責任感を持てるようになった気がします」

漫画家という夢に対する熱意が、より強いものになっていく。

 

<<<後編 2021/10/23/Sat>>>

INDEX
06 漫画以上に好きになれたもの
07 うまく表現できなかった “恋愛感情”
08 “アセクシュアル” は問題解決の言葉
09 伝えるべき人と伝えなくてもいいこと
10 「同じような人がいるよ」って伝えたい

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